胎動する翼、不条理の血を超えて   作:新人ガイア

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歴史上、最も苛烈な戦い

発端:他愛もない一言

 

計画の完遂を祝う、基地の賑やかなパーティーの最中だった。

ジョッキを片手にすっかり出来上がったタリサ・マナンダルが、ふと雛壇の二人を指差して、他愛もない一言を口にした。

 

「──さぁて、これであたいたちの不知火・弐型も完成したわけだけどさ。結局のところ、恭夜とユウヤって、衛士としてどっちが本当に強いんだ?」

 

その場の空気が、一瞬で凍りついた。

並んで立っていた恭夜とユウヤは、手にしたグラスをピタリと止め、同時に、寸分の狂いもなく言い放った。

 

「「俺に決まってるだろ、あ?」」

 

視線が激突し、火花が散る。どちらも唯依を護るために死線を潜り抜け、互いの実力を誰よりも認め合っているからこそ、自分が「下」であることだけは絶対に認められなかった。

 

「おいアメリカ野郎、シミュレーター室へ来い。白黒つけてやる」

「望むところだ、スペア補佐官。どっちが本当のトップエースか、たっぷり教えてやるよ」

 

こうして、お互いの意地とプライドを懸けた、本気の一騎打ちが始まった。

 

 

開戦:フェイズⅢの激突

 

シミュレータールームの大画面に、二機の化け物が現れる。

ユウヤが駆るのは、計画の結晶にして世界最強の一機──不知火・弐型 フェイズⅢ。

対する恭夜が乗り込んだのは、己の専用機として不知火をベースにフェイズⅢ仕様へと独自改良された特務カスタム機、『不知火・改 Type フェイズⅢ』。

基本スペックの総合値ではユウヤの弐型に劣るものの、過敏なまでの反応速度と、関節部に施された異常なまでの柔軟性により、超近接格闘戦においてのみ「絶対の優位性」を持つ、恭夜の頭脳と技術を体現した一機だった。

 

「行くぞ、恭夜ッ!!」

 

「かかってこい、ユウヤッ!!」

 

手加減など一切なし、BETA戦を遥かに凌駕する人間離れした激戦の火蓋が切って落とされた。

先手を打ったのはユウヤだった。フェイズⅢの圧倒的な推進力とレスポンスをフルに発揮し、3D機動の限界を超える猛攻撃を仕掛ける。長刀の閃きが空間を細切れにするような超高速の連続突き。

対する恭夜は、崇宰の修業で培った戦闘技術と今に至るまでの研鑽のすべてを動員し、その猛攻を紙一重、まさに数センチの狂いもない回避で躱し、いなし、反撃の機会を肉眼で睨みつける。

 

最初、コントロールルームで観戦していたタリサやヴァレリオ、ステラは、「やれやれ、始まったよ」「どっちが勝つかねぇ」と、各々で気楽に声援を送っていた。唯依や上総、恭子様も、不器用な男たちの意地の張り合いを微笑ましく見守っていた。

 

だが、一進一退の激戦が進むにつれ、一人、また一人と言葉を閉じていった。

画面の中で繰り広げられている挙動は、もはや戦術機の常識を遥かに超越していた。重力を無視したような超機動、相手の刃の軌道を読み切った防御。

誰もが「数分で決着がつく」と思っていた。しかし、戦いは──まさかの二時間を経過しても、未だ終わる兆しを見せなかった。

 

観戦していた全員が、二人の底知れない実力と執念に、言葉を失い絶句していた。

 

 

死闘:限界の向こう側

 

二時間が過ぎた頃、シミュレーターの中の両機はボロボロだった。

弾薬は全て使い果たし、長刀の刃は激しい激突の末に互いに折れ、それでも己の全力を、拳を、相棒へとぶつけ合っていた。

 

恭夜の『不知火・改』は、すでに左腕を根元から失っていた。さらに恭夜の超絶的な操縦に機体フレームが耐えきれなくなり、関節部のあちこちから激しい火花と電子の煙が吹き出している。

 

(クソっ……! 自分の出せる全力をぶつけてんのに、これっぽっちも決めきれねえ……!ユウヤ、これ程とは…)

 

恭夜は、限界の中で戦いながら、ユウヤの操縦技術の才能、その天才的な煌めきを改めて骨の髄まで再認識させられていた。このアメリカ野郎は、間違いなく世界最強の衛士の一人だと。

 

一方のユウヤもまた、極限の驚愕の中にいた。

弐型の右肩には折れた恭夜の長刀が深く刺さり、頭部のメインカメラは左側が完全に大破。半分しか見えない歪んだ視界を血走った眼で凝視しながら、ユウヤは荒い息を吐き、ボヤいた。

 

「ハァ、ハァ……っ! スペックでは……スペックではこっちが上のはずなのに……!恭夜お前!ッ」

 

自分と全く互角の戦闘を、型落ちに近いカスタム機で行う恭夜。この「スペア補佐官」の持つ、崇宰の戦闘技術の深淵がこれほどまで凄まじいものだったとは。ユウヤの背筋に、戦慄にも似た高揚感が駆け抜けていた。

 

「「次で、決める……!」」

 

恭夜は残された右腕のダメージが限界に達し、次の一撃をぶつければ実機なら確実に右腕が消し飛ぶと察していた。

ユウヤもまた、コックピット内のインジケーターで推進剤(プロペラント)が残り僅かなのを確認し、最後の覚悟を決めた。

 

「「うおおおおおおおおおッ!!!」」

 

二人は同時にお互いの跳躍ユニットをリミッター解除で限界までふかし、全速力で肉薄した。

 

「ユュュュウゥゥゥヤャャャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「キョョョョウゥゥゥヤャャャァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

無線越しに、互いの相棒の名を全力で叫び、武器を捨てた「拳」を突き出す。両者の鋼鉄の拳が、お互いのコックピットの装甲に触れ、引き裂こうとした──まさに、その瞬間だった。

 

バツンッ!!! と、激しい電子音と共に、ルーム内の大型メインモニターが突然真っ暗になった。

 

二人の常軌を逸した超機動と、二時間以上にわたる極限の負荷に、シミュレーターの演算システム自体が耐えきれなくなり、完全にショートして機能を停止したのだ。

 

「……え?」

「おい、なんだ……?」

 

突然の闇の中、何が起きたのか分からず呆然とする恭夜とユウヤ。しかし、次の瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れた二人に、二時間分の殺人的なGと疲労が一気に押し寄せた。二人はコックピットシートに深く沈み込んだまま、同時に意識を失い、気絶した。

 

コントロールルームに残された仲間たちは、真っ暗になった画面を見つめたまま、しばらくの間、呼吸すら忘れたように静まり返っていた。

やがて、誰からともなく、全員が口を揃えて、震える声でこう呟いた。

 

「──あの二人は、絶対に実機で戦わせちゃダメだ。どちらかが死ぬまで、絶対に止まらない……っ!」

 

世界の命運を握るトップエース二人の「本当の全力」の恐ろしさに、その場にいた全員が心の底から絶句していた。

 

 

 

 

 

翌朝:優劣なき相棒

 

翌日。ユーコン基地の医療棟のベッドで、恭夜とユウヤは並んで目を覚ました。

 

二人は、もしシミュレーターが壊れなかったら「どちらが勝っていたか」という、もしもの話を一切口にしなかった。そんなことは、考える必要すらなかったからだ。

どっちが勝ってもおかしくない、紙一重の、完全なる互角の戦い。

二人はただ、お互いに言葉を交わすことなく視線を合わせ──そして、どちらからともなく、その実力を称え合うように、晴れやかな笑い声を響かせた。

 

優劣など、つけようがない。俺たちは、二人で一つの唯一無二の相棒なのだと、魂の底から理解し合えたからだ。

 

「──全く、二人とも揃いも揃って、何という大馬鹿者ですか!!」

 

その晴れやかな空気を、ガラリと激しい音を立てて開いた病室のドアと、唯依の怒号が吹き飛ばした。

唯依の顔は怒りで真っ赤になり、その瞳には、心配のあまりに流した涙の跡がハッキリと残っている。その後ろからは、腕を組んで冷たい笑みを浮かべる恭子様も控えていた。

 

「模擬戦で、シミュレーターを物理的に破壊して、二人とも気絶するまで戦うなど……やりすぎにも程があります! もしものことがあったら、私は、私はどうすればよかったのですか……っ!」

 

「唯依の言う通りよ、恭夜、ユウヤ殿。計画を終えたというのに、そのような子供の意地の張り合いで命を縮めるなど、この姉が絶対に許しません。お仕置きが必要なようね?」

 

「げぇっ、恭子姉さん……!」

「唯依、待て、これには深い衛士としての理由が──」

 

「言い訳など聞きません!!」

 

昨日世界最強のドッグファイトを繰り広げた二人の英雄は、今度はベッドの上で小さくなりながら、最愛の女性たちからこっぴどく、そして最高に愛のあるお説教を食らうのだった。

理不尽な血の呪いを超え、肩を並べた二人の相棒。彼らの絆の証明は、これからもこの世界で、誰にも破れない最強の伝説として語り継がれていく。

 

 

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