転生という概念はよく漫画やアニメなどの創作物で目にすることがあるが、実際に体験するというのはかなり変な気分だった。
元々の世界、所謂前世で息を引き取り、そこから次の世界の肉体へ転生する。この時に生まれたての赤ん坊に自身の意識が宿るのか、それともそこそこ成長した人間に転生するのかは知らなかったが、俺は後者だった。
前世の記憶を引き継ぎながら、推定10代ぐらいの男児にぱっと転生した。
そしてここがチェンソーマンの世界だということも分かった。
転生したときは外にいたのでそこから街並みが見渡す事ができた。ぱっと見た感じでは一般的な日本の街並みだったが、この段階ではどの世界に転生したのかが分からない。だが生活していく内に魔人や悪魔が街に出現したというニュースやソ連という単語を頻繁に聞くことが裏付けとなった。
チェンソーマンの時代設定は原作だと大体1990年代後半の日本。
現実の世界では勿論魔人や悪魔なんてものはただの空想の産物であり、1991年にソ連はとっくに崩壊している。
何故ソ連が存続しているのかは分からないがまあ書記長がゴルバチョフじゃなかったかペレストロイカが上手く行った具合に捉えておこう。
兎に角、聞いた話では自分の家族は既に銃の悪魔に殺されており、街並みを眺めていた所は孤児院の庭だったようだ。
別に家族の事についてはちっとも覚えてないし、復讐への渇望すら全く湧いてこない。まあ、所詮人とはそんな物なのかもな。中には家族を殺されて銃の悪魔に復讐を誓う人間もいる。実際原作での早川アキがそうだったし。
ふと孤児院なら寄付が集まっているからある程度本もあるんじゃあないかと少し中を彷徨ってみた。
するとあるではないか。そしているではないか。
本棚の隣で一人の少女が床に座り読書をしている。その肩にはモフモフとした白い毛の猫が陣取っている。
少女は顔こそは整っているが、どこか無愛想というか、人付き合いが苦手そうな感じだ。
「やあ、何読んでるんだ?」
「…罪と罰」
「最近の子はそんな物も読むのか」
「読まないよ、私以外」
確かにこの歳で古典読む奴はこの子か英才教育受けた人々ぐらいか。
「そうか、確かに」
「名前は?」
「ん、俺か。
「…三鷹アサ」
「その肩に載ってる猫は?」
「…クラムボン」
「かぷかぷ浮かんで笑っているのかい」
冗談を言うとアサの顔が少し明るくなった。多分元ネタが理解されて嬉しいのだろう。
「宮沢賢治はよく読むのかい」
「…いや、だけど小学校で習って覚えてたのを名付けたの」
「そうか、久しぶりに聞いたな。所でこの猫撫でてもいい?あと吸ってもいい?」
「撫でるのはいいけど…吸う…って?」
「吸うんだよ、文字通り」
隣に胡座をかいて、クラムボンをワシャワシャと撫でる。
やっべ久々に猫触った可愛いすぎだろ
次に鼻を毛にくっつけて吸う。
スゥ~
最高。
やっぱり全人類ははメンタルケアに猫を愛撫すべきだ。
「あはは、なにそれ」
「吸ってるんだよ、猫wゴホッゴホッ」
派手にむせた
「やっべ気管nゴホッゴホッ」
「そんなことやってるんだからむせるんでしょ」
「だけど猫によるメンタルケアは最高だぞ。癒やされるし」
そんな会話をしていると、目の前に誰か人が立っていた。
「アサちゃん、今いい?」
「…なんですか寮長さん」
「ごめんね、ハナミチ君。ちょっと横に避けてくれる?」
「あはい」
寮長が俺のいた所に座った。
「アサちゃんのその猫引き取ってもらいたい思うんだけれど。アサちゃんも猫だけに依存するだけじゃなくて他の皆とも交流したほうが良いかなって」
「…イヤです」
「ここに来る皆は親を悪魔に殺されてる。私も…この間台風の悪魔にお母さん殺されちゃった…」
「…」
「皆がここで遊んで暮らせるのは家族でいるからだと思うんだ。私の知り合いの家で猫を飼ってる所があるんだけど、そこに行かせたほうがその子も幸せになれるんじゃないかって」
「…こいつクラムボン…幸せにしてやってください」
寮長が作り笑いの様な笑顔でアサから猫を受け取る。
俺の前世ははっきり言ってクソだった。ずっと周りから言われる正しいことばっかに従って、結局自分のやりたいことだとかは何にもできなかった。人生の目標さえも分からないまま死んでしまった。
「…」
目標。
この世界でも、まだはっきりと目標だとか夢だとかは掴めていない。本当になにをやりたいのかも分からない。
だけど、最初にこれだけは決めることができた。
俺はあのクソ野郎をぶっ殺す。
◆◇◆◇
人気の無い林の中、クラムボンという名前の猫を片手に握りながら奥へ奥へと進んでいく。
そして少しひらけた所に出てきた。
周りは木や竹に囲まれており、目撃者は誰も居ないだろう。
「ごめんね、でもアサちゃんにまだ家族がいるのが間違ってるから…」
そう呟き、クラムボンを左手で押さえ、右手で包丁を振り上げる。
皆淋しいのに、アサちゃんだけ
悪いのはアサちゃんなんだ
ザク
振り上げた瞬間、背中に耐え難い激痛が走った。
「いやっ!」
包丁を落とし、尻もちをついてしまった。
「あれれ、猫を殺す気なのに殺される気は無いのかな。おかしいね〜」
「誰、誰!?」
「テメェ、アサの猫、殺そうとしただろ」
背中から生温かい血が流れ出てくるのを感じる。
後ろを振り返ると斧を両手に握ったハナミチが…
いや…違う…
斧は両手から出てきていた
悪魔だ
「いやっ、悪魔!あっちいけ、あっちいけェェェ!」
「随分とヒステリックな人だこと。命を奪おうっていう自覚は無かったのかい」
「あの子…あの子が悪いのよ!」
「へぇ、アサが悪いのかって?」
「そ、そうよ…!あの子だけ家族がいるから…」
「じゃ、家族を持ってるだけで悪いなら、あんたのその家族を殺そうっていうのはもっともっっっと悪い罪だね!」
そうハナミチは言うと、満面の笑みで斧になった両手を上げて私の脳天に振り下ろした。
◆◇◆◇
「ねえねえ、アサ。何持ってきたと思う?」
もう日も暮れる頃、一人のハナミチとかいった少年がもったいぶった口調で話しかけてきた。
「何って、お菓子とか?」
「たらーん」
「え、クラムボン?引き取られたんじゃなかったの?」
「いや、寮長さんの知り合いが引き取ることが難しくなったってことでアサに返してもおいてって言われた」
「じゃあまた一緒にいれるね、クラムボン」
クラムボンはニャアと鳴いてアサの手に頬ずりをした。
その日は孤児院にあった焼却炉がずっと燃えていて、鉄臭い臭いがしていたがハナミチによるとメンテナンスの為に動かされているらしい。
老人五人か若者一人どちらを助けるかってなると勿論猫でしょ。