鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~ 作:あかさたなつき
「さて!」
ヤマトが両手を腰に当てる。
「飯も食った!」
「ええ」
「写真も撮った!」
「ええ」
「次は――」
二人は顔を見合わせた。
「「情報収集!」」
またしても、声とタイミングが重なった。
「……まただ!」
「本当に多いわね、これ」
二人は笑う。
とはいえ。
今度こそ、かなり重要な問題だった。
ここが「奥多摩」という場所であること。この国が「日本」という名前らしいこと。
自動車や電車、スマートフォンといった高度な文明が存在すること。
そこまでは分かっている。だが、それ以上のことは何も知らない。
「まず、この世界がどんなところなのか知りたいな」
「そうね」
アンルシアは駅前を見渡す。
「それに、しばらく滞在する可能性があるなら、この辺りのことも知っておいた方がいいわ」
「宿とか?」
「それもあるし、食事のできる場所、移動手段、それから――」
「面白い場所!」
「……まあ、それもね」
ヤマトが嬉しそうに笑う。そこで二人の目に入ったのが。
先ほどから人の出入りが特に多い建物だった。
入口には————
「観光案内……」
ヤマトが読む。
「ここじゃない?」
アンルシアも看板を見る。
「観光に来た人へ、この土地について教える場所みたいね」
「じゃあここだ!」
二人は迷わず中へ入っていった。
◇
「いらっしゃいませ」
中に入った瞬間、目に飛び込んできたのは
大量の紙。
「おお!」
ヤマトの目が輝く。
壁 棚 机。至るところにパンフレットや地図が並んでいる。
「すごい量だな!」
「この辺りの情報がまとめられているみたい」
アンルシアは早速、一冊手に取った。
「『奥多摩観光ガイド』……」
ぱらっ。
「…………」
目を通す。
奥多摩湖。
日原鍾乳洞。
山。
渓谷。
キャンプ場。
温泉。
神社。
飲食店。
「ヤマト…この辺り、思っていた以上に見るところが多いわよ」
「本当!?見せて!」
ヤマトが横から覗き込む。
「湖!」
「ええ」
「鍾乳洞!」
「ええ」
「温泉!」
「そこへの反応が一番大きいわね」
「だって温泉だぞ!」
「知ってるわよ」
「アンルシアの世界にもあるの?」
「もちろん」
「じゃあ好き?」
「好きよ」
「やっぱり気が合うな!」
「温泉好きくらい珍しくないと思うけど……」
ヤマトはさらに別のパンフレットを取った。
「こっちは……」
読む。
「登山?」
写真には大きなリュックを背負った人々。
「だから外にあんな格好の人が多かったのか!」
「山へ登るために来ているのね」
「遊びで山に登るの?」
「みたいね」
ヤマトは驚いたあと。
すぐ笑った。
「面白そう!」
「やっぱりそう言うと思ったわ」
「もっともっと知りたいな!」
「……そうね!」
ヤマトは再びパンフレットに目を通す。
次。
「『奥多摩湖』……」
次。
「『渓流釣り』!」
次。
「『キャンプ』?」
ヤマトが首を傾げる。
「外で泊まること?」
「そうみたいね」
「わざわざ?」
「楽しむためよ」
「面白い文化だな……」
アンルシアも別の冊子を見る。
「自然の中で食事を作ったり、火を囲んだりするみたい」
「それ、普通に旅じゃないか!」
「あなたの世界だとそうなるのね」
「キャンプって名前を付けて遊びにするのか……」
「平和だからこそなのかもしれないわね」
「……ああ」
ヤマトは少し納得したように頷く。
「命がけで野宿する必要がないから、楽しむためにやるのか」
「そういうことかも」
「いい世界だな」
さらっと、そう言った。
アンルシアは少しだけヤマトを見る。
だが
何も言わず、再びパンフレットへ目を落とした。
◇
十分後。
二人の前にはパンフレットの山が出来上がっていた。
「これも!」
「まだ読むの?」
「これも面白そう!」
「ヤマト、情報収集と観光計画が混ざってきてるわよ」
「いいだろ、両方やれば!」
「まあ……」
アンルシアも実は同じくらい読んでいた。
「ふふふ」
「何?」
「いや、アンルシアも楽しんでるんだなって」
「別にいいでしょう」
「いいよ!」
ヤマトは嬉しそうだった。
やがて
アンルシアは“あるもの”を手に取る。
「……これは……?」