鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~   作:あかさたなつき

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第19話 ヤマトとアンルシア、金欠問題に直面す

 サウナ 水風呂 露天風呂。

 

 そして

 

 風呂上がりのコーヒー牛乳といちごミルク。

 

 はとのす荘の温泉をこれでもかというほど堪能したヤマトとアンルシア。

 

 二人はすっかり上機嫌だった。

 

「温泉だけでも充分だったのに、サウナまであるなんて」

 

「僕、あれ気に入った!」

 

「あなた、過酷な方ほど喜ぶわね」

 

「そうかな?」

 

「そうよ」

 

 二人は笑いながら館内を歩く。

 

 すると。

 

「ん?」

 

 ヤマトの鼻がぴくりと動いた。

 

「甘い匂いがする!」

 

「本当?」

 

「する!」

 

 ヤマトはきょろきょろと周囲を見渡す。

 

 やがて。

 

「あそこ!」

 

 視線の先。

 

 はとのす荘のレストラン。

 

 その入口には、料理の写真が並んでいた。

 

「おお……!」

 

 ヤマトはすぐさま近づく。

 

 そして。

 

「…………!」

 

 今度は目を見開いた。

 

「なんだこれ!?」

 

「今度は何?」

 

 アンルシアも横から覗き込む。

 

 そこに載っていたのは。

 

 ケーキ プリン アイスクリーム パフェ フルーツを使ったデザート。

 

 ヤマトにとって見慣れない甘味の数々だった。

 

「すごい!」

 

「そんなに珍しい?」

 

「こんなの初めて見るぞ!」

 

 ヤマトは写真を一つずつ指差す。

 

「これは!?」

 

「ケーキって書いてあるわ」

 

「こっちは!?」

 

「プリン」

 

「これは!?」

 

「パフェ……みたいね」

 

「どれも美味そう!」

 

 ヤマトのテンションが一気に上がっていく。

 

「アンルシア! 食べよう!」

 

「さっき飲み物飲んだばかりでしょう?」

 

「飲み物は飲み物! 甘いものは別だ!」

 

「……その理屈、どこの世界でも同じなのね」

 

 アンルシアもメニューを見る。

 

 そして。

 

「まあ……私も少し食べたいわ」

 

「決まり!」

 

 二人はそのままレストランへ入った。

 

         ◇

 

「いらっしゃいませ」

 

 店員に案内され。

 

 二人は窓際の席へ座る。

 

「外の景色も綺麗ね」

 

 アンルシアが窓を見る。

 

 鳩ノ巣渓谷の緑。

 

 遠くから聞こえる川の音。

 

「いい場所だなあ」

 

 ヤマトは言いながらも目線は完全にメニューだった。

 

「これにする!」

 

「早いわね」

 

「この……」

 

 文字を読む。

 

「チョコレートケーキ!」

 

「あら」

 

「黒い甘い食べ物って珍しいな!」

 

「あなたの世界にはチョコレートなかったの?」

 

「少なくとも僕は食べたことない!」

 

「じゃあ、いい機会ね」

 

「アンルシアは?」

 

「私は……」

 

 少し迷い。

 

「このいちごのパフェにするわ」

 

「またいちご!」

 

「好きなのよ」

 

「さっきいちごミルク飲んでたもんな!」

 

「ええ」

 

 注文を済ませ

 

 ほどなくして。

 

「お待たせしました」

 

 二人の前にデザートが置かれる。

 

「おおおおお!」

 

 ヤマトの目が完全に輝いていた。

 

 チョコレートケーキ。

 

 濃い色の生地。

 

 表面には艶のあるチョコレート。

 

 横には生クリーム。

 

「これが……甘いのか?」

 

「食べてみたら?」

 

「もちろん!」

 

 フォークで一口分を切り取る。

 

「おお……柔らかい!」

 

 そして。

 

 ぱくっ。

 

 同時に。

 

 アンルシアもパフェのいちごとクリームを口へ運ぶ。

 

「…………!」

 

「…………!」

 

 次の瞬間。

 

「「おいしい!」」

 

 またしても。

 

 同じ声。

 

 同じタイミング。

 

 同じ言葉。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人が顔を見合わせる。

 

「まただ!」

 

「本当に多いわね!」

 

 周囲の客が思わず振り返る。

 

「声そっくり……」

 

「姉妹じゃないよね?」

 

「見た目全然違うし」

 

 そんな声が聞こえる。

 

 だが。

 

 二人はもう気にしない。

 

「これすごいぞ!」

 

 ヤマトはチョコレートケーキをもう一口。

 

「甘い!」

 

「それはデザートだから当然でしょう」

 

「でも、ただ甘いだけじゃない!」

 

「どういう意味?」

 

「なんていうか……」

 

 ヤマトは真剣な顔で考える。

 

「口の中で幸せになる!」

 

「ずいぶん率直な感想ね」

 

「本当なんだから仕方ないだろ!」

 

 アンルシアもパフェを食べる。

 

「こっちも美味しいわよ」

 

「一口くれ!」

 

「はいはい」

 

 アンルシアはスプーンで少し取り分ける。

 

「ほら」

 

「ありがとう!」

 

 ぱくっ。

 

「…………!」

 

「どう?」

 

「これも美味い!」

 

「でしょう?」

 

「アンルシア、交換しよう!」

 

「全部はダメよ」

 

「半分!」

 

「少しだけ」

 

「けち!」

 

「自分のケーキ食べなさい」

 

「ははは!」

 

         ◇

 

 しばらくして。

 

 二人は綺麗に完食した。

 

「ごちそうさま!」

 

「ごちそうさまでした」

 

 今度は少しだけタイミングがずれた。

 

「惜しい!」

 

「何が?」

 

「また同時になるかと思った!」

 

「競うことじゃないでしょう?」

 

 二人は会計を済ませレストランを出る。

 

 そして

 

 フロント近くのソファーへ腰を下ろした。

 

「はぁ……」

 

 ヤマトが背もたれへ身体を預ける。

 

「ここ、いいなあ」

 

「ええ」

 

 アンルシアもゆったり座る。

 

「温泉も良かったし」

 

「サウナ!」

 

「食事も美味しいし」

 

「デザート!」

 

「景色もいい」

 

「全部いい!」

 

「まとめたわね」

 

 ヤマトは館内を見回す。

 

「なあ、アンルシア」

 

「何?」

 

「今日、ここに泊まらない?」

 

「…………いいわね!」

 

「だろ!?」

 

「私も、ここなら泊まってみたいわ」

 

「決まり!」

 

 ヤマトは嬉しそうに立ち上がる。

 

「じゃあ部屋――」

 

 そこで。

 

「…………ん?」

 

 動きが止まった。

 

「どうしたの?」

 

 ヤマトの視線。

 

 フロント近く。

 

 宿泊料金が記載された案内。

 

「…………」

 

 ヤマトが近づく。

 

 読む。

 

「…………」

 

「ヤマト?」

 

 

「なんだこの価格!?」

 

 

 館内に大きな声が響いた。

 

「え?」

 

 アンルシアも近づく。

 

 ヤマトが指差す。

 

「一番安くても一泊……」

 

 文字を追う。

 

 

「20950円……!?」

 

 

「…………」

 

 アンルシアも料金を見る。

 

「一人で?」

 

「いや、二人一室……」

 

「それでも高いわね……私がいた世界では考えられない金額だわ……」

 

 ヤマトが思わず叫ぶ。

 

「これ、飯が何回食えるんだ!?」

 

「あなたの基準、全部食事ね」

 

「大事だろ!」

 

「でも……」

 

 アンルシアの表情が少し真剣になる。

 

 財布を取り出す。

 

「私たちの手持ち金は……」

 

 残額を確認する。

 

「二人合わせて五万円弱」

 

「うん」

 

「一泊するだけでそんなにかかるんじゃ……」

 

 アンルシアは少し考える。

 

「楽しみにしてる東京都市部観光は、とてもままならないわ……」

 

「…………!」

 

 ヤマトの顔が固まる。

 

「それは困る!」

 

「でしょう?」

 

「新宿も行きたい!」

 

「渋谷もね」

 

「スマホも欲しい!」

 

「それはまだ値段を調べてから」

 

「飯もいっぱい食いたい!」

 

「それも」

 

「電車にも乗る!」

 

「当然、交通費もかかるでしょうね」

 

「…………」

 

 ヤマトの顔が徐々に曇る。

 

「金……足りないな」

 

「そうね」

 

 数秒。

 

 アンルシアが。

 

「…………!」

 

 突然顔を上げる。

 

「そうよ……」

 

「?」

 

「どうした?」

 

「お金を稼ぐ手段を見つけないと……」

 

 アンルシアは立ち上がる。

 

「しばらくこの世界にいるなら、手持ちのお金だけで生活するのは無理よ」

 

「確かに……働かないと……でも、どうやって?」

 

「それを今から調べるのよ」

 

「…………あ!」

 

 ヤマトの目が輝く。

 

「それなら奥多摩駅前の観光案内所に行こう!あそこなら、お金を稼ぐ手段見つかるよ、きっと!」

 

「なるほど」

 

 アンルシアは頷く。

 

「この辺りの情報がたくさん集まってたものね!そうね、さっそく行きましょう!」

 

「よし!」

 

 二人は迷うことなく、はとのす荘を後にした。

 

         ◇

 

 鳩ノ巣から奥多摩駅方面へ二人は歩いて戻ることにした。

 

「結構歩くな」

 

「でも、ちょうどいいんじゃない?」

 

「何が?」

 

「デザート食べた後の運動」

 

「なるほど!」

 

 二人は山間の道を進んでいく。

 

 川沿い 木々 時折通り過ぎる車。

 

「なあアンルシア」

 

「何?」

 

「この世界って、仕事にもいろいろあるんだろうな」

 

「でしょうね」

 

「僕にできる仕事あるかな?」

 

「力仕事ならいくらでもありそうだけど」

 

「それなら得意!」

 

「私は……」

 

 アンルシアも考える。

 

「剣の腕くらいしかないわね」

 

「僕も金棒!」

 

「……この世界で、それが仕事になるかしら」

 

「用心棒とか?」

 

「魔物もいなそうだし」

 

「じゃあ困ったな」

 

「だから調べるのよ」

 

 そんな会話をしながら。

 

 二人は歩き続ける。

 

 やがて。

 

「見えてきた!」

 

 奥多摩駅。

 

 午前中に初めて訪れた場所。それが今ではすでに少し懐かしく感じる。

 

「なんだか帰ってきた感じするな」

 

「分かるわ」

 

「今日来たばかりなのに!」

 

「本当にね」

 

 二人はそのまま観光案内所へ向かう。

 

         ◇

 

「また来た!」

 

 ヤマトが入口をくぐる。

 

「今度は目的が違うわよ」

 

「金を稼ぐ方法!」

 

「そう」

 

 二人は館内を歩き始めた。

 

 壁 掲示板 観光パンフレット イベント情報 地域情報 求人らしき案内。

 

「何かないかな……」

 

 ヤマトがじっくり見る。

 

 アンルシアも反対側の壁を確認する。

 

「仕事……仕事……」

 

「店の手伝いとかある?」

 

「まだ分からないわ」

 

「力仕事!」

 

「そればかりね」

 

 そんな時。

 

「…………ん?」

 

 ヤマトの足が止まった。

 

「どうしたの?」

 

「アンルシア」

 

「何かあった?」

 

 ヤマトは。

 

 壁の一角の一枚の張り紙を凝視していた。

 

「…………」

 

 数秒。

 

 そして顔がぱっと明るくなる。

 

 

「これだ!!」

 

 

 観光案内所にヤマトの大声が響き渡った――。

 

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