戦後の喧騒が少しだけ落ち着いた帝都の、大衆的な居酒屋。
カウンターの隅で、恭夜とユウヤは、ジョッキを片手に泥臭く酒を酌み交わしていた。
「――でさぁ! なんだよあの斑鳩の野郎は! 結婚式の歓談中、ずーーっと姉さんの隣でニヤニヤしやがって! 五摂家筆頭なら何しても許されると思ってんのかあのキザ男!」
恭夜がガツンとジョッキをテーブルに叩きつけ、完全に出来上がった頭でくだを巻く。
「いや、だからお前、それただの被害妄想だっての」
ユウヤは焼き鳥を口に運びながら、呆れたようにため息をついた。
「俺から見れば、お前の姉さんも楽しそうに話してたし、お似合いの大人の社交に見えたけどな。お前が勝手に『姉貴を狙う悪い虫』認定して、式の間ずっと殺気放ってただけだろ。唯依に頭叩かれて当然だ」
「うるせえ! アメリカ野郎に俺の、崇宰の姉弟の絆が分かってたまるか! 姉さんは純粋で優しすぎるんだよ! ああいう腹黒そうな男に、言葉巧みに裏に連れて行かれて、もしものことがあったらどうするんだよ! 俺はフェイズⅢで斑鳩の屋敷に突っ込むぞ!」
「おい、退役した世界を救う最強の戦術機を、私怨のシスコン暴走で起動すんな」
ユウヤはこめかみを押さえた。
「……っていうかさ、お前、人のこと散々『シスコンシスコン』ってバカにしてただろ。アラスカにいた頃、俺が唯依を引き留める方法を篁(唯依)から相談されたとき、お前裏でニヤニヤしてただろ」
「当たり前だろ。あの時の唯依はガチで焦ってたからな。『ユウヤが他国に引き抜かれたらどうしましょう!』って、恋する乙女全開の顔で俺に相談してきたんだぞ? なのに、ハイネマンから事実(異母兄妹)を聞かされた途端、お前らの恋愛バトルは俺の『不戦勝』で幕引きだ。笑いが止まらんわ」
「笑うな、スペア補佐官! こっちは真面目に、一人の男としてアイツを見てたんだよ! それがまさか、実の妹だったなんて判明した時の俺の絶望が分かるか!? お前が『俺の不戦勝だ』ってドヤ顔した時、マジでシミュレーターじゃなくて生身で殴り倒そうかと思ったからな!」
「へっ、結果オーライだろ。おかげでお前は『世界一過保護な最強の兄貴』って特等席を手に入れたんだ。感謝してほしいね」
恭夜がニヤニヤと笑いながらジョッキを差し出すと、ユウヤはチッと舌打ちをして、それを乱暴にぶつけ合わせた。
「……まぁ、そうだな。あの日、お前がフェアに真実を教えてくれて、俺に向き合ってくれなきゃ、俺は今でも自分の血を呪って、アラスカの雪の中に引きこもってたかもしれない」
ユウヤは少しだけ声を落とし、寂しげに、けれど嬉しそうに微笑んだ。
「今は、あいつの『兄貴』になれて良かったと思ってるよ。血筋なんて下らないシステムで、俺たちの絆は縛れないって、お前が証明してくれたからな」
「だろ? だから、これからも唯依のことは俺が男として一生支えてやる。安心しろ」
「――それはそれ、これはこれだ、恭夜」
ユウヤの目が、突如として戦闘時のように冷たく、鋭く据わった。
「籍を入れて夫婦になったからって、俺の『兄の監視の目』が緩むと思うな。もし、お前が唯依を泣かせるようなことがあれば、俺は今度こそお前をアラスカの地中に埋める」
「へっ、上等だ、シスコンアメリカ野郎。返り討ちにしてやるよ」
不器用で、傷だらけの過去を持つ二人の衛士。
血筋という理不尽に人生を狂わされた二人は、今、大切な家族を守るための「新しい戦い(シスコンバトル)」という、この上なく平和で幸福な日常を、どこまでも熱く生きているのだった。