あぁ、我が遠き母星、ガマ星雲第58番惑星ケロン星よ
どうか今宵も平穏であれ
まぁ今日もどうせ何処かの星を侵略したり軍事作戦したりで平和とは程遠いだろうけど
ここは太陽系第3惑星ペコポン、彼らペコポン人は地球と呼ぶ星。その中でも小さな国日本のさらに一角、奥東京市にある日向家
洗濯を終えて背筋を伸ばす1人のナマモノの姿がある。緑色の体色に何を考えているのかわからない大きな黒い瞳、黄色の軍帽に赤い星そして腹に輝く大きなケロンスター
彼こそガマ星雲第58番惑星(ケロン星)宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊 隊長、ケロロ軍曹である
ケロロは体の骨をバキバキ言わせながら背のばしからの屈伸をしたりしている
「あー、ようやくひと段落ついたわー…」
「ふん!早く書類を提出しないから徹夜でやるハメになるんだ反省しろ!」
ケロロを怒鳴るのは側でキャンプを張り、武器を磨いている彼の部下であり親友でもある赤い体色に左目に傷、額にドクロマークと襷掛けしたベルトが特徴のギロロ伍長だ
「あーはいはい、はーしっかし年々徹夜するのキッツイでありますなー……」
「軍人がそんな腑抜けたことを言ってどうする!」
「いやー今でも出来るだろうけどキツイものはキツイでありますよー」
ケロロは本部に出す書類をギリギリのギリギリまでサボり引き延ばし、今日なんとか徹夜して提出した
そして今日の掃除当番は彼なのでそれを片付けた所だ
「さーて、洗濯物もしまい終わったし昼寝でもするd」
「貴様そうして寝過ごして今日の侵略会議をサボる気だな?」
「ギクゥッ!仕方ないでありますなぁ……それじゃあガンプラでもして時間を潰s」
「確か貴様またマスターグレードの何らかを買ってたよな?それで集中しすぎて会議サボる気だろ…?」
「……我輩の事よくわかってるでありますなぁギロロ伍長?」
「何年の付き合いだと思っている!?貴様がさっさと侵略せんから書類仕事も増えるんだぞ!」
「わかってるでありますようるさいなぁ。けれども気分転換になんかしたいでありますよ!」
ギロロは舌打ちしながらあるものを差し出す
「だったらこれでもどうだ?」
「コーヒー入ったぞ」
「おーありがとうであります…アチチ」
ギロロから受け取ったコーヒーを啜りながらテント側の焚き火を前にケロロは腰掛けていた
そしてあるものを転送する
それは真空パックの袋に包まれた箱
ケロロは真空パックを無造作に破り中から小さな棒を出して口にする
それはタバコだ
ケロン軍ではレーションを頼むとお酒、お菓子、それからタバコのどれかを事前に頼めばセットしてくれるのだ
そして更に給与から天引きされるものの追加料金で軍から支給される安物よりも良質な物を取り寄せることもできる
ケロロが頼んでいたのもそれだ
彼のお気に入りの名柄『ラッキースターアライブ』
基本的に運否天賦に身を任せる享楽的なケロロにピッタリのフレーバーでかつて成人して間もない頃、父と共に父のお気に入りのシガーショップでアレコレ試させてもらってしっくりきたのがこれだ。そして血筋からか何と父も同じ銘柄を好んでいたのは今思い出しても良い思い出だ
そんなノスタルジーと共にタバコに火をつけて体に悪い煙を吸い込む
肺が紫煙に満たされて頭が痺れていく感覚を味わう。久々なので良く効くのかくらっとくるがそれでもタバコは美味かった。コスプレの一環で葉巻を咥えた事もあったが真にタバコを味わったのはここにきて初めてなきがする
「あー…久々のタバコうっめぇわ…」
「目は覚めたか?」
「大分…それにしてもギロロはタバコ吸わんでありますか?」
その一言でただでさえ眉間に皺が寄っているギロロの皺がより深まる
ギロロはそもそも嗜好品は好まない。まず彼は戦場を駆け回る事それこそが最大のストレス発散だからだ
菓子は基本好まない、焼き芋程度で十分だ
酒はダメだ体質が合わず一滴も飲めない…そのせいで父と兄に笑われたのは苦い思い出だ
そしてタバコも一つトラウマがある
それはかつて彼がまだ上等兵に上がったばかりの頃、
「ギロロって嗜好品なにもたのまないのかい?」
そう言ったのは当時の上官である。
「ハッ!自分は酒がのめません!菓子も苦手です!そしてタバコは肺が汚れスタミナが減るリスクを避けるべきだと考えています!」
そう生真面目に答えるギロロに上官は苦笑しながら言う
「言う事もわからないではないがどれか一つでもあると違うぞ?」
「と言うと?」
「いいかこの先、お前が敵兵に尋問したり地元民と交渉する事が否応なくやってくる。その時に使える手が嗜好品だ」
上官は言う。戦争をしていると敵対者とは例え同じ星の種族であっても別の生き物と捉えて拒絶する例は多々ある。その心の壁を取り払うきっかけになるのが同じものを共有することだ。同じ釜の飯を食えば相手を否応なしに同じことを考えるモノだと認識できるのだ。それの選択肢足り得るのが嗜好品という訳である
「まぁお前の好き嫌いはともかく軽量化もされてるから持っておくだけでもちがうと思うぞ」
「なるほど…」
「そうだ、軍の安物よりもうまいモノを吸えばお前も気にいるかもしれんぞ」
そう言って上官は手元から何かのセットを出すとあっという間に手巻きのタバコを作り上げたのだ
「ホラよイッポンやるわ」
「ハッ…どうも…」
ギロロは怪訝な顔ながらもさっきの話を聞いてこれも訓練と思い煙を吸う
そして
ギロロは倒れた
「えぇぇえ!!?」
上官は慌てふためき救護兵に運ばれてその日の作戦にギロロは参加する事ができなかったのだ
原因は手巻きタバコ
タバコを湿らすのに使ったアルコールが煙と共に微かにギロロの肺から侵入し彼の一滴でも撃沈する身体に襲いかかったのである
「俺はタバコは好かん…有用性は認めてるがな」
もし彼がまた軍事作戦にするならまだマシな菓子の方が良い
「へーへー、見た目はコワモテなのに相変わらず酒もタバコもダメとは可愛らしいこってこのアカダルマは…」
「黙れ!ほれ、コーヒーのお代わり淹れるぞ!」
「だったら拙者もご相伴に預かってもよろしいかな?」
そう言っていつのまにかケロロ達の前に腰掛けたのは青い体色で灰色の頭巾をかぶり、同じく灰色の布で口元を覆い腰には刀、お腹と額に十時が刻まれた2人の幼馴染のドロロ兵長だ
「あれー、ドロロ早いじゃん会議まで時間あるのに」
「基地の畑の手入れをしていたのでゴザルよ、冬樹氏達へのお裾分けも冷蔵庫にしまっておいたでゴザル」
そう言ってドロロは手元からキセルを取り出して火をつけている
「おー、ありがとうであります!それにしても…」
「はて?」
「いや普通ニンジャでキセルって相性いいじゃん?なのにドロロとタバコだとイマイチしっくりこないんだよね」
「あぁ何故か俺もそう思う。」
ドロロは苦笑しながら答える
「拙者の…ボクの場合昔は喘息気味だったしね…そのイメージが今でもあるのでは?」
ケロロはポンと手を叩いて納得した
「あー!それだわ!昔から風邪気味だったもんなであります!それにしても今は大丈夫でありますか?」
「アサシンの修行でこんなモノ大した影響はござらん」
アサシンは極限環境に適応するために宇宙中からあらゆる毒物や麻薬を無理やり味合わせて耐性をつけさせる
その途中で薬に溺れて心を壊す者は後を絶たない
しかし師であるジララはそのような兵も使いこなしてみせたのだ
そんな中でドロロ…ゼロロは苦しみ抜いて耐え切った
そのおかげで救われた事も数知れずだか決して良い思い出ではない
今の彼にとってタバコの毒なぞ七味唐辛子の麻の実程度だ
「はえー流石はアサシンのトップでありますなー」
ケロロの空々しい賛辞を受け流しドロロは苦笑する
「いやそれでもボクもまだまだだよ、この地球の忍びのもの達の罠にはあっさり引っかかってしまったし…それに」
「それに?」
「タバコで思い出したんだけど小雪殿ボクがタバコ吸うと顔を顰めるんだよね多分無意識だと思うけど」
「あー小雪殿は嗅覚鋭そうでありますからなぁ」
「タバコは匂いが残りやすいのだからそれだろ?」
「ボクの体はもう体臭とかなくなってしまって匂いもつかないんだけどね…」
そう言って布越しで煙を吐き出す様子を見てケロロは思案する
相変わらずどうやって吸って吐いているのか不思議な男である
以前からガスマスクをつけて吸えていたのはわかるが今はまるでただの…ぬ……の…………
「ドロロさぁ…」
「うん?どうしたのケロロくん?」
「その布ってペコポンについてから手にしたんでありますよね?」
「左様、これはボクが忍びになった証でもあるからね」
「流石にそれ一枚ってことないよね?」
「左様、毎日きちんと洗濯してるでゴ…」
ドロロは目をカッと開いてケロロ達へ背を向ける
そしてするりと口布を外して嗅ぐ
「これが匂いついてた原因でござったか……」
頭を抱えるドロロにケロロは肩に手をやる
「まぁこれで原因わかってハッピーハッピーじゃん?それにほらドロロが毎日洗濯してるのは小雪殿もわかってくれてるし…」
「拙者は何という未熟…まさかケロロくんに指摘されるまで気がつかないなんて…」
「あっれー?!そこで我輩下げます普通!?まるで我輩の目が節穴みたいじゃん!」
「節穴だろ」
「節穴でゴザル」
「キーっ!何よいきなり2人して息ピッタリで!!」
そして彼らは会議の時間までだべり続けたのであった
おまけ
「ドロロ、ただいま!」
「小雪殿、おかえりなさいでござる!今日は田楽でゴザルよ!」
「うん!…ドロロ、タバコ吸った?」
「えっわかるでゴザルか!?口布をしっかりと交換したのに!?」
「うーん、何となく?」
(やはり地球の忍びとは只者ではない…!)
「ただいま軍曹!」
「冬樹殿!おかえりであります!その紙袋は何でありますか?」
「うん、駅前の古本屋で珍しい文献がね…あれ?」
「?…冬樹殿どうかしたんでありますか?」
「軍曹ってタバコ吸うの?」
「えっわかるでありますか!?きちんと歯磨きはしたんでありますが…」
「ママが昔タバコ吸ってたらしくて何となくね。ねぇ軍曹」
「?」
「タバコってそんなにいいものなのかな?吸わないほうがいいってみんな言うけど未成年で喫煙して問題になるのはずっとあるし」
「そう言うのは無理に大人ぶりたいガキがやるだけであります。冬樹殿には言っとくでありますがまぁ基本的には吸わないで越したことはないでありますよ。…それでも」「それでも大人になると吸いたくなる時がくるのでありすよ色々と…ね?」
「冬樹殿なら大丈夫でありましょうがもしもそんな気分になったら、ママ殿に夏美殿、それに我輩達に話して欲しいであります!」
冬樹は紙袋を置いてケロロを抱き上げる
「うん!ありがとう軍曹!」