鬼姫と勇者姫、東京にて。~ヤマトとアンルシアの異世界珍道中~ 作:あかさたなつき
アンルシアが手にしたもの。それは
『**Lonely Planet Tokyo**』
外国人向けの東京観光ガイドブックだ。
アンルシア「東京……」
ヤマト「何度か見た名称だな」
アンルシアはガイドブックを開き1ページ目の地図に目を通す。
アンルシア「この奥多摩という場所……東京って地域の一部みたい」
「ここが奥多摩よ」
アンルシアが指差すのは地図のかなり西側。
「東京の中では広いな」
ヤマトはそのまま地図を東へ目で追う。
「……」
「……」
二人の視線が止まる。
地図上に。
無数の地名 無数の鉄道路線 無数の道路。
ヤマトがゆっくり言う。
「……これ全部……東京なの?」
「みたいね」
そしてページをめくるアンルシア。次の瞬間
二人は転移してきて以来、最大の衝撃を受ける————
「「ええええええええええ!?」」
もはや恒例となった“同じ声による同じタイミングでの発声”
その二重叫び声に周囲の人間たちはビクッっと来る。
「な、なんだこれ…!?」
「……これが、同じ世界の文明だなんて、ましてや同じ東京だなんて……信じられない……」
ヤマトとアンルシアの目に飛び込んできたモノ。
それは
都心の写真
高層ビル。
巨大な駅。
びっしり並ぶ建物。
人の群れ。
「「…………!!」」
二人の目が また輝いた。
「すごい……こんな世界、エースやルフィ。そして、おでんだって体験したことないぞ……」
「すごいわ……エックス(ドラクエ10)だって、これほどの文明には触れたことないわきっと……」
ヤマトとアンルシアは、しばらくページから目を離せなかった。
自分たちが今居る奥多摩とは――あまりにも違いすぎる。
「……待ってくれ……これ……全部、建物なのか?」
「そうみたいね」
「この大きいやつも、山じゃなくて?」
「建物よ」
「…………」
ヤマトは写真へ顔を近づける。
「でかすぎるだろ!」
観光案内所に再び大きな声が響く。
周囲にいた観光客がちらりとこちらを見る。
「ワノ国の城だってこんなに高くないぞ!」
「私の世界でも、ここまで巨大な建物が密集している場所は見たことないわ……」
「こんなの、人間の手で造れるのか……?はっ……!!」
「どうしたのヤマト?」
ヤマトは何か閃いた様子だ。
「わかったぞ……この世界にも…」
「?」
「巨人がいるんだ……!!」
その瞬間、そのやり取りをすぐ近くで聞いていた観光客の女性が軽く噴き出す。
(巨人って……)
「……考えられる話ね……私たちの世界と似た文化や乗り物あるんだから、巨人がいたってちっともおかしくないわ!」
「だろ!?」
二人は揃って頷いた。
「…………」
「…………」
その時、話を聞いていた観光客の女性が、何とも言えない顔をしていた。
やがて
「あの……」
「ん?」
ヤマトが振り返る。
「どうかした?」
アンルシアも彼女を見る。
「その建物……巨人が造ったわけじゃないですよ」
「「え?」」
また声が重なった。
「人間が造ったんです」
「…………」
「…………」
二人は無言で観光客女性を見る。
「今の僕みたいな普通サイズの人間が?」
ヤマトが尋ねる。
「はい。普通の人間です」
「…………」
ヤマトはもう一度、高層ビルの写真へ顔を近づける。
「いやいやいや」
首を横に振った。
「この大きさだぞ?」
「重機とかクレーンとか使って建てるんですよ」
「ジュウキ?」
「クレーン?」
二人同時に聞き返した。
女性は少し考えてから、手元のタブレットを操作する。
「こういうものです」
画面に、巨大なクレーン車や建設現場の写真が表示された。
「おお……!」
「…………!」
二人が覗き込む。
鋼鉄製の巨大な腕 何十トンもの資材を吊り上げる機械 高層ビルの建設現場。
「でかい……」
ヤマトが呟く。
「これも魔法じゃないの?」
アンルシアが尋ねる。
「魔法じゃないですね」
「魔力も使わない?」
「使わないです」
「…………」
アンルシアは少し黙った。
「ヤマト」
「ん?」
「……この世界の人間、私たちが思っていたよりずっと凄いわ!」
「僕も今そう思った!」
二人の目が再び輝き始める。
観光客女性はそんな二人を見て苦笑した。
「本当に初めて見たみたいな反応ですね」
「初めて見たぞ!」
「私もよ」
「……設定なんですよね?」
「「そういう設定!」」
即答。
そしてまた声が重なった。
女性が笑った。
「息ぴったりですね」
二人はもう反論しなかった。
慣れたのである。