ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「今日の火力演習に胸を貸していただき、光栄です。ユニさん」
「い、いえ……わたしも、『GHC』の一翼を担う人間として、とても光栄です」
クーロウさんと、今回の火力演習という名のマスダイバーへの反攻作戦で手を組んでいる「GHC」が誇る数多のアライアンスのうち、いくつかを率いているのであろう女の子──ユニちゃんが、緊張した面持ちで握手を交わしている。
あたしは二人が事務的なトークを交わしている間、ぼんやりと駐機姿勢をとっているイフリート・イェーガーを見上げていた。
マスダイバーを、そしてブレイクデカールの拡散元の一つだと思われる「ブラックハンター」を討伐できれば、確かに彼らの気勢を挫けるだろう。
だけど、本当にできるのだろうか。あたしに。
この火力演習前に、プラグガーデナーのところに立ち寄って燃焼プラグインを結合、強化してもらったけど、それもどこまで通用するやら。
自分らしくない不安だな、と考えてしまうのは、あたしがマスダイバーに勝てなければ、せっかくリッカが作ってくれた、イフリート・イェーガーの価値を損なってしまうと、恐れているからかもしれなかった。
「緊張してますか、シイカさん?」
「ユカリちゃん。まあ……少しね」
「大丈夫です! マスダイバーの戦いはバトルログにも残されないものが多いですけど、伝聞や数少ないログを辿って、マスダイバーへの対抗策は考えてきましたから!」
ユカリちゃんは、どやっと、歳の割には大きな方の胸を張って宣言する。
仕草は年相応の女の子って感じなのになあ。
薄らぼんやり考えながら、くるくると回り始めて不思議な踊りを踊り出したユカリちゃんを、じっと眺めていると。
「わわっ!」
「大丈夫、ユカリ!?」
右側にバランスを崩したユカリちゃんを、ナナちゃんが血相を変えて抱き止める。
なにもないところで転びかけるとか、意外とユカリちゃんもドジっ子だなー、なんて、あたしは呑気に構えていたけど、ナナちゃんの表情は剣呑だ。
……もしかして、結構ただならないことだったりするんだろうか。
「あはは……大丈夫だよ、ナナちゃん。ちょっと平衡感覚を崩しちゃっただけ」
「……無理はしないで、ユカリ」
「無理なんてしてないよ。それよりアライアンスの『コバルトストライカーズ』さんたちにも挨拶しなきゃ」
ユカリちゃんは反省反省、と小さく呟くと、苦笑を浮かべながら、ナナちゃんの肩を借りつつ立ち上がって、駆け出していった。
……聞かない方がいいやつだよね、これ。
ナナちゃんもユカリちゃんを追って駆け出していったのに、あたしもついていく形で歩き出そうとした、刹那。
「やめとけ、シイカちゃん」
「ルーニーさん……」
「察しはついてるんなら、沈黙は金だ。ユカリちゃんも無理してるわけじゃないのは本当だからな」
「そういうこった。俺らは大人しく待機してようぜ」
「そうですね、ドゥーエさん。ユカリちゃんが話したくないことなら、聞く権利なんてないですし」
そういうこった、と返して、二人の乗機であるガンダムデュナメスと、ガンダムデスサイズヘルに乗り込んでいったルーニーさんとドゥーエさんに続く形で、あたしもイフリート・イェーガーのコックピットへと乗り込んでいった。
どんな事情を抱えていたとしても、この世界では──GBNでは、平等だ。
公平ではないかもしれないけれど、それだけは間違いなく、事実なのだから。
†
『……』
「コバルト1より救援要請、そちら側に『GHC』の主力が回っているそうだ。挟み撃ちと伏兵に警戒しつつ少数戦力を回したい。シイカ、頼めるか」
「了解! とりあえず全部片付けてきます!」
バトルフィールドである雪原の地形を利用する形で、ポーラ・ベアーのスノーボードを装備したウィンダムと105ダガーの混成部隊が、「コバルトストライカーズ」が担当している防衛エリアに雪崩れ込んでいくのを、あたしもレーダーで確認していた。
かといって、今の戦線を放棄してしまえば、そのまま中央突破されてあたしたちの陣地が制圧される。
外様のあたしを遊撃に回すクーロウさんの采配は、理に適っていた。
「マスダイバー相手じゃないならこれも久しぶりに使える……!」
ソードオフショットガンを二丁構えて、あたしは全力でスラスターを噴かしながら「コバルトストライカーズ」が防衛を担当しているエリアに突入した。
『左方向から敵機!』
『落ち着いてください、数は?』
『一機のみです!』
『フォーメーションパターンKで対応、敵を足止めしてください』
『イエス・マム!』
スノーボード装備のウィンダムと105ダガーが、あたしを取り囲んで、射線の檻へと閉じ込める。
いつでも発砲してお前を蜂の巣にできるぞ、というメッセージのつもりだろうか。
いや、これが本当の火力演習じゃなくてマスダイバーを釣り上げるための作戦なのはわかっているけど、ナメられているようで少しムカつく。
「だったら……フォーメーションに風穴を開ける!」
外様のソロダイバーだからといって包囲してるだけで無力化されるような腕前だと思われたら、逆にあたしを呼んでくれたクーロウさんの面子にも関わるだろう。
だから、これはあくまでも示威行動。
どっちが「上」なのかをわからせてやるだけだ。
『なんだこいつ、真っ直ぐ突っ込んで──』
『狼狽えるな! 空中に飛び上がった以上着地を挟む、そこで足元を崩せばいいだけだ!』
「それは……あたしが、着地するなら、の話だよねぇ!」
空中でくるりと一回転すると、あたしはツーマンセルで包囲にかかってきた105ダガーの足元へ、ソードオフショットガンを撃ち放って、スノーボードを破壊する。
装備を破壊された105ダガーは派手にすっ転んで地吹雪を舞わせた。でも、これだけで終わりじゃない。
プラグインスロットを適用、あたしはもう二発、あえて転倒した105ダガーを狙わずに、地面を穿つ形で、燃焼属性が付与された粘着榴弾を撃ち放った。
『こいつ、ショットガンで空中制動を!?』
『クソッ、包囲が抜かれた!』
「ふふん、どんなもんよ!」
バックファイアで着地距離を思い切り離すという形で、あたしは包囲網を抜けて「コバルトストライカーズ」と合流する。
はてさて、クーロウさんの読みが本当なら、そろそろ痺れを切らしたマスダイバーか「ブラックハンター」が出てくるはずだけど。
着地を通して、二丁のソードオフショットガンを構えたときだった。
『チッ……「ヴァイスガード」と「GHC」の潰し合いだっていうから乗ったのによ』
『レザードの野郎、俺たちを担いだのか?』
『なんでもいい、ブツは受け取ってんだ、始めるぞ』
通信回線に割り込む形で、知らない声が聞こえてくる。
マスダイバーだった。機体をレーダーやカメラにに映らないようにブレイクデカールで偽装して、待ち伏せていたのだ。
とはいえ、レザードの名前が出てきた以上、「ブラックハンター」と無関係というわけでもないのは確実だろう。
「各員、聞こえたな? では……現時点をもって火力演習を中止! 『ヴァイスガード』と『GHC』は、オペレーション・ヴェルザンディを実行する!」
クーロウさんが力強く宣言すると同時に、敵を識別している「GHC」のマーカーが青に変わって、全員がマスダイバーたちが待ち伏せしていたあたしのいるエリアへと転進してくる。
オペレーション・ヴェルザンディなんて聞いたこともない作戦名だったけど、それもハッタリの一環なのだろう。
とにかく、マスダイバー側を動揺させることで心理的な隙を作って優位を取る。クーロウさんらしい戦術だった。
『待ち伏せしてたとでもいうのか!?』
『ビビってんじゃねえ! 相手がなんだろうと俺たちにはブレイクデカールの力がある!』
『へっ、上等だ……新型ブレイクデカールの性能、試させてもらうぜ!』
ブレイクブーストをかけたマスダイバーたちの数は大体十人ほど。対してこっちは、三倍以上の戦力差がある。
数の力で圧殺することも不可能じゃない。
ただ、問題があるとするなら、敵が言っていた「新型」のブレイクデカールとやらが本当なら、性能が引き上がっているはずで。
あたしはアンチマテリアルライフルに武器を持ち替えて、禍々しい紫色のオーラを纏ったウイングガンダムに狙いをつけた。
「沈めぇっ!」
『はははは! バカが、効かねえんだよ!』
「っ!?」
今まで有効だったはずのアンチマテリアルライフルによる攻撃が、真正面から跳ね返された。
一発一発が榴弾砲のようになったマシンキャノンの雨霰を避けながら、あたしはバックブーストを点火して後退する。
冗談じゃない。燃焼効果は付与したとはいえ、相手に攻撃が弾かれるんじゃ、手の出しようがない。
『こちらチャーリー、ゴルフがやられた!』
『フォックスよりグローリー・リーダーへ! こちらのビームライフルは敵の装甲に通じない! さらなる火力支援の要を求む!』
それは「GHC」側も同じのようで、フォーメーションを組んでの包囲戦術をとっていたけれど、次々と撃破されて陣形に穴が空いていく。
ビームライフルですら通じないなら、どうすれば。
あたしは、迷いに引き金を鈍らせてしまっていたけれど。
「……想定の範囲だ、ユニ嬢、下がっていてほしい。今から敵を撃滅する!」
『はっ、ビームなんざ通じねえよ! このままやられちまいなぁ!』
マスダイバーのレイダーガンダムが、ミョルニルを叩きつけようと振りかぶった刹那を狙って、隙をつくようにクーロウさんのヘビーガンダムが装備しているメガ粒子砲が火を噴いた。
戦艦でも相手にしているのかというぐらいの威力を誇る一撃は、マスダイバーの群れを飲み込んで、半壊させていく。
すごい。これが一流の──GBNでも上澄みも上澄みのダイバーの、力か。
『く、クソッ……脚部が!』
『どうなってやがる、レザードの話じゃ、新型ブレイクデカールを抜けるだけの火力を持ってる敵はいねえって……!』
『俺たちは騙されてたのか!?』
「損傷部位への攻撃が有効かどうかを検証する。各機、撃ち方始め!」
クーロウさんの指示に従う形で、あたしも含めた残存戦力の全員が、手持ちの火器をマスダイバーの損傷部位へと叩き込んでいく。
狙い通りに、損傷した部分まではブレイクブーストの力が及ばないらしく、推進器を損傷したマスダイバーたちは、あっという間に塵へと化していった。
なるほど、一定出力以上のビームや、あるいはあたしのアンチマテリアルライフルより大きな口径の実弾──対艦クラスの装備と出力があれば、新型ブレイクデカールにも対抗できるということか。
「ふぅ……これで戦いは終わりかな?」
「新型ブレイクデカールなんて代物がこれからは台頭してくると考えると頭が痛くなってくるな……シイカちゃんも気をつけ──」
ルーニーさんからの返答があった直後だった。
『ちっ、使っかえねーヤツらだな。ま、ブツの検証には役立ったからいいけどよ』
「はは……レザードの野郎、まさか、ハンドガンで、俺を狙撃したのか──」
「ルーニーさん!」
地吹雪の彼方から姿を現した黒い機影──「ブラックハンター」たちが、禍々しい紫色のオーラを纏って、あたしたちの前に姿を現していた。
真打は後から登場するもの