鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~   作:あかさたなつき

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第10話 ヤマトとアンルシア、奥多摩湖に向かう

 観光案内所。

 

 ヤマトとアンルシアは、なおも『Lonely Planet Tokyo』のページを食い入るように眺めていた。

 

 新宿 渋谷 池袋 東京駅 六本木 浅草。

 

 空を突くように建ち並ぶ高層ビル群。

 

 二人ともページをめくる手が止まらない。

 

「アンルシア!」

 

「何?」

 

「これ見てくれ!」

 

 ヤマトが写真を指差す。

 

「渋谷……スクランブル交差点?」

 

「この道、人間がものすごい数いるぞ!戦でも始まるのかな!?」

 

「みんな普通に歩いてるだけみたいよ」

 

「これで!?」

 

 ヤマトは目を丸くする。

 

「すごいな……!」

 

 一方、アンルシアも別のページを開いていた。

 

「こっちは巨大な駅……品川駅って言うの……“大地の箱舟”がいっぱい……線路も何本あるのよ……」

 

 二人の興奮は収まらない。

 

「行きたい!」

 

 ヤマトが突然言った。

 

「東京の中心に!」

 

「ええ」

 

 アンルシアも素直に頷く。

 

「私も興味があるわ」

 

「じゃあ今から――」

 

「でも」

 

「?」

 

 アンルシアが『Lonely Planet Tokyo』を閉じた。

 

「まずはこのあたりを満喫してみない?」

 

「奥多摩を?」

 

「ええ」

 

 アンルシアは先ほど集めた観光パンフレットへ視線を向ける。

 

「この東京という場所の中心部は、逃げたりするわけじゃないでしょう?」

 

「まあ、そうだな」

 

「それなら今は、この場所をもっと見てみたいわ!私、この奥多摩ってところもかなり気に入ってきたの」

 

 アンルシアは微笑んだ。

 

「うん!僕も奥多摩好きだぞ。ワノ国みたいで落ち着くし……だから、僕も賛成!」

 

「じゃあ決まりね!」

 

「それで、どこへ行く?」

 

 アンルシアは壁際の大きなポスターに目を配る。

 

 それに映るは、山々に囲まれた大きな湖。

 

「ここ」

 

「…………!」

 

 ヤマトが覗き込む。

 

「ここの地名は……奥多摩湖!」

 

 ここでアンルシアは周りの奥多摩観光パンフレットに目を配る。

 

「よく見ると、いくつものパンフレットの表紙にその奥多摩湖の写真が載ってるわ!きっと、奥多摩で一番有名なスポットなんでしょうね!」

 

「そりゃいいや!今すぐ行こう!」

 

 即答だった。

 

「決まり!」

 

 二人はパンフレットを何冊か手に取り、観光案内所を出る。

 

         ◇

 

「さて」

 

 駅前。

 

 アンルシアはすぐ近くにいた観光客に尋ねる

 

「すみません。ここから奥多摩湖までどれほどの距離があるんでしょうか?」

 

 観光客はスマホ片手に質問に答える。

 

「おお、コスプレの人……いいですよ!今調べてみます」

 

「ありがとう」

 

 ほどなくして

 

「奥多摩駅から奥多摩湖まで8.6km。バスで20分ほどですね」

 

「バスって……なんだいそれは?」

 

 ヤマトは首をかしげながら質問する。

 

 その時

 

 ブオオオオ――。

 

 「おっ!ちょうどバスが来た!」

 

「「!」」

 

 ヤマトとアンルシアの耳が同時に反応した。

 

 

「え?」

 

「あれがバス!?」

 

 一台の大型車両が、奥多摩駅前へ入ってきてはバス停へゆっくり停車する。

 

 路線バスだ。

 

 プシュー。

 

 扉が開いた。

 

「おおお……!」

 

 ヤマトの目が輝く。

 

「でかい!」

 

「さっき見た“ドルボードらしきもの”よりかなり大きいわね」

 

「人がいっぱい乗ってる!」

 

 観光客たちが次々に乗り込んでいく。

 

 バス停の案内表示を見る。

 

「奥多摩湖……」

 

 アンルシアが読む。

 

「ヤマト。このバスっていう乗り物、奥多摩湖の方向へ行くみたい」

 

「本当!?なら、乗ろう!」

 

「ええ!あなたさっき、言ってたものね!こういうのに乗ってみたいって……」

 

 高台から自動車を見つけた時、ヤマトは確かに言っていた。

 

 ————僕も乗ってみたいな。と————

 

 

「ああ!こんなに早く乗ることになるなんて思ってなかったよ!」

 

「よし!」

 

 二人は列の最後尾へ並ぶ。もちろん、また視線が集まった。

 

「あ、さっきのコスプレの二人だ」

 

「金髪の子、どこの国の人だろう」

 

「角の背高い人、日本人と西洋人のハーフかな?」

 

 小声で話しているのが聞こえてくる。

 

 ヤマトはすでに慣れた様子で手を振った。

 

「こんにちは!」

 

「こんにちは!」

 

 なぜか観光客も返してくれる。

 

「ヤマト、もう普通に馴染んでるわね」

 

「みんな親切だし!」

 

 順番が来る。

 

 二人は前の乗客を真似しながらバスへ乗り込んだ。

 

「おお……」

 

 ヤマトが車内を見回す。

 

 座席。

 

 吊り革。

 

 窓。

 

 運転席。

 

「中はこんなふうになってるのか!」

 

「人を運ぶことに特化した乗り物みたいね」

 

 二人は隣同士の席へ座った。ヤマトが窓側。アンルシアが通路側。

 

「…………」

 

 ヤマトは落ち着かない。

 

 窓の外を見る 前を見る 座席を見る また窓を見る。

 

「そんなに嬉しいの?」

 

「初めてだから!」

 

「ふふっ」

 

 アンルシアが笑う。

 

 やがて。

 

 プシュー。

 

 扉が閉じる。

 

 ブロロロロ――。

 

 車体がゆっくり動き出す。

 

「…………!」

 

 ヤマトの身体がわずかに後ろへ引かれる。

 

「動いた!」

 

「ええ」

 

「馬がいないのに!」

 

「それはもう分かってるでしょう」

 

「でも実際に乗るとすごいぞ!」

 

 バスが速度を上げる。

 

「おおおお!」

 

 ヤマトは窓へ顔を近づけた。

 

「速い! 景色が動いてる!」

 

「景色が動いてるんじゃなくて、私たちが動いてるのよ」

 

「分かってるよ。冗談さ!」

 

「そう(笑)」

 

 アンルシアは苦笑する。

 

 一方、彼女自身もかなり興味深そうに車内を観察していた。

 

「…………」

 

 多くの座席 決まった経路 複数の人間を一度に運ぶ 途中で乗り降りできる。

 

「なるほど……この“バス”っていう乗り物。“大地の箱舟”の一種なのかもしれないわ」

 

「それって確か、ここに来る前に見た、あのでっかくて長い鉄の塊だよね?」

 

「そうよ、正確には小型版ね」

 

 アンルシアは分析を続ける。

 

「これは線路こそないけれど……道路の上を走って、何人もの人間を目的地へ運んでいる。だから役割としてはかなり似てるわ」

 

「じゃあ」

 

 ヤマトは少し考える。

 

「小さい大地の箱舟?」

 

「そんな感じね」

 

「バス……か。便利だな!」

 

 ヤマトは妙に気に入ったらしい。

 

「あなた、この世界に来てから便利って何回言ったのかしら」

 

「だって本当に便利なんだからしょうがないだろ?」

 

         ◇

 

 バスは奥多摩の山間を進んでいく。

 

 窓の外には深い森林 岩肌 渓谷 清流 山あいに点在する民家。

 

「綺麗だなあ……」

 

 ヤマトが呟く。

 

 先ほどまでの興奮とは違う。

 

 今度は静かだった。

 

「うん」

 

 アンルシアも窓を見る。

 

「本当にいいところね」

 

「ワノ国にもこういう場所がいっぱいあった」

 

「エルトナにも似た景色があるわ」

 

 そんな会話をしていると、向かい側に座っていた年配の男性が笑った。

 

「お二人、奥多摩は初めて?」

 

「初めて!」

 

「ええ。今日初めて来たの」

 

「へえ。どこから?」

 

「ワノ国!」

 

「グランゼドーラ王国よ」

 

「…………」

 

 男性が少し止まる。

 

 そしてヤマトとアンルシアは全く同時に言い放つ

 

「「そういう設定!」」

 

 男性は笑い出した。

 

「なるほど、そういう設定ですか!凄いなあ……息ぴったりだし何より……二人とも声がそっくりだ!」

 

「ははは(笑)また指摘された!」

 

「もうだいぶ、言われ慣れてきたわ(笑)」

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