作者の猫のこたつです。
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1934年2月6日
イタリア王国 ロンバルディア州
家の中は、昔と変わらなかった。
木造で、この高山に近く寒い気候であっても、この家の中は私の体を温めてくれる。
そんなことを考えている内に、奥に進むと、多くの料理の置かれた場所に着いた。
「さ、久々に腕を振るって作ったんでね。
美味くできたと思ってるから、味の感想がもらえると嬉しいな。」
魔具を部屋の隅に置いた後、席に着く。
懐かしい味を堪能しながら、時間は過ぎていった。
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1934年2月9日
イタリア王国 ロンバルディア州
「もう帰ってしまうとは、悲しいものだね。」
母はそう言いながら、私の後ろ姿を見守っていた。
少しの間だけだけれど、久しぶりに帰ってきた故郷と実家は、この気候の中でもずっと暖かった。
だから、まだ離れたくなかったけれど…
「狩人の仕事が入っちゃって。2級ってだけで、なんだかみんな信頼するらしくてさ。」
「オレの時からかなり変わったみたいだね。」
「まあね…でも、大丈夫だよ。」
ずっと前に渡された魔具を背負い、話す。
「私には、この魔具があるんだから。」
「はっ、そりゃ頼もしいな。オレのことだって守ってくれたもんだ。その言葉に嘘偽りはないだろうよ。」
そう言って、母は帰る私の背中を押した。
「行ってきな。あと、レミによろしく伝えといてくれ。」
「うん。もちろん。」
ある言葉を託された私は、王都への列車に乗る。
揺れもないその列車は、この国の安寧を体現しているようであった。
この平和が、いつまでも続きますように。
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1934年6月11日
フランス共和国 首都 パリ
「ワールドカップ、見ましたか?」
そんな話が来るとは思っておらず、驚いた。
彼は真面目で、研究熱心だと思っていた。
研究第一、趣味など持たぬような人間のように見えていたから、それは新鮮だった。
「ええ、見ましたよ。まあ、僕はあまりサッカーのルールには詳しくありませんし、どの国が強いのか、うちの国はどのくらい強いのか…なんて、ほとんど知らないもので。」
「おや、そうでしたか。私は、幼少期サッカーを少しやっていましてね。ドイツにいたものですから、彼ら代表のようになりたい…と、子供の時は帰ったあとに友人達と無邪気にやっていましたよ。」
そういえば、彼はドイツ人だったか。
今は少し危ない思想の政党が政権を握っているらしいが、何、その国生まれの者達が全員そうかと言われれば、絶対に違う。
だからこそ、僕は彼を信頼している。
「失礼なんですけど、あんまりそうには見えないです。」
「はは、いいんですよ。
別に、私は偏見を持たれたとしても、実力を見ていない、ただ悪いところだけを抜き取っているような人間だと一蹴するだけですから。」
本当に、彼は素晴らしい人だと、僕は思う。
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1934年6月30日
イタリア王国 王都 ローマ
なんだか、胸騒ぎがする。
これは、ただの直感のようなものだ。
だが、こういった直感は、大抵当たる。
それが、どんな物かまでは分からない、それでも…
何か、重大な事が、酷いことが――
「そんな顔をして、どうしたのですか?
学んでいる内容でわからない部分があるのなら、私が教えますが…」
目の前の男、ビガリはそう話しかけてくる。
良き友人、そう胸を張って言えるやつだ。
今もこうやって私のことを心配してくれているし、少し前に色々銃の扱いも教えてもらったし。
「…いや、大丈夫。あの時教えてもらった扱い方だって忘れてないし、最近の内容は私の肌に合うものでね、忘れることはあまりない…と思うよ。」
「全く、断言してほしいものですがね。」
そう言いながら、彼はノートを開く。
また軍大学で学んだことのまとめ直しだ。
全く、彼のその姿勢には頭が上がらない。
「…信じてくれるかわからないけれど、なんだか…胸騒ぎが、するんだよ。」
「直感のようなものですか。人間、本能や直感というのに頼ることもありますから。別に、それを否定することはしませんよ。」
そっか、確かに、そうだよね。
「まあ、考え過ぎも身体に悪いですからね。
ですので、そろそろ帰ったほうがよいかと。」
そう言われて外を見てみると、いつの間にか夕方の朱色の空が染まっていた。
「もうこんな時間?早かったなぁ…」
そんな事を呟きながら、席から立つ。
魔具を担いで、鞄を持つ。
「ビガリは帰らないの?」
「もう少しだけ調べ物を。知識の探求は楽しいものですから。」
「真面目だねぇ。それじゃ、また明日。」
「ええ。」
考え過ぎも、よくないから。
血のように赤く咲いた太陽から目を逸らし、暗く黒に染まった夜を見る。
ああ、なんだか。
人が、死ぬ気がする。
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1934年7月3日
イタリア王国 王都 ローマ
「…本当に?」
「ああ、勿論だ。全く、ベルリンの仕事を片付けようとしたら、こんな事が起きるとはな。」
私は、ザグラの報告を聞いた。
それは、想像を絶する内容だった。
ドイツにて、ヒトラー率いるナチ党が、ナチ党の私隊、突撃隊の粛清を行った。
おそらくだが、突撃隊は国防軍や親衛隊との軋轢があり、国防軍、親衛隊と違い庶民が多く、ナチ党とは対立する社会主義者が多くいたからだろう。
だからといって…はぁ、くそ…
「…あいつら、正気ではないと思ったけれど、もはや狂気だね。」
「分かりきってたことだろ?オカルティストのヒトラーが政権を取った時点で、国際社会は団結して非難したほうがよかったんだ。」
「結果論には変わらない、私達は判断を間違えたのさ。」
そう言いながら、彼のまとめた報告書を読んだ。
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1934年6月30日
ドイツ共和国 バイエルン州 オーバーヴィーゼンフェルト
真夜中。夜空には星1つ浮かばず、路地は暗い。
そこに、何人もの軍人のような者達が歩いていた。
その先頭に立つのは、ドイツ首相、アドルフ・ヒトラー。
数人を伴い、バイエルン内務省に入る。
そこに居た突撃隊の将校を、ヒトラー自ら逮捕していく。
もうすぐ朝になるであろう時間帯、突撃隊の者達が滞在している建物へヒトラー達は入る。
数人の親衛隊員を率い、突入する。
突撃隊幕僚長であったエルンスト・レームの部屋に押し入り、ヒトラーはびっくりして飛び起きたレームに対し、拳銃を突き付けて「裏切り者」と叫んだ。
レームは即座に否定したものの、ヒトラーは有無を言わせずレームを逮捕した。
次に、押し入った建物の中で、次の幕僚長に任命されていたヴィクトール・ルッツェを率い、ヒトラーは次の部屋へ、また次の部屋へも押し入っていった。
ある突撃隊将校をルッツェに任せて、ヒトラーはまた次の部屋へと入っていった。
突撃隊将校は、同僚であったルッツェに対して、
「ルッツェ、おれは何もしていない!助けてくれ!!」
と叫んだが、ルッツェはその言葉に対し、
「おれは何もしてやれない…。おれには何もできない…。」
と返した。
ミュンヘン郊外にて行われたこの逮捕に対し、抵抗した将校はいなかった。
これによって、ヒトラーはミュンヘンへと帰郷し、「褐色の家」へと入った。
この日に検挙された者達は、この日の間に銃殺された。
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1934年7月3日
イタリア王国 王都 ローマ
途中まで読んだ。そう、これは…まだ、途中なのだ。だとしても、ここまでの内容だとは。
小説でもここまでのものはないだろう。
事実は小説よりも奇なり、とは言うが…
「にしても、だよねぇ…」
「うちもある可能性はあるがな。」
「そうかねぇ、あっちよりかはそこまで暴力的ではないと思うんだけどね。」
そう言いながら、報告書を読み進める。
「…そういえば、これはレミには?」
「まだだな。席を外していて、すぐに見せられなかったんだわ。」
「ああ、そう…」
あいつが読んだら、また心労が多くなりそうだな。
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1934年6月30日
ドイツ共和国 首都 ベルリン
アドルフ・ヒトラーは、「褐色の家」にて作戦開始の合図を行った。
それにより、プロイセン州首相兼内相のヘルマン・ゲーリングによって、ベルリンの粛清を開始した。
ゲシュタポ監察官及び長官代理ハインリヒ・ヒムラー、ゲシュタポ局長ラインハルト・ハイドリヒらが中心となり、突撃隊幹部150人余りが検挙され、当日中に銃殺された。
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…クソッタレ。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これからも書いていきますのでゆっくりお待ちいただけると幸いです!