華やかに彩られた式場。雛壇の上で、純白のドレスに身を包んだ唯依さんと、どこか照れくさそうにタキシードを着こなす恭夜が並んでいる。
あの過酷な武家社会の歪み、そして「スペア」という残酷な役割を背負わされていた私の可愛い弟が、今、自らの手で運命を切り開き、最愛の伴侶と共に笑っている。その姿を見るだけで、胸の奥が温かい涙で満たされるようでした。
「実に見事な式だな、崇宰殿」
隣から、低く心地よい声が掛けられました。
五摂家筆頭、斑鳩家の若き当主たる斑鳩崇継殿。戦時中から帝国を支え、私とも幾度となく政治の裏舞台で連携してきた、一筋縄ではいかない御方です。
「ええ、斑鳩殿。お忙しい身でありながら、足を運んでいただき感謝いたします」
私は微笑み、手にしたグラスを微かに傾けました。
「いや、国を救った若き英雄たちの門出だ。それに……君のあのように晴れやかな顔は、滅多に拝めないからね。実に美しい。それだけでも来た価値があったというものさ」
「あら、からかわないでくださいな。私はただ、弟の幸せが嬉しくて堪らない、一人の無力な姉に戻っているだけですもの」
ふっと二人で視線を交わし、悪戯っぽく笑い合う。それは過酷な戦後処理を共に乗り越えてきた、信頼に足る戦友としての、ごく自然な歓談の風景でした。
ですが――。
ふと雛壇に目を向けると、新郎であるはずの恭夜が、こちらを凄まじい、それこそBETAを射殺さんばかりの凶悪な眼光で睨みつけているのが見えました。その横では、唯依さんのお兄様であるユウヤ殿が呆れた顔をし、最後には唯依さんに頭を小突かれている始末。
「ふむ……新郎から、随分と熱烈な視線をいただいているようだ。まるで、大切な宝物を泥棒から警戒する猛禽のようだが?」
斑鳩殿が全てを察したように、楽しげに目を細めました。
彼はわざと恭夜の方を向き、大人の余裕を見せつけるように、優雅にグラスを掲げてみせます。
「まぁ……」
私は思わず、扇で口元を隠してクスリと笑ってしまいました。
あの子は、家を追われ平民になっても、私のことを『恭子姉さん』と慕い、大切に思ってくれている。私が斑鳩殿のような男に『騙されて奪われる』のではないかと、本気で心配してくれているのでしょう。
「困った弟ですわ。あのように強くなって世界を救っても、私にとってはいつまでも、髪をクシャクシャにされて照れていた、あの頃の可愛い男の子のままのようです」
「素晴らしい姉弟愛だ。だが、私の立場としては、あまり彼に睨まれると夜道が怖くなりそうだがね」
「ふふ、その時は私がしっかりと言い聞かせておきますわ」
眩しい光の中、私は再び弟の姿を見つめました。
シスコンの義兄に、シスコンの弟。唯依さんもあの子も、これからは賑やかで、絶対に退屈しない幸福な日々を送るに違いありません。私は心からの祝福を込めて、愛しい弟へ向けてそっとグラスを掲げました。