バーテミウス・クラウチJrと夜の庭の恋人   作:へびのあし

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*以下の点に注意してお読みください
・複雑な設定を持つオリジナルキャラクターと原作キャラとの交流があります。
・原作の裏ストーリーという形で書くため、基本的に原作への介入や改変をしないつもりです。
・独自設定や解釈が含まれます。
・登場人物や施設、出来事などは全て架空のものであり、一切事実とは関わりがありません。



1,乾いた草の香りの魔女

 

 

 

 吸魂鬼の闇が近づいてくる。

 指先に力が入らない。目の前がくらんで明滅する。体の中心から氷像に変えられてゆくような異常な寒さに心底震えあがると、闇のヴェールに包まれた魔物が歓喜するのが伝わってきた。

 よろめくように足が下がる。

 背後は壁だ。

 逃げ場のない石牢だ。

 

 父上の冷たい目が……母上の泣き顔が……死人たちの絶望の面貌が入れ替わり立ち代わり記憶をかき混ぜ自分の魂を呼んでいる。

 

――愛してる。

 

 ああ。なんと都合の良い幻か。

 あいつがこんな顔で……それを言うはずがないというのに。

 

 白銀の雪わたのよう。染みつくのは薬草の香り。リボンより大鍋の似合う女。

 父の強さと母の慈愛を完璧に兼ね備えた微笑みを浮かべ、一人の魔女がバーテミウス・クラウチJrへと手を振っていた。

 

 

 

 

 父上のローブからは埃と書類、そしてインクの匂いがする。母上のローブからは紅茶とラベンダーの香水の入り混じった淡い匂い。

 

 そして鷲寮のテーブルで初めて隣になったソイツのローブには、乾いた草の香りが染みついていた。

 

「入学前に、制服着て森で昼寝でもしたのか?」

「庭で寝たよ」

「ならばそれだな」

 

 よし、コイツなら扱いやすい手駒になりそうだ。入学早々学友に対して思ったことがそれなのは、バーティがむしろレイブンクローよりもスリザリンに適性があることを示しているように思えた。

 当然組み分け帽子は迷ったのだ。グリフィンドール……いやスリザリン……レイブンクローか……いやむしろハッフルパフ……ではなくやっぱりスリザ……むむむ! とまあこんな感じで。

 最終的には知恵を重んじる鷲寮へ放り込んだがまだ帽子は惜しがっていた。あの寮ならばこんな可能性が、その寮ならばあんな可能性が、うんたらかんたら。

 

 それにしても、とバーティは話し相手を見つめたまま首を傾げたものだ。

 

「おまえ小さいな?」

「よく言われるよ。私はミント・ナイトガーデン」

「バーテミウス・クラウチだ」

 

 握手のために差し出したバーティの手は、相手の手をすっぽりと包み込んだ。なんだこれ。ちっこすぎないか。自分の手が勝手にまるで赤子の手でも握るような力加減になってゾッとした。家にいた頃は家族か、父の職場で働く魔法使いか、いざとなれば人間より遥かに強い力を持つしもべ妖精ばかりと接してきたのだ。こんなにも壊しやすそうな生命体に触れたのは初めてだった。

 ソイツはバーティの視線を気にも留めずにフォークとナイフをサクサクと操った。

 

 バカではなさそうだった。そして余計な賢さを備えているわけでもないようだ、という点も重要だった。

 

「バーテミウス・クラウチ……なんか聞いたことあるな」

「ああ。同じ名前の父がいて、魔法省に務めている」

「へえ……えっ、同じ名前? 面倒くさ」

「必要なときはシニア、ジュニアと後に付ければ区別はつく。問題はない」

「あそっか」

 

 見ればミント・ナイトガーデンは傷んでちぢれた銀髪を手櫛で梳いて、無意識にさっき食べた糖蜜パイのくずをくっつけていた。動くなと命令し静止させて、清めの呪文でくずを消し去った。ミントはされるがままだった。状況がわかっているのかよくわからない表情で「うわ、ありがとう」と言った。

 

「今度からは自分でできるようにしろ」

「スコージファイ呪文って便利だけど最初は難易度高いって父さんが言ってたけど」

「コツを知っていれば意外と簡単だ。時間があるときに教えてやろうか」

「いいの?」

「問題ない」

 

 ミントはじっとバーティを見た。そして雪色のまつ毛を瞬くと言った。

 

「きみは優しいけど偉そうだね」

「一言余計だぞ」

 

 悪い気はしなかった。蝶よ花よと溺愛してくる母も、課題を習得するまで食事も与えず魔法で勉強机に縛り付ける父もここにはいない。

 

 別に、両親が嫌いというわけではないのだ。

 際限のない愛をくれる母は好きだ。

 凡愚に勝つための強さをくれる父は好きだ。

 

 しかしこのホグワーツには、あの家では一度として感じられなかった解放感があった。

 

 ここでは己が支配者になれる、とバーティは感じた。手始めはミント・ナイトガーデンである。愚かではないが賢くもないこの少女を、自分が高みへ連れていく。将来的に彼がそれなりの地位に着いたとき、使える人材が多いに越したことはないのだから。

 

 勉学に集中したい、と帽子に願ったことには様々な意味があった。

 蛇の寮ならば純血貴族と渡りをつけられる。しかしそれは既存の繋がりや権力に依存するのと同義である。

 鷲の寮には最も尖った人材が集まると聞いた。すなわち研究科気質の者である。政治家や権力者として成功を収めることは難しく、しかし上手く扱えば莫大な利益を産むことも可能な金の卵たちがそこにいる。

 

 バーティの夢は父の右腕になることである。

 父と全く同じことをしても意味がない。父にはできないことをして、父の役に立ちたかった。

 しかしその過程は父には全て秘密にする。どうせ父は忙しい。バーティを注視している暇などないだろう。それでいい。それがいい。明かしたときの歓喜が最も大きくなるのだから。

 

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