作者の猫のこたつです。
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1933年3月8日
イタリア王国 王都 ローマ
「じゃあ、始めるよ。」
その声が響いた瞬間、皆が問題を開き、解き始める。
正直、そこまで難しい問題ではない。
獣に対しては何が有効か、獣の狩りは個人でやっていいか…
そう言った問題ばかり出る。
ちなみに答えは、『魔力を込めた攻撃』と『個人ではなく任務の招集』であったりする。
そんな訳で、つまらなくも重要である筆記を終えた。
まあ、試験時間は長くもあるし短くもあるような40分間しかないから、そう思うのも無理はないのかも。
試験用紙が回収された後に、外へ案内された。
そこは訓練場だった。
広いスペースに、遠くには的。
薬莢を回収する箱が置いてあったり、対人戦用の人形等。
大体の設備は揃っているようだった。
実技というわけで、一応腰にナイフをしまったり、魔具をもう持っておく。
備えあれば憂いなし、という諺が極東にはあるらしいからね。
「ということで、実技試験を開始します!
準備はいい?では人を呼ぼうか!」
キャッツがそう言うと、ある人が歩いてきた。
その男は、イタリア王国陸軍の軍服に身を包み、ヘルメット的なものや、おそらく今回の試験は危険だからかベスト的なのまでしている。
そして、さっきまで私と一緒にここまで来た男――
「ということで!今回の内容は――
彼に一撃でも与えること!皆しっかり魔具や武器は持ってきた?拳の準備もいい?
なら始めてしまおう!さあベグ、これ持っといて。」
そう言ってキャッツはベグに長い木で作られた棒を渡す。
大体70cmくらいのものだった。
「先に行きたいよーっていう人は…居ない?
居ないかぁ…じゃあランダムで…君!カリハちゃんから!」
そう言うと、ベグは後ろにいるキャッツの方を向きはしないものの少し睨んでから、こちらに目を向けた。
はは…結構嫌がらせとかするタイプの人なのかな、あの人…
いや初対面でもちゃん付けしてた人だし今更か。
そう考えつつ、魔具を構える。
一番最初というのは緊張する。あんまり先陣を切るっていうの、学生時代から苦手だったんだけど…
まあいいや、やってやる!
「行きます!」
そう大声で言い、ベグに向かって飛ぶように地面を蹴る。
十分な速度を維持し、彼の体の横に魔具を振る。
だが、それは余裕を持って躱され――
「いっ――」
振り被られた棒に頭をぶっ叩かれ、たんこぶでもできてしまったんじゃないかと思うほどの痛みを覚える。
周りの人たちがざわめくのを他所に、キャッツが口を開く。
「あ、それと彼は反撃するから!」
それを先に言ってよ!!!
守りの構えなんて取ってなかったがために、まともに食らってしまった。
いや、なんで魔力を決めることのできない棒でそんなに威力出るの…?
私との練習ってもしかして手加減してた?もう…舐められてる!
「どうした、カリハ。まさかもう音を上げたか?」
「なんの、私のしぶとさ舐めてもらっちゃ困るね!」
同じようなフォームで斬ろうとするが、少し違う。
例えるならサッカーのフェイントみたいに、ステップは同じようでも、その武器の軌道は全く違う。
脇腹を狙うのではなく――
「腕か、殺意が高くないか!」
彼はそう言いながら持っている棒を片手で回し、さながらアクション映画の撮影かと思うほどのアクションで魔具を止める。
しかも、そんな言葉を言う割にはかなり戦いを楽しんでいる。
「そうじゃなきゃ当てられないでしょ!違う?」
「確かに、俺に攻撃を与えるなら―――そうだな!」
そう言うと、また棒を回して魔具を弾く。
キリがない…なら。
急に近付く訳ではなくとも、棒と鍔迫り合いつつ、地道に近付く。
目的を悟らせないために、大振りでベグの頭めがけて振り下ろす。
「…力強いな、だが…」
今、ベグは魔具の方しか見ていない。
それに、さっき用意した物は、ベグが来る前だった。
なら、これは気付けない。
「くっ…!これは…ナイフか!」
十分に近付き、ようやく届くもの。
そして、小型で分かりづらく、それであって殺傷能力の高い武器。
小型だからこそ抜いたあと迅速に刃を振るえる。
ベグが気付いた時には、ベグの防刃のためのベストに私のナイフは刺さっていた。
その瞬間、周りの受験者達はどっと歓声を上げ、拍手をする者もいた。
目立つのはあんまり得意じゃないんだけどね…
「…これはやられた、注目を引きつけてから隠し刃とは。」
「私だってここまではできるんだよ?」
「キャッツ中佐殿、合格ですか?」
そうベグは見ていたキャッツに問いかける。
問いかけられた彼は満面の笑みでこう言った。
「もっちろん!いやー、これは中々に良かったよ。
映画さながらのバトル、アメリカのハリウッドとかに売れば儲かるんじゃないかとも思えたね!
それか軍のプロパガンダ?狩人募集ポスターにでも貼っつけても良さそうだった!」
色々な例えや実例を出しつつ、彼は戦闘の内容と戦術を褒め続ける。
まだ人いるのに…と思っていたら。
「キャッツ中佐殿、まだ多くの人数が試験を控えていますので。」
「ああそうだった、見惚れちゃってて忘れてたよ!」
彼は頭に手を当てて、なんだか未来で女の子たちがやってそうな表情でそう言いながら、次の人を呼ぶ。
いやはや…もう疲れた、たった数分間の戦いでここまでの疲労が来るとは…
「終わった人たちは各自帰ったりしていいよー!
何か待ってる人がいるなら軍大学の中でも覗いていいし!
まあ、まさか迷う人なんて居ないだろうけどね?」
さっきの私への煽りなのかな?ベグがこの人のことが少し嫌いそうなのが分かった気がする…
まあいいや、それならお言葉に甘えちゃおう。
後ろから鳴る棒と魔具のぶつかり合う音を聞きつつ、軍大学の中にまた入る。
やっぱり外の雰囲気と中の雰囲気が合ってない気がする…
まあ別に良いんだけど。
それに、確かに木造の方が落ち着く気がする…かも。
そんな感じで、中を見て回っていた。
最初の試験部屋に行く時よりも各部屋をよく見れて、どんな物があるのか、何用なのかがより一層詳しく知れた。
そう見ている内に、誰かの足音が聞こえた。
「あれ、今日ってここやってないんじゃ…」
試験があるから今日は大学が休みだと、少し前にベグが説明してくれたのを思い出す。
なのに人がいるって事は、試験に遅れた人?
それとも、誰か知らない人の可能性もあるのかな…?
そう思いながら、足音のする方向に歩いていく。
危険だということは承知しているけれど、好奇心には逆らえないのが人の性。
好奇心は猫を殺すというが、そんなのお構いなしに歩いていく。
そこには、女性が立っていた。
私とは違って、黒く長い髪が美しく、またイタリア王国陸軍の制服を着た女性。
その姿に一瞬、女性の私でも見惚れてしまった。
「あ…」
つい声が出てしまって、その人が私の方を向いた。
顔立ちも美しく、西洋の雰囲気がありつつも、なんだか東洋の人の様に見えた。
それに、すごく若く見える…キャッツと同じように、二十代、それか三十手前ほどだろうか。
「さっき戦っていた奴か。
さっきの戦いはとても良かった、戦術がよく効いていたよ。
ただ、ナイフだけでは不安だとは思うがね。
さて、自己紹介しよう、私はレミ。君の名前は?」
意外にこの人はおしゃべりなようだ。
それに奴っていう言い方、思っているほど丁寧な人ではないのかも…
「私は…カリハです。カリハ・スリーデント。
スリーデント家の一人娘で、さっきまで狩人試験を受けていました。」
「なるほど、ヘルト・スリーデントの娘か。
その魔具を何故持っているのかと思っていた所だった。
それに、金髪だったしな。だが短髪なのが似ていないな、だが君を見ていて…彼女も短い髪型が似合うのかもしれないな。」
この人も私の母親を知っているらしい。
結構有名人だったんだ…自分のこと、全然語ってくれなかったからなぁ。
私が興味出てきたから語ってくれただけで、そうじゃなかったらずっと言ってくれなかったのかもしれないな。
「あなたも私の母親を知っているんですね。
それに…髪型、か…別に母を嫌ってるわけじゃないんです。
寧ろ、狩人として立派にやっていたなら、尊敬してますし大好きですから。」
「はは、これは凄いな。
彼女はしっかりと子供と過ごせているらしい。
君と話していると、なんだかヘルトと話しているように感じるよ。
少し若い頃のあいつは、確かにこんな感じだった。」
彼女は平然とそう語る。
若い頃からの知り合い…えっ、何歳?
「僭越ながら聞かせていただくんですけど、おいくつで…?」
「君も女性なら分かるだろ?女に年齢を聞くのはかなりのタブーだと。
まあ…そうだな、彼女の娘に聞かれてしまったんだ、答えてあげよう。」
そう言って、渋々彼女は口を開く。
「見た目は若いが、中身は全く若くないぞ?少なくとも、40年は生きている。」
その言葉を聞いて、もうびっくりだ。
見た目はかなり若いからこそ、そのギャップの衝撃が強い。
「そう…なんですか。」
「全くそうには見えない、という言い方だな。
確かにそうだ、私は結構若作りしているから。」
いや、若作りでどうこうできるものなのか…
そう思いながら話をしていると、彼女は徐ろに時計を取り出し、時間を確認した。
「こんな時間か。
私はこの後用事があってね、暇潰しに見ていたんだ。
だが君との話は楽しかった、きっとここへも来るだろう。
軍でまた会えることを期待している、カリハ。」
そう言って、彼女は階段を降りていった。
「…なんだか、知らない事ばかりだ。」
ふと、そう思った。
そうして、彼女のいた窓から、下を見る。
実技試験はまだ終わっていないようで、皆疲れているようだった。
「みんな、頑張って。」
呟くようにそう言って、窓を離れた。
さてと、さっき約束したお店で待ってようかな。
あいつのことだし、気付いたときにはもう来てるでしょ。
そう思いながら、さっきレミが使った階段を降りた。
――――――――――――――――――――――――
「なるほど、スリーデント家で4代目の狩人か。
これまでの者達は軍に入る者は居なかったが…彼女は違うというわけか。
資料を探してもらってすまないな、ザグラ中尉。」
ある人物についてがまとめられた本を読みながら、目の前にいるそれを持ってきた男へ謝辞を述べる。
無論、それが本当の感謝でないこと等わかっている。
軍の中で本物の感謝をする者は、イカれているかその両方がどちらも信頼しきっているという者達だけだからだ。
私は別に部下を信頼していないわけではない、それでも…
今のこのイタリアが、不気味で不安でたまらないからこそ、誰かに本心からの感謝を言うことができないだけだ。
「それはよかった、それでまた私に仕事を押し付けるのか、レミ大佐殿。俺も一人の人間でね、それに情報部で身軽に行動できそうなのか俺ってのは分かるが…
少々人使いが荒いんじゃないの?」
「ほう、よく言うようになったな。
いや何、そんな顔をするな。貶したり怒っている訳ではない。
それに吸血鬼の血が入っているお前の情報を、誰が押さえていると思っている。」
「情報統制がないと、俺ら魔力変質生物は生きていけない。
…皆が、あんたたち人間に気味悪がられて狩られたからな。
一時期狩人の狩猟対象だったし。実験にも使われた。
だからまあ…そうだな、あんまりにも酷い使い方じゃなきゃ、俺は大体受け入れる。
だけど、もうすぐ狩人になるお嬢ちゃんをストーキングしろって何さ、なぁ。」
「異議があると?」
「大アリだよ大アリ。おかしいだろ。
ミスったらあのすげー魔具にド頭吹き飛ばされちゃうんじゃねぇかと思えるほどだ!」
「胴体かもしれんぞ?」
「そういう話じゃないわ!」
そう冗談を交わしつつ、なぜそのようなことをしてほしいかを語る。
「…彼女は、少し危険だと思うからだ。
何故なら、あの魔具は少しおかしい。
凄腕の鍛冶屋が作った、というだけでは理由にならないほどには性能、強度、造り全てが何もかもを超えている。
まるで、怪物にでも取り憑かれているようにな。」
「規格外の物を、怪物やら何やらで例えるのやめたらどうだ?
毎度その顰め面を見るのは俺なんだ、例えならあんたの頭のキレじゃ何個も思いつけるだろうに。
ま、いい。とりあえず、黙って監視しとくよ。
軍に入ったらぜひ俺を教師にでもしてくれよ〜!」
そう言って、彼は部屋を出ていった。
「顰め面…か。」
あの悪夢を見てから、過去を思い出してしまった。
彼女に語ったのも、思い出してしまったからこそだ。
「はっ、この姿を他の奴にでも見せたら笑われるだろうな。」
そう思いながら、また軍務に戻った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
少々長くなってしまいましたが、これからも書いていきますのでゆっくりお待ちいただけると幸いです!