結婚式から数日後。帝都の喧騒から少し離れた、落ち着いた佇まいのバー。
かつてアラスカやブルーフラッグ演習で激しい火花を散らした男たちが、今夜は一枚のテーブルを囲んでいた。
恭夜とユウヤ。そして、かつてユウヤの同僚であり、バーで恭夜に派手なキックを喰らったレオン・クゼ。その隣には、彼らの過去を知るシャロン・エイムの姿もあった。
「……まさか、あんたに頭を下げて酒を飲む日が来るとはな、崇宰殿」
レオンは苦々しそうに、けれどどこか吹っ切れたような顔でグラスを弄んだ。
あの日、バーで恭夜に文字通り蹴り飛ばされ、演習では不知火・弐型と阿呆みたいな戦法の前に完膚なきまでに叩きのめされた。だが、戦いが終わり、ユウヤと恭夜が血筋という理不尽な不条理を自らの実力でねじ伏せた事実を知った時、レオンの中のわだかまりは消えていた。彼らもまた、自分たちと同じように、あるいはそれ以上に必死に世界と戦っていたのだと理解したからだ。
「気にするな、レオン。俺もあの時は頭に血が上りすぎてた。……お前を蹴ったのは、少しだけ悪かったと思ってる」
恭夜がジョッキを傾けると、ユウヤが横からフッと笑った。
「おい恭夜、少しだけかよ。あの時のキック、レオンの鼻の骨が折れるかと思ったぞ」
「うるせえな、アメリカ野郎。お前を守るためだったんだから、そこは感謝しろよな」
「はいはい、感謝してるよ。……レオン、シャロン。色々あったが、俺たちの不知火・弐型が完成したのは、お前たちインフィニティーズっていう高い壁がアラスカにいてくれたおかげだ。それは、本当に思ってる」
ユウヤの真っ直ぐな言葉に、シャロンが嬉しそうに目を細めてグラスを掲げた。
「ふふ、素直になったわね、ユウヤ。昔はあんなに尖ってたのに。良い相棒と、素敵なお義妹(いもうと)さんに出会えたおかげかしら?」
「シャロン、余計なことは言わなくていい……」
照れくさそうに顔を背けるユウヤを見て、レオンもようやくフッと口元を緩めた。
日本とアメリカ、平民と武家、かつて彼らを遮っていたすべての壁が、今夜の温かい酒の席で、静かに溶けて消えていく。あーだこーだと言い合いながら、昔の訓練時代のバカ話や、アラスカでの無茶なデータ取りの話で夜が更けるまで盛り上がり、四人は過去のわだかまりを完全に解消し合うのだった。
◇
深夜。飲み会が終わり、冷たい夜風が吹く店の前。
「じゃあね、ユウヤ、恭夜。またどこかの戦線か、あるいは平和な空の下で会いましょう」
シャロンが手を振り、一歩先に歩き出す。
レオンはポケットに手を突っ込んだまま、振り返らずに二人へ向けて片手を挙げた。そして、これまでの全ての因縁を水に流すような、彼なりの最高の皮肉と親しみを込めて、こう言い残して去っていった。
「──せいぜい幸せにな、シスコンブラザーズ」
遠ざかるレオンの背中を見送りながら、恭夜とユウヤは顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「おい、あいつ最後に何て言った? シスコンブラザーズって、完全に俺たちのことじゃねえか」
「お前のことだろ、スペア補佐官。俺は妹の幸せを監視してるだけだ」
「それをシスコンって言うんだよ、アメリカ野郎!」
夜の帝都の街に、二人の相棒の晴れやかな笑い声が響き渡る。
血の呪いを乗り越えた彼らの未来は、これからも最高に騒がしく、そしてどこまでも穏やかな幸福に満ちあふれているのだった。