ジョジョ三部に転生したら、スタンドが魔虚羅だった 作:東京大特価
エンヤ婆を捕らえた翌日、一行はどうにか新しい移動手段を確保し、パキスタンのカラチへ入っていた。昨日まで町一つを覆うほど巨大な霧のスタンドを操っていた老婆は、今では両手を拘束され、車の後部座席で大人しくしている。もっとも、素直に協力する気など毛頭ないらしく、ジョセフがDIOについて何を聞いても口を閉ざしたままだった。
「強情な婆さんじゃ。せめてDIOのスタンドについて何か喋ればいいものを」
ジョセフが不満そうに言うと、エンヤ婆は鼻で笑った。
「誰がお前らなんぞに教えるものか。DIO様の力は、お前たち程度が知ったところでどうにもならんよ」
「その言い方だと、やっぱり何か知ってるんですね」
蓮司が横から口を挟むと、老婆の目が鋭くなる。
「小僧、お前も調子に乗るんじゃあないよ。あの化け物みたいなスタンドを持っているからといって、DIO様に勝てると思うな」
「勝てるとは言ってませんよ。だから情報が欲しいんです」
蓮司としては当然の話だった。敵の能力が分かれば、それだけ死ぬ可能性は下がる。魔虚羅が未知の現象へ適応できるとはいえ、初撃から無効化できるわけではない。何をしてくるか分からない敵へ、わざわざ何も知らない状態で挑む必要はなかった。エンヤ婆はそれ以上答えず、再び口を閉ざした。
ジョセフは諦めたように肩を落とす。
「まあいい。食事にするぞ。腹が減っては尋問もできん」
「尋問前提なんですね」
「当たり前じゃろ」
通りには露店が並び、焼いた肉の匂いが漂っている。ジョセフはその中の一軒で足を止めると、店主と値段の交渉を始めた。提示された価格に対して半額以下を要求し、店主が怒り、ジョセフも負けずに声を張る。蓮司は隣でしばらく見ていたが、途中で花京院へ顔を向けた。
「これ、いつまで続くんですか?」
「ジョースターさんが納得するまでじゃないかな」
「普通に払った方が早くないです?」
「それを本人に言ってみるかい?」
「やめときます」
数分後、妙に満足そうな顔をしたジョセフが料理を受け取った。
「見たか。これが交渉というものじゃ」
「時間を含めたら絶対損してると思いますけどね」
「何か言ったか?」
「美味しそうですねって言いました」
聞こえていた気がするが、ジョセフは追及しなかった。その時だった。拘束されたまま近くに座らされていたエンヤ婆が、露店の男を見て表情を変えた。
「……お前」
声に、明らかな動揺が混じる。店主だった男がゆっくり顔を上げた。
「久しぶりだな、エンヤ婆」
空気が変わった。承太郎がすぐに前へ出る。花京院とポルナレフも身構え、蓮司も反射的に魔虚羅を呼び出しかけた。
「知り合いですか?」
エンヤ婆は答えない。代わりに男が笑った。
「俺の名は鋼入りのダン。DIO様から命令を受けてここで待っていた」
「DIO様が……あたしを助けに?」
エンヤ婆の表情に一瞬だけ安堵が浮かぶ。しかしダンは、その期待を嘲笑うように首を振った。
「逆だよ。あんたは知りすぎている。捕まった以上、もう生かしておけないそうだ」
エンヤ婆の顔から血の気が引いた。
「な……」
その額が不自然に膨らんだ。
「何だ?」
ポルナレフが目を見開く。皮膚の下で何かが蠢き、植物の根のような肉の触手が伸び始める。
「肉の芽……!」
花京院が即座に反応した。かつて自分の頭へ埋め込まれていたものと似ている。ポルナレフがシルバーチャリオッツを出し、伸びる触手を切り落とそうとした。
「動くな!」
銀色の剣が閃き、何本かの触手を切断する。蓮司も魔虚羅を出し、その右腕の剣へ目を向けた。あの剣なら何かできるかもしれない――一瞬だけそう考えたものの、すぐに止めた。
人間の頭。それも既に肉の芽が脳へ食い込んでいる可能性がある。性質を確かめてもいない剣を試せる状況ではない。
「ポルナレフさん、無理に切らないでください! 中まで繋がってたら脳を傷つけます!」
「分かってる!」
しかし、既に遅かった。肉の芽が一気に成長し、エンヤ婆の身体が大きく痙攣する。
「D……DIO……様……」
それが最後だった。老婆の身体から力が抜ける。伸びていた肉の触手も動きを止めた。
「……死んだのか?」
ポルナレフが低い声で言う。花京院が確認し、静かに首を振った。助からない。蓮司は倒れた老婆を見下ろした。敵だった。
町中の死体を操り、自分たちを殺そうとした相手でもある。それでも。
「自分の仲間まで口封じですか」
DIOという男に対する嫌悪が一段増した。ダンは悪びれもしない。
「仲間? 勘違いするなよ。DIO様にとって俺たちは使えるか、使えないかだ。役に立たなくなれば消される。それだけさ」
「随分嬉しそうに言うんですね」
「俺は役に立つからな」
ダンが笑う。承太郎は黙って男の前まで歩いていった。
「承太郎さん?」
「こいつは今、丸腰に見えるだけだ」
ダンは逃げない。むしろ承太郎が近づいてくるのを待っているようだった。
「どうした? 殴らないのか?」
「言われなくてもそのつもりだ」
スタープラチナの拳が動いた。ダンの顔面へ強烈な一撃が入る。男の身体が吹き飛び、地面を転がった。その瞬間。
「ぐあああああッ!」
別の場所から悲鳴が上がった。
「ジョセフさん!?」
蓮司が振り返る。殴られたのはダンだった。それなのにジョセフが頭を押さえ、地面へ膝をついている。額から血まで流れていた。
「何が……」
ダンがゆっくり立ち上がる。殴られた頬を押さえながら、楽しそうに笑っていた。
「言っただろ。俺は役に立つってな」
承太郎の表情が変わる。
「てめえ、何をした」
「さあな」
ダンは近くにいた少年を呼び止め、硬貨を一枚渡した。
「坊主。この箒で俺を一発叩いてみろ」
少年は首を傾げながらも、金を受け取ると軽く箒を振った。ダンの肩へ当たる。ほとんど痛くもなさそうな一撃だった。同時にジョセフが身体を大きく震わせた。
「ぐっ……!」
「ジョセフさん!」
蓮司が支える。軽く叩かれただけのはずなのに、ジョセフの肩には強く殴られたような痣が浮かんでいる。ダンが両手を広げた。
「俺のスタンドは恋人――ラバーズ。笑えるくらい小さくて、スタンドとしてのパワーなら世界で一番弱いと言ってもいい」
「小さい……?」
蓮司には何も見えない。ダンの周囲にも、それらしいスタンドはいなかった。
「もう遅い。ラバーズはさっき、あの爺さんの耳から身体へ入った。今頃は脳の奥だ」
ジョセフの表情が険しくなる。
「脳に……?」
「そうだ。俺が受けた痛みを何倍にも増幅して、そいつへ返す。つまり俺を殴れば殴るほど、先に死ぬのは爺さんだ。それだけじゃあない。ラバーズは今、そいつの脳内でDIO様の肉の芽を育てている。放っておけば、じきに脳を食い破るぜ」
蓮司の背後で魔虚羅が動いた。大きな手が僅かに持ち上がる。
「魔虚羅、動くな」
即座に止める。ダンはそれを見逃さなかった。
「へえ。お前のスタンドは随分俺を殴りたそうじゃあないか」
「俺もですよ。ただ、今やったらジョセフさんが死ぬので我慢してるだけです」
「素直でいいねえ」
ダンは魔虚羅の前まで歩いてくる。六メートルへ巨大化した時とは違い、今はいつもの三メートルほど。それでも人間一人を潰すには十分すぎる大きさだった。ダンは恐れるどころか、魔虚羅の拳の届く場所まで近づいた。
「ほら。殴れよ」
魔虚羅の指が僅かに動く。蓮司はもう一度強く制止した。
「動くなって言ってるだろ」
頭上の方陣が小さく軋む。敵意に反応しているのか。それとも、単純に目の前の相手と戦いたがっているのか。今は考えている場合ではない。ダンは満足そうに笑い、今度は承太郎を見る。
「空条承太郎。まずお前からだ。今日一日、俺の言うことを何でも聞け」
「……何だと?」
「嫌なら好きにしろ。その代わり、爺さんがどうなるかは知らないぜ」
スタープラチナの拳が震えている。それでも承太郎は殴らなかった。ダンはその反応を見て、さらに笑みを深くした。
◇
一行は二手に分かれた。ジョセフはハーミットパープルを使い、近くのテレビへ自分の脳内を映し出す。ノイズ混じりの画面を調整していくと、やがて異様な形の小さなスタンドが脳細胞の間を動き回っている姿が確認できた。
「本当にいる……」
蓮司は画面を見て眉を寄せた。魔虚羅の拳どころか指先より遥かに小さい。
「これをどうやって倒すんです?」
「スタンドは精神の力だ。大きさも絶対ではない」
花京院がハイエロファントグリーンを出す。その姿が徐々に小さくなっていった。
「小さくできるんですか」
「大きさを縮めれば、その分パワーも落ちるし、集中力も必要になる。でも今回みたいな相手ならその方がいい」
ポルナレフもシルバーチャリオッツを縮め始めた。
「俺と花京院が中へ入る。神代、お前もやれるか?」
「ちょっと試します」
蓮司は魔虚羅へ意識を集中させた。普段より小さく。輪郭を圧縮するような感覚で力を込める。魔虚羅の身体が三メートルから二メートルほどへ縮み、さらに一メートルを切る。
「できるじゃないか」
ポルナレフが言った直後、蓮司の頭へ強い圧迫感が走った。
「っ……!」
魔虚羅の身体が僅かに揺らぐ。小さくするほど輪郭が不安定になり、押し込めた何かが内側から元へ戻ろうとしているような感覚があった。五十センチほどまで縮めたところで、頭上の方陣が激しく軋み始める。
「神代君、やめた方がいい」
花京院がすぐに止めた。
「君の魔虚羅は僕たちのスタンドより自律性が強い。無理に形を変えすぎると、制御そのものが不安定になるかもしれない」
蓮司も同意だった。六メートルの魔虚羅が暴走したことを考えれば、今ここで妙な状態へ追い込むべきではない。
「……そうですね」
集中を解くと、魔虚羅はすぐ元の大きさへ戻った。
「俺は外に残ります。何かあったらジョセフさんを守ります」
「ああ。頼むよ」
ハイエロファントグリーンとシルバーチャリオッツはさらに小さくなり、ついには肉眼で追うのも難しいほどのサイズになる。そのままジョセフの耳から体内へ入っていった。
「何でもありですね、スタンドって」
「今更じゃろ」
ジョセフが額に汗を浮かべながら答える。確かに今更だった。
◇
一方、ダンは完全に調子に乗っていた。承太郎へ自分の靴を磨かせ、地面へ横にならせて橋代わりに踏みつけ、気に入らないことがあれば殴る。承太郎が反撃できないと分かっているからこそ、やることは徐々に悪質になっていった。蓮司はジョセフの側に残っていたため直接見てはいなかったが、途中で一度戻ってきた承太郎の制服が汚れ、顔にも新しい傷が増えているのを見れば、何をされているのかは大体想像できた。
「……大丈夫ですか?」
「見りゃ分かるだろ」
「大丈夫じゃなさそうですね」
「なら聞くな」
承太郎はそれだけ答えた。その後ろからダンが悠々と歩いてくる。
「おい承太郎。次は宝石店へ行くぞ。欲しい物がある」
「自分で買えばいいでしょう」
蓮司が言うと、ダンは楽しそうに振り返った。
「口の利き方に気をつけろよ。お前も爺さんを殺したいのか?」
魔虚羅が反応する。蓮司は顕現する前に抑え込んだ。
「……分かってますよ」
「随分我慢強くなったじゃないか。倉庫じゃ俺の仲間を散々やってくれたそうだが」
蓮司の目が僅かに細くなる。シンガポールの倉庫で魔虚羅が倒した二人のことまで知っているらしい。
「残念だったな。今の俺はその化け物がどれだけ強くても怖くない。拳一発で爺さんが死ぬんだからな」
理屈では分かっている。だから攻撃しない。それだけだ。しかし、蓮司は自分でも意外なほど強く拳を握っていた。戦えない。
勝てないからではなく、戦えば別の人間が死ぬから戦えない。それは当然受け入れるべき条件なのに、胸の奥ではひどく苛立っている。ハングドマンやジャスティスとはまた少し違う。目の前に敵がいる。手を伸ばせば届く。
魔虚羅なら、一撃で終わらせられるかもしれない。それなのに殴れない。
「神代」
承太郎の声がした。蓮司が顔を上げる。
「顔に出てるぜ」
「……すみません」
「謝る必要はねえ。覚えとけ」
承太郎は制服の内側から小さな紙を取り出した。何かを書き込んでいる。
「何です、それ」
「領収書だ」
「領収書?」
「こいつが俺にやったことを全部つけてる」
蓮司は数秒、承太郎の顔を見た。怒っている。間違いなく怒っている。それなのに声も表情も妙に落ち着いているせいで、逆に怖かった。
「……後でまとめて請求するんですね」
「ああ」
ダンは二人の会話を聞いて笑った。
「好きにしろよ。後なんて来ればな」
蓮司は何も答えなかった。今は殴れない。ただし、今だけだ。
◇
ジョセフの脳内では、花京院とポルナレフがラバーズを追っていた。テレビに映る映像を通して、蓮司にも戦況の一部は見えている。小さなラバーズは脳細胞の隙間を素早く逃げ回り、シルバーチャリオッツの剣を避け、ハイエロファントグリーンの攻撃からも逃れる。
「一番弱いって言ってた割に速いですね」
「戦闘力が弱いだけで、逃げる能力まで低いとは限らんということじゃな」
ジョセフが苦しそうに答える。しかも、問題はそれだけではなかった。ラバーズは周囲の脳細胞を取り込み、自分と似た姿の偽物を次々と作り始めた。画面の中に同じスタンドが増えていく。
「増えた……」
どれが本物か分からない。ポルナレフが迂闊に一体へ攻撃しようとすると、花京院が止める。偽物はジョセフ自身の脳細胞から作られている。無闇に切れば、敵より先にジョセフの脳を傷つける可能性がある。蓮司は画面を睨みながら、魔虚羅の拳を見た。
「入れなくて正解だったかもしれませんね」
「どうしてじゃ?」
「魔虚羅、こういう繊細な戦いには向いてないです。俺が今のサイズのまま無理に入れてたら、ラバーズより先にジョセフさんの頭を壊してたかもしれません」
「怖いことをさらっと言うな!」
「だから入れなかったんですって」
ジョセフが頭を押さえながら睨んでくる。まだ文句を言えるなら大丈夫だろう。そう思っていた時、テレビの中で花京院の動きが変わった。
「……見つけた」
ハイエロファントグリーンの触手が伸びる。偽物の群れの中から一体だけを正確に捉え、その身体へ巻きついた。
「どうやって見分けたんです?」
蓮司には分からなかった。しかし花京院は、ラバーズの動き方や脳細胞を取り込む際の僅かな違いを観察していたらしい。捕らえられたラバーズが激しく暴れる。その瞬間、少し離れた場所にいるダンの表情も変わった。
◇
「ぐっ……!」
突然ダンが頭を押さえた。承太郎はすぐに気付いた。
「どうした。随分余裕がなくなったじゃあねえか」
「うるさい!」
ダンは承太郎を蹴ろうとする。しかし足が途中で止まった。今までとは明らかに違う。
「花京院たちが捕まえたみたいですね」
蓮司もジョセフの様子を確認しながら立ち上がる。ダンがこちらを睨む。
「まだ終わってねえ!」
ラバーズがジョセフの脳から逃げようとする。花京院とポルナレフが追う。その間にジョセフも、肉の芽へハーミットパープルと波紋を使って対処していた。
「これなら……!」
ジョセフの頭に生じていた異変が少しずつ収まっていく。そして、ダンの顔色が変わった。ラバーズが外へ出た。
「承太郎さん!」
「ああ」
その瞬間から、状況は完全に逆転した。ダンが笑顔を作る。
「待てよ。何も本気でやってたわけじゃあない。ちょっとした冗談だろ?」
承太郎は無言だった。
「なあ。仲良くしようぜ。俺はDIOの情報だって持ってる。エンヤ婆より役に立つかもしれないぞ」
「そうですか」
蓮司が答える。ダンが期待するようにこちらを見る。
「だったら――」
「でも俺に決定権ないので、承太郎さんに言ってください」
「お前……!」
承太郎が領収書を取り出した。
「随分たまったな」
ダンの頬が引きつる。
「ま、待て!」
その隙を狙って、小さなラバーズが承太郎へ向かった。耳から侵入するつもりらしい。スタープラチナの指が動く。だがその直前、ラバーズの身体が空中で止まった。細い緑色の触手が絡みついている。
「残念だったね」
戻ってきた花京院が静かに言った。
「逃げる前に、ハイエロファントの一部を付けておいた」
ダンの顔から完全に余裕が消えた。今度こそ人質はいない。蓮司の背後に魔虚羅が現れた。頭上の方陣が僅かに揺れ、目の前のダンへ身体を向ける。
「神代」
承太郎が呼ぶ。
「はい」
「こいつは俺がやる」
蓮司は魔虚羅を見る。さっきまで、あれほど攻撃したがっていた。蓮司自身も腹が立っている。しかし。
「魔虚羅、下がれ」
巨体が一歩後ろへ退いた。
「どうぞ」
「ああ」
承太郎が前へ出る。ダンは逃げようとした。その腕をスタープラチナが掴む。
「ひっ……!」
「まずは利息からだ」
拳が入った。その後に続く連打を、蓮司も止める気にはならなかった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
スタープラチナの拳がダンを捉え続ける。地面へ落ちる暇すらなく、身体が何度も宙へ浮く。最後の一撃で男は遥か後方まで吹き飛び、建物の壁へ叩きつけられた。崩れた壁の中で、ダンは動かなくなった。しばらく誰も口を開かなかった。
ポルナレフが最初に沈黙を破る。
「……随分溜めたな」
「領収書の分だろうね」
花京院が答えた。蓮司は承太郎を見る。
「これでも殺してないんですよね?」
「多分な」
「多分なんですか」
確認しに行く気にはなれなかった。
◇
戦いが終わり、一行は改めてエンヤ婆の亡骸を確認した。DIOは、自分のスタンドについて多くを知っていたはずの側近を、情報が漏れる可能性だけで殺した。
「そこまでして隠したい能力か」
花京院が呟く。
「厄介なのは間違いなさそうじゃな」
ジョセフも険しい顔をしている。蓮司はDIOについて知っている僅かな知識を思い返した。有名な悪役。吸血鬼。承太郎たちがエジプトで戦う。
知っているのはその程度だ。肝心な能力は何も知らない。
「分からないなら、着くまでにできるだけ備えるしかないですね」
蓮司はそれだけ言った。魔虚羅の適応も万能ではない。ラバーズのように、そもそも攻撃を受けることさえ許されない状況もある。今回、魔虚羅は一度も敵の能力へ適応しなかった。それでも仲間が解決した。
それはいい。いいはずなのだが、蓮司は少し離れた場所に倒れているダンへ視線を向けた。
「神代君?」
花京院に呼ばれて顔を戻す。
「何でもないです」
戦えなかったことが、妙に引っかかっていた。ジョセフを守るためなのだから正しい判断だったし、もし同じ状況になれば次も攻撃しない。それでも、目の前に敵がいるのに拳を止め続けた時間を思い出すと、胸の奥に小さな苛立ちが残っている。その感覚を、蓮司はまだ「仲間を人質に取られたことへの怒り」だと思っていた。傍らに立つ魔虚羅も、既に戦いが終わったというのに、しばらくダンの方を向いたままだった。