怪物戦争   作:猫のこたつ

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作者の猫のこたつです。
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第3話:接触

1933年3月8日

イタリア王国 王都 ローマ

 

ベグが来ない。

いくら私でも、ここまで待たされると頭にくる。

確かに私は寛大だ、そう寛大なのです!

それでも、ここまでとは思わないでしょ。

 

「結局、いらっしゃいませんでしたね、カリハさんの待ち人。」

 

残念そうな声色で、こちらを心配してくれる人は店員さんだ。

結局こんな夜まで待ってしまった。

気付けば、もう空は雲一つない快晴から満天の星空が見える夜景へと変わっていた。

最後まで残ったのは、私と途中から来た、いかにもイタリア人と思しき男性のみ。

 

「はは、いいんです。色々ご馳走様でした、何リラでしたっけ。」

 

そう言いながら、席を立って会計を始める。

にしても疲れた、座ってピザとかコーヒーとかを食べたり飲んだりしていたというのに。

うーん、人の心配には体力を使うみたいだ。

 

「にしても遅いなぁ…

仕事がまだあるのかな。まあ、明日あったらお疲れ様って言ってやろう。」

 

そう思い、店を後にした。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「…ただベグのこと待ってただけじゃねぇか、あの嬢ちゃん。」

 

少し温くなってしまったコーヒーを飲みきり、席を立つ。

全く、変な仕事を押し付けられちまったもんだ。

あんなに健気な嬢ちゃんの跡を付けないといけねぇとは、受けちまった仕事ら最悪だったらしい。

 

「すまんな、店員さん。こんなに最後まで居ちまってよ。」

 

「いえいえ、いいんです。コーヒーはどうでしたか?」

 

「温くなるまで飲むのを渋っちまったが、超美味かったぜ。

仕事や機会があったら、また来るよ。」

 

そう言って、値段より高い金額を出して席を離れる。

 

「そいつはチップだ、こんな遅くまで居た謝罪だよ。」

 

店員は短い謝辞を述べてから、俺を見送るように手を振っていた。

誰も彼もがこんなに健気だってのに、俺はそんな気持ちを踏みにじっているのか。

上も嫌なことをされるもんだな。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「特命により出頭いたしましたー。キャッツ中佐です。」

 

「これはまた面倒そうだな、と思った顔をしているな。

そんな顔をしないでくれ。そういう顔をするならそこに座って話を聞いてからにしろ。」

 

そう言われ、ご丁寧に置かれている机の前の木製の椅子に座る。

机の上にはコーヒーが置いてあり、まだ湯気が出ていた。

 

「それで、何をしろって?」

 

「何、簡単なことだ。軍大学にカリハが入ったら、教師をしてもらいたくな。」

 

「はあ、私が彼女の先生をするの?」

 

吹き出しかけたコーヒーをハンカチで拭きつつ、聞き返す。

呼び出しを食らったと思ったら、上官からそんな事を言われた。

 

「そうだ、別にいいだろうキャッツ?

暇を持て余していたようだしな。」

 

「だからってここまでしなくていいでしょ。」

 

「嫌か、キャッツ。私から直々に任命されたものが?」

 

レミは試すようにそう言う。

全く、仕方のない奴だ。

 

「分かった分かった、仕方ないなぁ…

でも、しっかりと報酬はいただくよ?」

 

「狩人の任務を倍にしておこう。」

 

「は?」

 

「冗談だ、しっかり追加給与が与えられるよう掛け合っておくさ。」

 

そう言って、何処から出したかわからない煙草をこちらに投げてくる。

 

「それは前金だ、お前の好きなやつだろ?」

 

「よく分かってる、これこれ。」

 

投げられた煙草を我ながら素晴らしいキャッチをし、懐にしまう。

これで心の余裕がまあまあできた。

 

「煙草なんて、命を削るだけだと思うんだがな。」

 

「いつどんな外的要因で死ぬかも分からないこの仕事で、そんな事を気にする暇はないだろ?

それに、いつ死ぬか分からないからこそいつもこれを楽しめる。」

 

「確かに。高い自殺を楽しんでくれ。」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「ようやく終わった…中佐、終わりましたよ。」

 

机の目の前に置かれているのは、多くの書類。

その書類達にサインして、印を押して、自分のコメントを書いて…

合格か不合格か、点数は…

そんな事を何時間もやっていたら、いつの間にかほぼ夜中になっていた。

カリハを待たせていたのに、こんなにかかるとは…

 

「というか、途中どこに居たんですか?

どこかに行ってしまいましたけど。」

 

「ん、ああ…レミに呼ばれていてね。

そこまで大切な話じゃなかったんだけどねぇ。なんだか呼び出されたんだよ。」

 

なんだか嘘をついているような気もするが、彼は大切なことや不味そうなことはしっかり言うタイプだ。

ならば、大丈夫なんだろう。

 

「さてと、ここからは明日にしますか。

それじゃあ、私は帰ります。カリハも待たせてるので。」

 

「彼女さんを待たせていたらな先に言ってよ。

こんな仕事、押し付けなかったのに。」

 

「誰があいつの…はあ、まあいいです。」

 

書類仕事に押し潰されて死にそうだった私には、もう彼の言葉に対して反応することができなかった。

もうこんな夜なんだから、仕方ないだろうけれど。

 

「ま、次会った時に彼女に謝っておくよ。」

 

「会うこと…ありますか?」

 

「大学で会うかもよ?」

 

「そうですかね…まあ、そうしておいてください。」

 

少し違和感を感じたが、まあ会える可能性もあるか、と自分の中で結論付けて、帰った。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「久方ぶりだね、レミ。」

 

また、声が聞こえた。

男でも女でもないような、何か名状しがたい声。

ただ軍の仕事をしていただけなのに、どこかで聞いたような、それでも聞いたことのないような声。

 

「…ちっ、頭の中で話すのをやめろ。気持ちが悪い。」

 

「おや、気を悪くしてしまったならすまない。ここは少し謝っておこう。」

 

「はっ、謝る気なんてないだろう?お前は…いや、クソ…」

 

そう、記憶を掘り起こしても、頭を抱えるほど考えても、掻き毟ったとしても…何も思い出せない。

 

「大丈夫かな、レミ?」

 

「黙れ。その声が頭に響くだけで気分が悪い。」

 

何者かは分からない。だが、私の直感が、本能がこの声の主を敵だと警告している。

 

「そうか、ならば…」

 

そんな声が聞こえた直後、ドアからノック音がする。

 

「すまない、今は取り込み中――」

 

「大丈夫、私だよ。」

 

その声は、女性であった。だが、何か違和感がある。

その声は、奥底では何かが震えている――いや、混じっているような声だった。

何故名乗らないのか、それに対して恐怖を感じた。

 

「入れ。」

 

嫌な予感はしたが、その者を入れることにした。

 

「ありがとう。」

 

入ってきた者は、黒髪の女性だった。

人とは思えないほど美しく、それが恐怖を引き立てる。

 

「はは、そんな顔しないでくれ。

私も人間は好きだからね、君達を傷付ける気は今は無いよ。」

 

「信用出来るか。私の見立てじゃ、お前は百年前の怪物だって予想してる。」

 

「なるほど、それは……なかなかの予想だ、やはり君に接触してよかったよ。」

 

そう言いながら、彼女は何がおかしいのか笑う。

 

「…何かおかしい。」

 

「…いや。ただ、やっぱり君たちは面白いと思ってね。」

 

「それで、最初に聞くのを忘れたが…

何のためにここに来た?」

 

彼女はそう聞かれると、美しい顔を不気味と思えるほどの笑顔を浮かべ、口を開ける。

 

「私に協力してくれたら、あの時の真相を伝えよう。

その実験で得た永遠を、何もせずに腐らせるなんてことしないだろう?」




最後まで読んでいただきありがとうございます!
投稿期間が空いてすみません…
これからも書いていきますのでゆっくりお待ちいただけると幸いです!
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