鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~   作:あかさたなつき

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第一話 鬼姫と勇者姫、邂逅す

最初に聞こえたのは、風の音だった。木々の葉が擦れ合う、さらさらとした音。遠くでは鳥が鳴いている。

 

さらに耳を澄ませば、山のどこかを流れる川の音まで聞こえてきた。

 

東京都西部――奥多摩。

 

深い山々と森林に囲まれたその土地の、さらに人里から離れた場所。そこに一軒の古びた日本家屋が建っていた。

 

瓦屋根 年季の入った木の柱 畳敷きの部屋 障子越しに差し込む柔らかな朝の光

 

その部屋の中央で、一人の女性がゆっくりと目を開いた。

 

「……ん?」

 

長い白髪 頭には二本の角 手元には金棒

 

ワノ国で生まれ育った、百獣のカイドウの子――ヤマトだった。

 

ヤマトは畳に手をつき、身体を起こす。

 

「ここは……」

 

視線を巡らせる。見知らぬ家。見知らぬ天井。そして、見知らぬ空気。だが――。

 

「……ワノ国じゃ…ない?」

 

ヤマトはここがワノ国ではないとなんとなく勘づいた。それどころか自分が生まれ育った世界ですらないのでは…空気そのものが違う。そんな感覚があった。

 

しかし————

 

「……なんか、落ち着くな」

 

 

ヤマトは障子の向こうへ目をやる。

 

木造家屋 畳 山 杉林。どこか和の雰囲気を色濃く残した景色。

 

「ワノ国に似てるな」

 

周囲の景色が故郷を思わせるせいか、ヤマトは不思議な安心感を覚えていた。

 

そのころ。

 

ヤマトのすぐ背後。

 

わずか1メートル程度しか離れていない場所で、少女が目を覚ましていた。

 

「……」

 

 金色の髪 青い瞳 白を基調とした衣装 腰には剣。

 

グランゼドーラ王国の王女にして、勇者――アンルシア。彼女もまた、ゆっくりと周囲を見渡す。

 

畳 障子 木の柱 山林

 

アンルシアは心の中で考えた。

 

(ここは……エルトナ大陸のどこか……?)

 

純和風の文化を持つエルフたちの大陸。建物の雰囲気だけなら、確かによく似ている。

 

しかし。

 

(いえ……違う)

 

アンルシアは静かに目を細めた。

 

(アストルティアとは別世界って感じがしてならないわ……)

 

空気。大地。目に映る景色。どれも似ているようで違う。

 

(もしかして……異世界に転移してきたのかしら……)

 

 

アンルシアは特に慌てていなかった。驚きはある。しかし混乱するほどではない。

 

彼女はこれまであまりにも常識外れな出来事を経験しすぎていた。なにしろつい最近、一度死を経験したほどだ…

 

まして、自分の盟友にいたっては、二回死を経験しているうえ異世界へ渡るような経験を何度もしている。

 

(まあ……そういうこともあるわよね)

 

恐ろしく順応が早かった。そして、ヤマトとアンルシア。二人はまだ気づいていなかった。

 

自分たちが――完全に背中合わせで座っていることに。

 

ヤマトは右を見る。アンルシアは左を見る。ヤマトは天井を見る。アンルシアは障子を見る。

 

そして――ほぼ同時に 背後から人の気配。

 

「……!」

 

「……!」

 

二人が振り返る。同時だった。

 

ガバッ!

 

ヤマトが立ち上がる。アンルシアも素早く立つ。二人は数歩離れ 相対した。

 

「…………」

 

「…………」

 

しばし沈黙。ヤマトは目の前の少女を見る。

 

金髪 剣 見慣れない衣装 ワノ国の人間ではない。

 

一方

 

アンルシアもヤマトを見る。

 

白髪 角 金棒。

 

明らかに普通の人間ではない。しかし 敵意は感じない。

 

 

ヤマトが先に口を開いた。

 

「君は、この世界の住人かい?」

 

「!」

 

アンルシアは一瞬だけ目を見開いた。そしてすぐに答える。

 

「いえ、こことは異なる世界の住人よ」

 

ヤマトの眉がわずかに上がる。

 

アンルシア「感覚でなんとなく理解できるの……ここが異世界だって」

 

ヤマト「……!」

 

アンルシア「突然、意識を失ったと思ったら、気が付いたらここにいたのよ」

 

アンルシアはヤマトを見る。

 

アンルシア「その口ぶりからすると、あなたも異世界からやってきたみたいね!」

 

ヤマト「……なんとなくあの世界ではない予感がしてたけど、的中していたとは……異世界に転移だなんて……こんなの、エースやルフィだって経験してないぞ……」

 

そこでヤマトはアンルシアをまじまじと見る。

 

ヤマト「それにしても、君は冷静なんだな」

 

アンルシア「まあね」

 

アンルシアは少し笑う。

 

アンルシア「私の盟友が、何度も似たような経験をしてるうえに私自身も別世界に行ったことがあるから……」

 

ヤマト「…………すごい経験してるんだな……」

 

素直な感想だった。

 

ヤマト「僕なんか、自国を出たこともないのに」

 

アンルシア「あら、そうなの?」

 

ヤマト「うん・・・・ずっとワノ国にいた」

 

アンルシアはそれ以上は聞かなかった。何か事情がありそうだということだけは感じ取った。

 

そして、再び周囲を見回す。

 

アンルシア「だけど……ナドラガンド 魔界 ゼニアス…そのいずれとも違って、今回は根本的に異なる世界って感じがするわ……」

 

ヤマト「根本的?・・・・どういうことだい?」

 

アンルシア「うまく説明できないんだけど……今まで行った場所は、どれだけ遠く離れていても、どこかアストルティアと繋がっている感覚があったの・・・でも、ここは違う。何もかもが完全に別物というか……世界の仕組みそのものが違うような感じがするのよ」

 

ヤマト「なるほど……」

 

ヤマトは腕を組む。そして再び部屋を見渡した。

 

「…………ん?」

 

その時ヤマトの表情が変わる。

 

アンルシア「どうしたの?」

 

ヤマト「…………」

 

ヤマトは自分の手を見る。次に腕 脚。そして 部屋の柱と自分の身体を見比べる。

 

ヤマト「…………あれ? 僕の体……小さくなってる!?」

 

アンルシア「え?」

 

アンルシアはヤマトを上から下まで見る。

 

アンルシア「そうなの?あなた、180cmくらいあるのに・・・」

 

ヤマト「……180……?それ、小さいだろ?」

 

アンルシア「……女性としてはかなり大きいわよ」

 

ヤマト「そうなの?。僕の世界だと、もっと大きい人いっぱいいるぞ。僕の父なんか7mあるんだぞ!」

 

アンルシア「それ、巨人じゃない・・・」

 

ヤマト「僕の父は普通の人間の中ではかなり大きい部類だけど、それでも巨人の括りには入ってないんだ。身の丈12m以上からが巨人だからね・・・まあ、3m以上ならざらにいるよ」

 

アンルシア「・・・・あなた、巨人の世界の住人だったのね・・・・」

 

ヤマト「ちなみに僕、元の世界だと確か263㎝あったよ」

 

アンルシア「………オーガより大きいじゃない……」

 

ヤマト「オーガ?」

 

アンルシア「私がいた世界の一種族よ!身の丈2mを超えててたくましい身体をした戦闘種族なの。」

 

ヤマト「へえ・・・」

 

アンルシア「あなた……体格といい角といい、人間とオーガの中間っぽいわね」

 

ヤマト「オーガか・・・興味あるな・・・・でも、不思議だな。小さくなってるのに、そんなに違和感がない」

 

アンルシア「この世界に合わせて身体が変化したのかもしれないわね」

 

ヤマト「そんなことあるのか?」

 

アンルシア「異世界転移してる時点で、何が起きてもおかしくないでしょう?」

 

ヤマト「……確かに!」

 

そして また短い沈黙。

 

「…………」

 

「…………」

 

ヤマトがアンルシアを見る。アンルシアもヤマトを見る。

 

「……!?」

 

「そういえば……」

 

二人は今になって、お互い“あること”に気付いた様子だ。

 

「君さ……」

 

「あなた……」

 

また声が重なる。

 

「…………」

 

「…………」

 

二人の目が大きくなる。ヤマトが指を差した。

 

 

「声!」

 

 

アンルシアも驚いた。

 

「やっぱり!?」

 

「君の声、僕にそっくりだ!」

 

「そっくりなんてものじゃないわ、まったく同じよ!」

 

これまでで二人が一番驚いた瞬間だった。

 

異世界転移でもない。見知らぬ世界でもない。身体が縮んだことでもない。

 

目の前にいる。まったく見た目の違う女性の声が――自分と同じ声であることに

 

「…………」

 

ヤマトはまじまじとアンルシアを見る。アンルシアも同じだった。

 

ヤマト「ちょっと何か喋ってみて!」

 

アンルシア「何かって何よ」

 

ヤマト「何でもいい!」

 

アンルシア「じゃあ……私はアンルシアよ。それじゃあ今度はあなたの番よ」

 

ヤマト「僕はヤマト!」

 

アンルシア「やっぱり同じ声ね!」

 

ヤマト「すごいな!姿も生まれた世界も全然違うのに、声だけ同じだなんて……」

 

アンルシア「ええ」

 

つい先ほどまで二人は完全な他人だった。別々の世界から何の前触れもなく同じ異世界へ放り込まれた二人。

 

しかし 自分と同じ声を持っている。ただそれだけのことが――不思議なほど距離を縮めた。

 

 

ヤマト「なんかさ・・・・君とは仲良くなれそうな気がする!」

 

アンルシア「私も、そんな気がするわ」

 

古びた古民家 誰もいない山奥 本来ならば決して出会うことのない二人がこうして――初めて言葉を交わした。

 

勇者姫アンルシア。

そして 

鬼姫ヤマト。

 

異なる世界からやってきた二人の物語は

 

ここ、現代日本の奥多摩から始まったのであった。

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