鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~   作:あかさたなつき

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第三話 ヤマトとアンルシア、現代人と邂逅す

二人は山道を下り、ついに先ほど高台から眺めていた場所へとたどり着いた。

 

奥多摩駅周辺。

 

五月後半の休日ということもあって、思っていた以上に人が多い。

 

大きなリュックを背負った登山客 軽装の観光客 サイクリスト 家族連れ 若者のグループ。

 

ヤマト「……ずいぶんいろんな人がいるな。髪の色も肌の色もバラバラだ」

 

アンルシア「旅人が多い場所なのね」

 

山深い土地とはいえ、ここも東京都内。外国人観光客の姿も珍しくなかった。

 

だが、二人が人々を観察していたのと同じくらい――いや、それ以上に周囲の人々がヤマトとアンルシアに注目していた。

 

ヤマト「なんか僕たち、すごく見られてない?」

 

アンルシア「……そうね」

 

無理もなかった。身長百八十センチほど 長い白髪に赤い角 独特な衣装。そして金棒を携えたヤマト。

 

その隣には

 

金髪碧眼 美しい顔立ち 白を基調とする華麗な衣装。腰に剣を下げた、小柄な少女――アンルシア。

 

二人とも現代日本の奥多摩駅前を歩くには、あまりにも目立ちすぎていた。

 

「すげえ……」

 

 通りかかった若い男性が、小声で言う。

 

「コスプレだ…」

 

「こんな山奥でコスプレなんて珍しいな!ましては外国人……」

 

「何のキャラだ?」

 

「知らない」

 

「オリジナルじゃない?」

 

「それにしても完成度すごくない?」

 

「背が高い女の人……ボーイッシュだけど、美人だ」

 

「金髪白人の子もすごく可愛い…」

 

周囲の人々にとってヤマトとアンルシアは完全に

 

非常に完成度の高いコスプレをした美女/美少女だった。

 

とにかく容姿が目立つ。

 

ヤマトは長身で快活な雰囲気を持つボーイッシュ美女。

 

アンルシアはまるで物語の中のお姫様が剣を携えてそのまま現実へ飛び出してきたような可憐な少女。

 

当然————スマートフォンを取り出す者が現れた。

 

パシャ。

 

「ん?」

 

ヤマトが振り向く。

 

パシャ。

 

今度は別の方向。

 

「……?」

 

アンルシアも気づいた。

 

「またあの小さな板みたいなものをこちらに向けているわ」

 

「さっきもみんな持ってたな」

 

「何なのかしら」

 

明らかに自分たちへ向けられている。しかし攻撃されている様子はない。

 

むしろ撮影している人々は楽しそうだった。

 

「Beautiful!」

 

「Amazing cosplay!」

 

「Can I get a picture?」

 

「……?」

 

ヤマトとアンルシアは顔を見合わせる。

 

その時だった。

 

「あ、あのー……」

 

近くにいた日本人の若者がアンルシアへ近づいてきた。

 

そしてアンルシアに向かって――

 

「Excuse me……」

 

「?」

 

「Where are you from?」

 

アンルシアは目を瞬いた。そして答える。

 

「私はグランゼドーラ王国から来たわ」

 

「…………え?日本語、上手ですね……」

 

アンルシア「…………」

 

ヤマト「今の人、何て言ったんだ?」

 

アンルシア「どこから来たのかって聞いたのよ」

 

ヤマト「へえ」

 

アンルシア「…………待って!今の言語……私、知らないはずなのに」

 

ヤマト「さっき彼が使った言葉かい?」

 

アンルシア「そうよ」

 

アンルシアは確かに理解した。文法を学んだことなどない。単語を覚えたこともない。

 

そもそも、この世界の英語など知るはずがない。それなのに

 

「意味が全部分かったわ」

 

「え?」

 

ヤマトも改めて青年を見る。青年が恐る恐る英語で尋ねる。

 

「Can You speak English?」

 

ヤマト「…………『英語を話せるの?』って言ってる?」

 

アンルシア「そうよ」

 

ヤマト「……僕も分かるぞ!なんで!?」

 

アンルシア「私にも分からないわ!」

 

ちょうど近くを通った外国人観光客たちの会話が耳に入る。その内容も理解できる。

 

「分かる……」

 

「僕も!」

 

二人は周囲を見回す。 日本語 英語 その他の言語。聞こえてくる言葉が――

 

すべて意味として頭に入ってくる。

 

「すごいな!この世界の人、全員と話せるじゃないか!」

 

「どういう理屈なのかしら……あ!さっき知らない文字読めたでしょう?」

 

「ああ!」

 

「なら、同じものかもしれないわね」

 

「異世界転移の力?」

 

「おそらくね」

 

「便利だな、異世界転移」

 

「本当に……妙なところだけ親切よね」

 

戸惑いながらも二人はあっさりと受け入れた。

 

今さらである。

 

世界そのものを越えてしまったのだ。言語まで自動的に理解できるくらい、大した不思議ではない。そう思うことにした。

 

一方、先ほど英語で話しかけた青年は

 

「日本に住んで長いんですか?」

 

と尋ねる。

 

アンルシア「いえ。今日初めて来たわ」

 

青年「今日!?」

 

アンルシア「正確には、気づいたらこの近くの山の中にいたの。そこの背の高い彼女も同様よ」

 

青年「…………?」

 

アンルシア「私たち、異世界から転移してきたみたい」

 

青年「………ああー!そういう設定なんですね!」

 

ヤマト&アンルシア「「……???設定?」

 

ヤマト「設定って何のことだい?」

 

近くの別の男性「キャラになりきってるってことじゃないかな?」

 

アンルシア「……なるほど」

 

どうやら、本当のことを言っても信じてもらえないらしい。

 

今度は近くにいた若い日本人女性からヤマトへ質問が飛ぶ。

 

「その角すごいですね!」

 

「本物だぞ!」

 

「おお、設定徹底してる!」

 

「いや、本物――」

 

アンルシアがヤマトの腕を軽く引く。

 

「ヤマト」

 

「ん?」

 

アンルシアが小声で言う。

 

「たぶん説明しても信じてもらえないわ……今のところは、この人たちの思っている通りにしておいた方が楽かもしれないわね」

 

「なるほど」

 

ヤマトは先ほど質問してきた女性を見る。

 

「これは本物の角――という設定だ!」

 

「おお!」

 

 女性が笑う。

 

「いいですね!」

 

「…………」

 

ヤマトがアンルシアを見る。

 

「便利だな、“設定”」

 

「ええ」

 

アンルシアも小さく笑った。その間にも————

 

パシャ。

 

パシャ。

 

スマートフォンのカメラが二人に向けられている。

 

「なあ」

 

ヤマトが一人の若者へ尋ねた。

 

「さっきからみんなが持ってる、それ何なんだい?」

 

「え?」

 

「その四角いやつ」

 

「これ?」

 

青年がスマートフォンを見せる。

 

「そう、それ!」

 

「スマホですけど」

 

「スマホ?」

 

「スマートフォン」

 

ヤマトは興味津々で覗き込む。アンルシアも隣から見る。

 

薄い板。表面が光っている。そこにはさまざまな絵や文字。

 

「これで何ができるんだ?」

 

「えーっと……」

 

青年は考える。

 

「通話したり」

 

「!」

 

ヤマトが反応する。

 

「離れたところにいる人と!?」

 

「そうです」

 

「それからメッセージ送ったり、写真撮ったり、動画見たり、ネットしたり……」

 

「ドウガ?」

 

「映像です」

 

青年は試しに動画を再生する。

 

ヤマト&アンルシア「「!!?」」

 

小さな画面の中で 人間が動いている。

 

「動いた!」

 

ヤマトが声を上げた。

 

「絵じゃない!」アンルシアも画面へ顔を近づける。

 

「映像を保存できる道具なの?」

 

「まあ、そんな感じですね」

 

アンルシアは感心していた。

 

「凄く高度な魔道具ね」

 

「魔道具?」

 

 青年が笑う。

 

「そういう設定なんですね」

 

「ええ」

 

「適応早いな、アンルシア」

 

ヤマトが感心する。

 

青年はカメラアプリを開いた。

 

「例えばこれで写真も撮れますよ」

 

カシャ。

 

ヤマトが画面を見る。

 

「うわっ!」

 

画面の中に自分とアンルシアが映っている。

 

「僕たちだ!」

 

「本当に一瞬で姿を写し取った……」

 

アンルシアが驚く。

 

「写実的どころじゃないわね」

 

「すごいな!」

 

ヤマトはますます興奮する。

 

「それに、これで遠くの人と通話できるんだろ?……ん?それって……あ!」

 

ヤマトが手を叩いた。

 

「分かった!」

 

「何が?」

 

「“電伝虫”みたいなものだね!」

 

「デンデンムシ?」

 

青年が首を傾げる。

 

「うん!」

 

「……カタツムリの?」

 

「そう!」

 

「…………え?」

 

青年の顔が引きつる。

 

「スマホがなんで、かたつむり!?」

 

素っ頓狂な声が上がった。

 

周囲の人々が笑う。

 

「いやいやいや!」

 

「カタツムリで通話する世界——という設定なの!?」

 

「そうだぞ!」

 

 ヤマトは当然のように答える。

 

「電伝虫っていう、生きたカタツムリみたいなやつで遠くの人と話すんだ!」

 

「なんだそれ!?どういう世界観なんだよ!」

 

「便利だぞ?」

 

「便利以前の問題だよ!」

 

周囲から笑いが起こる。

 

一方。

 

アンルシアは真面目にヤマトの説明を聞いていた。

 

「あなたの世界では、生き物を通信手段として利用しているだなんて、面白いわね……」

 

「アンルシアの世界にはないの?」

 

「似た用途なら、魔法や魔道具の方が多いわ」

 

「へえ!」

 

そこへ青年が突っ込む。

 

「設定同士で普通に情報交換してる……」

 

また笑いが起こった。

 

当然、この場にいる誰一人として知らない。

 

ヤマトという女性を。

 

アンルシアという勇者を。

 

彼女たちの世界を題材にした漫画もゲームも、この世界には存在しない。

 

だからこそ 誰も気づけない。二人が演じているのではなく

 

本当に今まで語ったことをすべて事実として話しているということに。

 

ヤマトはぼそっと声を漏らす。

 

「あの機械、欲しいな!」

 

「私もよ」

 

「買おう!」

 

「……!?そういえば私たち、この世界のお金、持ってないわよね……」

 

「……あ」

 

二人同時に止まる。転移してきて以来、自分たちの持ち物をまだまともに確認してい

なかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙する二人。その瞬間。

 

ぐううううううう――。

 

「…………」

 

「…………」

 

かなり大きな音が鳴った。アンルシアが横を見る。ヤマトが腹を押さえている。

 

「……お腹空いた」

 

「あなたね……」

 

「だって朝から何も食べてないんだぞ!」

 

「私もだけど」

 

「じゃあまず飯だ!」

 

「だから、お金が――」

 

「何か持ってないか探してみよう!」

 

ヤマトは早速、自分の所持品を探り始めた。アンルシアもそれに続く。

 

周囲では

 

「本当にキャラになりきってるなあ」

 

「この二人面白い」

 

「設定めちゃくちゃ細かいぞ」

 

「それにしても、顔めっちゃ可愛いな……」

 

そんな声とともに、再びスマートフォンが向けられる。

 

現代文明を前に目を輝かせるヤマト。

 

それを冷静に観察しながらも、内心ではかなり興味を持っているアンルシア。

 

二人は自分たちの所持品の中に――

 

この世界で生活するための、さらなる不可思議な「異世界転移の恩恵」が用意されてい

 

ることを知らなかった。

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