負ければトレーナーもひんしのバトル──ポケモン《コール&マイン》   作:じゅぺっと

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平等な闇興行《コール&マイン》

「━━ちゃんにはポケモンバトルの素晴らしい才能があるのにどうしてバトルを本気で楽しまないの?」

 

 ポケモンバトルは不平等だ。

 ピカチュウやパチリスのような小さいポケモンがイワークやガブリアスのような大きなポケモンと同じルールで戦わされる。

 人間同士の格闘技で、小学生と大の大人を階級分けしないルールがどこにある?

 

「でも、あなたが本当に怒っているのはそこじゃないでしょう?」

 

 そう。一番許せないのは、指示を出す人間はポケモンがどれだけ残酷な指示を出しても痛くも痒くもないこと。

 自爆させようが、道連れにしようが、ちょうばつぐんの技を受けるとわかっていようが勝つためなら平然とポケモンを傷つける。

 ポケモンセンターですぐ回復できるから大丈夫、なんて欺瞞だ。

 当時まだ10歳なのにこんなことばかり言う私は、可愛くないらしい。いつも孤立する私に、その子は毎日楽しそうに話をしてくれた。

 

「じゃあ、わたしが作るよ。ポケモンが平等に戦える、指示を出す人間にもちゃんとリスクと責任がある。あなたが心から楽しめるポケモンバトルを」

 

 ……そんなことを、数年前に唯一の友達とトレーナーズスクールで話した。

 そんな夢のなれはてに、今の私は立っている。

 

 

【さぁ今宵も始まりましたポケモンコール&マイン! ここのポケモンバトルの特徴はいたってシンプル!

 

『敗北したトレーナーはポケモンと同じようにひんしになる!』それだけです!】

 

 ポケモンバトルフィールドに、実況者の威勢のいい声が響く。

 私が、今の子供達が生まれるより前から当たり前の光景だ。

 違うのは、観客たちはみんな素顔が見えないような仮面をつけていることと。席はまばらで、まるでVIPルームのようだった。

 

【さぁポケモンたちと同じリスクを背負って戦うイカれたジャリガール達の入場だ! まずは赤コーナー、初戦から無敗3連勝中の『リーフ』!】

 

 私の対戦相手が入ってくる。ノースリーブにミニスカート。いかにも昔からのポケモントレーナー然としていて。ここの観客達が喜びそうな姿だ。

 

【そして対するはこれが二戦目! 初戦は見るも無惨な敗北となってしまったがここから巻き返せるか! 『リーリヤ』だ!】

 

 私も入場する。私の格好は白いワンピースに同じ色の大きな帽子。

 染めた金の長髪だから、見た目だけは物語のヒロインのように見えることだろう。

 

「大丈夫? 震えてるよ。もう負けたときのことを考えてる?」

 

 対戦相手が話しかけてくる。

 負けた夜のこと。そう、前回負けたときの体験はまさに屈辱的だった。

 

【はじめてのお客様のために説明しますと、この少女達は負けたらひんしになる代わりに勝てば賞金100万円が進呈されます!

 

 そしてひんしになった場合━━賞金はなし、当ニンゲンセンターで一晩かけて回復してもらうことになります】

 

 負けたらポケモンと同じくひんし、を謳うからには本当に死なせてはならない。

 ひんしのリスクを負わせるからには勝ったときの相応のリターンも必要だ。

 

【そして! ここからがお客様に大事な要素ですが━━負けたトレーナーを、お客様はオークションで落札し、そのトレーナーを好きなように扱うことができます】

 

 小さく舌打ちする。本当に下卑たルールだ。自分が初戦で負けた夜のことは思い出したくもない。

 私がこんな格好をさせられているのも、そのせいだ。

 本来黒の長髪だったそれは無理矢理金髪に染められ、趣味ではない純白のワンピースなど着させられている。

 しかもその理由は、昔の子供向けアニメに出てきたヒロインと名前が似ているというだけで。

 だが、そんな大人の下卑た欲望によってこのバトルフィールドは成立している。

 勝ったトレーナーは法外な賞金を獲得し、負けたトレーナーはオークションで落札されることでこのバトルの資金源になる。

 

【そして今日のバトルで使われるのは━━ピカチュウ! お二人にはピカチュウで戦ってもらい、負けたトレーナーには『10万ボルト』でひんしになって頂きます!】

 

 私たちの手足には、既にバンドが嵌められている。

 表舞台のポケモンチャンピオンズならメガシンカなりZ 技が使えるようにリングが渡されるらしいが、これはそんな楽しいものではない。

 

【さらに! バトル中に受けたダメージもトレーナーに電撃としてフィードバックされ、途中でトレーナーが戦闘不能━━1分間ポケモンに指示が出せなくなった場合も敗北となります。以上!】

 

 説明に飽きられたくないのか、最後の方は早口だった。

 私が初戦の時に味わった━━肝心なことはなにも話していない。

 例えば、バトル前にピカチュウ同士を使うことはトレーナーにあらかじめ知らされていて、事前に4つまで使う技を決めておけること。その他にもたくさん。

 

「……私はもう負けない」

「へえ、バトルのお勉強でもしてきた?」

「前回はわざと負けたんだ。勝っても賞金が手に入るだけだが、負ければここの客から情報を引き出せるかと思ったから」

「あーはいはい、私はまだ本気だしてないだけ~ってね」

 

 目の前の少女は完全に私を舐めている。

 初戦で無様に敗北したにも関わらず、強がっているだけだと。

 

「でもさ、そうやって負け続けて心が折れても知らないよ? それだけは忠告しておいてあげる」

「ならこちらも平等に忠告しておこう。まだ負けたことがないのなら、それはこの場所のルールがなにもわかっていないということだ」

 

 視線がぶつかり合う。それを見て、実況者は声をあげた。

 

【さぁお互いやる気十分、バトル前の親睦もバッチリ!】

 

 早く始めろ、という勝手なヤジが飛ぶ。それに押されるように実況者は戦いの火ぶたを切って落とした。

 

【両者、位置について!

それでは始めましょう! ピカチュウ限定一対一バトル!

負ければひんし! 勝てば100万円! ポケモンコール&マイン、スタート!!】

 

「ピカチュウ!」

「行って」

 

 二匹のピカチュウが同時に前へ出る。

 黄色い体がスポットライトの下で弾み、すぐさまフィールドの中央で睨み合った。

 

 先に動いたのはリーフのほうだった。

 

「でんこうせっか!」

 

 相手のピカチュウが低く身を沈め、そのまま床を滑るように突っ込んでくる。

 速い。視認した瞬間にはもう間合いに入っていた。

 

「右へ!」

 

 私のピカチュウがとっさに跳ぶ。完全には避けきれず、かすめるように右腕をかすめるように体当たりを受けた

 それだけなのに、手首のバンドがびりっと震えた。

 

「っ……!」

 

 打撃の衝撃と一緒に、微弱な電流が前腕を駆け上がる。

やはり、ダメージを受けた場所とリンクして電流が流れる。電気技であってもなくてもだ。

 

「こんな小手調べで怖がりすぎじゃない?」

 

 リーフが笑う。初手の一撃だけで痛む場所をしきりに気にしているように見えたのだろう。

 

「ピカチュウ、10万ボルト!」

 

 細い閃光が飛ぶ。

 こちらのピカチュウもすぐに応じた。

 

「10万ボルト、撃ち返して!」

 

 二本の電流が空中でぶつかり、青白い火花を散らす。

だが、電気というのは水鉄砲のようにぶつかれば相殺する類のものじゃない。

 半ばお互いに無視するように、十万ボルトがピカチュウたちに直撃する。

 

「あがっ……!」

「くっ……効くね……!」

 

 全身が電気マッサージを受けたように震える。足に力が入らなくて膝をついたが、膝の痛みよりも電気の衝撃が勝る。

 

「やわなんだね、きっと蝶よ花よと愛でられて大切にされてきたんだ」

 

 リーフの声がやけに遠く聞こえる。彼女も同じ電撃を受けたはずだが、しっかり自分の足で立っていた。

実況が興奮気味に叫ぶ。

 

【さぁ、お互いにいいダメージが入った! リーリア選手はもう膝をついている。しかしまだ勝負はわかりません、トレーナーは指示を出すことができれば試合続行可能と見なされます!】

 

 観客席も私たちの電撃に苦しむ姿を見て楽しんでいるのだろう。

 ポケモンバトルは興行、悪く言えば見世物。ポケモン達が傷つけあうのを楽しんでみる代物だ。

 ……なら、指示を出す人間も等しく見世物であるべきだ。それは正しいのかもしれない。

 

「ぼっーとしてるなら、このまま終わらせるよ。もう一度十万ボルト!」

 

 まずい、一瞬気がそれた。もう負けるわけはいかない。

 

「……影分身で回避!」

 

 私のピカチュウが光速で動き分身を作る。

 

「そんな苦し紛れで逃げられると思ってるの!?」

 

 十万ボルトの攻撃範囲は狭くない、分身だけでなく、本体にもあたってしまう。

 直撃でこそないが、再び私の体に電流が走る。

 

「ぁ……っ!」

 

 ふくらはぎが内側から爆発しそうなほど電気で動く。指は痙攣してもはや箸すらつかめそうにない。

 ──それでも、声は出せる。

 それに、前提としてピカチュウに電気技は効果が薄い。ピカチュウの体力には余裕がある。

 

「……もう一度影分身だ!」

「またそれ? なら……放電で攻撃!」

 

 私のピカチュウの分身がどんどん増えることにうんざりしたのか。リーフは高威力の十万ボルトから広範囲を攻撃できる放電に切り替えた。

 

「距離をとって直撃を避けろ!」

 

 放電も距離をとれば電気は分散して威力は弱くなっていく。ピカチュウにほとんどダメージはない。

 もっとも、私の体には電流が流れ続けているが。

 そうやっ逃げ続ける私に、苛立ったのか。突然リーフが叫んだ。

 

「いい加減にして! なんで私に気持ちよくバトルさせてくれないの!!」

 

 彼女の足も電流でダメージはあるはずなのに、怒りのあまり地団太を踏んだ。

 

「ここに来れば、ポケモンだけじゃない人間同士の真剣勝負ができるって思って来たのに……みんな、一発ダメージを受けただけで怖がって逃げることばっかり!」

 

 バトルに勝てば100万円。それは魅力的だろうが、いざひんしになるほどのダメージを受ければパニックになって逃げることしか考えられないトレーナーも多いだろう。

 目の前のリーフは、そういう相手として戦えなかったからこそ3連勝できてしまったというわけだ。

 

「逃げてダメージを減らしたって、いつかは負ける……あなたも同じ! もうコイキングみたいにのたうち回ることしかできない!!」

 

 言いえて妙だ。すでに手足の感覚は失せているが、電撃で私の意思とは関係なく跳ねているのだろう。

 

「だけど……勝負の最中に冷静さを失うのは一緒に戦っているポケモンに失礼だ」

「はぁ!? ずっと逃げ回ってるだけのくせに!」

「ピカチュウ、高速移動で距離を詰めろ!」

「なっ……放電!」

 

 突然指示を切り替えた私に、リーフは惰性で放電を指示してしまう。

 十万ボルトや、あるいはボルテッカーのような高火力技を使えば私のピカチュウをひんしにできたかもしれないのに。

 私のピカチュウは、分身で居場所をわからなくしてからの急接近で放電を繰り返していたリーフのピカチュウに肉薄した。

 

「『ほっぺすりすり』だ」

「は……!?」

 

 最後の指示に、リーフが困惑する。

 『ほっぺすりすり』とは相手にほおずりして確実に麻痺させる代わりにとても威力の低い技だ。

 しかも電気タイプ相手では麻痺させることもできない。

 本来、この状況で使うにはあまりにも正しくない技だ。

 

【あっーとリーリエ選手、逆転のチャンスである急接近を低威力技で無駄にしてしまった! これは勝負ありか!?】

 

 実況者の声が、心なしかあざ笑っているように聞こえた。そしてその嘲笑は──私に向けられたものではない。

 

「は……が……!?」

 

 リーフの、声にならない悲鳴。表情が憤怒と混乱でないまぜになっている。まるでポケモンの『いばる』でも使われたみたいだ。

 

「……このバトルでは、技が当たった場所にリンクしてダメージが入る。ピカチュウの右前足なら右手、左後ろ足なら左足だ」

 

 それが、私が前回の意図的な敗北で学んだこと。

 このコール&マインは、ダメージがトレーナーにフィードバックされる。なら真っ先に理解するべきはダメージの入り方だ。

 

「そして、『ほっぺすりすり』のような明確に顔面、喉元を狙った技を受けた場合。そのダメージは、当然人間の喉に直撃する。喉元に震えるほどの電流を流されて、まともな声が出せる人間などいない」

「ざ……け……チュウ……ト……!!」

 

 リーフは喉に電撃を受けながら必死に指示を出そうとする。だがそれはポケモンが認識できる技名にはなりえない。

 事実、リーフのピカチュウは、バトル中にほおずりしてきたこちらのピカチュウにちょっとうっとおしそうにしているだけで拒絶はしない。

 これが十万ボルトやボルテッカーのような大技なら指示がなくても逃げるだろうが、今起こっているのはピカチュウ同士がお互いのほっぺを寄せ合っているだけだ。

 そうしている間にもリーフの頬と口と喉には電流が流れ続けているが──そんなものは、ピカチュウたちの知ったことではない。

 

「さて……ルールのおさらいだ。一分間指示を出せなかったトレーナーは戦闘不能と見なされる。……私の勝ちだ」

「っ~~~!!」

 

 気が付けば、もう一分は立っていた。一分間指示を出せなかったリーフに──確実に意識を奪う電流が流され、その体が崩れ落ちる。

 実況が遅れて絶叫した。

 

【決まったァーッ!

決まり手は、ほっぺすりすり! まさかの低威力接触技!

しかしこれはただの愛嬌技ではない! 顔面への至近距離通電! 同調バンドを通した神経ショックで、リーフ選手が意識を失ったァーッ!】

 

 観客席がどよめく。

 笑い声とも歓声ともつかない濁った音が渦になる。

 

 私はその場で肩を上下させながら、やっと息を吐いた。

 喉がひりつく。指先はまだ細かく震えていた。

 

 威力じゃない。

 

 この場所では、どれだけ強い電気かより、

 どこへ、どう通るかのほうがずっと危険だ。

 

 可愛い名前の技ほど、油断を誘う。ポケモンにとってはただの触れ合いでも、人間には致命傷になることもある。

 その一瞬を通せば、勝てる。

 

「……っ、は」

 

 自分でも笑いなのか咳なのかわからない音が漏れた。

 

 担架を持った係員たちが倒れたリーフへ駆け寄る。

 ひんしになった彼女は今晩センターで回復され、オークションにかけられるのだろう。

 彼女はまぎれもなく自分の意思で戦っていた。ならば、負ける覚悟もあったはずだ。

 負けるリスクを理解した彼女がこれからも同じように戦えるのか、それは私が気にしても仕方ない。

 

【勝利したリーリア選手には100万円が進呈されます! それではこれから敗北したリーフ選手のオークションに移りましょう!】

 

 勝者の健闘を称えるよりも、敗者をどう扱うかのほうがメインイベントであるかのように話は進む。

 私はどうにか自分の足で立ちあがる。勝者はノーリスクで治療も受けられるとのことだが、あくまで一時的な電気ショックだ。係員の手を払いのけるようにこの場を去った。 

 

「なぁ……君は何でこんな場所に私を呼んだ? これが本当に、私と君が夢見た平等なポケモンバトルなのか?」

 

 私がここにいるのは、友人の招待だ。

 昔の私と君の夢が叶う──そんなうたい文句で呼ばれてみれば、少女のトレーナーがひんしにされ、悪趣味極まりない金持ちの手持ちポケモンにされるような空間。

 初戦でわざと負けたのも、そのためだった。オークションで私を落札した金持ちに友人の名前を尋ねてみたが、余裕そうにしていた金持ちの表情が一瞬こわばって教える義理はない。知りたければ勝ちあがって私たちを満足させろと言われた。

 

「だが……確かに、たしかに、ポケモンと人間がほぼ同じ条件で戦ってはいる。必ず君の居場所を突き止め……真意を問いただして見せる」

 

 そのために、私はこれから勝ち続ける。たとえその過程で、どれだけのポケモンと人間をひんしにすることになったとしても。

 




連休の勢いで久しぶりにポケモン二次創作を書き始めました。
最近読んだ少女のデスゲームや裁判もの、また高額ギャンブル系のダーク作品に影響されて、
「ポケモンバトルでこういう緊張感を描いてみたい」と思ったのがきっかけです。

生真面目な少女なのに無理やり金髪アニメヒロイン風に染められたリーリアが、
“痛みの平等”を求めて闇興行《コール&マイン》に挑む物語になります。

第一話では世界観の紹介と初戦を描きましたが、
中盤からは友人の真意が物語の軸になっていきます。
10話ほどで完結予定なので、気軽に読んでもらえたら嬉しいです。

リーリアの知略バトルを楽しんでいただければ幸いです。
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