ガンダムビルドダイバーズ ブレイズ 作:ランナーの切り屑
「ルーニーさん!」
ハンドガンでの超長距離狙撃という、ブレイクデカールなしではできない奇襲によって、ルーニーさんのガンダムデュナメスがフルシールドごとコックピットを撃ち抜かれる。
「やられたぜ、こいつは……」
「ルーニー! クソッ、こんなときも貧乏くじ引きやがって!」
仇を討つように、ドゥーエさんのデスサイズヘルがハイパージャマーを起動して、レーダーから消えた状態での突撃を敢行した。
だけど、「ブラックハンター」たちがどんな強化を受けているかわからない状態での単独行動は危険すぎる。
援護しようにも、あたしのアンチマテリアルライフルじゃ、マスダイバーの装甲を抜けない以上、動きようがない。
「ルーニーの仇だ! 往生しやがれ!」
『ぐ、ぐわーっ!』
当たりもつけずにミニガンを乱射していた「ブラックハンター」仕様にカスタムされたジム・スパルタンの胴体を、デスサイズヘルのツインビームサイズが切り裂く。
多少のヒットストップはあったけど、それでも有効打としてジム・スパルタンが撃墜できる程度に、格闘攻撃は通じるらしい。
そう考えると、防御力が純粋に上がっているというよりは、なんらかの耐性パラメータが改竄されている可能性がある。
『チッ、対格闘補正も強化を要請しておかなきゃな……ったく、杜撰な仕事して現場に丸投げとか、俺らはデバッガーかよ? 頭にくるぜ、なあ?』
ハンドガンで超長距離からの狙撃を繰り返しながら、レザードが悪態をつく。
ブレイクデカールによって強化された射程と威力を誇る実弾が、次々と「GHC」の精鋭を撃ち抜いていった。
だけど、あの人たちはユニちゃんを守るために自ら壁となって散っていく道を選んだのだろう。
「……っ、マスダイバー……!」
『あぁ? そういうてめぇは……ヴァルガで撃墜された旧型ブレイクデカール使いのシャアザク程度にやられた雑魚かよ、まぁいい、あれで折れてなかったんならもう一回心を折ればいい話だ……お前ら、噛み殺せ』
ユニちゃんに狙いを絞って、「ブラックハンター」の手勢がフォーメーションを組んで襲いかかってくる。
レザードの周囲には護衛が五機。
ユニちゃんを狙っているのは二十五機。
数ではこっちが上回っていても、全員が強化型ブレイクデカール使いだと考えれば、不利な戦いに違いはない。
──それでも。
それでも、戦いをやめる理由にはならない!
「格闘攻撃が有効なんだったら!」
『クソッ、素組みに毛が生えたようなガンプラ風情が!』
陣形を横から崩すためにちょっかいをかけたジム・スパルタンが抜き放ったヒートナイフと、あたしが振りかぶったヒートククリの刃がぶつかり合って、火花を散らす。
出力は相手の方が上だ。
だったら、立ち回りでわからせてやるしかないし、それに──リッカのガンプラをバカにされて、あたしが黙ってヘラヘラしてると思うなよ!
「ブレイクデカールで強化されていようと、ダイバー本人を直接狙えば!」
『がっ……!?』
鍔迫り合いの最中に足払いをかけて、転倒しかけたジム・スパルタンのコックピットへと、あたしはヒートククリを突き立てた。
きついヒットストップこそあったけど、それでも格闘耐性には穴があるらしく、ヒートククリの刃を全て呑み込んだジム・スパルタンの胴体には風穴が空き、爆発四散する。
爆風を目くらましにして、あたしは敵陣のより深くへ切り込んでいく。
「各機、シイカに続け! ユニ嬢をお護りしつつ、まずは先行するマスダイバーを迎撃する!」
「了解、お兄ちゃん!」
「了解です、義兄さん」
ユカリちゃんとナナちゃんが乗っているジム・スナイパーIIのカスタム機が、ブルパップ・マシンガンを手に正面から突撃する。
それに続いて、「コバルトストライカーズ」の面々や、「GHC」の残存戦力も密集隊形をとり、攻撃を始めていた。
射撃はあくまでも牽制、全員が格闘戦に持ち込むことを狙って正面から戦う道を選んだのだろう。
「へっ……レザードの首を掻っ切るにはいい機会だな。クーロウ、俺は行くぜ!」
「待て、ドゥーエ! 敵がハイパージャマーを感知できていないことは確認したが、単独での突撃は無謀だ! こちらに合流しろ!」
「悪りいが、相棒をやられて黙ってられるほど人間できちゃいねえんだ! そっちこそユカリちゃんのお守りをしっかりしろよ!」
「……っ!」
ドゥーエさんはそれだけ言い残すと、ジャマーの出力を上げて、味方のレーダーからも探知を切り、通信途絶状態になった。
クーロウさんがそれ以上なにも言わなかったということは、止めても無駄だと悟ったのだろう。
それに、ユカリちゃんのお守り、という言葉も気にかかる。
「この距離だったら、ヒートスパイクで!」
『へ、へへ……っ! ビビらすんじゃねえよガキが! 右側のエイムがズレてんだよ!』
「きゃっ……!?」
「ユカリ!」
右腕のガントレットに装備している、ビーム・クローで、クーロウさんはユカリちゃんを狙っていた「ブラックハンター」のジム・スパルタンを貫いた。
「お兄ちゃ……じゃなかった、隊長」
「無理はするな、格闘戦はお前の本領じゃないだろう」
「そうだね……ナナちゃんの援護に回ります」
「了解した、ナナ、聞いていたな」
「聞いていました。ツーマンセルでマスダイバーへの対処に当たります!」
ユカリちゃんはナナちゃんと合流する形で、戦いを継続するようだったけど、あたしの中には不穏な予測が立ち始めていた。
ただ、それは邪推ともいう。
だから、まずはこの戦いを終わらせることに集中しないと。
「……わ、わたしはっ……!」
『「GHC」のご令嬢は丁寧に噛み砕いて差し上げろ、きっといい悲鳴を上げてくれるぜ!』
「ユニちゃん! このっ……『ブラックハンター』の腐れ外道共がぁっ!」
ジム・スパルタンの脇腹からコックピットへとヒートククリを貫通させつつ、あたしは陣形を突破してユニちゃんを襲おうとしている二機の「ブラックハンター」をロックした。
一機はヒートククリの投擲で間に合うとして、もう一機は。
クーロウさんの支援を待つ? それとも、「GHC」の誰かが援護してくれるのを? ダメだ、どれも悠長すぎる。
「……わたしは、GBNが怖かった……」
「ユニちゃん……!」
「……初めてのGBNで、マスダイバーに、お友達も弄ばれて……でも……っ!」
ユニちゃんの、ウィンダムとペイルライダー系のキットをミキシングしたカスタムモデルが、ティルトローターで飛翔して、ミサイルの雨をジム・スパルタンへと降らせた。
『なんだと!?』
「でも、わたしは……ここにいる皆と同じで、ガンプラが大好きだから! GBNを楽しみたいから! もう、
叫びと同時に、ウィンダムのストライカーパックに装備された480mm榴弾砲が火を噴く。
規格外の大口径榴弾砲の直撃を受けた「ブラックハンター」は、断末魔を上げる間もなく消滅していった。
なんだ。不安がっていたあたしが間違ってたんじゃん。
決意の光を瞳に宿して、ユニちゃんが今度はCCA-MSV版のスターク・ジェガンからコンバートしてきたのであろう対艦ミサイルを、レザードたちに向けて射出する。
『チッ……すっとろいミサイル程度なら迎撃できなくもねぇが、味方を巻き込むか……ま、いいか』
「総員、今すぐこの場から退避しろ!」
クーロウさんの指示に従う形で、あたしたちは全力でスラスターを噴射して、散り散りにこの場を離れた。
なぜなら、レザードは。
ハンドガンから放たれた弾丸が、対艦ミサイルを撃ち抜いて大規模な核爆発を起こす。
『た、隊長ーっ!』
『俺らを犠牲に……!?』
『うわああああっ!!!!』
味方を巻き込むことを承知で、レザードは対艦ミサイルの迎撃を選んだのだ。
爆心地となった迎撃地点から、さほど距離を取れなかったことで、スラスターや各部が焼けついていく。
レザードに人の心を期待して、ユニちゃんは対艦ミサイルを撃ち放ったのだろう。
だけど、これでわかった。
あいつに、人の心はない。
レザードは、擁護するところなどない、あたしたちにとって、不倶戴天の敵だ。
『ったく、勘のいいヤツだなぁ? 俺が駒ごと巻き込んで対艦ミサイルを起爆すると見込んでいたなんてよ、個人ランキング96位のクーロウさんよ』
「……ああ、知っていたさ。貴様に仲間意識や他者を思う心などハナからないことはな!」
クーロウさんの「ヘビーガンダム・ジーベン」が立ち上がって、ビームクローを発振する。
「そういうこった、往生しやがれ、レザード!」
そして、姿を眩ませていたドゥーエさんが、ハイパージャマーを解除してレザードへと斬りかかった、刹那。
コックピットが真正面から撃ち抜かれて、デスサイズヘルが爆発四散する。
一体なにを、どこから。
『おいおい、随分失礼なこと言ってくれるじゃねえか。仲間意識や人の心がないだって? 俺にもあるよ、多少はな。そうだろ、ヴィオラ?』
『はぁい、ダーリン♡ この程度の相手なら、ブレイクデカールなんか使わなくても殲滅できちゃうけどぉ……ま、今日はお嬢様の決意に免じて見逃してあげちゃう?』
レーダーの範囲外で待機していたのであろう、深紅の──血のような赤に染まったガンダム・ピクシーの改造機が、右手に装備していた大型二連装ビーム砲で、ドゥーエさんを撃ち抜いていたのだ。
ヴィオラ。
確かにレザードはそう言って、通信ウィンドウに割り込んできた緑髪の女性は確かに答えていた。ならば。
「やはり、関係していたか……!」
『あはっ♡ 個人ランキング96位の大物を食べられるって考えたらちょっとゾクゾクしてきたけどぉ、今はフルパワーじゃないみたいだし、やめとこ』
「ふざけるな! ここで仕留める!」
やっばり、ヴィオラというブレイクデカールの売人と、「ブラックハンター」は無関係じゃなかった。
あたしは武装の全てを失って、身を起こすので精一杯だ。
でも、クーロウさんは背中のメガ粒子砲がダメージを受けているにもかかわらず、最大出力を振り絞ってヴィオラのガンダム・ピクシーへと、砲身が自壊するのも厭わずに撃ち放っていた。
『だぁ〜め♡ まだまだ、本気で万全のキミじゃないと、食べた気になれないもん』
ピクシーが二連装ビーム砲から撃ち返した一撃で、クーロウさんの攻撃を相殺すると、くるりと踵を返してヴィオラは去っていく。
『とはいえ大したもんだよ、こっちは温存してたヴィオラって札を切らされたんだからな……覚えておくぜ、「ヴァイスガード」……!』
少しだけ苛立った様子でレザードは言い残すと、ヴィオラと、残った「ブラックハンター」たちと共にログアウトしていった。
……ヴィオラと、「ブラックハンター」の繋がりを暴けたという意味では、私たちの作戦は成功したのかもしれない。
だけど、負けた。この戦いに、私たちは明確に、敗れたのだ。
戦いが終わったというのに、消沈した雰囲気そのものが、全てを物語っていた。
カスのカップル