唯依を巡って互いに火花を散らし、牽制し合いながらも、ユウヤと恭夜は衛士として完璧な連携を見せ、着実に不知火・弐型を仕上げていった。
カムチャッカ前線で行われた実戦テスト。
帝国側からの大きな希望により不知火・二型による「試製99型電磁投射砲」の試射試験に対し、恭夜はユウヤに不知火の真骨頂である近接格闘戦のデータを取らせるため、驚くべき提案をした。
「おいユウヤ、機体を乗り換えるぞ。お前は俺の不知火で突っ込んで格闘データを分捕ってこい。お国の望む大砲のマト当ては、俺が弐型で代わりにやってやる」
「フッ、言うようになったな。新型のオイシイところを譲るなんて、余裕じゃないか」
口では軽口を叩き合いながらも、互いへの絶対的な信頼のもとで機体をチェンジ。恭夜が電磁投射砲の試射を完璧に成功させて上層部の期待に応える一方、ユウヤは恭夜の機体で鮮烈な近接格闘戦を披露し、最高のデータを持ち帰ってみせた。
◇
しかし、その成功の余韻を切り裂くように後日の戦闘中、カムチャッカ基地に大量のBETAの群れが急襲する。
混乱に陥る戦場。基地の放棄が決まる中、帝国の試作兵器「電磁投射砲」の回収と、開発総官である唯依の安全確保が最優先事項となった。
押し寄せる異形の群れを前に、恭夜は瞬時に判断した。
ここで唯依や弐型に何かあれば、彼女は帝国からすべての責任を問われ、またあの壊れそうな顔に戻ってしまう。それだけは、絶対に許さない。
「ユウヤ! 唯依と電磁投射砲のメインフレームを託したぞ! お前がアイツの『未来』を護れ!」
「恭夜!? お前、何を言って――」
「唯依を泣かせたら、地の果てまで追いかけてブッ殺すからな!」
恭夜は通信を一方的に切ると、不知火の出力を限界まで跳ね上げ、BETAの濁流へと単機で突っ込んでいった。
崇宰のスペアとして培った地獄の戦闘技術。家名を捨て、平民となった男の意地。恭夜は圧倒的な囮となってBETAを引きつけ、ユウヤが唯依を連れて脱出するための時間を、死に物狂いで稼ぎ続けた。
「恭夜ーーーッ!!」
遠ざかる唯依の悲痛な叫びを背中で聞きながら、恭夜はただ牙を剥き出しにして笑っていた。
◇
数時間後。基地の脱出に成功し、静まり返った避難エリア。
地平線の向こうから、一機の戦術機がドロドロの黒煙を上げながらゆっくりと姿を現した。
装甲はズタズタに引き裂かれ、右腕は根元から失われ、左脚を派手に引きずりながら、それでも確実に自力で歩いてくる恭夜の不知火だった。
「恭夜様!!」
「恭夜!!」
コックピットハッチがプシューと音を立てて開き、中から這い出てきた恭夜は、全身汗と血にまみれ、息も絶え絶えだった。
真っ先に駆けつけ、涙をボロボロとこぼしながら自分を抱きしめる唯依と、複雑な、しかし心底安堵した目で拳を突き出してくるユウヤを見下ろし、恭夜は地面に深く背中を預けて思い切り嘆いた。
「ハァー……クソ食らえだ。おいお前ら、聞いてくれ……」
恭夜は力なく、しかし生還した喜びを噛み締めるようにボヤいた。
「囮なんて最高に割に合わねえ。二度と、二度と囮なんかやるかよ!!」
その不器用な弱音に、唯依は泣きながらもフッと愛おしそうに微笑み、ユウヤは「よく生きて帰った、相棒」と静かに笑った。死線を越え、三人の絆、そして男二人のライバル関係は、より深く強固なものへと昇華していくのだった。