ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「あなたがシイカさんですか? 私は『ヴァイスガード』のユカリです。歓迎しますっ」
GBNにログインして、指定された合流ポイントに行くと、そこにいたのはクーロウさん本人ではなく、まだ十三歳ぐらいの、茶髪をサイドテールにした小さな女の子だった。
いや、ダイバールックであえてそう見せているだけかもしれないから断定はできないけど。
とにかく、クーロウさん本人じゃなくて「ヴァイスガード」からの使者を通して面会したいということは、今度の火力演習とやらはそれなりに重要な案件なのだろう。
「あたしはシイカ。クーロウさんから聞いてると思うけど」
「はい! お兄ちゃ……じゃなかった、隊長からはとっても腕がいい人だって聞いてます!」
キラキラと無垢に瞳を輝かせる姿は、年相応の一言に尽きて、ああ、中の人も結構小さい子供なんだな、と合点が行った。
そんな子を使者に寄越して大丈夫なんだろうか。
いや、お兄ちゃんってことは、クーロウさんとユカリちゃんは血縁があるから、信頼できる肉親に、あたしのエスコートを任せたのかもしれないけども。
「あっ、ナナちゃーん! もうシイカさんログインしてるよー!」
「ごめんなさい、遅れてしまって……改めまして、『ヴァイスガード』のナナです。隊長とユカリとは義理の兄妹に当たる関係ですが、どうぞお気遣いなく」
今度やってきた金髪に赤い瞳の、同じく十三歳ぐらいの女の子が、丁寧に腰を折って頭を下げた。
なんだかぽわぽわしている印象のユカリちゃんと違って、ちょっと大人びた、クールな印象を受ける子だ。
クーロウさんと義理の兄妹……ってことは、ユカリちゃんと義理の姉妹でもあるのか。なんだかシンパシーを感じてしまう。
「よろしく、ナナちゃん。あたしも義理だけど妹がいるんだ」
「そうだったんですか?」
「うん。あたしのイフリート・イェーガーはその子に……リッカに作ってもらったものだから」
「ガンプラ作りがお上手な妹さんなんですね!」
わぁ、と目を輝かせたままユカリちゃんがあたしの掌の上で明滅するガンプラデータのウィンドウを見て、興奮した様子を見せる。
体が弱い関係でラッカー塗料やらなにやらは使えないという制限がある中でも、これだけのクオリティを保ったガンプラを作れるリッカは、凄い子だ。
それを他の誰かに認められたのが嬉しくてつい、眦に涙が滲んでくる。
「どうしたんですか、シイカさん? 私、なにか困らせるようなことでも……」
「ううん、違う。ユカリちゃん。リッカのことを誰かに褒めてもらえたのが嬉しくて」
「……義妹さんを、大事に思っていらっしゃるんですね」
「当たり前だよ! 世界で一番大好きな家族なんだから!」
ナナちゃんの、自分も身に覚えがあるとでも言わんばかりの穏やかな笑みに、あたしは親指を立てて答えを返した。
リッカのことや、二人のことについてあたしもあれこれとお話や質問してみたいところだったけど、元々の用件はクーロウさんからの呼び出しだったっけ。
だったら、油を売っている暇じゃない。
「えっと、『ヴァイスガード』のフォースネストってどこだっけ? ユカリちゃん、ナナちゃん」
「ちょっとだけ待ってください、シイカさん。今シイカさんをフレンドに追加しますので、お手数ですけど、シイカさんも私のことをフレンドに追加してもらえますか?」
「おっけー、フレンドワープ機能か」
他のダイバーをフレンドに登録することにあるメリットの一つが、フレンドが指定した場所まで、一部エリアを除いてワープが可能だというものがある。
例えば採集ミッションをやりたいからカウンターに今手隙のフレンドを招待するとか、こんな風にフォースで集まって会議するとか、そういう使われ方が主だ。
言われた通りにユカリちゃんと、ナナちゃんもフレンドに追加して、あたしは二人が「ヴァイスガード」のフォースネストに転移するのを待った。
「ありがとうございます、それではワープしますね」
「よろしく、ナナちゃん」
「よろしくね、二人とも」
「はい。では」
ナナちゃんがコンソールを操作すると同時に、あたしは奇妙な浮遊感に包まれて、瞬きをする間に案内された場所へと運ばれていく。
例えるなら、エレベーターが降りたときの感覚がふわっと一瞬だけ体感できるような感じだ。
浮遊感とでも言い換えていい。とにかく、そんな感触と共にあたしは、「ヴァイスガード」のフォースネストへと転移したのだ。
†
「改めて、お越しいただきありがとうございます! ユカリです!」
「お越しいただきありがとうございます、ナナです」
二人が折り目正しく頭を下げているのが、薄らぼんやりと見えた。
感覚が正常に戻って、露わになった光景は、まるで宇宙戦艦の司令室とでも言わんばかりに事務的で無機質だ。
司令室の椅子には、クーロウさんを含めてあと二人の男の人が座っている。
「へえ、あんたが噂のシイカってやつか。俺はドゥーエ。一応、このフォースの諜報担当さ」
「同じく、ルーニーだ。この前はヴァルガで世話になったな、シイカちゃん」
「ヴァルガ?」
ルーニーと名乗った、どことなくロックオン・ストラトスに似た感じのダイバールックをしている人が口に出したことに、心当たりは全くといっていいほどなかった。
世話になったもなにも初対面だし。
だから、ヴァルガで会った覚えは──
「……この前、ヴァルガでブラックハンターの連中を警戒してたらお前さんに狙撃されたデュナメスに乗ってた男だよ」
「あっ……」
センサーを向けてきたからつい敵だと勘違いして先手必勝の精神で撃ち抜いたデュナメスがいたことは、不幸にもしっかり覚えていた。
「貧乏くじもいいところだよな、本当」
「お前に言われるのはなんか腹立つな」
「雑談はその辺りにしておけ、ドゥーエ、ルーニー。改めて歓迎する、シイカ。本当なら俺が直接迎えにいくべきだったんだが」
「クーロウさんが動くと、『ヴァイスガード』全体が動いてると気取られちゃうから、ですか?」
あたしの問いを、クーロウさんは首肯する。
「そうだ。ブレイクデカールは今やGBNに蔓延しつつある。どこでマスダイバーが……ましてや、ターゲットである『ブラックハンター』が我々の動向を監視しているかわからないからな」
「なるほど……ところで、クーロウさんたちはなんで『ブラックハンター』を追いかけてるんですか? マスダイバーと関係があるみたいなことは書いてましたけど」
「そうだな……やつらはアウターパーツを悪用している初心者狩りの集団としてそこそこ有名なフォースだが、ブレイクデカールを使ったという報告は少ない」
それなのに、「ブラックハンター」を追いかけているのは、非効率的じゃないだろうか。
だったら、わざわざどうして。
続くあたしの疑問を制するように、クーロウさんは言葉を続けた。
「君は口が固い自信はあるか?」
「そうだから呼ばれたんだと思ってますけど」
「……なるほど、面白いな。ならば結論から言うと、やつらはマッチポンプでブレイクデカールを売りつけている可能性がある」
「マッチポンプ……って、自分で火をつけたあとに自分で火を消す、的なあれですよね?」
「その通りだ。やつらは初心者狩りで精神的に追い詰めたダイバーに目星をつけ、独自のルートを通じて追い詰められた初心者にブレイクデカールを売りつけている──と、いうのが、俺の公算だ」
今のところ確たる証拠は掴めていないが、と言葉を濁しつつも、クーロウさんは司令室のモニターに一枚の画像を投影する。
画質も粗いし、暗視モードで撮影されているからほとんどなにが写っているのかわからないけれど、人影が二つ並んでいるのは見えた。
一人は目立たなくてよくわからないけど、もう一人は、緑色の髪にピンク色の瞳という派手なダイバールックをしているから、なんとか判別可能だ。
「俺が苦労して撮ってきたんだぜ、その現場」
「確か、ドゥーエが三十二時間ログインし通しで撮影したんだったな」
「うわ……健康状態とか大丈夫ですか」
「心配にゃ及ばねえよ、エナドリと俺はズッ友だからよ」
なにも大丈夫じゃなかった。
エナドリは身体に悪いのに、人はどうしてエナドリを求めてしまうのだろう。
流石にライオットなんちゃらに手を出したら人として終わりだから、あたしはエナジー皇帝で済ませてるけど。
「本題に戻ろう。この緑髪の女──『ヴィオラ』と名乗っているダイバーが、ブレイクデカールの売人で、『ブラックハンター』と繋がっている可能性が極めて高い」
「断言できる材料は?」
「二枚目以降の画像を見てほしい」
クーロウさんは、続けて画像を投影する。
するとそこに現れたのは、なんだか陰キャ風だけど、どこかチャラチャラした印象の強い前髪の長いイケメンと腕を組んで歩いている、ヴィオラの姿だった。
……これ、ただ恋人とデートしてるだけでは?
「この画像に写っている男が、恐らくレザードだ」
「えっ? でも、前会ったときは髪をオールバックにしてましたけど」
「恐らくこの姿は偽装の一環だろうな。事実、前髪の長い金髪のダイバーに『お茶でもしないか』と誘われた女性ダイバーが、初心者狩りの被害に遭ったという報告も上がっている」
うわ。
なんていうかやってることがみみっちい上に陰湿すぎる。
とはいえ、サヤのフォースで起きた出来事のように、悲しみを生む温床でしかないブレイクデカールに関わっているなら、あたしの敵であることに間違いはない。
「それで──クーロウさんは、火力演習に『ブラックハンター』が来ると思っているんですか?」
「来るさ、恐らくな」
「根拠は?」
「やつらにとって、探りを入れている我々は目の上のたんこぶだ。それに、演習相手も相手だからな」
モニターに投影されている画像を切り替えて、クーロウさんは小さく頷いた。
そこに投影されている鷹の意匠があしらわれたフォースエンブレムには、あたしも見覚えがある。
確か、あれは。
「『GHC』──グローリー・ホークス・カンパニーのアライアンスに入っているフォースが、今回の火力演習の相手だ」
「『GHC』って、でっかい企業と同名ですし、ロゴも似てますけど」
「その企業で間違いない。社長が趣味と実益を兼ねてGBNをやっているからな」
「はあ……なんていうか、すごいですね」
お金持ちとなるとやることも違う。
ただ、その「GHC」が相手になったところでなぜ「ブラックハンター」がくると言えるのだろうか。
世界的大企業に恨みでも持っているなら、話は別だけど。
「……今回の火力演習には、マスダイバーの被害に遭われた『GHC』のご令嬢にも参加いただく」
「えっ……?」
「言い方は悪いが、釣り餌だな。先方には苦い顔をされたが──ヴィオラとレザード、そして『ブラックハンター』の関係を炙り出すには、これしかなかった」
クーロウさんは苦肉の策だと言わんばかりに目を逸らして、小さく唇を噛んだ。
マスダイバーの被害に遭った人を撒き餌にして、もう一度マスダイバーを呼び出す──強引なやり方だ。
引き受けてくれたということは割り切っているということなんだろうけど、正直好感はあまり持てない。
「悪いな、シイカちゃん。でもな、病巣ってのは駆除できるときにしておかないと手遅れになる。参加しないっていうなら、構わないぜ」
ルーニーさんが、困った顔で溜息混じりにあたしの肩へと手を置いた。
「いえ、参加します」
「ほう? その心は?」
「マスダイバーは許さないって、友達と約束しましたから」
「いい約束だ。だってよ、言葉足らずのクーロウさん」
「……すまない、恩に着る」
軍帽を脱いで、クーロウさんが一礼した。
正直クーロウさんのやり方に好感は持てないけど、それでもマスダイバーの方がもっと嫌いだ。
だからあたしは、火力演習に身を投じることを決めた。一人でも、マスダイバーによる被害から助けられるように。
ルーニーさんとドゥーエくんは貧乏くじコンビ