作者の猫のこたつです。
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1933年3月23日
ドイツ共和国 首都 ベルリン
2ヶ月前、ある政党がついに政権を握った。
それは、イタリア王国の思想を真似たような政党だった。
国家社会主義ドイツ労働者党。ナチス党とも言われるその政党は、かつては全くの無名の政党だった。
だが、ある人物の入党により、その政党は名を上げていくとになる。
その男の名は、アドルフ。アドルフ・ヒトラー。
今ではドイツの首相職を担い、死期の近付く大統領から、その職さえも簒奪せんとする男だ。
かつての大戦争で敗北したドイツは、ある種諦めがあった。
軍は事実上無くなり、国すら周辺国家に滅ぼされたもの同然の地で、いくつかの人々は諦めずに、まだ立っていたのだ。
それは、復讐主義とも言えるだろう。
フランスを潰し、かつての領土を回復したいと、そう思う者たちがいた。
そんな者達が選んだのは、その党だった。
だが、彼らは思いもしなかった。
その政党が、まさかそんな政党が、全てを飲み込もうとするとは。
「全権委任法に賛成しないならば、暴力革命すら辞さない。」
第一党ではあったが、過半数には満たなかったナチス党は、第二党である中央党に対して「突撃隊」という私隊を使って脅した。
これにより、3分の1ほどの議席数であったナチス党の法案は、可決されることになる。
そしてこれは、これから起こる復讐のための、大きな一歩であった。
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1933年4月9日
イタリア王国 王都 ローマ
最近は、多くの不穏なことがある。
北のドイツでは、うちと同じファシズム政党のナチス党が政権を取った挙句、憲法に縛られない政治を行える全権委任法まで通したらしい。
さらに極東だと、群雄割拠の中華民国に対して日本が満州へと進軍し、そこに旧時代の皇帝を即位させて傀儡国を建国…
「…頭痛くなるなぁ、こりゃ。」
政治的動乱、次に起こるは北の脅威への対策。
同じような思想を持っているとしても、相容れるとは限らない。
まあ、あちらの首相は、何故だかこちらのことを気に入っている…というか、うちの統帥に憧れているのかもしれない。
「…ふぅ…」
レミから貰った煙草を吸いつつ、次の授業の内容を考える。
教師の職を任されたのはいいが、そんなの何時ぶりかするも覚えていない。
カリハはよくやっている。頑張りすぎているほどに。
いつか、何か突っ込んでいってしまうんじゃないかと思えるほど。
まあ、そんなことがないよう、私が教えないといけないわけだが。
「最近は狩人の仕事はないが…それが逆に怖いな。」
獣が現れないのはいい。私は軍人だから、そっちに時間を割ける。
だが、ここまで出なかった時がない、というのが怖い。
昔にあったというのなら、定期的になるようなものなのだろうと言う考えで片付けられる。
だがそうでないのなら、それは警戒しなくてはならないことだ。
昨今、大戦争によって起きた魔力汚染地域の魔力反応が高まっているとも聞く。
調査団が派遣されるそうだが、魔力汚染はかなり深刻らしい。
「怪物、か。」
あれは、怪物よりも…
"邪神"に近しい存在に見えたけどな。
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1933年4月10日
大日本帝国 帝都 東京 陸軍参謀本部
関東軍は、ある地域を収めた。
だが、野心はそれでは収まらなかった。
ついには、華北さえもその手中に収めんとしたのだ。
「…正気か、大陸の人らは。」
頭を抱えた。2年前に勝手に満州に攻め入ったかと思えば、次には承認されなかったこといいことに華北まで?
ふざけるなよ。
「大丈夫ですか、木山中佐殿。」
そう言って、部下が書類を持ってきてくれた。
ああこれはありがたい、また仕事が増えてくれるらしい。
クソったれの関東軍と支那からの贈り物だ。
植民地と仕事を増やしてくれるとはな。
「ああ…大丈夫だ、このくらい。海軍さんの精神注入棒の方が何倍もキツそうだしな。」
あれ、一発食らってみたが本当にヤバかった。
人を何人何十人殺せるような物だ、というか痛みだけなら何百回死んだとしてもまだ褪せなさそうだった。
「体罰大好きだからな、体に叩き込んで教えるとは日本人が考えそうなことだ。」
「…僭越ながら申し上げますと、あの棒の元となったのは英国のようです。」
…まじか。
「まじか。」
そんな驚きもありつつ、やはり大陸の情勢は酷いものだということは変わりなかった。
1931年から、日本は変わり続けている。
これは繁栄への道か、それとも凋落への道か…
それは、歩みを進めればわかるだろう。
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1933年4月17日
イタリア王国 王都 ローマ
「よく来た、我が友よよ!」
「それはどうも、同郷の友よ。」
そう出迎えたのは、遥か東の日本からやって来た友だ。
日高七海という女性は、日本ではそういない女性の狩人で、実力は指折りだ。
そんな訳で、女性としては特例の入軍を認められている。
専ら狩人の仕事専門らしいけど。
「同郷とは言っても、私の生まれはイタリアだからね、数年日本に居たくらいで同郷と言われる筋合いは…」
「はっ、そのくらいいいだろ?
郷に入っては郷に従え、それをしっかりできたあんたを認めてるのさ。」
「おやおや、認めるとはね。
それに、認めなければ日本に入ったと言えないってことかな?
日本はいつそんなに敷居が高くなったんだい?」
「そっちはイタリア人であるというプライドが高いみたいだがな?」
「おっと、これは一つ取られた。流石だね。」
全く、数年前から変わらない。
素晴らしい友人だ。
「さて、何を食べたい?私が案内できるなら何でも言ってくれよ〜!」
「そりゃ素晴らしいな、じゃあそうだな…ピッツァだ、あれを食べたい。
パスタも合わせて食べたいが…そのような食事ばかりじゃ体を壊しかねんからな。」
「健康志向かな?似合ってないよ。
もしや相手でも探してるの?」
「探してるとしてもここじゃないし、お前の思うものじゃない。」
「はは、これは失礼。」
そんな話をしながら、ある店に入る。
少し前、カリハが利用した店だ。彼女がどこで知ったか私に連絡をよこしてきて、ここを知った。
おそらくベグの手引きだな…
「さてと、わざわざこっちへ来たんだ。何かあったんだろう?」
「そっちもなってると思うが、獣の出現が最近確認されていない。
元々うちは少ない方だが、それにしてもだ。
大陸の方々が奪い取った満州方面でも、少し前から出現が無い。」
「こちらも全く同じ状況でね、どうしたらいいか手を拱いているんだ。
極東の方々とこっちの考えは違うから、何か話せることがあるかもしれないってことで来たのかな?」
「まあそんなもんだな。
こうなると私の稼ぎも少なくなる。お前は参謀もできてるから良いけどさ。」
そんなこんな話しているうちに、コーヒーが来る。
私は砂糖やミルクは入れない派なので、そのまま飲む。
「おお、こっちの珈琲は素晴らしいな。」
「私はそっちの緑茶が恋しかったりするけどね。」
「どちらにも趣があるってことか?」
「コーヒーに趣?ないない、英仏のクソったれ共がアフリカや東南アジア、南米で現地人の強制労働で採らせてるんだぞ?」
「亜細亜地域の植民地については、うちの偉い人らが話してたよ。
ったく、前の大戦争で少しは島の支配権を取ったってのに、経済不況のせいでまだまだ軍拡するとかさ。」
あの時の大戦争は、確かに我々はどちらも勝利側だ。
まあ、うちの場合は欲しかった領土など殆ど貰えなかったし、日本の方ではドイツの中国や東南アジア方面の権益の獲得だけという、なんとも言えない戦果だった。
「それは酷いな。まあ、うちも少し前にエチオピアに侵攻したから、何も言えないけど。」
「負けてなかったか?」
「戦略的撤退らしいよ。」
「へぇ~。それは凄いな、後ろに進軍して戦果はどうなんだ?」
「分かってることを聞かないでくれよ、なぁ?」
「はは、それもそうか。」
他愛のない蹴落とし合いのような話をしつつ、双方の現状を確認する。
「…全く、こんな状況だと、狩人としての仕事より戦争の方が先に来るかもしれないな。」
「同意するよ。」
いつの間にか飲み終わってしまったカップを置き、ひとつ溜息を吐く。
この何年間で、どれだけ世界情勢が変わってしまったことか。
「…どう見る?」
「大陸の人たちが言うような最終戦争が近付いてるかもしれない、とは思うな。
無論全てを信じてるわけじゃない、それでも…独逸の状況を聞いていれば、奴らの思想はそれと同じものだということは察すさ。」
「それに、その思想はこっちの思想と似通っているからね。
あちらの首相様はこっちの統帥のことを好いているようだし。
…かつての敵と手を取るつもりだというのなら、彼らはどんな精神をしているのかを見てみたいものだけどね。」
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1933年5月12日
イタリア王国 王都 ローマ
「またか。そこまでして確認したいと?」
「まあまあ、いいじゃないか。」
そこには、2カ月前に会った不気味な女がまた居た。
その体は、その時と同じように美しすぎた。
それは、逆に不気味さを引き立たせる。
「いやはや、しっかりと様々なところで手引きしてくれているようで何よりだ。何分彼女の性質が理解できなくてね。この私の権能を持ってしてあそこまでとは、誰かが何かしてくれたみたいなんだ。」
「それで、これが欲しかったわけか?」
それは、ある者――カリハ・スリーデントについての身分等の書かれた、狩人試験の時の書類だ。
それに付随し、これから通う軍大学の書類も用意した。
「そうそう。」
彼女は――いや、それはその書類を手に取り、全ての項目の何もかもを見逃さんとよく見る。
「カリハ・スリーデント…なるほど。
かなりの狩人家系であり…少なくとも3代前から狩人をやっている、か。」
そして、それを確認すると、それはこちらに話しかける。
「1つ聞くけど、これはしっかりとしている書類なんだよね?」
「ああ。まさか嘘の情報を書くとは思えない。
まさか、自分の行きたいところに虚構と嘘で飾り付けた自分の設定を貼り付けていくと?」
「確かに、それもそうだね。私の考えすぎ…か。」
さてと、とりあえずは、こいつの協力した。
であれば、あの契約は履行されたはず。
「教えてもらうぞ。大戦争の真相を。」
「…ああ、そういえばそんな契約だったね。
けれど…最後に、意味はないだろうが忠告するよ。
君は、どんな物に触れるかどうか分かってるのかい?」
「ああ。それに、この100年間、切望した答えを何故聞かないなどという選択ができる?」
「…確かに。やはり、君達は面白い。イカれてる奴もいれば、私の理解できない、いや観測できないような個体だって現れる。君達はやっぱり最高だ。」
笑い混じりの声で言うと、それはこちらに近づいてくる。
「何をするつもりだ?」
「音じゃ限界がある。夢を見せるんだ。あの時やったみたいに…いや、覚えていないんだったね。」
「待て、待てクソ――」
そう言われた瞬間、私の意識は、糸が切れたように暗転した。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これからも書いていきますのでゆっくりお待ちいただけると幸いです!