私、スパイダーマンになりました。   作:毛糸くん345

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新日ねいろ→しんび音色→シンビオート


この作品の新日ねいろはしっかり潔く私利私欲に能力を使えるタイプです。
一周回って誠実まであるかも。


デッドプールサムライに登場するので読んでみてねと言いたいんですが、多分活躍シーンが2ページあるか怪しい。いや、マジで


16 ヴェノムとねいろ①

 第16話

 

 また、うまくいかなかった。

 

 新日ねいろはテレビ局を出てからもずっとそのことを引きずっていた。

 

 今回のドラマのオーディションだけは、どうしても取りたかった。歌も踊りも笑顔も、誰にも負けない自信がある。それなのに、審査員から返ってきた言葉は『迫力不足』の一言。

 

 ねいろは最後まで満面の笑みを浮かべて『ありがとうございました!』と頭を下げた。けれど、扉が閉まった瞬間、その笑顔はすっと消える。

 

「お母さんのためにも……世界一のアイドルにならなきゃいけないのに……」

 

 もっと素早く動けたら。もっと身体を自由に使えたら。そんなことを考えながら、ねいろはさっきの審査員たちの顔をひとりずつ思い浮かべた。

 

 誰が何を言ったのか、どんな顔をしていたのか全部覚えておこう。

……………悔しさを忘れないために。

 

 

 直ぐに家に帰る気分にはなれなかった。

 送迎の車を呼ぶのも面倒で、ねいろはそのまま海沿いへ向かった。潮風に当たりながら歩いていれば、さっきのオーディションのことも少しは整理できるかもしれない。

 

 夜の海を横目にしばらく歩く。

 それでも、気分はなかなか晴れなかった。

 

「……ん?」

 

 道端に妙なものが広がっている。

 雨水でも、こぼれた油でもない。街灯の光をぬらりと反射する真っ黒な液体のようなものだった。

 

 しかも、それはゆっくりと蠢いている。

 

「……なにこれ?」

 

 ねいろがしゃがみ込んで覗き込むと、黒い塊がびくりと震えた。

 

「生きてるの?」

 

 ずるりと黒いものが動く。靴先から逃げるように離れたかと思えば、しばらくして今度は逆にねいろのほうへ這い寄ってきた。

 

 さすがに少し怖い。

 けれど逃げなかった。なぜかその黒い塊から強烈な空腹が伝わってくるような気がしたのだ。

 ねいろはしゃがみ込み黒い塊を指先でそっとつついた。

 

「ねぇ、あなたお腹空いてるの?」

 

 指先が触れた瞬間、黒い液体がびくりと震える。

 

『……ああ』

 

「……え?」

 

 はっきりと声が聞こえた。ねいろは目を丸くしたあと、驚くより先に笑った。

 

「すごーい、喋った。」

 

『腹が減っている』

 

「あなたはどこから来たの?」

 

『……知らない。気づいたらここにいた。このあたりは、見覚えのない匂いばかりだ』

 

「へえ、一緒だね。ねいろも今日は人生の迷子だったの」

 

 くすりと笑うと、黒いゲルが少しだけ形を崩した。意味が分からないといった様子で小さく揺れる。

 

『何か食うものはないか。何でもいい』

 

 鞄を探ると、仕事の合間に買っていたチョコレートが出てきた。

 

「これならあるよ。はい、どうぞ」

 

『……チョコレート?』

 

「うん。ねいろのおすすめ」

 

『大好物だ、寄越せ』

 

 声には遠慮の欠片もなかった。チョコを差し出した瞬間、黒いゲルが一気に伸びてくる。

 

「わっ」

 

 それは指先にまとわりつくと、そのまま腕を這い上がった。冷たい、と思ったときにはもう肩を覆い、胸を覆い、背中へ回り込んで身体全体を包み込んでいた。

 

「え、ちょっと……!」

 

『動くな。宿主が要る。このままじゃ、俺は朝までもたない』

 

 黒いゲルは広がりながら人間の形を作り始めやがて白い目が開いた。

 口が裂け、鋭い牙がずらりと並ぶ。

 

『チョコレートはやっぱりうまいな!!』

 ねいろは海に映る自分の姿を見た。そこにいたのは2m台の黒い人型で、けれどどう見ても人間ではない。

 

「……何これ」

 

『俺の名前はヴェノム。お前は……俺の物だ』

 

「ヴェノム……」

 

 身体を覆う黒い姿を眺める。普通なら悲鳴を上げてもおかしくない場面なのに、ねいろの口から出たのは別の言葉だった。

 

「……黒いね」

『当たり前だろう』

「じゃあ、クロちゃん」

『は?』

「黒いからクロちゃん。かわいいでしょ?」

『安直すぎる。俺には名前がある。さっき言っただろうが』

「だって、ヴェノムってなんだか怖いんだもん。クロちゃんのほうが呼びやすいよ」

『……………まあ、いい。チョコに免じて許してやる』

「ほんと? やった!」

『だが、次はもっと食わせろ』

「えっ、まだ食べるの?」

 

 腕から伸びた触手がカバンに残ったチョコへじりじりと寄っていく。

 

「……クロちゃん、食いしん坊だね」

『うるさい』

「じゃあ決まり。よろしくね、クロちゃん」

『勝手にしろ』

 

 それが、二人の始まりだった。

 

 

 それからしばらくのうちに、ねいろはクロちゃんと一緒にいることが当たり前になっていった。最初は身体の中に居座られることに戸惑ったものの、慣れてしまえば意外と便利だった。

 朝になれば頭の中で『起きろ、遅刻するぞ』と叩き起こされる。鏡の前で髪を巻いていれば『その角度だと右が崩れてる』と容赦なく指摘が飛んでくる。

 

 口は悪いくせに、言うことはいつも的確だった。

 

「クロちゃん、美容師さんより熱心だね」

 

『お前が自分の顔にうるさいから、俺も目が肥えただけだ』

 

「それって褒めてる?」

 

『さあな』

 

 そんなやり取りをしながら過ごすうち、身体の変化にも少しずつ慣れていった。

 走れば以前よりずっと速く、跳べば驚くほど高い。今までなら身体がついてこなかった動きも、まるで最初からできていたみたいにこなせる。

 

 その変化は、当然のように仕事にも表れた。

 ダンスのレッスンを難なくこなし、アクションの練習は一度で成功させてしまう。

 

「……すごい」

 

『当たり前だ。俺が入ってるんだからな』

 

「やっぱりクロちゃんのおかげ?」

 

『そういうことだ。……ただし、最後の着地は雑だった。次は直せよ』

 

「はーい。厳しいなあ、ねいろのマネージャーさんみたい」

 

『マネージャーなんかと一緒にするな。あいつはお前の身体を守れないが、俺は守れる』

 

「頼もしいや」

 

 

 今までできなかったことができるようになったおかげで仕事の幅は少しづつ広がり、アクションの仕事にも声がかかるようになって、そしてついには実写映画のヒロイン役まで決まった。

 そんな日々が嬉しくて、ねいろは仕事が終わるたびにクロちゃんとのお喋りを楽しんでいた。

 

「今日ね、監督に褒められたの」

『当然だ』

「クロちゃんも嬉しい?」

『どうでもいい』

 

 少し間があってから、クロちゃんが続ける。

『……そんなことよりも腹が減ったな』

「もう、じゃあチョコレート食べる?それとも豚肉?」

『それだけじゃ足りない。もっと腹にたまるものを寄こせ』

「どんなの?最近お仕事も順調だしお肉とか買ってこようか?A5ランクのやつ」

『それはあとで食う、神戸ビーフだ。だが、人間の脳みそはもっとうまいぞ』

「そんなのスーパーに売ってるわけないでしょ」

 

 ねいろは呆れたように笑って、それから少しだけ真面目な顔になる。

「それに、ファンのみんなは絶対に食べちゃだめ。約束ね」

『……ファンってのは、お前に金を払って、お前を見に来る連中のことか』

「そうだよ。みんな、ねいろの大事な人たち。傷ひとつ付けたら、クロちゃんでも許さないからね」

 

『じゃあ、ファンじゃない奴はいいんだな』

 

「うーん……」

 少し考えてから、ねいろはあっさり答えた。

「悪い人ならいいよ」

 

『お前、たまにいい顔でとんでもないこと言うな』

「そう? いつも通りだよ、ねいろはね」

 

 そう言ってチョコレートの包み紙を剥がした。

 

「はい、あーん」

 

 

 ある夜のことだった。

 撮影が長引いて、マネージャーの車を待たずに帰ることにしたねいろは、近道のつもりで駅裏の細い路地へ入った。街灯はところどころ切れかけていて、足元に自分の影がほとんど伸びていない。

 

『後ろだ』

 

「あんた新日ねいろだろ、ちょっと付き合えよ」

 

 ひとりは野球帽を目深にかぶり、ひとりは安っぽい金のネックレスを下げている。もうひとりは黙ったまま、路地の出口を塞いでいた。ねいろが何か言うより早く、野球帽の男が鞄をひったくる。続けて、金のネックレスの男が笑いながらスマートフォンを取り上げた。

 

「安心しろよ、殺しはしねえ。人気者の写真がいい金になるんだわ」

 

 アイドルをやっていれば、こういう面倒に巻き込まれることもある。

 ねいろは小首をかしげた。そして、ステージの上でいつも見せているのと同じ笑顔を浮かべる。

 

「ねえ、おじさんたち。ねいろのファンの人?」

 

「は?」

 

 男が小馬鹿にした声でこたえる。。

 

「誰がお前のファンだよ、顔だけが取り柄のカモが調子乗んなよ」

 

「そっかぁ……………………ファンじゃないんだ」

 その声はびっくりするほど明るかった。怖がっている様子など微塵もない。

 

「クロちゃん」

 

『ああ』

 

「この人たち、ファンじゃないって」

 

『だったら遠慮はいらないな』

 

 ねいろの内側から黒いものがぐちゅりと滲み出した。

 最初は袖口から垂れる影のようだったそれは、あっという間に肩まで這い上がり全身に広がっていく。

 

「な、なんだよ、これ……」

 男たちの笑いがそこで止まった。

 人形を取りながら、その身体は普通の人間よりはるかに大きく、やがて白い目が開き裂けた口から鋭い牙が覗いた。

 

『よう。いい夜だな』

 その声はさっきまでのソプラノボイスとは別物だった。低く、湿っていて、骨の奥まで響いてくる。

 

『俺たちはとても腹が減ってる。お前らの頭を引きちぎってから静かに食ってやろうか。それとも、手足が潰れる音と悲鳴を聞きながらゆっくり噛み砕いたほうがいいか』

 

『しかも、お前らは俺の相棒をカモ呼ばわりした』

 

「ひっ……」

 

 野球帽の男が後ずさった瞬間、黒い腕が蛇のように伸び、彼の足首を掴んだ。悲鳴が上がる。男の身体は軽々と持ち上げられ、手から鞄が落ちた。

 

『おい、ねいろの鞄を落とすな。汚れるだろうが』

 

「ありがとう、クロちゃん。それ、お気に入りなんだ」

 

 ねいろはマスクの下でにこにこと見守っている。

 ヴェノムは文句を言いながら、男の頭にゆっくりと舌を寄せた。

 

『お前の頭蓋骨は、思ったより歯応えがありそうだ。一気に砕くより、ひびを入れながら食ったほうが、いい音が鳴るかもしれねえ』

 

「や、やめ……っ」

 

『聞こえないなぁぁぁ』

 

 肉と骨の砕ける鈍い音が路地に響き、それきり男の声は聞こえなくなった。黒いゲルの内側で何かが静かに溶けていく。

 

 残りの二人は腰が抜けたように地面を這い、それでも必死に路地の出口を目指したが、出口はすでに黒いもので塞がれていた。壁も地面もいつの間にか黒いゲルに覆われていて、逃げ道という逃げ道を音もなく飲み込んでいる。出口を見張っていたはずの男はいまや自分が閉じ込められる側になって、黒い壁に背中を押しつけたまま震えていた。

 

「た、助けてくれ、金なら渡す、なんでもするから……!」

 

「ううん、いらないよ」

 

 マスクを半分解除したねいろはにっこり笑った。

 

「だって、ねいろのこと『カモ』って言ったでしょ? そういうの、ねいろはちゃんと覚えてるんだ。ね?クロちゃん」

 

『ああ。一言一句覚えてるぞ』

 

 金のネックレスの男の首に触手が巻きつき、ずるずると引きずり上げる。男は足をばたつかせて何か叫ぼうとしたけれど、喉を締められた声は空気の漏れる音にしかならなかった。

 

『お前は腹から先に食う。生きたまま内臓を引きずり出して噛み潰してやる。ああ、ちゃんと自分の腸の色を見てから死ねよ、生産者さんのチェックは大事だ、だろ?』

 

「あ!!生産者さんで忘れてた。……クロちゃん、いただきます、は?」

 

『…………いただきます』

 

 男の悲鳴が上がり、そして、すぐに途切れた。濡れたものを裂く音と骨を砕く鈍い音が狭い路地に重なって響き、男の影が少しずつ小さくなっていく。

 最後のひとりは、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、声にならない声で『やめてくれ』と繰り返していた。

 

『どうする?腹八分が健康の秘訣だからな、辞めてやってもいいんだが』

 

「あの人を逃がしたら、ねいろたちのこと誰かに言うかも。そしたらファンのみんなに迷惑かかっちゃうよね」

 

『……そう言うと思ったぜ』

 

 黒い腕が一瞬で伸び、男の背中を貫くようにして、その身体を宙へ持ち上げた。

 

「お、お願いだ、助け……」

 

「ばいばーい」

 

 男は何かを叫びかけたまま、闇の中へ吸い込まれていく。路地にはもう何も残っていなかった。

 しばらくして、黒いゲルが静かにほどけねいろの身体へ戻ってくる。

 

『……ふう、カルビ三人前。悪くなかった』

 

「お腹いっぱい?」

 

『まあな。少し脂っこいが』

 

「ふふっ。お疲れさま。残さず食べて、えらいえらい」

 

 変身を解いたねいろは落ちていた鞄を拾い上げ土埃を払った。

通りかかった店のガラスに映る自分の顔を覗き込む。髪も、メイクもほとんど崩れていない。

 

『……お前、怖くなかったのか。人が目の前で食われたんだぞ』

 

 頭の中でクロちゃんの声がした。

 

「なんで?クロちゃんがいるのに怖いことなんてないよ。それに私のファンじゃない人なんてどうでもいいし」

 

『……なあ』

 

「なあに?」

 

『お前、母親のこと考えてるだろ』

 

 ねいろの動きが止まった。

 

「どうしてわかるの?」

 

『俺はお前の身体にいるんだ。記憶くらいいくらでも覗ける。お前のことなら全部知ってる』

 

「……そっか」

母は自分とあまり似ておらず、周りから容姿を悪く言われることもあったけれど、それでもいつだってねいろを支えてくれた。誰に何を言われても『かわいいよ』と言ってくれたし、頑張ったときには必ず褒めてくれた。

 だから、ねいろは母親が大好きだった。その母はもうこの世にいないけど、くれた言葉は今も胸の中に残っている。

 

「……お母さんね、ねいろのこと、世界一かわいいって言ってくれたんだ」

 

『……そうか』

 

「お母さんをばかにした人たち、ねいろ、全員覚えてるんだ。今もね」

 

『……お前らしいな』

 

 いつものクロちゃんなら、もっと乱暴なことを言うと思っていた。けれど、その日は少し違った。

 

『……だがな』

 

「うん?」

 

『母親を理由にするのは、やめろ』

 

「……え?」

 

『お前ら人間は妙な生き物だ』

 

 

『死んだ奴のことをいつまでも考えて、そいつが喜ぶか悲しむかで、自分のすることまで決める』

 

 責めているわけではなかった。

 本当に分からないのだ。

 

『俺たちは、腹が減れば食う。欲しけりゃ奪う。気に入れば守る。気に入らなきゃ壊す』

『それだけだ』

『だから、お前も好きにしろ』

『笑いたきゃ笑え。歌いたきゃ歌え。殺したいなら殺せ』

『母親がどう思うかなんて、俺たちには関係ない。お前がやりたいなら、それでいい』

 

「……」

 

 ねいろは少し黙ってから、ガラスに映った自分を見た。

 

「……クロちゃんって本当に人間じゃないんだね」

 

『今さらか?』

 

「ふふっ」

 

 ねいろは小さく笑った。

 

「でも、ありがと」

 

『礼なんかいい』

 

 黒い顔がそっぽを向く。

 

「ねえ、クロちゃん。ずっと一緒にいてくれる?」

 

『……お前ほど適合率の高い人間なんて、そう滅多にいない』

 

「そうじゃなくて」

 

少しだけ間があった。

 

『……分かってる。ずっと、いてやるよ』

 

「うん」

 

 ねいろは嬉しそうに笑った。

 

「約束ね」

 

『……ああ』

 

 





まだ、悪党しか食ってないからギリセーフ…………かな?
いや、アウトかも。



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もし貰えたらエタる可能性が大幅に減少します。なんなら、この作品じゃなくてBNDの感想でも大丈夫オッケーなくらい感想欲しいです。
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