鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~   作:あかさたなつき

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第五話 ヤマトとアンルシア、「おでん」と邂逅す

「————————おでん?」

 

 アンルシアもその文字を見る。そして、少し考えてから言った。

 

「……確か、卵や大根やらいろいろ入ってる熱々のアレよね?」

 

「そう!」

 

「エルトナでも食べたことあるわ」

 

 アンルシアは首を傾げる。

 

「それがあなたの国では、そんなに珍しいの?」

 

「いや!食べ物としては全然珍しくないんだけど――」

 

 そこでヤマトの表情が変わった。

 

 先ほどまで料理を見てはしゃいでいた顔から、一転。

 

 どこか懐かしそうな、そして誇らしそうな表情になる。

 

「僕にとって、特別な意味を持つ名称さ!僕の憧れの人物の名前が『おでん』なんだ」

 

「…………」

 

 アンルシアが瞬きをする。

 

「おでん……食べ物と同じ名前なの?…ずいぶん変わった名前ね……」

 

 ここでヤマトは勢いよく身を乗り出した。

 

「僕がいた世界では、食べ物と同じ名前の人なんて、特に珍しくないかな…?まあとにかく、僕にとって、おでんは――憧れなんてものじゃない!」

 

 ヤマトは胸の前で拳を握った。

 

「僕の生き方そのものなんだ!」

 

「…………!」

 

 アンルシアはヤマトを見る。

 

 先ほどまでとは違う。

 

 その瞳には、強い尊敬 憧憬。そして、何か決意のようなものまで宿っていた。

 

「光月おでん!」

 

 ヤマトはその名前を口にした。

 

「ワノ国に生きた、すごい侍だ!」

 

「侍……」

 

 ヤマトは嬉しそうに語り始めた。

 

「自由で!」

 

「豪快で!」

 

「強くて!」

 

「なるほど」

 

「誰にも縛られなくて!」

 

「……あなたが憧れそうな人ね」

 

「そうなんだ!」

 

 アンルシアは思わず微笑む。ほんの数時間一緒にいるだけでも。

 

 ヤマトがどういう性格なのかは、だいぶ分かってきていた。

 

 自由を好む。

 

 好奇心旺盛。 

 

 豪快。

 

 そして、尊敬する者への思いが非常に強い。

 

 「おでんは若いころ、ワノ国を飛び出して世界を知ったんだ!」

 

 「……あなたは自国を出たことがないって言ってたわね」

 

 「…………だからこそ憧れたんだ!」

 

 アンルシアは静かにヤマトを見る。

 

「なるほど……」

 

 少しだけ分かった気がした。

 

 なぜヤマトが目にするものすべてに、あれほど目を輝かせるのか。

 

 自動車 電車 スマートフォン。

 

 知らない土地 知らない人々 未知の世界。

 

 それらすべてが

 

 長い間、自国の外へ出たことのなかったヤマトにとって――

 

 

 憧れ続けていた「冒険」そのものなのだ

 

 

 ヤマトはメニューを指差す。

 

 「『おでん』って文字を見た時はたまげたよ!まさか異世界にまでおでんがあるとは!」

 

「料理の方だけどね」

 

 「ふふふ(笑)食べ物としてのおでんも、僕の一番の大好物だよ!異世界に来て最初の食事がおでんだなんて、なんだか縁を感じるな!」

 

 「それじゃあ、せっかくだから私もおでんにするわ!以前、食べたことあるけど、美味しいわよね!特に寒い冬に仲間達と囲んで食べるおでんは格別よ!」

 

 「おおお!わかるね!君とはつくづく気が合うな!それじゃあ…」                     

 

 ヤマトはすぐ近くにいた店員に声をかける。

 

 「おでん二人分、頼むよ!」

 

 「かしこまりました!」

 

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