作者の猫のこたつです。
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「…これは。」
丹念に掘られ、確実な防衛線として使われたであろう塹壕。
そこら中に砲弾が降り注いだであろう、隆起し陥没した地面。
全てが、記憶にある。
それは、私の中のかつての記憶を再生したようだった。
この光景の中に、私は居ない。
彼等にとっては恨めしいだろう、私は上の人物だった。
この光景は、現実であるようで、また現実でない。
何故なら、地に足がついているようで…ついていない。
まるで、霊にでもなってここにいるような感覚だ。
彼女――それは、笑みを浮かべながら語る。
「どうかな、久方ぶりに見る光景は。」
不気味な作り笑いを浮かべたそれは、私に問いかける。
「Fuck、とでも形容するべきか、貴様が鬼だと言うべきか、サタンだとでも言うべきか。
ああ、下2つはどちらもDemon、ではあるか。」
「ふふ、それは面白いね。
その弁がまだ褪せていないようで何よりだよ。
私が気に入ったのは、君の人生とその舌戦の強さだったからね。」
不気味な作り笑いをまだ貼り付けながら、女の形をしたそれは空を歩く。
まるで、幻覚か、それとも夢のように。
――夢?
「…お前…!」
「ああ、なんだ。思い出すのが些か早かったみたいだね。なーんだ、つまらない。まあ、そういう感がいいところも気に入った理由の一つかもね。」
思い出した。数日前、私はこいつと会っている。
いや、本当にこれだったかは分からない。
だが、これに近しい何かと、夢の中で会っていた。
あの不気味な声と、見せてきた何かの光景。
全く似通っているじゃないか。
ここまでのヒントがなければ、私はもう気づけない領域まで生きてきてしまったのか?
「…悪趣味だな、畜生共。」
「おやおや、そんなに言われると私だって悲しいんだよ?」
「神に近しい存在の心が硝子とは、これまた面白いな。
13世紀にそんなものが書かれていれば、今の価値観はどれだけ変わっていただろうな?」
そう言いながら、辺りを見回す。
さっきまでは、同様であまり周りが見えていなかったが…
この戦線の状況を見る限り、ここは大戦争の序盤ではなく、終盤だ。
「君の推論は正しいよ、レミ。」
ああ、そういえば心が読めるんだったな、クソッタレめ。
「にしても、随分よく見たみたいだな。最近の写真ですらここまでリアルにはできないだろう。」
「君がリアルを語るとはね。君のその生き方と寿命はリアルには見えないけれど。」
「全く、お前はまさかこんな与太話で私の時間を奪おうとしているのか?本題にすら入れない神など笑い話にもならないぞ。」
「分かった、早く本題に入りたいんだね?なら、お話は終わりにしようじゃないか、レミ。早く知りたいだろう?」
大戦争の、真相を。
――――――――――――――――――――――――
1933年6月1日
イタリア王国 王都 ローマ
何だか、久しぶりにここに来た。
いや、久しぶりではあるんだ。その、気持ち的にもって話。
私――カリハ・スリーデントは、遂に軍大学へ入ることになった。
あの時の試験を最後に、ここには来ていなかったけれど。
遂に、そう遂にここに入学した!
「ふー、何だかテンションが上がるね…」
私は呟くように、けれど隣に立つ友人に語るように言う。
「そうですか?ただ、軍について…まあ、陸軍、海軍、空軍、それとそれぞれの戦術、作戦、兵器…そんなのを学ぶだけではないですか。」
「あのねぇビガリ、君ってばロマンがないよ。
ここまで生きてきたんだったら、ロマンと青春を知ってる筈だろう?」
彼の名前はビガリ。私の友人で、学友で、狩人。
そういえば、私も狩人。点数が高かったらしく最初から3級だった。
ビガリは4級。別に低いって言いたいわけではないよ。
「真面目と言ってほしいですね、カリハ。
まあ、そう言った楽観的な視点も…持っていなければ、戦場では生きられない…」
「そんなこと、確かにベグが言ってたなぁ。
上司が楽観的でクソうるさくて敵わないって。
それなのに実力はあるから嫌ってことも言ってた。」
「将来のあなたですか?」
「褒めてるのか貶してるのかわからないね、中々言葉がうまいじゃん?」
そんな事を言いながら、軍大学の中に入る。
今日は入学式をやって、少しだけ説明を聞くだけらしい。
私の夢は飛行魔導兵だから、陸軍と空軍のことを学ばないといけないってことは聞いたことがある。
「おや、久しぶりだね!」
そんな事を考えていたら、聞いた事のある元気な声が聞こえた。
イタリアの軍服に袖を通し、その姿からは予想できないほど楽観的でうるさい軍人…
「キャッツ中佐、お久しぶりです!」
「…彼は知り合いですか?軍人のようですが…」
「彼はねぇ、私が言った楽観的でうるさい人だよ。」
「…彼が?見た目からは予想できませんが…」
ビガリは本当に、キャッツの姿を見て疑問を呈したようだ。
いやまあ確かに、彼はカッコいいし、軍人としては完璧な服装だから、見間違うのも無理はない。
いや、話し姿や彼の性格をよく知っていないから思うのかもしれないな…
「人を見た目で判断してはいけないよビガリくん。
私だって真面目に見えるけどこんなに明るい子だろ?」
「ああ…そうですね。」
呆れたようにそう言いながら、ビガリはキャッツの方へ歩く。
「お初にお目にかかります。あなたのことは少しだけ聞いたことがありまして。会えて嬉しいのです。」
「へぇ、私も有名になったね。彼女から聞いたの?」
ビガリとキャッツは握手をしながら、話を続ける。
「それもそうですが…あなたの持っているその魔具を見て、思い出したのです。」
そう言って、ビガリはキャッツの背に背負われた魔具に目を移す。
その魔具は大きな剣のようなものだ。
長い持ち手に、その先には中々に大きな刃が付いている。
私の持っている魔具に少し似ているけど、けれど何か違う雰囲気を感じさせる。
「ああ、これ?これはね、私が狩人になる時、ある人から貰ったんだ。
大きいでしょ?かっこいいでしょ?男のロマンでしょ!?」
「…カリハ、貴方は中々…人を見る目があるようですね。」
苦笑いを浮かべながら、私に話しかける。
うん、そうだよね。見かけに騙されるよね。分かるよ。
「なんだいその言い方は!私がうるさくて楽観的な人間みたいじゃないか!」
「失礼、そうですね…些か、軍人としては元気な方だと思い…」
「くっそぉ…褒めてるのか貶してるのかわからないから何も言えない…」
そんな話をしている内に、キャッツは時計を見る。
「…おっと、少し話していただけでもうこんな時間みたいだ。早めに行こうか、来るかい?」
「あれ、キャッツ中佐も出るんですか?」
「うん、少しね。うちの大佐殿が少々お疲れのようでね、私に代わりに出てほしいと言ってきたわけさ。
いやはや、色々仕事もあるというのに…
浮いた狩人の仕事分の時間をまた沈まされたよ。」
大佐というのは、おそらくレミという人だろう。
あの人が…かぁ。結構強そうな人だったけど…
「お言葉に甘えておきます。連れて行ってくださいますか?」
「本当に丁寧だね、君は。
では人生の先輩として、この先輩として案内しよう!」
「本当に、彼はうるさいですね?」
「…見た目だけで人を判断してはいけない、だよ。」
キャッツはそう高らかに言って、歩いていく。
…その大きな声は、色んな人達の視線を奪っていたけれど。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これからも書いていきますのでゆっくりお待ちいただけると幸いです!