「いいかユウヤ、不知火の腰部スラスターはアメリカ製みたいにオートで最適化されねえ! 独自の『いなし』が必要なんだよ、こうやってな!」
恭夜は自らシミュレーターに乗り込み、崇宰の過酷な教育で骨の髄まで染み込ませた機体挙動の「理屈」を、実戦の動きでユウヤに叩き込んだ。
日本とアメリカ、武家と平民。血筋という不条理に人生を狂わされてきた二人は、一度腹を割れば、驚くほど技術的な対話が噛み合った。
「理屈は分かったが、その制御じゃレスポンスが0.2秒遅れる! プログラムのトリミングをこう変えろ!」
「バカ言え、それじゃ高機動格闘戦の時にフレームがもたねえんだよ!」
コックピットから降りれば、あーでもないこーでもないと胸ぐらを掴み合い、時には取っ組み合いの喧嘩をしながら、二人は不知火・弐型のデータを驚異的な速度で集めていった。
◇
それから少し時が経ち。
過酷な開発の日々の息抜きとして、計画メンバーで訪れた海でのレクリエーション。そこで発生した予期せぬ遭難騒ぎを、恭夜とユウヤの連携でなんとか乗り越えた後――待っていたのは、遭難騒ぎの責任として唯依の「水着撮影会」という、別の意味で心臓に悪いイベントだった。
山吹色を基調とした、彼女の引き締まった身体のラインがよくわかりふくよかな胸を強調するビキニ姿。
いつも髪を硬く結い上げ、軍服という鎧に身を包んでいる唯依が、陽光の下で恥ずかしそうに頬を染めている。
「……綺麗だな」
カメラを向けられて戸惑う唯依を少し離れた砂浜から見つめ、恭夜はポツリと呟いた。
訓練校の暗い回廊で、今にも壊れそうに泣いていたあの少女が、今や自分の造る新型機を背負い、こんなにも眩しく輝いている。
(平民だろうが崇宰のスペアだろうが関係ねえ。俺は、あの笑顔をずっと守りたい。あいつの力になりたい――)
改めてそう深く心に誓った。
だが、その時、隣に立つユウヤがフッと不敵な笑みを浮かべ、恭夜にだけ聞こえる声で言った。
「同感だ。……だが恭夜、見惚れるのは勝手だが、アイツを支える特等席を譲る気はないからな」
恭夜はハッとしてユウヤを睨みつけた。
ユウヤの目には、テストパイロットとしてのプライドだけでなく、一人の男として唯依を意識する真っ直ぐな光が宿っていた。
「……おい、アメリカ野郎。何寝言言ってやがる。唯依の隣は、訓練校の時から俺の指定席だ」
「過去のことは知らないね。今、アイツの理想を形にする機体を操縦しているのは俺だ。これからの未来、アイツを一番近くで支えるのは俺の役目だろ、スペア補佐官?」
バチバチと、二人の間にシミュレーター室とは違う質の火花が散る。
これまで「打倒BETA」「新型機開発」という同じ目的のために背中を預け合ってきた戦友(相棒)が、今度は「一人の女性」を巡る、男同士の負けられないライバルとなった瞬間だった。
撮影を終えて、不思議そうにこちらを振り返る唯依。
「二人とも、そこで何を睨み合っているのですか?」
「「……別に、何でもない(よ)」」
声を揃えて視線を逸らす二人に、後ろから見ていた上総が「やれやれ」と呆れたようにため息をついていた。