鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~   作:あかさたなつき

6 / 9
第六話 ヤマトとアンルシア、異世界のおでんを味わう

「お待たせしましたー! おでん二人前です!」

 

 店員の声とともにヤマトとアンルシアの前へ、二つの器がほぼ同時に置かれた。

 

「…………!」

 

 その瞬間。

 

 ヤマトの目が輝いた。

 

 湯気の立つ器。透き通った出汁。

 

 その中には、しっかりと味の染み込んだ具材が並んでいる。

 

 ヤマトはまるで宝物でも見つけたかのように、身を乗り出した。

 

「こんにゃく……大根……卵……ちくわ……どこからどう見ても……ワノ国にあったおでんそのものだ……!!」

 

 アンルシアも自分の器を覗き込む。

 

「私がエルトナで食べたものともかなり似てるわ」

 

「それじゃあ……」

 

 ヤマトは箸を取る。

 

「食べよう!」

 

「ええ」

 

 二人は揃って手を合わせた。

 

「いただきます!」

 

「いただきます」

 

 まずヤマトが選んだのは、大根。

 

 箸で持ち上げる。

 

「おお……!」

 

 しっかり出汁が染み込み、淡い色に染まっている。湯気が立ち上る。

 

 ふー ふー。少し冷まして。

 

 ぱくっ。

 

 アンルシアもほぼ同時に、食べやすい大きさに切った大根を口へ運んだ。

 

「「…………!」」

 

 二人の目が同時に見開かれる。

 

 そして

 

 

「「美味しい!」」

 

 

 ぴったり同時だった。

 

「「…………」」

 

 二人が互いを見る。

 

 また同じ声。

 

 また同じタイミング。

 

「ははは!」

 

 ヤマトが笑い出す。

 

「また被った!」

 

「本当ね!」

 

 アンルシアも楽しそうに笑う。

 

 二人の声は驚くほどよく似ていた。

 

 そんな二人が同時に同じ言葉を発すると、まるで一人の声が二重に響いたように聞こえる。

 

 近くの客たちまで振り返った。

 

「今のすごくない?」

 

「声そっくりだな、あの二人」

 

「姉妹じゃないよな?」

 

「見た目全然違うしな……」

 

 そんな周囲など気にせず、ヤマトはもう一口。

 

「うまい!」

 

 今度は卵。

 

「これも!」

 

 続いてこんにゃく。

 

「おお!」

 

 そして、ちくわ。

 

「全部うまい!」

 

「ずいぶん幸せそうね」

 

 アンルシアが笑う。

 

「そりゃそうだよ!今まで食べたどのおでんよりも旨いんだから」

 

 アンルシアも卵を口にする。

 

「……うん。私の方も以前、食べたのより美味しいわ」

 

「そうかそうか!」

 

「出汁の味が優しいわね」

 

「うん!」

 

「大根にもちゃんと染み込んでる」

 

「そうそう!」

 

「それに……」

 

 アンルシアは器を見る。

 

「こういう料理って、不思議と落ち着くのよね」

 

「分かる!」

 

 ヤマトが即座に同意した。

 

「豪華な料理じゃないけどさ。なんか……安心するんだよな」

 

「ええ」

 

 アンルシアは微笑んだ。

 

「仲間たちと一緒に食べた時のことを思い出すわ」

 

「僕は……」

 

 ヤマトも一瞬、静かになる。

 

 ワノ国。自分が生まれ育った土地。

 

 光月おでん エース ルフィ。

 

 様々な人々が頭をよぎる。しかし その表情に寂しさはなかった。

 

 むしろ。

 

「やっぱり面白いな、この世界!」

 

「……ええ、そうね」

 

「だってさ」

 

 ヤマトは笑う。

 

「山もワノ国に似てる 家も似てる」

 

「そうね」

 

「文字は読める 言葉も全部分かる!」

 

「なぜかね」

 

「そして――」

 

 ヤマトは箸でちくわを持ち上げた。

 

「おでんまである!」

 

「結局そこなのね」

 

「重要だぞ!」

 

「ふふっ」

 

 アンルシアは思わず笑った。

 

 確かに異世界へ突然飛ばされたというのに。

 

 今のところ、あまりにも居心地がいい。

 

 見知らぬ世界のはずなのに、どこか懐かしい。

 

 アンルシアにとっては、エルトナを思わせる山の風景。

 

 ヤマトにとっては、ワノ国を思わせる文化。

 

 そして二人にとって馴染みのある料理。

 

「私たち、凄く運が良かったわね」

 

「?」

 

「異世界へ飛ばされた場所よ」

 

 アンルシアは店の窓から外を見る。

 

 五月の奥多摩。

 

 緑に覆われた山 穏やかに行き交う人々。

 

「もしもっと危険な場所だったら、こうやってのんびり食事なんてしていられなかったでしょう?」

 

「確かに!」

 

「それどころか、いきなり戦いになっていた可能性だってあるわ」

 

「それはそれで面白そうだけど」

 

「ヤマト!」

 

「冗談だよ!」

 

 たぶん半分くらいは本気だった。

 

 アンルシアは小さくため息をつく。

 

「あなた、本当に戦うの好きそうね」

 

「それ以上に冒険が好きだ!だから今、すっごく楽しい!」

 

 ヤマトは満面の笑顔で答えた。

 

「元の世界に帰れなくなったかもしれないのに?」

 

「帰る方法は探すよ!」

 

 ヤマトは即答する。

 

「でも、だからって今いる場所を楽しまない理由にはならないだろ?」

 

「…………」

 

 アンルシアは少し驚いた。

 

 そして

 

「そうね。あなたの言う通りだわ」

 

 アンルシアは再び箸を伸ばす。

 

「それならまずは――この世界のおでんを楽しみましょう」

 

「おお!」

 

 

 二人は再び食べ始めた。

 

「美味しい!」

 

「これも美味しい!」

 

 と声を上げながら。

 

 つい数時間前まで二人は互いの存在すら知らなかった。

 

 生まれた世界も違う。歩んできた人生も違う。

 

 それなのに今では現代日本の奥多摩にある小さな食事処で。

 

 同じ料理を囲み、同じ声で、同じように笑っている。

 

 やがてヤマトは、最後に残っていた大根を口へ放り込んだ。

 

「これで食べ終わったわね!それじゃあ……」

 

 ヤマトとアンルシアは同時に手を合わせる。

 

 そして

 

 同じ声で 同じタイミングで言い放つ————

 

 

「ごちそうさまでした」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。