ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「ってなことがあってさぁー、マジで死ぬかと思った」
ヴァルガで「ブラックハンター」にリンチされかけた翌日、あたしは都立総合病院の一室を訪れて、ベッドにもたれかかっている女の子──義妹のリッカに苦笑を交えて語りかけていた。
「……そう、なんだ。ごめんね……わたしがもっと、集団戦を想定していれば……」
「いやいや、普通に十対一なんて想定外で当然だし……はぁ、暗い話しちゃってごめんね?」
「ううん、しーちゃんは、悪くないよ……けほっ……」
リッカは、致命的な病気を抱えているからここにいるわけじゃない。
ただ、人より大分虚弱体質だから、病院で面倒を見てもらっているのだ。
それは風邪を引きやすかったり、そこから拗らせてしまいやすかったりするだけでなく、その他諸々、他人より生命力とでも呼ぶべきものが弱いからだった。
「……ごめんね、しーちゃん。いつもわたしが迷惑かけて。ごめんね、わたしなんかが作ったガンプラで戦わせて……」
「だから、大丈夫だって! 泣かないでよ、リッカ。動画見よ?」
六花。雪の異名の通りに儚く溶けて消えてしまいそうな義妹を抱きしめて、長く伸ばされた色素の薄い髪の毛をあたしはそっと撫でた。
ぽろぽろと涙をこぼすリッカを宥めつつ、ダイバーギアを操作して、昨日の連勝動画を再生する。
愛する義妹の生きがいと、生きている世界は、ガンダムというコンテンツでできている。
あたしも付き合いで見ているうちにハマって、だから、リッカの作ってくれたガンプラでGBNをやったりしていたりするんだけど。
でも、リッカにとってガンダムやガンプラ、GBNは冗談でも比喩でもなく「生きる全て」なのだ。
病院という狭い世界で生きていくしかないリッカにとっての、全て。
「どうかな? ここのアンチマテリアルライフルを渓谷の下に隠してたのとか、結構いい判断だと思うんだけど」
「……うん……しーちゃんは、すごいね……わたしがGBNをやっても、この子をこんなに上手く動かしてあげられないよ……」
「またまた、作ったのはリッカなんだから自信持ちなって!」
一戦目から順を追う形で動画を再生して、あたしはリッカに「世界」を見せてあげる。
本当ならリッカもGBNにログインして、あの世界をエンジョイしてもらいたいんだけど、今はまだフルダイブ型VRゲームが、虚弱体質にどう作用するかわからないから、保留という判断が先生から下されている。
だから、あたしはリッカの「目」になると決めた。
……父親を事故で亡くしたあたしとお母さんをあたたかく迎えてくれた、リッカとお義父さんのためにも。
リッカが作ってくれたガンプラを使って、バトルで勝って、勝ち続けて。
とにかく、喜ばせてあげる。義妹が生きがいを失ってしまわないように。
それが、あたしにとっての日常だった。
「……この人たちが、『ブラックハンター』……?」
黒と灰色に染められたジム・スパルタンを率いるレッドライダーとジム・スパルタンのミキシングモデルを指して、リッカが問いかけてくる。
このミキシングモデルに罪はないけど、見ているとレザードのヘラヘラ笑いを思い出して、むかっ腹が立ってきた。
……と、まあ、多分もうあたしには関係ないから刹那で忘れることにするけど。
「そうだね。あたしも噂ぐらいしか聞いたことなくて、実物とは昨日初めて遭遇したばっかだけど」
「……噂……?」
「なんか、名前は覚えてないけど、最近GBNで流行り始めてるチートツール。あれに手を出して初心者狩りしてるとか」
チートツールなんか運営が対策すればいいのに、とはぼんやり考えているけど、運営がなにを考えているかなんてわからない。
それにもし、なんらかの理由で「対策できない」のだとしたら厄介だ。
あたしが運よく遭遇してこなかっただけで、今はもうGBNに蔓延しているって話もあるし、なんだか考えているだけで憂鬱になってくる。
「……この、ヘビーガンダムの人……」
「うん。集団戦を意識したカスタマイズしてるのもあるけど、純粋にあたしより上手い」
連邦軍のパイロットスーツに身を包んだ黒髪黒目の営業マンじみた人……確か、ダイバーネームはクーロウさんだったか。
なんかものすごく借金してそうな名前だ──っていうのは失礼だけど、とにかく腕前が、ガンプラ作りの方面でもバトルの方面でも半端じゃない。
十機近くのジム・スパルタンを飲み込んだメガ粒子砲は、よくよく見ると本体から供給されるエネルギーだけでなく、エネルギーパックを増設してさらに出力を高めてるみたいだし。
「……『ヴァイスガード』って言ってたね……しーちゃんは、フォースに入らないの……?」
映像を閉じると、リッカが儚げな雰囲気を纏って微笑みかけてくる。
「フォースかぁ……あたしは別にリッカが満足できるバトルをしたいだけで、あんまり交流とかそういうのは考えてないかな」
「……そう、なんだ。でも、しーちゃんは、強いから。もったいないよ……」
もったいないって言われると入った方がいい気がするけど、あたしみたいな「ハンター」こと、フリバ専門のダイバーを雇いたいフォースなんてそうそうない。
ましてや、ダイバー間での評判が悪いハードコアディメンション・ヴァルガに入り浸っていると聞けば、まともな人は大抵逃げていく。
でも、この前みたいに「ブラックハンター」のような多勢に無勢を強いるような相手と戦わなきゃいけないことを考えると、フォースに入った方が、メリットがあるのは確かで。
「考えとくよ。誘われたらそこに入ってもいいし」
「……ごめん、ね。無理を強いるようなこと……言って……」
「いやいや、全然謝ることじゃないって! それじゃあたしはまたGBNに潜ってくるから、リッカも元気でいてね!」
ダイバーギアとイフリート・イェーガーを回収して、あたしはリッカに手を振り、踵を返した。
ガリガリに痩せ細ったあの手が、次来たときは少しだけでもふっくらとしていることを祈りながら。
生きがいという名の一時しのぎを提供してあげることしかできない、情けない自分から、目を逸らしながら。
なんか湿度高いっすね