ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「そうだったんだね、ありがとう」
アマミさんはあたしの手を包み込むように握って、楚々と笑った。
こんなに大人しそうな人が、どうしてわざわざPKの汚名を着てでもマスダイバーを狩り続けているのか。
気になるけど、迂闊に踏み込んじゃいけない部分だから困る。
人の心に踏み入るのには相応の資格がいるって、どっかの誰かも言ってたことだし。
「いや、あたしもアマミさんに助けられたことあるし……それ言ったら、お互い様じゃない?」
「……そう、かな?」
「それに、PKは確かに悪いことかもしれないけど……運営から見逃されてるからって好き勝手してるマスダイバーの方がもっと悪いし」
なんで運営がマスダイバーを取り締まっていないのか、取り締まるにしても一部の自治フォースやアマミさんのような人に任せきりなのかは明確な怠慢だとあたしは考えている。
もちろん、運営には運営の事情があることもわかっているつもりだ。
だけど、「今のところ禁止されていないから」だとか、「運営が黙認してるから」みたいな理由でチートツールを振り翳して得意げになっている連中を放任しているのは、間違っている。
「……そう言ってくれて、ありがとう。私は私が正しいと思っていることをやっているだけだけど」
「うーん、正しいか正しくないかで言えば、ちょっと間違ってるとは思うけどさ」
「……うん。独善。それでも、運営がマスダイバーを放置している以上、私は止まるわけにはいかない」
なにがそこまでアマミさんの信念を頑なにさせているのかはわからないけれど、ちょっとやそっとの非難では絶対に「闇狩り」をやめるつもりはない、という意志が赤い瞳からは感じ取れた。
人を動かすのは過去だって、マクギリス・ファリドが言ってたけど、そう考えるとアマミさんもまた、過去に縛られているのだろうか。
──あたしと、同じように。
「まあ、なんだろう。過激な自治フォースに見つからない範囲でね?」
クーロウさんと「ヴァイスガード」のことをぼんやり思い返しながら、アマミさんへ冗談と苦笑混じりに返す。
「……うん。本当なら、私もどこかのフォースに身を寄せるべきなんだろうけど。悪い意味で有名になりすぎた。それに」
「それに?」
「……私には、約束があるから」
約束、か。
そういう言葉なら、理解できるつもりだ。
あたしがリッカと交わしたように、人間と人間を縛りつけ、人生をかけるに値するだけの契約を指して、人は呼ぶのだから。
「なら、約束を果たすまで頑張らないとね。あたしも、義妹との約束のためにGBNやってるようなもんだし」
「そうなんだ……その、よければ」
「どんな約束か、聞きたい?」
あたしの問いかけに、アマミさんは小さく頷いた。
まあ、あたしのそれは別に勿体ぶって隠すようなことじゃないし、言ってしまっても問題ないか。
腰のポーチから取り出したイフリート・イェーガーをアマミさんの眼前に差し出して、真っ直ぐに彼女の瞳を見据える。
「このイフリートは、あたしが作ったものじゃない」
「……いい出来だけど、じゃあ、誰が」
「義妹。体が弱くて病院生活が続いてるリッカの人生を少しでも楽しくしてあげたくて、あたしはGBNをやってる」
少なくとも、医療──というよりはセラピー目的でフルダイブ型ゲームができるような環境を国とかその辺が作ってくれるまで、あたしはアマミさんと同じように止まれない。
約束を果たすためにミッションを受けて、バトルをやって、クリアと勝ちを積み上げて──それを、あたしじゃなくてリッカのガンプラが可能にしたんだという事実を証明し続ける。
それが、あたしとリッカの間に交わされた約束だった。
「……過酷な道ね」
「好きで選んだ道だよ」
「そう……クジカワさんは、妹さんが好きなのね」
「うん、大好き。世界で一番愛してる」
だから、無茶だって無理だってしてみせるのだ。
あたしは、リッカのお義姉ちゃんだから。
リッカの治療費を稼ぐために海外出張をしてまで、陰から支え続けている両親の代わりに、唯一、すぐ会いに行ける家族として、あたしが表で義妹を支え続けるのだ。
「……私にも、大好きだった人たちがいた」
「アマミさん?」
「私なんかに、わざわざ話してくれたお礼」
「お礼かぁ、ありがと」
「……うん、続けるね。元々私はフォースを組んでて、身内で楽しめればいいってスタイルだった」
アマミさんは、いわゆるエンジョイ勢というやつだったのか。
今の苛烈なバトルスタイルからは想像もつかないけど、人間、なにがあるかなんてわからないものだ。
それがマスダイバーに対して尋常じゃないほどの憎しみを滾らせて、コックピットを貫くことを第一に考えた戦術を取るほどになったのだから、よっぽどの理由があるのだろう。
「……元々は、フォース戦をやっていた私も悪かったのかもしれない」
「フォース戦を?」
「うん。負けてもランクが下がるだけだし、勝てば嬉しいし、参加報酬自体は勝ち負けに関係なく貰えるから」
フォース同士がシノギを削って戦い合うそれは、年に一回行われるガンプラバトル・フォーストーナメントへの出場権もかけている過酷な争いだ。
ランキング目当てに集まった強者たちがギスギスしながら戦うイメージしかなかったから、エンジョイ勢がフォース戦に参加しているなんて、想像もつかなかったなあ。
現に、昔SDガンダム使いが集まって一世を風靡したらしい、「ル・シャノワール」とかいうらしい有名なフォースも、身内同士のギスギスで解散したとか、そんな話だったし。
「……だけど、そう割り切れない子もいた。自分が原因でフォース戦の足を引っ張っているんじゃないかって悩み詰めてた。そこで……適切なフォローができてればよかったんだと思う。でも、私はできなかった」
「……」
「結局、その子はブレイクデカールに手を出して、私たちのフォースは……解散した。マスダイバーを出してしまった責任を取る、という体裁はあったけど、もう、とっくにフォースが限界なことに、私が気づいてなかったせいで」
懺悔をするように、アマミさんは深く俯きながら呟いた。
どうすればよかったか、なんていうのは全てたらればの話でしかない。
現実に示されるのが結果だけだというのは、アマミさんもよくわかっているはずだろう。でも。
「……アマミさんは、優しいんだね」
「私は……マスダイバーに八つ当たりをしているだけよ」
「ううん、アマミさんにも悪いところは確かにあったかもしれないけど、ブレイクデカールがなかったらこんなこと、起きなかったはずでしょ? それに……約束したんでしょ?」
「……ええ、もう二度と、あの子みたいに悲しい事情でブレイクデカールに手を出す子が出てこないようにって」
「じゃあ、それでいいんだよ。約束は、守らなきゃいけないから」
あたしは俯いているアマミさんの肩にぽん、と手を置いて、空いてる方の手で親指を立てた。
約束は守るためにある。
正しくても、たとえ間違っていても、そんなのは外野が言及していいことじゃない。
「クジカワさん……」
「シイカでいいよ。あたしたち、結構気が合いそうだし」
「……そう、だね。私も、サヤでいい」
「ありがとっ、サヤ」
「……どういたしまして、シイカ」
お互いに名前で呼び合った気恥ずかしさを隠すように、少しほてってきた顔を冷ますのも兼ねて、あたしは口を開いた。
『ねえ、この後予定ある?』
──サヤと、全く同じタイミングで。
お互いに目を丸くして、しばらくの沈黙が生じる。
どうしよっかな、と、悩んだ末に。
『それじゃ放課後、一緒に遊ぼっか』
声を揃えて、あたしたちは約束を交わした。
†
「あーなになに、GBNからのメールか」
サヤとスマホのメッセージアプリとダイバーギアでのフレンド交換を済ませてから家に帰った私は、お風呂上がりにぴこん、と音を鳴らしてウィンドウを開いたダイバーギアを持ち上げた。
こんな時間に連絡してくるなんて、サヤももしかしてお風呂上がりだったりするんだろうか。
ぼんやりと考えながらメッセージを開くと、差出人は意外なことに、クーロウさんだった。
「えー、と? 今度、マスダイバーと『ブラックハンター』の関係性を炙り出すために大規模フォースとの火力演習を行うことになった。こちらの手が足りないので各方面に協力を仰いでいるのだが、シイカくんほどの腕前であれば十分資格を満たしていると判断し、協力を要請する、かぁ」
なんか事務的、ともまた違った硬い文面なのがクーロウさんらしいというか、そもそもあたしのIDどこで知ったんだとか色々疑問はあるけど、悪くはない提案だ。
ブラックハンターの連中にはあたしも一回してやられてるわけだし。
その前に一回ぐらい、クーロウさんたちの人となりを知っておきたいのはあるかな。
ぽちぽちと返信を打ち込んで、メッセージを送信する。
その間に麦茶でも飲んでおこうと冷蔵庫を開けたら、三分ぐらいで返事が来た。
いや、レスポンス早いなクーロウさん。
「なになに、承知した、我々のフォースネストに案内するのでロビーの指定した場所で待っててほしい、かぁ」
別に今すぐってわけでもなかったんだけど、話は早い方がいいし、いいか。
どうせならサヤも誘ってみようかな。
戦力が足りないっていうなら、猫の手も借りたいだろうし──と思ってサヤに連絡取ろうとしたら取り込み中の表示が出ていたから、仕方なく断念する。
「それじゃあ、行きますか!」
あたしは一通りの事前準備を済ませて、ゴーグルを被ると、部屋に置いてある家庭用コントローラーにダイバーギアと、イフリート・イェーガーをセットして、GBNへとログインした。
ここがカーロウさんのハウスね