令和にあるまじきゲーセン 作:灰皿ソニックブーム
大学の講義が終わり、いつもの帰路に就く。家から近いという理由だけで進学先を決めたので、自転車で10分もかからない。わざわざ長時間かけて通学している生徒に対して、密かに優越感を持っている。
近道となる裏道をゆっくりと進む。道が狭く、見通しが悪いので徐行運転は必須だ。
だからだろう。俺はその看板を見て、ブレーキレバーを握った。
「ゲームセンター『ガネーシャ』?」
少し塗装の剥げた緑の看板に、でかでかと赤い文字でガネーシャと書かれている。看板の縁に飾り付けられた電灯がいやに眩しい。
看板を見上げ、首を傾ける。少なくともこの道は四年前から通っているが、ゲームセンターなんてなかったはずだ。この時間帯に帰ることはよくあるし、最近できたとしても間違いなく気がつく。
だから理屈としては俺が登校している間に開店したとしか考えられない。一夜城より凄いぞそれは。
営業しておらず看板だけ先にできたのではと疑い、入り口から店内を覗いても、そこにはチカチカと光を放つ筐体がギッシリと詰まっている。
本当にいつの間にできたのだろうか。モヤモヤとした疑問は残るが、一先ず店内に入ることにした。俺は三度の飯よりゲーム好きだから。
今日日見ないガラスの引戸をスライドさせると、一気に数多のゲームの音が耳をつんざく。初めは五月蝿くて嫌いだったが、最近はこれがないと物足りない。
軽く店内を見渡して、ACの筐体の多さに目を剥いた。最近だとごく僅かなゲーセンにしかないそれは、当然の顔をして鎮座していた。ゲーセンと言ったら俺だろうと雄弁に物語る。
それと煙草の匂いが充満している。俺自身は喫煙者だから平気だが、慣れていないと強烈だろう。
あれだろうか、昭和のゲーセンの再現だろうか。そうだとすれば非常にクオリティが高いだろう。俺自身は当時産まれていないから断定はできないが、親父から聞いていたゲーセンの話と完全に一致している。
色とりどりの画面を見ているうちに、俺も遊んでみたくなった。どこか少年のようにワクワクしながら、どのゲームを遊ぼうか物色していく。
手始めに店の端っこの方から見ていく。
お馴染みのBGMを響かせるのはテトリスの筐体。スコアボードには同じプレイヤーネームで埋め尽くされている。
近くにはぷよぷよやパズルボブルがあるが、今は他のプレイヤーが遊んでいるので却下。ハズルボブルのプレイヤーの判断の早さが異次元だ。
そのゾーンを抜けると次にシューティングゾーンに入った。グラディウスやゼビウス、19XXにプロギアの嵐、ダライアス、怒首領蜂がお出迎えしている。
俺はあまりシューティングは得意ではないので、今回は遠慮させてもらった。戦場の狼に少し惹かれたが、今度の機会にしよう。
隣の列に移動すると、多くの人が目の前の筐体に真剣な眼差しを向けてアケコンを操作していた。手前のお兄さんは魔界村の二面の小さい悪魔に苦戦しており、その二つ隣では闘いの挽歌の一面のボスにやられたヤンチャそうな男が溜め息を吐いていた。
それを見てなんとなく今日はアクションゲームにしようと決めた。だとすれば、何を遊ぼうか。
辺りを見渡し、俺はそのゲームが目に入った。直前の人がゲームオーバーになったのか、縄に縛られたコーディーがダイナマイトに爆破された。
よし、これにしよう。
百円を入れて、ゲームを開始する。筐体でやるのは初めてだが、昔、家で親父と何回もこのゲームを遊んだ。だからノーコンでもある程度は楽しめるだろうというちょっと情けない理由で選んだ。
キャラ選択で真っ先にコーディーを選ぶ。遊んでいて楽しいのはハガーだが、多分三面が限界だろう。俺は長く楽しみたいのだ。
懐かしいBGMと共にゲームが始まる。覚束ない操作でメトロシティの悪漢どもを殴り倒していく。時には敵が落としたナイフでドスドス突き刺す。やはりコーディーと言えばナイフだろう。
被弾はしつつも軽快に二面、三面とクリアしていく。四面の途中で一回、ロレントで一回やられてしまったが、まだ焦るときではない。
五面はマップがこれまでより長い。慎重に雑魚を捌いていくがそれでも被弾は避けられない。それでもなんとかしてアビゲイルの元まで辿り着けた。
捕まれないように慎重に近づき、殴ったことを確認すると一回後ろに振り向いて虚空を殴り、またアビゲイルを二回殴る。伝家の宝刀パンチハメである。
「あっ」
しかし操作ミスにより最後まで殴ってしまう。これにキレたアビゲイルは顔を真っ赤にして強烈なパンチをお見舞いする。雑魚に気を取られたコーディーはこれをもろに喰らい、体力ゲージが一瞬にして消し飛んだ。
そして先ほど見たコンテニュー画面が表示される。まあこんなもんだろう。久々にやったが思ったよりも進めて嬉しかった。
ボチボチの結果に満足していると、後ろから肩を叩かれた。何事かと振り向くと、メッシュキャップを被った高校生くらいのボーイッシュな女の子が立っていた。
「おにーさん惜しかったね。あとちょっとでノーコンだったのに」
純粋に褒めてくれた。いきなりのことに少したじろいだが、こちらも返事を返す。
「ありがとう。まあ六面の道中もいけたかどうか怪しいけどね」
「次から投げ増やしたら簡単にいけそうだけどね。おにーさん筋いいし」
思ったより的確なアドバイスに面食らう。この娘、かなりのゲームマニアだな?
「突然聞いて悪いんだけど、君はここの常連かい?」
「そうだよ、ほぼ毎日来てるし」
「じゃあ聞くんだけどさ、この店っていつからあったか知ってる?俺この道昔から通るんだけど、今日初めてこのゲーセンに気づいたんだよね」
「あー、ええと、それは……」
歯切れが悪い。別にやましいことを隠しているわけではなさそうだ。言っていいのか悪いのかを決めかねているようにも見える。
「まあ別にそんなに気にすることじゃないか。悪いね、こんなこと聞いて」
「いやいやっ、別に全然大丈夫っ」
あからさまにホッとした顔を見せていいのか?まあ、そこまで気にしてるかと言われたらそこまでではないから追求しなくてもいいだろう。謎は謎のままのほうがいいってどっかで聞いたし。
「それじゃ、今日のところは帰るよ。久しぶりに遊べて満足だ」
「それならよかった。今度も暇なときに来てくれよな!」
「そうさせてもらうよ」
丸椅子から立ち上がり、出入り口に向かう。店を出る前に立ち止まり、もと居た場所に顔を向ける。
そこではファイナルファイトを楽しそうにするメッシュキャップの娘がいた。真剣ではあるが、それ以上に楽しんでいる。
なんとなくその面影に見覚えがあるような気がしたが、スマホの通知音がそれを吹き飛ばした。
「やべっ、バイト遅刻する」
思った以上に時間を使っていたらしい。急ぎ足で俺は店を出て、いつもより早く慎重に自転車を漕いだ。
その日から、俺の日常にゲームセンター『ガネーシャ』が食い組んでいった。
作者はゲーセンリアタイ勢ではないので間違った描写が出たら「当時はこうじゃボケ」と温かいコメントをくれたら嬉しいです