【初配信】吟遊詩人です、はじめまして!【星宮レーナ/DE2所属】
みなさんこんにちは。ダンジョンがある現代日本にTS転生したものです。
美しい光に溢れた真っ白な空間で転生特典を聞かれたので、『あなた(女神)の容姿』と『レベルMAX』をおねだりしました。それはもう、きゅるるんとつぶらな瞳で。おててをギュッと一つに結んで。
その結果、見事俺……もとい私が手に入れたのは『銀髪ロング美女』と『ジョブレベル100』。
かわいい×つよい=最強!
みんなにチヤホヤされながら、悠々自適なニューライフを満喫したい!!
全くもって、ちっぽけでつつましいその願いは……あろうことか、かの邪知暴虐の女神によって、木っ端みじんに砕け散ってしまったのです。
──ああああぁ、騙されたッ!?
容姿こそ素晴らしいものの、口調や動作まで強制されるなんて!
私のジョブがまさかの『歌手』で、成長ステータスポイントが特有の『歌唱力』に全ブッパされてるなんて!
レベルは100が限界値であり、歌手でこれ以上の成長は望めない。
幸か不幸か、その無駄に積み上げられた『歌唱力』と習得スキルだけ残して、上位のジョブ『吟遊詩人』に進化することができた。
でも、精神ステータスなんて初期値だから、MPはすっからかんでスキルの燃費は最悪。
レベルアップに必要な経験値も、今までの合計レベルから算出されるためバカみたいに莫大。
貧弱ウスノロ紙装甲の、クソザコ吟遊詩人レベル1。
オワオワリ。
──だからさ。
吟遊詩人になることでゲッチュしたスキル。その名も『リライト』。
効果としては、習得している様々な祝詞を、消費MPはそのままで自分好みにアレンジできる。バフを付与する祝詞の詠唱文やテンポを、あれこれ自由に変えられるわけです。
本来祝詞は10秒ぐらいで、戦闘に用いることを考えると結構時間がかかる。だから、詠唱短縮のためによく利用されるスキルらしいけれど。
一応、長くするほど……そして対象の感情を揺さぶるほど、徐々にバフの効果が高まるのだとか。
──だから……こう思っちゃっても、仕方ないよね。
歌うしか能のない私。
もはや、ずっと歌っていてもいいのでは?
それに──元世界で聴いていた、綺羅星のごとき神曲たちが存在しないのなら。
パクっ……お借りしちゃっても、いいのでは?
:待機中
:新人きちゃ!
:wktk
:休日たすかる
「改めてよろしくね! れーな!」
配信開始前なのに、太陽みたいなそのテンション。
生粋の元気っ子なのか、前準備的なアレなのか。
「ええ……よろしくお願いします、ヒマリ先輩」
フワリと花のように、上品にお辞儀するこの身体。
さっき初めて顔を合わせた目の前の彼女は、所属した事務所のDTuber。もちろんDはダンジョンのDで、頭文字でも神の天敵でもない。むしろ天敵であって欲しかった。
事務所の名前はDE2で、『Dungeon Exploration&Entertainment』の略だとか。つまり探索とエンタメどっちにも力を入れてるところ。歌唱力特化を押せばすんなり採用されてしまった。たぶん外見もある。
:吟遊詩人?
:デーツさん、常識枠でもいいんですよ
:どうせイロモノ
:同接すごw
「あれ、もしかして緊張してる?」
結構な大手Dtuber企業で、抱え込んでいる所属人数も視聴者数もめちゃくちゃ多い。体感だけど。
前世が一般ピーポーマン人…つまりピーマンの私には、緊張するなというほうが無理な話。
「まあ……そうですね」
気づけば、自分のふっくら豊かに実っているお胸の上へ、柔らかく指先を当てていた。んあらまっ、なんてたおやかな仕草だこと!
勝手に動くのやめてください。
先輩は鈴を転がすように、クスクスと笑った。
「あたしも同じだったから、あんしんして!」
ちっちゃな胸……というか身体を、どーんと張って。
一応18歳は超えてるはず。これが合法ロリか。イイね。
:もーそろじゃん!
:引率だれだろ
:ビビリムだったら笑う
:間 に 合 っ た
「ふふっ……はい」
思わず漏れる、慈しみに満ちた優しい笑い声。歌唱力バフは乗ってないのに、正直自分でもドキドキする。
さすがは女神様、ありがとうございます。だが許さぬ。除かなければならぬ。決意はしてない。
「よし……じゃあ、ポチッとやっちゃって!」
彼女は明るさを象徴するような黄色い髪を揺らし、そそくさとドローンの後ろへ隠れた。
そのさらに向こうへ広がっている雄大な草原が、サァと一陣の風に吹かれる。
最初は私一人だけ。
:くるぞ
:始まる?
:わくわく
:よかったまだだよね!?
:こい!
豪雨のように、どんどん勢いを増していくコメントたち。
もう、なにがなんだか。
──ドクッ、ドクッ
同じように速まっていく私の鼓動。
ドローンに表示されているコメントの流れを黙って見つめる。
ゴクリ…と固唾をのんだ。
:もうだ
:始まりますね!
:安全に終わりますように
:楽しみ
:く、くる!!
──ドクッ、ドクッ
だいじょうぶ、ガワは女神。
大丈夫、個性もバッチリ。
コレはきっと……ワクワクの気持ち。
最高のニューライフが、この先に待っているはずだから!
──ポチッ
「みなさんはじめまして……星宮レーナです!」
:きた!!!!!
:デビューおめでとうございます!!!
:おめでとう!
:え
:きちゃ!!
:やば
:めっちゃ美女なんだが!!!!
:デビュおめ!
:銀髪ロング大好きです
:レーナちゃんはじめまして!!!
:推し確
コメント欄が爆発した。
ついでに、私のキャパも。
あばばばば。
*
「あはは! もーみんな、勘弁してあげなよぉ~」
楽しそうにコロコロ笑う声がすぐ横から。
:ヒマリ先輩きゃわわ
:だってしょうがないじゃん……
:あたふたしすぎw
:ずっと耳真っ赤で草
未だに顔が火照ったように熱い。
と、とりあえず落ち着くのよ、歌川響……じゃなくて星宮レーナ。
ひっひっふー、ひっひっふー!
ベタすぎる。あ、落ち着いたわ(錯乱)
「……そうですよ」
:あっ
:ジト目たすかる
:やばい
:動悸とまらんのだがww
もはやなんでも喜ばれるのではないだろうか。
開始15分で宇宙の真理に気づいてしまった。
「おっと……第一村人発見!」
小声で叫ぶという高等テクを見せびらかす先輩。
あぁ。ついに、きてしまった。
:そいえば吟遊詩人とはなんぞ
:きた!!
:安全第一でね
:たぶん歌手の派生
私たちの視線の向こうには、一体のスライム。
持ち前の青透明ボディをぷるるんと揺らしている。かわ……かわいい?(洗脳済み)
のどかな草原が広がる第一層の中でも、一番の雑魚モンスター。
初配信はダンジョン探索というより自己紹介のためにある。戦闘は軽めの前菜で、お話がメインディッシュ。
:歌手!?
:スラたん今日もお疲れ様です
:がんばって!
:どう戦うんだろ
「れーな、いける?」
周りをチラチラ見ながらそう言う先輩は、愛すべき新人の記念すべき初戦闘には参加しない。そういう決まり?伝統?なのだ。
ただ、スライムも雑魚とはいえモンスター。レベルを上げていない一般人にとっては、恐ろしい脅威。
まさに、私みたいな。
「……はい」
:れっつごー!
:大丈夫?
:ヒーコ警戒サンクス
:派生ってことは意外とバカ強いのかw
まずい。変な勘違いをされてる。
も、もうムリかも。やっぱりやめていいですか?
──ブォルルンッ
スライムがいきり立ったみたいに全身を震わせる。あ、そんなに大きくなるんですね。私の身長の大体半分ぐらい?その身体で溺れさせたり呑み込んできたりするんですかね。それともガッチガチに固くなって全力衝突してくるとか?
へー、かわ……いやコワイコワイ!
逃げたいッ!!
──っていうか。
私の真価はバッファーとしての支援では?ソレだけ伝わればきっと十分、いや絶対。
そうだそうだ。そもそもこれから先だって、どうせ歌うことしかできないし。
That's right(ペチィン)、天才かよ。ほら、私の中の俺も言ってる!
「ヒマリ先輩……ちょっと、頼んでいいですか」
「……え?」
事務所の伝統からも逃げちゃうのは大変申し訳ないけど。
インパクトだけは残すので、どうにかこうにか許してくださいお願いしますぅ……!
「それでは、捧げます──『グランドエスケープ』」
※見切り発車。需要があれば続きます。
曲名まではセーフだと聞いたので……ほんの出来心なんです!