作者の猫のこたつです。
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1933年6月1日
イタリア王国 王都 ローマ
キャッツについて行き、着いた場所は大きな講堂であった。
何人入るか、大きすぎて分からないほどの広さがあり、キャッツとは入ったところで「私は準備があるから、座っててね!」と言って別れた。
席は多かったが、もうすぐ時間だからかもういくつかの席しか空いていなかった。
全く、こんなに人がいるとは。
確かに軍大学は広いなと思ったけれど、人数がここまでとは想像していなかったなぁ…
幸運にも隣合った席が空いていてくれたため、その席にビガリと共に座る。
様々な説明、来賓、参謀本部長の言葉…
そんなあまり興味の無い事柄が行われて、少し経ったときに。
「次は、一級狩人――レミ大佐からの言葉でしたが、諸事情により御欠席との事ですので、一級狩人、キャッツ中佐が代読します。」
なるほど…準備があるって、こういう事だったんだ。
にしても、前にも会ったあのレミっていう人が、欠席…
生半可なことじゃ欠席なんてしないような人だと思ったんだけど、何かあったのかな。
そんな私の心配は露知らず、隣のビガリは話しかけてくる。
「彼、一級狩人として代読するまでの人だったのですね。
名前は聞いていましたが、そこまでとは。」
「そうだね…でも、レミっていう人も…」
そんな事を話しながら、キャッツの代読が始まった。
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1933年6月1日
イタリア王国 王都 ローマ
「くそ…はぁ…くそっ!」
そんな、誰に言うでもない恨みを呟きながら、机を殴る。
私は、この長い人生の中で多くの苦悩と絶望、そして神秘と冒涜に触れてきた。
そのつもりだった。だが、それはその神秘と冒涜の一端だったんだろう。
あれに見せられた光景は、想像を絶する地獄だった。
「ああ、少し刺激が強すぎたかな。でも私は言ったはずだよ、刺激が強いから注意してねってさ。」
嘲るようにそれは話す。
筆舌に尽くしがたい光景を見せてきて、その言い草とは。
「…何故、あれを行った!」
「何故…何故、か。そうだね…面白いと思ったから。」
「…は?」
得られた回答は、それだった。
ふざけているようにしか聞こえない、それでもそれは嘘をついているようには見えなかった。
まるで、それが当然だと、異常なのはお前だとでもいうように吐き捨てるようにそう発した。
「それに、そう願われたから。彼らはドイツを止めてほしい、奴等中央同盟国を滅ぼしてほしいと、そう怨嗟の声に乗せるように私達神に願った。」
「…だから、叶えたと?」
「うん。だって、そっちの方が、面白そうだろう?」
「…貴様は、そのような邪悪な考えを持って神と名乗ると?」
「邪神と言うのも居るじゃないか。さっき君の言ったように悪魔の様な。まさか、そんな聡明さをもってしても自分自身の発言を見直すことができないなんて言わないよね?」
そう薄ら笑いを浮かべながら、それは語る。
まるで嘲るように、だが人間という概念とその生命そのものに感謝するようにして笑っている。
その一見矛盾しているような印象が、人間からかけ離れているそれをもっと不気味なものとして引き立たせている。
「…貴様は、本当に…本当に、反吐が出るな。」
「なんとでも言ってくれて構わないよ。
君たちが何と言おうと――君たちは、私には勝てない。そんな戦力差をひっくり返せる兵器があるなら、あの戦争はあそこまでの総力戦を必要としなかったろうから。」
「…だが、前に貴様か…それか、貴様と同位の存在は、私達によって退けられたがな。」
「…あれは、私も想定していないような魔具を持ち合わせていた。それだけだよ。」
それは、その話を持ち出されたくないかのように、苦虫を噛み潰したような顔をしながら話した。
つまるところ、これは本当なんだろう。
彼―あるいは彼女だが―は、イレギュラーによって傷をつけられたことについて恨めしく思っている。
人間のことが好きなのは、おそらくだが自分の掌の上で転がせて、尚且つその生命たちの行動に予測が出来ないからこそ、その不確定な未来の可能性全てを楽しんでいる。そういう事なのだろう。
「…かつての怪物狩りのことは、恐怖しているか?」
「…まあ、少しはね。
彼の魔具がまだ残っているというのなら…
もしかすると、私を殺せるかもしれないね?」
それは、あるとも信じていないように笑いながら、けれどもあれば面白く、最高の喜劇になるとでも言うように話した。
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1933年8月18日
ドイツ共和国 首都 ベルリン
今日のベルリンは、かなりの人々が行き交っていた。
何故、こんなにも人がごった返しているのか、そう問われれば答えうる理由がある。
今日は、ベルリンにて国際無線展示会が開かれたのだ。
それによって、多くの国の者達が行き交っている。
時には金髪碧眼のドイツ人や、整った顔立ちで、一目見ても仕事が順調で順風満帆な人生を送ってきたようなイギリス人など、国内外問わず様々な人々が居た。
「ザン、俺らまたこんな仕事を押し付けられてねぇか?」
同僚の男に話し掛けながら、周りを見渡す。
一先ず、殆ど軍人は居ないようだ。
格好が浮くだろうという理由で、俺達はスーツを拵えられた。
軍持ちだそうだが、これ以降あまり使う機会がなさそうなのが悲しいな。
「まあいいのではないかね、ザグラ。
カリハという少女のストーカーをするよりは、幾分もマシだと前に行っていたではないか。」
白髪の吸血鬼がそう言う。
ここじゃ、吸血鬼の家系など3つほどしかないが、その中の2つの家系がイタリアの軍人とは、何とも数奇なのものだと感じながら、彼とは同じ種族であると言うところで意気投合した。
「それはそうだが、にしても仕事の負担が大きすぎやしないかね。」
「確かに、国際色豊かで多くの人々が行き交うここを調査しろと言うとは、中々に大変だが…
まあ、これで我々魔力変質生物のことを異端狩りから守ってくれるのだ。
簡単であろう?」
異端狩りは、カトリック教会直属の魔力変質生物を狩る機関である。
狩人から狩られなくなったと思ったら、次はこんな世界中に信者のいる所から狙われるようになるとは、何と人気者なのかと思える。
「けっ、そりゃそうだが、なら俺達以外も保護してほしいもんだがね。」
「そんな世界があったらならば、我々は軍人などという職に腰を置いていないだろうな。」
「…確かにな。クソッタレの世の中だぜ、ホント。」
そんな話をしていると、ある所――ドイツの展示の部分に、人集りが出来ていた。
近づいて見てみれば、"国民ラジオ"という、どんな者でも安く、手軽に買えるラジオが展示されていた。
「…プロパガンダ、でしょうね。」
「そう思うか。俺もだ。」
ドイツには、宣伝省というものがある。
政党の支持、プロパガンダ、その他諸々…多くのことをやっている。
つまるところ、ナチ党の支持率の維持、向上のための歯車の一つ。
表立って活躍する者達の省、だろう。
無論、裏に立つ者は悪名高き親衛隊だが。
「…技術はあるが、それは使いようだな。」
「ええ。本当に。もしドイツが民主的で世界に技術を提供する最高の国家であれば…この様な、複雑怪奇な世界にはならなかったでしょう。
100年前のあの戦争すら、起こらなかったでしょうに。」
過去を振り返るように、彼は言う。
そういえば、コイツは…あの時、家族が巻き添えを食らっていたな。
魔力汚染に。
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1933年10月15日
イギリス 王都 ロンドン
昨日、ナチス・ドイツが国際連盟を脱退した。
これは、由々しき事態だ。
奴等は、100年前のヴェルサイユの軛から脱しようとしているらしい。
確かに、あれは縛りすぎた。
ドイツという国家そのものを縛り付け、貼り付けにし、抵抗する力すらも簒奪した。
我々は奪いすぎた。
彼等に残ったのは、壊れた大地と…
復讐心。
「…また戦争が起きると、そうお思いですか。」
「私にはそうにしか思えない、レグ陸軍中将。」
「考え過ぎでしょう、チャーチル閣下。
彼らは想像を絶するほどの総力戦を行い、全てを使い果たした後に負けたのです。」
「閣下はやめろ、中将。今の私は、ただの議員だ。
また海軍大将になれるのなら、それはドイツとの戦争の時だろう。」
チャーチルと呼ばれた男は、椅子に座って葉巻を吸っていた。
レグはその姿こそ彼が慕われる理由であり、かつてのガリポリで父親と共に戦った者の勇姿が垣間見えると感じた。
「にしても、ナチスをそこまで危険視しますか。
確かに、ミュンヘン一揆時、私はそこに居合わせました。
彼らの暴力的側面は度し難いものですが、同情できるところもあります。」
「君も、保守党の弱腰共と同じことを言うんだな。
ボールドウィンもチェンバレンも、同情的過ぎる。
奴等、まさかもう戦争など起きないと思ってるわけじゃないだろうな。
しかもヒトラーは、去年私が会談しようとした時、とんだシオニズム野郎だったがために、あちら側からお断りと来た。
危険視しないでどう見ると?」
「かつての戦争がどう呼ばれていたか覚えているでしょう?
"全ての戦争を終わらせるための戦争"、です。
彼らはその幻想に足を引っ掴まれて、抜け出せなくなっているのですよ。
それに、また戦争が起きた時、国民がどう思うか、我々は参戦するのか、それらを考えた時、戦争なんてしたくないなんてことを考える。
それがあちらからやってくるかもしれないのに。」
「はっ、的を射ているな中将。
その通りだ、奴等どこのどいつかに言葉巧みに騙されているんだろうな。
こんなことなら、あの時もっと破滅的な条件を言い渡しておけばよかったよ。」
「それでは復讐主義を煮立たせるだけでは?」
「それで空回りしてくれればいいんだ。」
「雪もあまり降らぬ大地です、彼らの滑る原因はあまりなさそうに思いますよ?」
「はっ、それもそうだな。私達が転ばせることが手っ取り早いか。」
葉巻の灰は、音を立てずに灰皿に落ちた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次の話もゆっくりお待ちいただけると幸いです!