ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「むむむ……」
昨日、マスダイバーに絡まれてからそっち、あたしは妙にもやもやした気持ちを抱きながらダイバーギアとスマホを交互に眺めていた。
昨日はたまたま「闇狩り」さんが助けてくれたから窮地を脱することができたけど、あたしはほとんどなんもしてないからだ。
それは流石に、そこそこバトルで鳴らしているダイバーとしては沽券にかかわる。
加えて、これからのフリーバトルにマスダイバーが混ざってくる可能性を考えると、なにかこっち側でも打てる対策を考えておく必要があるだろう。
そこであたしは、GBN内の掲示板やら外部のサイトとかを見て、マスダイバーの情報収集と、対策の検討をしていたわけだった。
一応、実感として「アンチマテリアルライフル級の攻撃なら防御が強化されていても多少は通る」というものはある。
ただ、アンチマテリアルライフルを常に持ち歩いて戦うのは非現実的だ。
だから、もう一手ほしい。
リッカの作ってくれたガンプラは悪くないから、落ち度があるのはあたしの方だし。
「はぁ、コックピットをぶち抜いてダイバー本人をキルすれば、ブレイクデカールを使っていてもマスダイバーを討伐できます、か……それができたら苦労しないんだよねぇー」
マスダイバーのガンプラを貫徹するだけの武装と、コックピットを正確に狙えるエイムの合わせ技を瞬時に要求されて実行できるのは、最早人外かなにかだろう。
あたしはお昼ご飯として買ってきたメロンパンをもそもそ食べながら、項垂れる。
一応、腕前に自信はあるからやってやれないことはないんだろう。
だけど、マスダイバーの装甲を貫徹する火力。
これが大きな足枷になっている。
ソードオフショットガンですら効かないってどうなってんのよ。
「これは……プラグインとやらを頼る必要があるのかな」
牛乳でメロンパンを流し込みながら、あたしは掲示板で集めた情報を整理する。
基本的にあたしのイフリート・イェーガーは内部での拡張要素に手をつけていない。
面倒だからだ。
膨大な数のスキルと、ガンプラを補助するためのシステムであるこれまた膨大なプラグイン。
全容は複雑怪奇すぎて、ビルド構築スレでは日夜議論が行われているのも頷ける。
だけど、マスダイバーを狩っている人の中には自分のビルドを公開して、与ダメージ上昇系のプラグインを火力スキルと併用すれば、マスダイバーの装甲を貫徹できると証明している人もいた。
と、なれば、あたしがやらない理由はないわけで──と、ぼんやり考えを巡らせていたときだった。
「……それ、ダイバーギア?」
「わわっ!?」
唐突に後ろから声をかけられて、あたしは椅子からひっくり返りそうになってしまう。
振り返ると、そこには黒髪黒目で、癖っ毛がちなあたしと違ってサラサラストレートを腰まで伸ばしたクラスメイトが立っていた。
えーっと、名前は確か。
「アマミさん……だったよね?」
「……うん。アマミ。アマミ・サヤ」
「じゃあ、もしかしてアマミさんもGBNやってる系?」
「……ちょっとだけ」
アマミさんは小さく頷く。
そっかー、それにしたってGBNやってるクラスメイトがいるとは思ってなかったなあ。
いや、全世界で二千万人のアクティブユーザーを抱えてるゲームだから、その辺で石投げたらダイバーに当たる確率はかなり高いんだろうけども。
「ごめんなさい、お昼の邪魔して」
「ううん、そんなことないよ? アマミさんはGBNガチってる人? エンジョイしてる人?」
「区分がよくわからないけど、やってる人……かな」
「そっか」
ガチ勢でもエンジョイ勢でもなく、カジュアルにゲームとして接しているタイプか。
「それなら一つ聞きたいんだけどさ、アマミさん。プラグインってどうやって集めるの?」
「普通はミッションをクリアしたときの報酬や、ランダムドロップだけど……他のダイバーが売りに出しているのを買う手もある、かな」
「ああ、ショップ機能もあるんだっけ」
「うん。ペリシア・エリアに行けば、めぼしいものが見つかるかも」
「ありがと」
「……これぐらい、別に」
それだけ返して自席に戻ったアマミさんは、あたしの不躾な質問にも丁寧に答えてくれた。
うーん、いい人なんだなぁ。
それにしたって、ペリシア・エリアか。
他人の作ったガンプラを眺めるのがメインのエリアで、原則として戦闘は禁止されているから、立ち寄ったこともなかった。
幸い、昨日「純銀の一夜花」を売却したおかげでBCには余裕がある。
帰ったら、早速立ち寄ってみることにしよう。
†
「燃焼ダメージのプラグインなんてそんな産廃を買い込んで、なにに使うつもりだ、あんた?」
放課後、早速自宅に帰ってGBNへとダイブしたあたしは、ペリシア・エリアで露店を開いていたダイバーから「燃焼ダメージ付与」や「燃焼ダメージ増加」、「燃焼ダメージ時間延長」といった、デバフに関わるプラグインを買い込んでいた。
GBNのビルドにおいて、スロットの限界があるプラグインは、基本的に汎用性が高いものを優先して搭載すべきだとされている。
その中でも、デバフは極めて優先度が低い。なぜなら、与ダメージ上昇系で殴った方が強いからだ。
「んー、強いていうなら自衛のためですかね」
「よくわからんな……まあいいさ、毎度あり」
「ありがとうございまーす!」
そして、低レアのプラグインは専門の施設に行けば合体することで枠を整理しつつ効果を強化したり、新しい効果を持つものに生まれ変わらせることもできる。
今回あたしが燃焼デバフのプラグインをかき集めていたのは、それが狙いだった。
マスダイバーに通常攻撃が通じないなら、固定値で焼き殺してしまえばいい。
要は固定で入るスリップダメージを強化することで、アンチマテリアルライフルによる狙撃以外にも、戦術の幅を広げたかったのだ。
「あとはプラグチューナーってNPDを探せばいいんだっけ」
プラグチューナー。
プラグインを合体させたり分離させたりすることができる専門のNPDと施設のことで、ペリシア・エリアにも存在している──らしい。
らしい、というのは、行ったことがないからだ。
先行き不安しかないけど、行けばわかるしなんとかなる。
とにかくそんな一心で、あたしがマップ上にピン刺ししたプラグチューナーの居場所に向かおうとした、刹那。
ぞろぞろと、大勢の人がペリシアの裏通りに集まっていくのが見えた。
(行列? なんかあるのかな)
イベントの予定はないはずだけど、結構な人数が人目を憚るように周囲を警戒しながら歩いている。
あたしは、彼らについていくことにした。
半分は好奇心、半分は猜疑心で。
「おい、本当なのかよ……過去のコラボイベントでしか手に入らなかったアバターが手に入るって」
「ああ、
ひそひそと囁きあっているダイバーたちの声に耳を傾けつつ、あたしは物陰に隠れながら行列の後ろをついていった。
過去のコラボイベントでしか手に入らなかったアバターや、上位報酬を格安で売ってくれる。
それだけなら、ただの慈善家なんだなあ、の一言だけど、どうにもきな臭い。
そういう善良なコレクターは、噂が広がるのを基本的には嫌う傾向にある。
理由は単純、在庫が限られているからだ。
でも、三十人近くの客を相手にそんなレアモノを放出できる懐の広さと在庫を持ち合わせているダイバーがいる、なんて、しかも一定まで噂が広がっているのを良しとしているなんて、前代未聞もいいところだった。
目的地と思しき、路地裏に立てられたコテージには、同じような噂を聞きつけた客が殺到している。
「ほ、本当にあんた、金色のバラをたった十万BCで売ってくれるんだな!?」
「ええ、ええ。そうですとも。在庫は潤沢にありますので皆様、落ち着いて並んでくださいね」
……太っちょのおっさん、もとい、昔の豪商を思わせるダイバーが、これ見よがしにストレージからレアアイテムを出して、広げているのが微かに見えた。
確かに──金色のバラや、あたしが昨日目を皿にして探し回った純銀の一夜花も大量に、掃いて捨てるほど並べられている。
……あのドロップ率のアイテムを、こんなに?
「なあバティンさん、あんた初期イベの上位ランカーしか手に入れられなかった『アメイジングトロフィー』も売ってくれるんだよな!?」
「ほっほっほ、いかにも。お代さえ頂ければの話ですが……」
「か、金ならある! 売ってくれ!」
「ほっほっほ……毎度ありでございます」
「やった! 俺もこれで……!」
まるで薬物の売人と中毒者のようだった。
しかも、初期に開催されたイベントの上位報酬を気前よく手放すだなんて、都合のいい話があるだろうか。
あたしの疑念が最高潮に達した、刹那。
「……残念ながらあなたの商売はここで終わる」
「な、なんですか貴女は!?」
気づけば、バティンと呼ばれていたダイバーのコテージを切り裂いて、後ろから侵入してきた仮面の女の子が、銃を突きつけていた。
「おいお前、バティンさんは善良なコレクターなんだぞ!? それに、ペリシア・エリアでPKなんて、どんなペナルティが課せられるかわかってるのか!?」
客の一人が、PKを試みる女の子に叫ぶ。
だけど、女の子は動揺することもなく、銃口をバティンに向けたまま、答えを返す。
「その男はアイテムを違法入手しているマスダイバー。だから潰す」
「なんだって!?」
「普通に考えたらわかる。レアドロップ品がこんな異常な安値で売られているわけがない。過去イベの上位報酬ともなれば尚更よ」
「ほ、ほほほ……言いがかりはやめることですな、お嬢さん。私は一介のコレクターに過ぎません。それに、ブレイクデカールはあくまでもガンプラを強化するためのもので──」
「……メインフレームに介入し、望んだ効果を引き出すのが、ブレイクデカールの能力よ」
バティンの言い訳を切って捨てた女の子は、にわかには信じがたいことを言ってのけた。
メインフレームに介入するチートツール。
だとしたら、ブレイクデカールはとんでもなく危険なモノということになる。
「……だから、潰す」
「お、お前はまさか──『闇狩り』!?」
「正解」
ざわざわと客たちの間にも動揺が広がる中で、女の子──私を救ってくれた「闇狩り」さんは、躊躇うことなくバティンを射殺しようとトリガーを引いた。
──だけど。
銃弾がバティンに届くより早く、地鳴りと共にコテージが崩壊して、一機のガンプラが姿を現した。
『おのれ……私は他のマスダイバーと違って他人に迷惑をかけてはいない、むしろ他人を幸せにしているとというのに、血も涙もない! こうなったらお前も道連れですよ、「闇狩り」!』
「ガンプラバトルね。その方がわかりやすくていい」
バティンが呼び出したガンダムサンドロック改に対抗する形で、「闇狩り」もまた、愛機であるケンプファーの改造機を呼び出していた。
戦火が広がろうとしている。
戦いの予感に、あたしも思わず身構えていた。
バティンは悪質な転売屋みたいな人