この作品の主人公の遥ちゃんは、元ネタである『デッドプール:SAMURAI』の遥ちゃんと違い両親とも存命でしっかり愛されて育ってるので、現状なんの覚悟も責任も持ってませんでした。
加えて、皆さんご存じピーターパーカーな優秀な頭脳を持って、治安のいい日本で悠々と生きてきたのでこれまでの人生はイージーモードで苦労したこともありませんし、金銭的な不自由も未経験です。
なんなら、授業中は基本寝てますし割としょちゅうサボります。
また、蜘蛛に嚙まれる前から身体能力は高いですし、喧嘩もかなり強いです。中学時代にアメフト好きの少年をボコボコにしてます。両親が夜遊びをギリギリ見逃した理由の一つです。
主人公が割と生き当たりばったりで動くのは、その才能でなんとかなって来たからという点も大きいです。
以上、言い訳終了
7話
――カシャッ。
シャッター音がした。
「……え?」
振り返る。
いつの間にか大勢の人間が私の周りに集まっていて、全員がこちらを見ていた。
そして、その手にはスマートフォン。
何十台ものカメラが、一斉に私へ向けられている。
「スパイダーマンだ!」
「本物だぞ!」
「動画撮った!?」
「顔見せろ!」
「学校どこだよ!」
「名前は?」
「家族は――」
「……っ」
私は一歩後ずさった。
「ち、違……」
何が違うのか、自分でも分からない。
全部、本当のことだった。
「待て!」
誰かがこちらへ駆け寄ってくる。
怖い。
来ないで。
見ないで。
そう思った瞬間、手が勝手に動いた。
シュッ!糸が飛ぶ。
「しまった……!」
身体が宙へ持ち上がった。
下から無数のスマートフォンがフワフワと宙を飛んで私を追いかけてくる。
「撮った!」
「今の見た!?」
「完全にスパイダーマンじゃん!」
「どこに行った!?」
私は必死に糸を飛ばした。
ビルの間を飛び、屋上へ着地する。でも、そこにも大勢の人が待ち構えていた。
「遥!」
聞き慣れた声。
「……え?」
そこには母さんが立っていた。
「遥!」
群衆に流されながらも母さんが私を呼んでいる。
動かなきゃ、助けなきゃ。
そう思っているのに、足が動かない。
「この子は何もしてません!」
母さんが誰かに向かって叫ぶ。
「知りません!」「離れてください!」「違います!」
母さんは私を守ろうとしている。
なのに、私は動けない。
「遥!」
「……っ」
母さんと目が合った。
「遥、こっちに――」
「――っ!」
目を開けた。
「遥!」
「……っ!」
身体を跳ね起こす。
心臓が、壊れそうなほど激しく鳴っていた。
「はぁ……っ、はぁ……」
明るい。
さっきまで人で埋め尽くされていた場所が、見慣れた自分の部屋になっている。
カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。
「遥、大丈夫?」
「……母さん?」
「うん。ここにいるわよ」
どうやら、悪夢うなされている私を母さんが起こしてくれたらしい。
そのことに気づいた途端、全身から力が抜けた。
けれど、身体の震えは止まらなかった。
「……怖い夢でも見たの?」
「……うん」
母さんがベッドの横に座り、私の背中をゆっくり撫でる。
「大丈夫。もう大丈夫だから」
「……うん」
私はそう答えたものの、昨日の光景が頭から離れなかった。
(今見たのはきっと夢じゃない。私が間違えた先の未来なんだ)
「……遥」
母さんが少し心配そうに顔を覗き込んだ。
「何かあったの?」
「……」
私は答えられなかった。
スパイダーマンのことを話すわけにはいかない。
というより、話そうにも自分でも何から説明したらいいのか分からない。
しばらく黙っていると、母さんが少し躊躇ってから尋ねた。
「誰かに何かされた?」
「……え?」
「知らない人に連れていかれたとか。乱暴されたとか、殴られたり、怪我をさせられたり……そういうことじゃない?」
「違う!」
私は慌てて首を振った。
「全然違うよ…………そういうのじゃないよ。誰かに何かされたわけじゃない。むしろ私が…………」
「本当に?」
「うん」
「そう……」
母さんはそこでようやく少し安心したように息を吐いた。
「それならよかった」
そして、何気なく続ける。
「夜中に一人で出歩いてたんだから、何かあっても不思議じゃないもの」
「…………え?」
私は顔を上げた。
「夜中に……、……私が?」
「遥が」
「……」
嫌な予感がした。
「待って。私が夜中に出てたこと……知ってたの?」
「知ってたわよ」
「いつから?」
「最初の方から。もう一ヶ月くらいになるでしょう?」
「…………」
え?
私は絶句した。
毎晩家族が寝静まるのを待って、音を立てないように窓を開けていた。外に出るときも、帰ってくるときも細心の注意を払っていた。自分では、完全に秘密を守れているつもりだった。
それが――最初からバレていた。
私はどれだけ浮かれていたんだ。
私は両手で顔を覆った。
「なんで何も言わなかったの……」
母さんは少し考えるように黙ってから、困ったように笑った。
「だって、遥があんなに楽しそうだったから」
「夜になると分かりやすいのよ。夕飯のときから時計を気にしてるし、いつもより早くお風呂に入ろうとするし。部屋に戻るときなんて、隠してるつもりなんでしょうけど顔が嬉しそうで」
私はますます気まずくなった。
「帰ってきたときも同じ。髪は乱れてるし、息も少し弾んでる。それなのに何でもない顔をして朝起きたふりをしてるし。一週間くらい?たった時なんて、あなた部屋で一人で大笑いしてたわよ」
多分、初めてスイングに成功した日のことだ
「……そんなところまで知ってたの?」
「母親ですから」
当然のように言われて、私は何も言い返せなかった。
母さんは少し笑ったあと、ふと昔を思い出したように目を細めた。
「遥って小さい頃から、何をやらせても覚えるのが早かったじゃない」
母さんはベッド脇の椅子に座り直した。
「幼稚園の頃、自転車の練習をしたでしょう?」
「……うん」
「補助輪を外した初日なんて、最初は怖がってたのに5分もしないうちに乗れるようになっちゃったのよ」
「そんな早かったっけ?」
「早かったわよ。それで次の日には、近所のお兄ちゃんたちが遊んでるところに混ざって、一番速く走ってた」
「……」
「そのくせ、一週間もしないうちに『もう自転車つまんない』って言い出したでしょう」
「……言ったような気がする」
母さんが笑う。
「小学校に入ってからも似たようなものだったわ。九九もすぐ覚えちゃったし、縄跳びも、逆上がりも。学校から帰ってきて『今日はこんなことできるようになったよ!』って嬉しそうに話すのに、次の日にはもう『もうできるから別のことしたい』って」
私は少しだけ気まずくなった。
「ピアノだってそうだったじゃない。最初は毎日楽しそうに弾いてたのに、両手で弾けるようになった頃には、練習しながら欠伸してたらしいじゃない」
「ごめんなさい……」
「先生にも言われたのよ。『遥ちゃん、覚えるのが早いですね』って」
母さんは懐かしそうに笑った。
「でも、そのあとに『ただ、もう少し難しい曲を渡さないと退屈してしまうかもしれません』って」
「……先生、よく分かってたんだ」
「母さんも同じことを思ってたわよ」
そこで母さんの笑顔が少しだけ曇った。
「何かを始めるたびに最初は夢中になる。でも、すぐできるようになって興味がなくなる。
中学校でも、授業中ぼんやりしてる事あったでしょう?居眠りが多いですって担任の先生によく注意されてたじゃない」
「……あったね」
「だから母さん、遥が何でもできることを喜びながらも、少し心配だったの」
私は黙って母さんの話を聞いていた。
「できることが増えるのはいい。でも、できるようになるのが早すぎると、楽しい時間まで短くなっちゃうでしょう?だから、母さんはずっと、遥は何かに夢中になれるものが見つかるといいなって思ってたの」
そんなことを考えていたなんて知らなかった。
私はただ、できるものはできるのだから仕方ないと思っていた。
「だからね」
母さんが私を見る。
「そんな遥が、ここ最近すごく楽しそうにしてたでしょう?それが、嬉しかったの。
だから、何をしてるのかは分からなかったけど……まあ、しばらくはいいかって」
「夜遊びなのに?」
「そこはもちろん駄目よ」
母さんは苦笑した。
「でも、ずっと退屈そうだった娘が、久しぶりに自分から夢中になれるものを見つけたのかもしれないと思ったら、すぐに取り上げるのも違う気がしたの」
「……」
「だから、危ないことだけはしないでねって心の中ではずっと思ってた。いつか自分から話してくれたら、そのときはちゃんと聞こうって勉さんとも相談して」。
退屈そうな自分の様子が親を不安をさせていたなんて思いもしなかった
「……ちなみに」
私は少しだけ嫌な予感を覚えながら気になっていたことを尋ねた。
「私が何してると思ってたの?」
母さんは一瞬だけ黙って、そして、少し照れくさそうに笑った。
「最初は友達と遊んでるのかなって思って。でも、毎晩でしょう?」
「うん……」
「それで、そのうち……彼氏でもできたのかなって」
「…………」
「夜中にこっそり会いに行ってるのかな、なんて」
「ち、違うから!」
思わず布団を投げて叫んでしまった。
母さんが吹き出す。
「そんなに慌てなくても、光君ではないのよね?」
「本当にいないからね!?後、光もそういうのじゃないから!」
「分かった分かった」
「いや、本当に!」
「はいはい」
笑いながら宥められて、私はようやく口を閉じた。
危なかった。
スパイダーマンの正体がバレるより先に、母親から夜遊びして彼氏に会いに行っていた娘だと思われるところだった。……まあ、夜中に出歩いていたこと自体は事実なのだけれど。
少しして、母さんが私の頭を優しく撫でた。
「でもね、遥」
「……うん」
「何でもできるからって、何でも一人で抱えなくていいのよ」
私は黙って母さんを見る。
「怖いなら怖いって言っていい。逃げたっていいし、休んだっていい。何でも一番にならなくてもいいの」
「……辞めても?」
「もちろん」
母さんは当たり前のことを言うように答えた。
「遥、今まで失敗したことがないでしょう?」
「……」
「頑張ればできる。練習すればできる。寝てても一番になれる。そういう経験ばかりだったから、もしかしたら知らないのかもしれないけど」
母さんの手が、私の髪をゆっくり撫でる。
「世の中には、頑張ってもできないこともあるし、怖くてどうしても立ち向かえないこともあるのよ」
「……」
「そういうときは、逃げていいの」
私は黙って母さんの顔を見つめた。
「自分を守るために離れることも、ちゃんとした選択なの。」
そんな考え方をしたことがなかった。
私にとって今までの「できない」は、少し練習すればできるようになる途中の状態だった。
それでずっと何とかなってきた。
だから、離れるなんて考えたこともない。
「……私、逃げたら駄目だと思ってた」
ぽつりと漏らすと、母さんは首を横に振った。
「どうして?」
「だって……逃げたら、負けたみたいじゃん」
「誰に?」
「……分かんない」
母さんは少し笑った。
「じゃあ、そんな相手のために頑張らなくていいじゃない」
「……」
「遥は、いつも一番だったからね。たぶん、できない自分を見るのが怖いんじゃないかしら」
胸の奥を、静かに突かれた気がした。
母さんの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「だから今日は休みなさい」
「……学校?」
「学校も」
そして、少し間を置いてから。
「それから、今夜も」
「……え?」
「夜中に出かけるのも、今日はお休み」
私は何も言わなかった。
その言葉を聞いて、胸の奥にほんの少しだけ安堵が広がった。
夜になればまた出なければいけない、そう思っていた。
力を手に入れたからには、何かをしなければならない。
誰かを助けなければならない。
昨日まで、なんの理由もなく勝手に思い込んでいた。
でも――休んでもいい。
逃げてもいい。その言葉を初めて誰かに許してもらった気がした。
「……うん」
私は小さく頷いた。
「今日は……休む」
「うん。それでいいのよ」
母さんは笑って、もう一度私の頭を撫でた。
「朝ご飯、食べられそう?」
「……ちょっとなら」
「じゃあ、少しだけ食べようか」
「うん」
「あと、顔も洗ってね。泣いた顔のままだと、せっかくの美人が台無しよ」
母さんが立ち上がり、部屋のドアへ向かう。
その背中を見ながら、私もベッドからゆっくり降りた。
まだ怖い。
昨日の動画を思い出せば、胸の奥はざわつく。
これから何が起こるのかも分からない。
それでも、逃げていい、休んでいい。
そう思うと心が少し軽くなった。
「スパイダーマンなんて……私のやることじゃないよ」
今は休もう、そう決めた。
はい、スパイダーマン引退。
この小説はここで終わりです、今までお付き合いいただきありがとうございました。
ってなればいいんですけどね。いや、マジで。
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もし貰えたらエタる可能性が大幅に減少します。なんなら、この作品じゃなくてBNDの感想でも大丈夫オッケーなくらい感想欲しいです。