鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~ 作:あかさたなつき
それからしばらく
二人は麦山の浮橋を渡り 湖畔を散策し 何度も足を止めて景色を眺めた。
「写真撮れるもの欲しいな」
「またスマートフォン?」
「うん!」
「あなた、どんどん欲しくなってるわね」
「だって今日だけでも撮りたいものがいっぱいあったぞ!」
「確かにね」
景色 乗り物
そして、一緒に旅をしている相手。
ヤマトの言う通りだった。
見知らぬ世界で出会ったものを形として残す。
二人はすでに写真という文化そのものにも魅了され始めていた。
◇
やがて 奥多摩湖を充分に堪能した二人。
「楽しかった!」
ヤマトが大きく伸びをする。
「ええ!」
アンルシアも満足そうに頷いた。
「先に奥多摩を見て回ることにして正解だったわね」
「うん!」
「でも……」
「?」
アンルシアが鞄から奥多摩観光ガイドを取り出す。
「まだ時間はあるし、次に行けそうな場所を探しましょう」
「おお!」
二人は近くの休憩スペースへ腰を下ろす。
アンルシアがページをめくる。
奥多摩湖。
日原鍾乳洞。
温泉。
登山。
渓谷。
「どこがいいかな?」
「泳げる場所!」
「まだ諦めてなかったのね」
「もちろん!」
アンルシアは苦笑しながらページをめくる。
すると――。
「…………あ」
その手が止まった。
「ヤマト!」
「何か見つけた!?」
「見て!」
アンルシアがページを差し出す。
「この綺麗な川!」
「…………!」
ヤマトが覗き込む。
そこには
巨大な岩 緑に覆われた渓谷 その間を流れる、透き通った川。
そして————
浅瀬には、水へ入って遊んでいる子供たちの姿。
アンルシアが笑う。
「ここなら泳げそうよ! ほら、川に入って遊んでる子供達が載ってるじゃない!」
「おおお!」
ヤマトの目が一気に輝いた。
「ワノ国にもこういう川あるぞ!」
立ち上がる。
「行こう、今すぐ!」
「ちょっと待って。場所を確認するから」
アンルシアは地図を見る。
「ここの地名は……」
指で文字を追う。
「鳩ノ巣渓谷……ね。そして場所は……」
地図を確認する。
「奥多摩駅より東。今いる場所から見ると反対方向ね」
「じゃあ戻るの?」
「ええ。まず奥多摩駅へ戻るのが分かりやすそう」
アンルシアはバス路線の案内を見る。
「奥多摩駅からきっとバスが出てるはずよ!」
「それじゃあ、またバスに乗って奥多摩駅に戻ろう!」
「ええ!」
そして――
◇
再び奥多摩駅。
「戻ってきた!」
ヤマトが言う。
「なんだか、もう見慣れてきたわね」
「僕も!」
ついさっきまで右も左も分からない未知の場所だった。
それが今では
食事をした店も知っている。観光案内所も知っている。バスの乗り方も少し分かる。
すでに二人にとって奥多摩駅周辺は、ちょっとした拠点のようになり始めていた。
「鳩ノ巣渓谷方面のバスは……」
アンルシアが案内を確認する。
「あった!」
「よし!」
ほどなくして。
目的地方面へ向かうバスが到着した。
「またバス!」
「今度はさっきほど驚かないわよね?」
「もちろん!」
二人は乗り込む。そして隣同士の席へ。
バスが発車する。
「…………」
ヤマトはまた窓へ張り付いた。
「ヤマト」
「何?」
「さっきほど驚かないって言ってなかった?」
「驚いてないよ!」
「じゃあ何してるの?」
「楽しんでる!」
「…………」
アンルシアが笑う。
「本当に気に入ったのね」
「うん!」
またも車窓を流れる奥多摩の景色を眺めながら進んでいく二人。
ほどなくして————
「着いたみたい」
「おお!」
二人はバスを降りた。
目の前には先ほどの奥多摩湖とは、また違った山の景色。
そして少し歩いた先から
ザーッ。
ザーッ。
水の流れる音が聞こえてくる。
「…………!」
ヤマトが笑った。
「川だ!」
「ええ」
アンルシアも微笑む。
二人は音のする方向へ歩き始める。
次なる目的地。
鳩ノ巣渓谷。
勇者姫と鬼姫による奥多摩観光は。
まだまだ終わりそうになかった。