鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~ 作:あかさたなつき
露天風呂をしばらく堪能したヤマトとアンルシア。
二人とも身体はすっかり温まり、顔には満足そうな表情が浮かんでいた。
「はぁ……」
ヤマトが湯船の縁に腕を乗せる。
アンルシアは浴場内をふと見回す。
すると
「……あら?」
少し離れた場所に一枚の扉が目に入った。
「あれ、何かしら」
「ん?」
二人は湯船から上がり、近づいていく。
扉には文字。
「サウナ……?」
ヤマトが読む。
「聞いたことないな…入ってみよう!」
「相変わらず決断が早いわね」
「知らないものは試してみないとな!」
二人は扉を開いた。
その瞬間。
「うわっ!?」
「……っ!」
むわっ。
熱気が一気に身体を包む。温泉とはまるで違う。空気そのものが熱い。
「なんだここ!?」
ヤマトが目を丸くする。
「暑い!」
「ええ……!」
アンルシアも驚いていた。
二人はそのまま中へ入る。
木製の壁 段になった座席。
そして先客が数人。彼女たちは静かに座り、汗を流していた。
「…………」
ヤマトが周囲を見る。
「なあ」
近くにいた女性客へ声をかけた。
「こんな高温なところで、みんな何やってるんだい?」
「え?」
女性客は一瞬驚いたあと、笑った。
「サウナ初めてなんですか?」
「初めて!」
「ここで身体を温めて汗をかくんですよ」
ヤマトが首を傾げる。
「なんで?」
「汗をかいて、外に出て、水風呂に入ったり休憩したりすると気持ちいいんです」
「高温の部屋に入って、そのあと冷たい水に?」
「そうです」
「…………」
「…………」
二人が顔を見合わせる。
そして。
「面白そう!」
またしても同時だった。
先客が笑う。
「やってみたらどうですか?」
「もちろん!」
「せっかくだものね」
二人は並んで座った。
◇
最初の数分。
「暑いな……!」
ヤマトが額の汗を拭う。
アンルシアの肌にも汗が浮かんでいる。
「温泉とは全然違うわ。でも……」
「ん?」
「だいぶ慣れてきたわ」
「僕も!」
実際、元の世界で持っていた超人的な力の大半を失ってい るとはいえ一般人と比較すれば
肉体そのものが遥かに頑健な二人にとってこの程度の高温 環境は大したものではなかった。
「なんか……気持ちよくなってきた」
ヤマトが目を細める。
「分かるわ」
アンルシアも壁へ背を預ける。
「最初はびっくりしたけど……身体の奥まで温まる感じがする」
「これ、いいな!」
さらに数分。
二人はすっかりサウナを楽しんでいた。
「はぁ……」
「気持ちいい……」
周りの客よりも余裕がある。
先ほど説明してくれた女性客が苦笑した。
「二人とも強いですね……普通、初めてならもう少し早く出たくなると思うんですけど」
「そうなの?」
「私たち、こういう環境には慣れてるのよ」
アンルシアが答える。
「そう、逞しいお嬢さん達ね(笑)」
女性客が笑う。
◇
十分に身体を温めた二人は、サウナを出た。
「次は!」
ヤマトが言う。
「水風呂ね」
二人は水風呂へ向かう。
足先を入れる。
「冷たい!」
「……確かに!」
しかし。
そのまま。
ざぶん。
二人揃って身体を沈めた。
「…………!」
「…………!」
全身に一気に冷たさが走る。
だが。
数秒後。
「おお……!」
ヤマトが笑う。
「これ、すごいな!」
「身体が一気に引き締まる感じ……!」
「気持ちいい!」
川で泳いだ時の冷水とは違う。
サウナで火照った身体へ一気に冷たさが入ってくる。
「なるほど……」
アンルシアが感心したように言う。
「これがサウナの楽しみ方なのね」
「面白い文化だな!」
しばらく水風呂を味わい二人は再び露天風呂へ。
「はぁぁぁ……」
ヤマトが湯船へ沈む。
山の風 露天風呂の湯気 川の音。
「温泉にサウナに水風呂……」
ヤマトが指折り数える。
「この世界、風呂だけでも色々あるんだな!」
「あなた、完全に温浴施設を満喫してるわね」
「アンルシアだってそうだろ!」
「否定はしないわ」
「もはや口癖になってきてるねそれ(笑)」
◇
それから約十分後。
「よし!」
ヤマトが立ち上がる。
「満足した!」
「私も」
二人は最後に身体を流し浴場を後にした。
更衣室。
身体を拭き 髪を乾かし 衣服を身につけていく。
「温泉、良かったな!」
「ええ」
「また入りたい!」
「滞在中に機会があればね」
そんな会話をしていた時。
ガコン。
「?」
「?」
二人が同時に振り向いた。
更衣室の一角。
一人の女性客が大きな箱のような機械の前に立っている。
「なんだあれ?」
ヤマトが小声で言う。
「さあ……」
二人は観察する。
女性客が硬貨を取り出す。
ちゃりん。
ちゃりん。
機械へ投入する。
「お金入れたぞ」
「ええ」
そして。
ボタンを押す。
ガコン!
下から一本の飲み物が出てきた。
「「…………!!」」
二人の目が輝いた。
「出てきた!」
「店員もいないのに!」
女性客が振り向く。
「え?」
ヤマトが駆け寄る。
「それ、何なんだ!?」
「じ、自動販売機ですけど……」
「ジドウハンバイキ?」
「お金入れて、欲しい飲み物のボタン押したら買える機械ですよ」
「…………」
ヤマトが自販機を見る。
アンルシアも隣から覗き込む。
並んでいる大量の飲み物。
牛乳 コーヒー牛乳 いちごミルク ジュース。
「すごい……」
アンルシアが呟く。
「人がいなくても商品を売れるのね」
「便利すぎるだろ!」
ヤマトは財布を取り出した。
「僕も買う!」
「私も!」
二人は先ほどの女性客の動きを真似する。
ヤマトが硬貨を投入。
「えーっと……」
商品を眺める。
「これ!」
選んだのはコーヒー牛乳。
ボタンを押す。
ガコン!
「おおお!」
取り出し口から瓶を取り出す。
「本当に出てきた!」
アンルシアも硬貨を入れる。
「私は……」
少し迷った末。
「これにするわ」
いちごミルク。
ガコン!
「出た!」
二人は瓶を持って並ぶ。
「それじゃ!」
「ええ」
蓋を開ける。
そして。
ごくっ。
「…………!」
「…………!」
次の瞬間。
「美味い!」
「美味しい!」
二人の声がほぼ同時に響いた。
「ははは!」
「また同じタイミング!」
ヤマトはコーヒー牛乳をもう一口。
「温泉のあとに飲むと、さらに美味いな!」
「本当ね」
アンルシアもいちごミルクを味わう。
「冷たくて甘くて……ちょうどいいわ」
「自動販売機、気に入った!」
「あなた、この世界に来てから気に入るもの多すぎない?」
「だって面白いものばっかりなんだから仕方ないだろ!」
アンルシアは笑う。
「……まあ、それは私も同じだけど」
二人は並んで飲み物を飲む。
温泉 サウナ 水風呂。
そして。
風呂上がりの冷たい飲み物。
異世界へやってきた勇者姫と鬼姫は。
また一つ。
現代日本の楽しみ方を知ったのであった。