ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
『おのれ……この私を敵に回したことを後悔するがいいですよ!』
『……』
バティンのガンダムサンドロックがヒートショーテルを突きつけても、「闇狩り」のケンプファーは動じることなく、刀を持って佇んでいた。
背部にはユニバーサル・ブーストポッドや、多目的ユニットと思しきシールドが接続されていたり、細かなところの形状が原型機とは微妙に異なる「闇狩り」のケンプファーは、かなり出来がいい。
リッカが作ってくれるから、ガンプラを見る目は結構養われていると思うけど、そんなあたしのイフリート・イェーガーよりも多分、あのケンプファーは数段完成度が上だ。
『ほっほっほ……では、参りますぞ!』
先手を取ったのはバティンの方だった。
ヒートショーテルを砂漠の地面に下ろすと、なんと刀身を車輪のように変形させて疾走し始めたのだ。
ブレイクデカールはガンプラを強化するためだけのチートツールじゃなかったのか、と、思わず声に出しかけるぐらいには驚きの光景だった。
『これだけではありませんぞ……ニィィィドル・ヴェスバーッ!!!!』
『……っ!』
ショーテルを車輪に変えて砂漠を疾走するサンドロックが、今度は脚部をメキメキと変形させて、一門のビーム砲を形作る。
変形した脚部から極限まで絞り込まれたビームが発射されたのを、「闇狩り」は気配だけで察知したのか、ギリギリのところで回避しつつ、ケンプファーのバーニアに点火した。
凄まじい勢いで砂塵を巻き上げて、「闇狩り」のケンプファーがバティンのサンドロックに肉薄していく。
『……もらう!』
『ほっほっほ……ヴァァァカめッ! お前の武器がその刀一本だけなのは事前に知っている! この私がなにも対策を講じていないとでも思ったか!?』
『ッ!?』
今度は、ニードル・ヴェスバーに変形していなかった方の脚が異形へと変わっていく。
クロスレンジに飛び込もうとした「闇狩り」のケンプファーを、巨大な「腕」に変形した脚部が捕らえて、胴体を軋ませる。
まずい。なにをしでかすかはわからないけど、とにかくまずい。
あたしはコンソールを開いて、今詰め込める分だけのプラグインを全て機体に詰め込んでいく。
本当なら、プラグチューナーのところで進化させた方がいいのは十分承知だけど、そんなことをしている時間はない。
巨大な腕に変形させた脚部で、「闇狩り」のケンプファーを捕らえたサンドロックは、膝関節の位置で「腕」を分離させ、そのまま強引に獲物を振り回し出した。
『きゃあっ……!』
『ほほほほほ! 地獄のメリーゴーランドに乗車した気分はいかがですかな!? このまま強制ログアウトになるまで目を回し続けてもらいますよ、正義の味方気取りのPK風情が!』
GBNでは、パイロットに対しての感覚のフィードバックは曖昧になっている。
だから、いくら遠心力で振り回され続けようと、「闇狩り」がペシャンコになったりすることはない。
それでも、強制的に目を回され続けていたら、三半規管へのリアルダメージを考慮して、強制ログアウト措置が取られる可能性は大いにあった。
──だから。
あたしは躊躇いなく、イフリート・イェーガーを呼び出し、コックピットに飛び乗った。
ペリシアでの戦闘は原則的に禁止されている。
だから、周囲のダイバーたちからは散々なほどに野次や文句が飛んでくるけど、それが戦いをやめる理由にはならないことぐらい、あたしが一番よくわかっていた。
「間に合ってよ……!」
スコープを覗き込んで、アンチマテリアルライフルの照準をサンドロックの膝関節につける。
ブレイクデカールによって強化されていたとしても、アンチマテリアルライフルクラスの武器は無効化できないことは実証済み。
そして、あたしには燃焼系プラグインという新しい武器がある。
『ほっほっほ! そろそろ目が回ってきた頃合いではありませんかぁ!? なぁに、遠慮はいらない! 強制ログアウトするまでご乗車権は尽きませんからねぇ!』
バティンの意識は、完全に「闇狩り」だけに向いているのは確認済みだ。
右足のニーパッドを展開して、あたしは膝立ちの姿勢で構えたアンチマテリアルライフルをバティンに向けて、トリガーに指を添える。
確かに、バティンはアイテムの不正入手という悪事に手を染めてこそいたし、「闇狩り」だって、相手がマスダイバーなら、PKも辞さないという強硬な姿勢を取り続けているのは事実だろう。
どっちが正しいとか間違ってるとかじゃない。
これは理屈抜きに、あたしが「闇狩り」に味方したいと思っただけだ。
だから、この一撃はあたしの意思だ!
「くらえ……ッ!」
引き金を引いて、アンチマテリアルライフルから、燃焼効果がエンチャントされた対物弾が飛んでいく。
『ホッ!?』
放たれた弾丸は、過つことなくサンドロックの左膝関節を破壊して、そのまま相手の全身に燃焼状態というデバフを付与する。
できる範囲でダメージを強化して、効果時間を延長してはいるけど、どこまで通じるかは未知数だ。
それでも。
『……っ、解き放たれた……なら、今!』
『ええい、鬱陶しい!』
ケンプファーが地獄のメリーゴーランドから解き放たれた以上、当初の目的は果たしたといえる。
解放された「闇狩り」は、刀を大上段に振りかぶって、推進力でそのままサンドロックを両断しようと試みた。
だけど、バティンも一筋縄ではいかない。
今度はバックパックから腕を生やして、ガラハドのチェーンソーライフルを持たせたそれで刀と鍔迫り合おうとしていた。
『な、なんとっ!? 武器が凍結していく!?』
『……凍結プラグインを強化して進化させた、私の真骨頂。今度は……あなたが凍りつく番よ!』
『え、ええい、こざかしいッ! ならば凍結箇所をパージすればいいだけのこと! ブレイクデカールの力があれば、腕なんてまたいくらでも生やせますからねぇ!』
不敵に笑うと、バティンは捨て台詞と共に、バックパックから生えてきた新しい腕をパージしようと試みる。
だけど、何秒経っても腕がパージされる気配はなく、氷結と燃焼という相反する
脚部からは炎が、背部からは氷が機体を侵食し、砂漠を走る速度も落ちていく。
『なっ、バカな! ありえない! なぜ腕をパージできないッ!?』
『凍結しているからよ』
『なっ、あぁ、ああああああっ!?』
パージしようにも、基部が凍っていて命令を受け付けない──なるほど、あれが「闇狩り」の戦い方なのか。
そして、「闇狩り」は構えている刀身から更に強烈な冰気を発生させて、そのまま速度が鈍ったサンドロックを今度こそ両断しようと加速をかけた。
そして、強烈な速度と共に突き出された刀は、確かにサンドロックの胸部を貫いていた。
──だけど。
『か、紙一重でしたなぁ! コックピットの中にいるダイバーごと機体をキルすれば確かにブレイクデカールに頼らずともブレイクデカールを使用した機体を撃破できる! しかし私はこのように生きている! 今度こそ終わりだ、「闇狩り」ぃぃぃっ!!!!』
ギリギリ直撃を免れていたバティンは咆哮し、今度は肩アーマーと膝アーマーをミサイルポッドに変形させて、「闇狩り」を撃破しようと試みる。
それこそが、命取りであるとも知らずに。
ミサイルポッドが展開されると同時に、燃焼効果が膝アーマーに及んで、発射される寸前のミサイルが誘爆を起こす。
『ば、バカな! こんなはずでは! こんなはずではぁぁぁぁ!!!!』
発射されることなく起こされたミサイルの誘爆は肩が変形したミサイルポッドにまで及んで、バティンのサンドロックは、そのまま爆発四散した。
あーあ、全く。
後先考えないのはあたしも一緒か。
「とりあえずこのエリアからはしばらく出禁かな……」
阿鼻叫喚と化しているペリシア・エリアを眼下に見ながら、あたしは苦笑と共に呟いて、ログアウトを選択した。
†
「くぁ……眠……」
翌日の昼休み、あたしはコーヒー牛乳とメロンパンを頬張りながら眠気に耐えていた。
ペリシア騒動は結構な話題の種になって、バティン経由で入手したアイテムがどうなるのかだとか、マスダイバーに対してこれでも運営は腰を上げないのかだとか、様々な怒りが掲示板上では渦巻き続けている。
もちろん、その中にはあたしと「闇狩り」への非難も少なからず含まれていたんだけど。
「……隣、いい?」
「アマミさん? 別に構わないけど」
「……ありがとう」
そんなこんなであれこれと噂を追いかけて夜更かししていた代償に、強烈な眠気と戦う羽目になったあたしの隣に、同じく眠そうな目をしたアマミさんが腰掛けてきた。
ブラックコーヒーにおにぎりという粗食極まるランチメニューだったけど、それはお互い様か。
あたしも主食はメロンパンだけだし。
「……昨日は、ありがとう」
「昨日? なんかあったっけ?」
アマミさんとの縁は、ダイバーギアを持っていたのを偶然見られた以外になかったはずだけど。
そんなことをぼんやり頭の片隅に浮かべつつ、首を傾げていたときだった。
アマミさんは制服の上着を微かに捲り上げ始めた。
「わー、わー! いきなりなにしてんの!?」
「……そういうつもりじゃないから」
「じゃあどういうつもり──って、あれ?」
アマミさんが突然ストリップショーでも始めるのかと思って気が動転していたあたしは、机の上に置かれたものを見て、正気に戻る。
そこにあったのは、「闇狩り」が使っていた、ケンプファーのカスタムモデルだった。
凄まじいまでの作り込みだ──じゃなくて。
「えっと……これって」
「……私が、『闇狩り』。昨日、バトルログを辿ったら、『シイカ』ってダイバーに助けられたから、もしかして、と思って。もし違ったら……今のは、忘れて」
同名のダイバーなんて探せば腐るほどいそうなものだけど、アマミさんにはなんというか思い込んだら一直線なところがあるようだった。
どう答えたものか。
迷う、というのが正直なところだった。でも。
「うん、あたしが多分その『シイカ』で合ってる」
あたしも、腰のポーチからイフリート・イェーガーを取り出してアマミさんに見せた。
なんでアマミさんが「闇狩り」なんてやってるのかだとか、そういう疑問を一切抜きにして。
ただ、助けたり助けられたりした相手の厚意を無下にはしたくなかったから。
あたしは、アマミさんに向き合うことに決めた。
リアルエンカウント