ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「ねえクジカワさん、よければでいいんだけど、一緒にカラオケ行かない?」
翌日の放課後、あたしは珍しくクラスメイトから声をかけられていた。
カラオケ……ってことは多分欠員の補充かなんかだろう。
今声をかけてきたクラスメイトこと、サクラバさんはクラスの中心的な女の子だし。
でも、あたしはどっちかというと浮き気味だ。
友達がほしくないとか、孤高を気取ってるとか、そういうのじゃなくて、単純にリッカとGBNのことで頭がいっぱいで、友達作りどころじゃないからだった。
サクラバさんがそんなあたしにわざわざ声をかけてくれたって事実は嬉しいけど、今日はバトルじゃなくて趣向を変えて採取ミッションでイフリート・イェーガーを動かしてみようと画策していたのだ。
「ごめん、今日の放課後もバイトあって」
「そうなんだ……なんのバイト?」
「んー、動画編集……?」
咄嗟に嘘をつくことで、穏便に事態を終息させようとしたけど、まさか深掘りされるとは思っていなかった。
一応、動画を撮って編集して、リッカに見せてるから、そこは嘘じゃないんだけど。
重ねていうけど、カラオケとか、プリクラとか、コスメとか、今時の女子高生が胸をときめかせるような話題に興味がないわけじゃない。
それ以上に、義妹のことが大事で、心配だからだ。
「そっかー、最近G-Tuberとか流行ってるもんね、クジカワさんはそういうのに詳しいんだ」
「あはは。バイトでやってるだけだからそこそこだよ、そこそこ」
「また今度、機会があったら一緒にカラオケとかゲーセンとか行こうね」
「うん、機会があればね」
少なくとも、高校に籍を置いている間は一生来ることのないであろう機会への約束という名の別れを互いに告げて、あたしは教室を去った。
陰であれこれ言われてたりしたら嫌だな、とは年相応に思ったりもするけど。
でも、それ以上に、リッカが曇った顔を見る方が嫌だから。
†
「ドロップ率0.01%のアイテム収集動画って、本当に需要あるのかなあ」
思いついたはいいけど、肝心のアイテムが見つからなくて三時間ほど経過していた夜、あたしはイフリート・イェーガーのコックピットから降りて、徒歩でディメンションの探索を行っていた。
噂ではここで「純銀の一夜花」とかいう、換金すると百万ビルドコインはするらしいアイテムがたまにドロップするから、GBNの戦闘だけでない景色をリッカにも見てもらおうと歩いていたら、急に我に帰ってしまったのだ。
なんせ、三時間ぐらい目を皿にして探しても見つからないんだから。
一応、このミッションの達成条件は「純銀の一夜花」の納品ではなく、そこら辺に売るほど生えている「月夜花」を納品するだけだから、クリアするのは初心者でも簡単だ。
まだ感覚のフィードバック技術が曖昧なGBNだけど、こうして草木がさざめく音を聞きながら、ゆっくりと探索するのも悪くない──なんて、呑気でいられたのは精々最初の一時間ぐらい。
残り二時間は、草むらをかき分けたり、時折イフリート・イェーガーに乗り、センサー類をフル活用して「純銀の一夜花」を死んだ目で探し続けていた。
「ドロップ率の設定間違えてない? それとも単純にあたしの運が悪いだけ?」
0.01%を早々に引き当てられるとは考えていないけど、三時間も捜索して手掛かりゼロというのは、中々精神的にくるものがある。
もういっそ、そこら辺に生えている「月夜花」を納品してクリアしてしまおうか、と諦めが脳裏をよぎったときだった。
きらり、と淡い月光を反射して微かに輝くものが、草むらの中に見えた。
「あれって……もしかして!」
草むらをかき分けて、光の下へ駆け出していくと、そこには確かに純銀製としか思えない花弁を開いた花が、ポップしていた。
「早速収集してアイテムストレージに……って、きゃあっ!?」
爆発音が近くで聞こえたのは、ちょうどそのときだった。
一体なにが起きたのかはわからない。
まさか、「純銀の一夜花」に触れたダイバーの周囲を爆破するなんて物騒なパッシブ能力がついてるはずがないし──と、振り返って上を見上げると。
『お嬢さん、怪我したくなかったらこっちにそのレアアイテムを渡してくれない?』
紫色の禍々しいオーラに包まれたバウンド・ドックが、あたしへ銃口を向けて、脅迫を口に出していた。
冗談じゃない。
三時間探し回ってようやく見つけたレアアイテムを、タダで渡せなんて、いくらなんでも厚顔無恥がすぎる。
「お断り! ストレージ収納……きて、イフリート・イェーガー!」
あたしは即座に「純銀の一夜花」をストレージに収納して、愛機を呼び出した。
フリーバトル申請が投げられていないのに攻撃してきた相手から身を守るため、そういう輩への反撃はPKにカウントされていない。
だから、安心してこっちも反撃できるというものだ。
『驚いたわ、アナタまさか、ガンプラバトルで勝てると思ってるの? このアタシに?』
「そういう台詞は……勝ってからいうものなんだけど!」
あたしは躊躇いなく、二丁携行しているソードオフショットガンの引き金を引いた。
放たれた弾丸は、確実にバウンド・ドックに直撃し、粘着榴弾が爆ぜたはずだったし、間違いなく直撃は確認している。
だけど、刹那の間を置き、爆炎の中から姿を現したのは、全く無傷のバウンド・ドックだった。
『ふ……ははは、あっはははは!!!! ただのガンプラがブレイクデカールを使っているアタシに勝てるわけないじゃない! 笑わせてくれるわね、本当に愚かで!』
「ブレイクデカール……?」
そういえば、なんかそんな名前のチートツールが流行り出しているとは聞いた。
なんでも、ガンプラのステータスを異常参照させて過剰なまでに強化するとか。
対面するダイバーは、どうやらそんなチートを使っているらしい。
「まさか、姿が全く見えなかったし、レーダーに引っ掛からなかったのも……!」
『そういうこと。レアドロ掘りなんて馬鹿馬鹿しいでしょ? それなら見つけた相手から奪えばいいじゃない』
タイパってのはそういうことよ、と嘯いて、対峙するバウンド・ドックは拡散メガ粒子砲の銃口をあたしに向けてきた。
恐らく、今度はチートで威力や攻撃範囲を強化してくるのだろう。
回避手段は? それ以前に攻撃を阻止する方法は? ソードオフショットガンがダメならアンチマテリアルライフルは?
頭の中でいくつもの考えが一瞬のうちに巡るけど、そのどれもが「不可能だ」という判断を理性が下していた。
『撃墜はしないわよ、「純銀の一夜花」を渡してもらわないと困るもの……それじゃあ、己の無力を噛み締めなさいな!』
「くっ……!」
ブレイクデカールを、あたしは知らなかった。
だけど今、知ってしまった。
ブレイクデカールが誇る猛威を。対抗するための手段は、ダイバー側にはほとんどないことを。
なら、諦めてストレージから「純銀の一夜花」を差し出す? 冗談じゃない。
だったらせめて、一矢報いてからだ。
あたしは即座にブーストを噴かして急上昇、拡散メガ粒子砲の直撃をある程度受けながらも、腰にマウントしていたアンチマテリアルライフルを構えて、バウンド・ドックの関節部──特に、変形するときによく使う腰の辺りを撃ち抜いていた。
『こいつ、関節部を……っ!?』
「アンチマテリアルライフル級の火力があれば、バフの上からでも抜ける、か……」
検証は終わった。
問題があるとするなら、もう既にあたしのイフリート・イェーガーのダメージは限界に達していて、両脚も破壊されていることだ。
あとはこのままじわじわと、「純銀の一夜花」を渡すまで嬲られ続けるんだろうけどそこはそれ。
たとえPKされても、あたしはこれを渡さない。
負けたのは、格好つかないけど。
リッカに、情けない姿を見せたくはないから。
「ははっ、我ながら情けな……」
ふっ、と笑って、損傷したバウンド・ドックがゆっくりとこっちににじり寄ってくるのを眺めていたときだった。
レーダーを急速によぎっていく機影が映る。
メインカメラもほとんど死んでいるから、ノイズ混じりにしか見えないけど、あれは。
『……』
『なに? アナタも横取りにきたってわけ? でもさせないわよ、この獲物はアタシが先に見つけ──』
『マスダイバーは許さない』
『……ッ! まさか、アンタ……!』
かろうじて見えた機影は、ケンプファーに似ていなくもなかった。
だけど、ほとんど闇に同化していてわからない。
ただ一つ、わかるのは。
『拡散メガ粒子砲で消えてしまいな!』
『……』
バウンド・ドックが再び拡散メガ粒子砲を構えて推定ケンプファーを撃ち落とそうとする刹那、バチバチと火花が散る音が聞こえた。
音の正体は、あたしが撃ち抜いた腰部からのエネルギーバイパスが繋がらなくなったせいで起きた、漏電だ。
そのせいで、拡散メガ粒子砲の発射がわずかに遅れて。
『ちょっと待ちなさい、フリーバトル外でコックピットを狙ってダイバーをキルするのは、PKよ!?』
『関係ない、マスダイバーは私が潰す』
『こ、この──「闇狩り」がぁッ!!!!』
恨み言を叫んで、コックピットを貫かれたのであろうバウンド・ドックが爆散した。
PKの汚名を被ってでも、マスダイバーを始末する──執念にも似た気概を感じる。
一体なにが、推定ケンプファーを操っている女の子の原動力になっているかはわからないけど。
「助けてくれて、ありがとね」
『……助けたつもりはない。マスダイバーがいたから殲滅しただけ』
「それでもお礼ぐらい言っておかないと、気分悪いじゃん」
『……』
黒髪に赤いメッシュとインナーカラーが入っている推定ケンプファーを操る女の子は、あたしの通信にきょとんとした顔で小首を傾げたように見えた。
『……助けられたのは、私も。あなたが事前にダメージを与えていなかったら、拡散メガ粒子砲を抜けられてたかわからなかった』
「そっか、ならお互い様ってことで」
『……お互い様』
「そうそう、こんな世の中だしね。お礼ぐらいは分かち合いたいでしょ」
マスダイバー。
恐らくはブレイクデカールを使っているチーターのことを指して、人は呼ぶのだろう。
運営がなぜか対策もしていない以上、これからきっと、GBNには加速度的にマスダイバーが増えていく可能性がある。
それはともかく、あたしは女の子に微笑みかけて、拳を軽く突き出した。
女の子は、困ったような顔をすると、おずおずと画面越しに拳を突き出してくる。
そして、踵を返して去っていった。
「『闇狩り』かぁ」
また会う日が来るかどうかはわからないけど。
とにかく、助けられた恩は忘れないでおこう。
あたしはコックピットを出て、その辺に生えていた「月夜花」を納品し、ミッション報酬を受け取ると同時に、GBNをログアウトした。
レアドロ掘りは沼