私、スパイダーマンになりました。   作:毛糸くん345

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 遥やねいろを初めとした、この世界の超人は基本的に異世界からの人や物が原因で力を得ますが、ニンジャとサムライは別です。元からいます、日本だからね常識でしょ。


18 ヴェノムとねいろ③

 

 第18話

 

 

「……ところでクロちゃん。スパイダーマンって、どこにいるんだろうね」

 

 殺すと決めたまではよかったが、肝心の居場所がまるでわからない。

 ねいろはスマートフォンで目撃情報を片っ端から検索してみたものの、出てくるのは「昨日ビルの上にいた」だの「コンビニで立ち読みしてた」だのと当てにならない話ばかりでどうしようもない。気づけば家庭用害虫の駆除ガイドを三分も真剣に読み込んでいた。

 

「……蜘蛛って、意外としぶといんだね」

『何の話だ?』

「ううん、なんでもない。参考にならなかった」

 

 ねいろは画面を閉じ、うーんと唸った。

 

『探すから見つからないんだ。いっそ、向こうから来させる』

「来させる?」

『あいつはヒーローだからな。街で騒ぎが起きりゃ、黙ってるはずがない』

「あっ、それいいね! 目立つところで暴れれば勝手に飛んできてくれるんだ!」

『派手にやって、蜘蛛野郎が飛んできたところを俺たちで迎え撃つ!』

 

「ねいろが気を引いてる間に、クロちゃんがガブッと!」

『で、俺が捕まえたところをお前がぶん殴る!』

「あはははっっ!完璧じゃない?」

『あぁ最高だ!』

 

 二人は声を揃えて笑った。けれど、頭の中で作戦を何度か再生していたねいろが、ふと首を傾げる。

 

「あ、…………でも、スパイダーマンって強いんだよね?」

『ああ……強い。だからこっちも強くなる。せっかく見つけても返り討ちじゃあ笑い話にもならない』

「クロちゃんと一緒に戦うのに、負けたら悔しいもんね」

『だったら特訓だ!俺たちの息が合えば、まだまだ強くなれる!!』

「よーし!じゃあ早速明日から特訓開始!」

『おう! 蜘蛛野郎をぶっ潰すまで、とことんやるぞ!』

 

***

 

 

 最初の練習相手になったのは、夜の繁華街の裏で幅を利かせていたチンピラたちだった。これまでのヴェノムは力任せで事足りたが、スパイダーマンが相手となればただ丸呑みにするだけでは芸がない。

 

『まずは腕を刃にして……クソッ、なんだこの形!』

「ギザギザでかわいいよ」

『ありがとよ!そうだな、切れればいいんだ!!』

 

「ひっ、な、なんだよそいつ……!」

 

 チンピラの一人が後ずさった。街灯の下にそびえるのは、三メートル近い黒い巨体。丸太のような腕には筋骨隆々の筋肉が盛り上がり、片腕は肘から先が鋸状の刃物へと変形していた。ぬらりと光る刃先を見た瞬間、男は自分の身体があれに切り裂かれる光景を想像し、息を呑んだ。

 

『おいおい、逃げるなよ。まだ始まったばっかだろ?』

「来るな!化け物が!」

 

 男が振り回した鉄パイプを黒い腕が受け止め、そのまま歪な刃が肩へ深々と突き刺さる。

 

「いぎゃあああああっっっあっっ!」

「おおっ、今のいいね!55点!」

『低いな!』

「だって刺さったあと、ちょっと引っかかってたもん。ギザギザのせいで」

『お前がかわいいって言ったんだろ!!』

 

 言い合いながらも、拳を男の顔面へ叩き込み意識を落とす。

 

『よぉし、いただきまーーす!』

「えーっ、もう食べちゃうの? もうちょっと遊ぼうよ!」

『お前なあ……』

 

 そんな調子で二人は「捕まえて食べるだけ」だった戦い方を少しずつ磨いていった。触手で足を払って転ばせ、起き上がろうとしたところへ拳を落とし、逃げる相手には腕を伸ばして引き戻したうえで足を切って動きを止める。毎晩の点数も「60点」「65点」「72点」と少しずつ上がっていった。ちなみに、刃の形は何度作り直しても相変わらずギザギザだった。

 

「うわあああっ、なんだこいつ!腕が伸びたぞ!」

「逃げろ! 逃げろって!」

 

 逃げ出した男の背に触手が音もなく這い寄る。足首に巻きついた瞬間、身体が宙へ引き上げられた。

 

「うぎゃあああっ! 離せ! 離してくれぇっ!」

「!クロちゃん、もっと高く上げてみて!」

『こうか?』

 

「ぎゃあああっっ、下ろせ!降ろしてくれ、頼むっっ!!!」

「ははっ、面白い!もっと揺らしてみて!」

 

 そのうち、近場のチンピラや闇バイトだけでは物足りなくなり、二人はとうとうヤクザにまで手を伸ばし始めた。

「ひっ!て、てめぇ俺たちが、どっ、どこの組のもんかわかってんのか!!!!?こんなことして、他の組の連中がタダで…………、あがいぎっゃあっうああ」

『ほぉ、お前が死んだら他のヤクザがくるのか。それはいいなぁ……ビュッフェは大好きだ』

 

 悲鳴を上げる男をよそに、ヴェノムは愉快そうに口を裂いた。

 

『じゃあ首だけ食べて、お前の胴体はここに置いてけぼりだ。お仲間が見つけてくれるようにな……………………ゴミ汁まみれで♪ゴーロゴロ♪』 

 

「……30点。歌、舐めてるの?」

 その声は、これまでヴェノムが一度も聞いたことのないほど低かった。ステージの上で客席に向ける甘い声とも、路地で悪党を前に笑っていたときの弾むような声とも違い、喉の奥の底から地を這うように絞り出されたそれは、中身がまったく別のものに入れ替わったのではないかと思わせるほど、冷え切っていた。

 

『…………お、おう。さ、30は……さすがに低くないか……?』

 

男の首を掴んでいた黒い手が緩んだ。三メートルの怪物が、である。

 

「どこが。ゴーロゴロのところ、完全に音を外してたよ。そもそも♪を付ければ歌になると思ってるのが甘いの」

『お前の地獄のようなライブを毎回聞かされてるのにか……!』

「聞いてるだけで歌えるなら、みんなアイドルになれるもん」

 

 首根っこを黒い手に掴まれたままの男は、目の前で繰り広げられる採点会に、恐怖よりも先に理解を放棄した顔で固まっていた。自分が今から食われるという事実と、その直前に行われている歌唱指導とが、どうしても頭の中で結びつかないらしい。

 

『……よし、もう一回やる。見てろ』

「うん、じゃあ最初からね。お客さんも、ちゃんと聞いててください!」

 

 ねいろがマスクを解除してお願いをした後に、黒い巨体が咳払いのように喉を鳴らして歌いだす。

 

『……ゴミ汁まみれで♪ ゴーーロゴロ♪』

「…………45点!さっきよりリズムは良くなったよ。」

『!そうか、そうだな!じゃあ……いただきまーーす!』

 

 ばくん、と大きな口が閉じる音に、男の悲鳴が途中で断ち切られた。

 おかげで界隈の治安は目に見えて良くなったものの、住民たちは何が起きているのか分からないまま、「黒い何かがいるらしい」という、尾ひれが付く隙すらないほど不気味な噂を、声をひそめて囁き合うばかりだった

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 チンピラに闇バイト、ヤクザと、手当たり次第に相手をしてきた二人だったが、ここ最近はめっきり獲物が減っていた。おかげで夜の街は以前よりずっと安全になったものの、練習相手を探しているねいろたちにとってはそれが少々物足りず、特訓は『ニンジャの時みたいな歯ごたえが欲しいね』という愚痴大会に変わりつつあった。

 

 そんなある夜、コンビニ帰りの二人は、人気のない湾岸道路を走る一台の大型トラックとすれ違った。

 

『……おい、今のトラック』

 

「え、なに?アレ?流石にお菓子メーカーの運転手さんは食べちゃダメだよ」

『違う!そっちじゃない。火薬と、あとクスリのにおいだ。それも、そこらに転がってる安物じゃない。上物のにおいがした』

「ふぅん……じゃあ、追いかけよっか」

 

 追いついた先は、深夜の埠頭だった。コンテナの影から様子をうかがうと、止まった大型トラックの荷台から木箱が次々と降ろされており、周囲に立つ十数人の男たちは、一人残らずその手に銃を提げている。

 

 やがて、運び出された木箱が開かれる。中には拳銃やライフルがぎっしり詰まっていて、他の箱には流線型のドローンがいくつも並べて収められていた。

 

「……わあ、朝のニュースで見たやつみたい」

 

 ねいろの目が、ステージの照明を浴びたときのように輝く。機体には高性能なカメラとセンサーが埋め込まれ、軍事用としか思えない装備まで見て取れた。社名のロゴこそないが最近ニュースで名前を聞くようになった企業の製品に、どこか似ている気もする。わずか数年で急成長し、世界最先端の軍用ドローンメーカーと呼ばれるようになった国内企業だ。ロシアとウクライナの戦争特需で潤っているという報道がある一方で、兵器輸出のあり方については批判の声も絶えない。

 

 けれど、目の前の取引がその企業と関係しているのかどうかはねいろたちにとってどうでもよかった。彼女の関心はただ一点だけに向いている。

 

「クロちゃん、見て! 銃もドローンも、人もいっぱいいる!」

『武装して、夜中の港でコソコソ取引か。どう考えても悪党だ……それも極悪のな!』

「だよね!最近は悪い人が減っちゃって困ってたもん。こんなに一度に集まってくれるなんて、すっごくラッキー!」

『ハハッ、まったくだ! 久々に食いでがありそうだ』

 

 ねいろは嬉しそうに笑いながら、巨大な倉庫に入る男たちを端から順に数えていった。銃を持った相手がこれだけ揃っているなら今夜は退屈せずに済みそうだ。

 

「ねえ、ファンの人は……さすがにいないよね?」

『いるわけないだろ。こんな連中がお前のライブに来てたら、俺がその場でチケットごと食ってやる』

「じゃあ全員食べちゃおっか」

 

 黒い粘液がねいろの身体を包み込み、腕や肩がみるみる膨れ上がっていく。闇の中に巨影が立ち上がり、白い目が獲物を捉えた。

 

『よし……狩りの時間だ!』

「いっくよーっ!」

 

―ドスンッッ!!

 

 巨体がコンテナの陰から跳び出し、見張りに立っていた男の目の前に着地した。男が「えっ」と声を漏らして銃を構えるより早く、黒い腕がその首根っこを掴んで持ち上げる。

 

 

 

『まずは一人目』

 

 ばくん、と黒い口が閉じる。ほんの一瞬の出来事だったが、埠頭に散らばっていた男たちが異変に気づくには十分だった。

 

「ば、化け物だ……!また化け物が出たぞぉっ!」

「撃て! 撃て撃て撃てぇっ!」

「来るな!このっっ!!!来るなぁあああっ!!」

 

 絶叫と銃声が重なり合って埠頭に響き渡り、十数人分の弾丸が一斉に黒い巨体へ降り注ぐ。ところが粘液の表面はぐにゃりと波打つだけで、弾は一つ残らず飲み込まれ、ぽとぽとと足元へ吐き出されていった。それを見た男たちの悲鳴はさらに裏返り、それでも引き金を引く指だけは、半ば無意識のまま止まらない。

 

『豆鉄砲だな……くすぐったいだけだ!』

 

 弾を浴びながら、黒い巨体は楽しげに首を巡らせた。コンテナの陰、トラックの荷台、クレーンの足元と、どこを向いても怯えた顔が並んでいて、誰もまだ傷一つ負っていない。食べ放題のビュッフェに足を踏み入れた客のように、二人は思う存分に迷っていた。

 

『ハハッ、いいぞ! この調子で、たまには噛みごたえのある奴が……』

 

 

 黒い巨体が、手近な男に向かって大きく一歩を踏み出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そのとき…………

 

 

 

 

 

 

 足が、止まった。

 

 

 

 

 

 

『……あ?』

 

 

 

 銃声と風の音と、遠くで波がコンクリートを叩く音だけが聞こえる中で、その静けさの底から、何か別の音がかすかに混ざり始める。最初は虫の羽音に似た高く細い音だったそれが、次第に低く太くなり、空気を震わせ、足元の地面にまで伝わってきた。

 

「……なに、この音」

『ジェットだ。しかも…………随分近いな』

 

 ねいろは粘液の内側で、クロちゃんの意識がこれまでになく鋭く張り詰めるのを感じた。いつもの余裕も軽口も、そこにはなかった。

 

 

 

『ヤベェッ!!』

 

 

 叫びと同時に、黒い巨体が横へ跳ぶ。直後、さっきまで立っていた場所を何かが猛烈な風圧とともに通り過ぎ、地面を削って火花を撒き散らした。

 

 焦げた匂いと砂煙の向こうで、影は倉庫の外壁に沿って急旋回し、壁を背にしてぴたりと宙で止まった。背中には巨大な機械の翼が広がり、金属の羽根が幾重にも重なって、関節のような部品がぎちぎちと不気味な音を立てて軋んでいる。付け根から噴き出す推進炎が、埠頭の闇を赤く焼いていた。

 

 

 影はゆっくりと高度を下げ、二人の正面の中空で静止する。

 

「な、なに!?コイツ!!空飛んでるよ?」

『分からねぇ!この姿、ハゲワシか? だが……すんすん……メスの匂いだ』

 

 

「聞こえてんぞ、バケモノ」

 

 

 翼の持ち主が吐き捨てた。声からすると、まだ若い女らしい。彼女は黒い怪物を警戒するように睨みつけていたが、やがて視線を荷物のほうへ移し、機械の翼が低く唸って金属の羽根が蠢く。

 

「クソ親父……ドローンだけじゃなくて生体兵器にまで手出してんのかよ」

 

 その言葉に、ねいろは目をぱちくりさせた。

 

「生体兵器?」

『知るか。だが、俺たちを見て言ってるな』

 

 

 

 背中の翼が大きく広がる。

 

 

『来るぞ!』

 

 

 ヴェノムの声が響いたときには、機械の翼が風を裂いてかすめ肩口に一筋の深い傷を刻んでいた。

 

「速いっ!!」

『ぼさっとすんな! 合わせろ、ねいろ!』

「うん!」

 

 ヴェノムは触手を翼へと走らせた。しかし少女は空中で身体をひねって触手をかわし、そのまま旋回して、今度は背後から突っ込んでくる。武器と化した腕を掲げて金属の翼を受け止めた瞬間、衝撃が足元まで突き抜け、地面が蜘蛛の巣状に砕け散る。

 

『こいつ、なかなかやるなぁ!』

「ほんとだね!なら、特訓の成果、見せてあげよう!」

 

 相手が誰で何に怒っているのかなど、戦いが始まってしまえば大した問題ではない。目の前にいるのは自分たちを攻撃してくる敵で、ならば倒して食べる。ただそれだけのことだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 その頃、港の外では別の動きが静かに始まっていた。

 

 軍用ドローンの輸出をめぐる不審な情報を追っていた警察は、以前からこの港に目を光らせていた。輸出記録には不自然な数字の並びがあり、関係者の証言も微妙に食い違っている。表向きは合法的な取引を装いながら、その裏では何かが動いているに違いない。そう踏んだ捜査員たちは今夜こそ取引の現場を押さえようと、突入班を配置して合図を待っていた。

 

 

「桜。手が震えてるぞ」

「す、すみません、班長。初めての突入なもので……」

「謝るな。怖いなら怖いと言え。それが一番長生きする」

 

 班長の捨石は二十年この仕事を続けてきた男だった。部隊で一番の新人の肩を軽く叩いてやりながら、自分の掌にもうっすらと汗が滲んでいるのを、黙って装備の上に押しつけて隠した。

 

 

 

 

 そのときだった。港の奥から轟音が響いてきたのは。

 

 

 

「……なんだ、今の音は?」

 

 

 捜査員の一人が顔を上げた直後、金属同士が激突するような音が続き、地面を揺らすほどの衝撃が足元まで伝わってきた。無線からも困惑した声が飛び交うが、事前の情報にこんな事態は一行もない。それでも、ここで突入を中止すれば、取引の証拠を押さえる機会は二度と巡ってこないかもしれなかった。

 

 

 

「予定どおり突入する。全員、警戒を怠るな!」

 

 

 

 合図とともに港へ踏み込み、目標地点まで突入班はなだれ込んだ。

 

 

 

 そして…………、

 

 

 現場に足を踏み入れた瞬間、捜査員たちの足がぴたりと止まった。

 

 

 なぜなら、そこには――

 

 天井近くを飛び回る巨大な機械の翼をもつ女。床を駆け、壁を這い、飛び跳ねる巨人。

 女は空中で身を翻して攻撃をかわし、機械の羽根を叩きつける。怪物はそれを片腕で受け止め、今度は触手を束ねて女の脚へと伸ばした。建物が悲鳴を上げ、コンクリートが砕け、事前に目星をつけていた売人達は床に転がって、無数のドローンが弾き飛ばされて床を滑っていく。

 

 

 ――そんな、あまりに現実離れした光景に、捜査員たちは誰ひとりとして動けなかったからだ。

 

 

 

 

 スパイダーマンの存在なら、彼らもとうに知っている。

 東京中を跳び回り、人助けをしている正体不明の超人。それは、写真や映像、報道や目撃証言、通報を通じて、警察内部でもはや無視できない現実になっていた。そもそもスパイダーマンといえば、コミックの中のキャラクターのはずだ。それが現実に壁を這い、常人離れした身体能力で街を駆け回っている。

 それだけで十分すぎるほど突拍子もない話だが、百歩、いや一万歩譲れば、まだ理解できないこともなかった。

 世の中にはスパイダーマンのコスプレをする人間などいくらでもいて、身体能力に優れた誰かが本物そっくりの動きを披露する動画も珍しくはない。

 

 あまりにも凄すぎるとはいえ、その延長線上にいる存在なのだと思えば、どうにか自分を納得させられた。

 

 

 

 けれど、目の前の光景は、その延長線のどこにも載っていなかった。

 

 

 

 人の形をしているのに、明らかに人ではない黒い怪物。身体から伸びる触手は生き物のように蠢き、裂けた口からは獣じみた声で、けれど人間の言葉が飛び出している。一方、機械の翼を持つ女もまた、重力を無視して飛び回り、巨大な怪物と互角に渡り合っていた。しかも、黒い怪物の声に応じているのはヘルメットらしき被り物の為にくぐもっているものの、明らかに少女の声なのだ。

 

 

 

 何が起きているのか。誰が敵で、誰が味方なのか。そもそも、目の前にいるものを人間として扱っていいのか。現場を押さえれば事件の全容が見える、と信じて踏み込んだ先にあったのは、彼らが想定したどんな犯罪とも噛み合わない景色だった。

 

 

 

 

「……あの、これ、ドッキリじゃないですよね……?」

 

 

 

 

 後ろに控えていた若い隊員が、震える声で呟いた。誰も答えなかった。先頭の捜査員は装備を握りしめたまま立ち尽くし、後続の隊員たちも、状況を把握しようと周囲を見回す者と、理解することそのものを諦めたように固まる者とに分かれている。

 

 

 

「は…………ははっ」

 

 

 

 誰かが、乾いた笑いを漏らした。

 

 

 

「いつから日本はMARVEL世界になったんだよ…………」

 

 

 

 

 冗談でも口にしなければ、正気を保てそうになかった。目の前では、こちらの存在など意にも介さず、怪物と翼の女が殺し合いにも等しい戦闘を続けている。銃を構えるべきか、応援を呼ぶべきか、それとも今すぐ逃げるべきか。判断すべきことは山ほどあるのに、誰も最初の一歩を踏み出せなかった。

 

 

 

 

 

 そして、そんな硬直という怠慢を犯した彼らを咎めるかのようなタイミングで2つの化け物同士が弾かれ、互いに距離を取った。

 

 

 やがて、黒い怪物がふと動きを止めると、鋭く白い目が突入班のほうを向く。

 

 

 

『ハッ! なんだ、次の獲物か?

 

 

 

 まとめて…………食い殺してやるよ!!!』

 

 

 

 捜査員たちの表情が凍りつく。冗談ではない。あれは本気で人間を食うつもりなのだ。

 

 

 

 一方、翼の少女は、警察の登場になど眼中にないかのように、倉庫の床を見下ろしていた。散らばった軍用ドローンの一つひとつは、父と母が築き上げた技術の結晶であり、今では戦場へ送り込まれる兵器になっている。それなのに、父は、一体何を思ってこれを作り続けているのだろう。そんな苦悩を振り払うように、彼女は翼を大きく広げた。金属の羽根が砕けた屋根から零れる月明かりを鋭く弾く。

 

 

「親父の会社も、ドローンも、邪魔する奴も…………

 

 

 ぜんぶぶっ壊してやるッ!!」

 

 

 

 その二者を前に、警察の彼らはようやく理解し始めていた。自分たちの現実が壊れているということを。そして、なんとしてもこの場から生還し、この事実を組織に伝えなくてはならない。

 誰が合図したわけでもなく、今度こそ隊員たちの足が、じり、と後ろへ下がった。銃口は怪物へ向けたまま、視線だけは一瞬たりとも逸らさずに、出口までの距離を、ただ黙々と数え始める。

 

 

 

 スパイダーマン一人でさえ、これまでの常識をひっくり返す存在だった。だが、あれは始まりにすぎなかったのだ。

 

 

 

 今夜、彼らは初めて知ることになる。

 

 この世界には怪物がいるのだと。

 

 

 




徐々にネームドキャラが増えてきた、翼の女の子は誰かわからないけどオクトパスガール読んでくれてたら嬉しいです。


そういえば、最近角川とマーベルのコラボコミックが配信されたみたいですね!!
自分はまだ読んでないんですけど、凄い楽しみ。

みんなもぜひ読んで応援しようね!!!


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もし貰えたらエタる可能性が大幅に減少します。なんなら、この作品じゃなくてBNDの感想でも大丈夫オッケーなくらい感想欲しいです。

お願いだから感想クレー――感想100件行くの見たいんじゃーー
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