ジョジョ三部に転生したら、スタンドが魔虚羅だった   作:東京大特価

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第十九話 今度の仲間、犬なんですか?

 海から上がって数時間。一行はスピードワゴン財団が用意した車へ乗り換え、紅海沿岸から内陸へ向かっていた。

 

 窓の外に広がっているのは、これまで見てきた景色とはまた違う砂漠だった。どこまで行っても砂と岩ばかりで、遠くでは陽炎が揺れている。蓮司は後部座席からしばらくその光景を眺めたあと、ようやくここまで来たのだという実感を覚えた。

 

「……本当にエジプトまで来たんですね」

 

「ああ。長かったね」

 

 隣にいた花京院が頷く。

 

「飛行機が墜ちて、船が沈んで、車に襲われて、潜水艦まで沈みましたからね」

 

「そうやって並べると、本当に酷い旅だな」

 

 前の席からポルナレフが振り返った。

 

「だからもう乗り物の話はするな。今乗ってる車まで壊れそうな気がしてくる」

 

「普通の車ですよ」

 

「その台詞を潜水艦でも聞いた気がするんだよ!」

 

「今回は俺、安心だとは言ってませんけど」

 

「なら最後まで言うな」

 

 随分と信用を失っている。蓮司としては自分に原因があるとは到底思えなかったが、これまでの実績を考えると強く反論する気にもなれなかった。

 

 助手席ではジョセフが地図を広げている。

 

「もうすぐ合流地点じゃ。スピードワゴン財団の連中が、追加の物資を運んできてくれることになっとる」

 

「義手もですか?」

 

「もちろんじゃ! いつまでも片手では不便じゃからな」

 

 ハイプリエステスに切断された義手は応急処置こそしてあるものの、まだまともには使えない。ジョセフはそれを持ち上げて不満そうに振ってから、少し声を落とした。

 

「それと、もう一つ頼んでおいたものがある」

 

「何です?」

 

「戦力じゃ」

 

 その一言に、蓮司は少しだけ姿勢を正した。

 

「スタンド使いですか?」

 

「そうじゃ。それもかなり強力なスタンドを持っとる。ただし、性格にかなり問題があってのう。わしらの言うことを素直に聞くような奴ではない」

 

「大丈夫なんですか、それ」

 

「実力だけなら間違いない」

 

「余計に不安になる説明ですね」

 

「会えば分かる」

 

「その言い方をする時、大体ろくなことにならない気がします」

 

「細かいことを気にするな!」

 

 気にした方がいいと思う。

 

     ◇

 

 しばらくすると、遠くからローター音が聞こえてきた。

 

「来たぞ」

 

 アヴドゥルの声に一行が空を見上げると、一機のヘリコプターが砂漠の上を飛んでくるのが見えた。機体にはスピードワゴン財団の印があり、やがて一行から少し離れた平地へ着陸する。

 

 巻き上げられた砂埃を避けながら、蓮司も車を降りた。近づいてくるヘリコプターを眺めていたところで、横から承太郎の声が飛んでくる。

 

「神代」

 

「はい?」

 

「何でヘリを睨んでる」

 

「いや……飛ぶ乗り物なので」

 

「まだ引きずってんのか」

 

「二回墜ちれば警戒もしますよ」

 

 承太郎は何も言わなかったが、否定もしなかった。

 

 ヘリコプターの扉が開き、スピードワゴン財団の職員らしい二人の男が降りてくる。

 

「ジョースターさん!」

 

「ご苦労じゃった!」

 

 ジョセフが歩み寄ると、職員たちは水や食料などの物資を次々と下ろしていった。やがて一通りの荷物を運び終えたところで、二人は妙に疲れた顔を見合わせる。

 

「それで……例の彼も連れてきました」

 

「随分苦労したようじゃな」

 

「苦労なんてもんじゃありませんよ。ニューヨーク中を探し回りました。捕まえようとした人間が何人病院送りになったことか」

 

「そんなに?」

 

 ポルナレフが眉を上げる。

 

「とんでもなく凶暴なんです。それに頭がいい。人間のすることを完全に理解してるんじゃないかと思うくらいで」

 

 蓮司は職員の視線を追ってヘリコプターの中を覗いた。後部座席には小さな毛布の塊が置かれているだけで、人間の姿は見当たらない。

 

「そのスタンド使いは?」

 

「そこです」

 

「そこ?」

 

 職員が指差したのは、やはり毛布だった。

 

 ポルナレフが首を傾げながら近づく。

 

「何だ、随分小さい奴だな。子供か? それとも小人か?」

 

「ポルナレフ、あまり触らん方が――」

 

 ジョセフが止めるより早く、ポルナレフは座席を軽く叩いた。

 

「おい、起きろ! 俺たちがお前の新しい仲間――」

 

 次の瞬間、毛布が勢いよく跳ね上がった。

 

「うおっ!?」

 

 黒と白の小さな影がポルナレフの顔へ飛びつき、慌てて引き剥がされたあと、砂の上へ軽やかに着地する。

 

 そこにいたのは、小柄なボストン・テリアだった。

 

「…………」

 

 蓮司は犬を見る。

 

 犬も蓮司を見る。

 

「ジョセフさん」

 

「何じゃ」

 

「スタンド使いは?」

 

 ジョセフが犬を指差した。

 

「そいつじゃ」

 

 蓮司はもう一度犬を見る。やはり犬だった。

 

「今度の仲間、犬なんですか?」

 

「犬じゃ」

 

「猿のスタンド使いは敵にいましたけど、味方にも動物が来るんですね……」

 

「犬だと!?」

 

 ポルナレフが信じられないという顔で指を差す。

 

「このチビがスタンド使いだっていうのか!?」

 

 その瞬間、犬――イギーの目つきが変わった。

 

「あ」

 

 アヴドゥルが小さく声を漏らすのと、地面の砂が動き始めるのはほぼ同時だった。ポルナレフの背後で砂が大きく盛り上がり、巨大な前脚のような形を取る。

 

「ポルナレフさん、後ろ!」

 

「え?」

 

 振り返る暇もなく砂の塊が跳ね上がり、ポルナレフの身体を宙へ放り投げた。

 

「うおおおおっ!?」

 

 さらに砂は機械的な頭部と巨大な車輪のような下半身を形作り、一体の異様なスタンドとなって姿を現す。犬一匹が操っているとは思えないほど大きく、見た目だけなら十分に威圧感があった。

 

「砂のスタンド……」

 

「ザ・フール――『愚者』のカードを暗示するスタンドじゃ」

 

 ジョセフが説明する。

 

「砂を自在に操る。単純なパワーもかなりのものじゃぞ」

 

「先に言ええええ!」

 

 砂の中から飛び出したポルナレフが怒鳴った。

 

「犬相手に本気になるな、ポルナレフ」

 

 花京院が笑いを堪えながら言う。

 

「こいつから仕掛けてきたんだぞ!」

 

「お前が先に起こしたんじゃろうが」

 

「起こしただけだ!」

 

 当のイギーは、騒いでいるポルナレフなど最初から存在しないかのように無視していた。しきりに鼻を動かしていたが、ジョセフがポケットから小さな包みを取り出した瞬間、ぴたりと耳が立つ。

 

「これが好きでのう」

 

「何です?」

 

「コーヒー味のチューインガムじゃ」

 

「犬にチューインガム……?」

 

 蓮司が疑問を口にし終えるより早く、イギーが跳んだ。ジョセフの手から包みを奪い、そのまま器用に包装を剥がして噛み始める。

 

「……本当に犬ですか?」

 

「見た目はな」

 

 アヴドゥルが答えた。

 

「人間の言葉もかなり理解している。下手な人間より頭がいいかもしれん」

 

 蓮司が改めてイギーを見ると、向こうもこちらを見返していた。何となく試されているような目だったので、少し距離を空けたまましゃがみ、手を差し出してみる。

 

「よろしく」

 

 イギーの鼻に皺が寄り、低い唸り声が返ってきた。

 

「やめておきます」

 

 蓮司はすぐに手を引く。

 

「賢明だな、神代君」

 

 アヴドゥルが頷いた。

 

「何で俺の時には止めてくれなかったんだ!?」

 

「お前はもう触っていたからな」

 

「早く言えよ!」

 

     ◇

 

 荷物の受け渡しが終わったところで、財団職員の一人がカメラを取り出した。

 

「せっかくですから、一枚撮りませんか? ここまで全員無事にエジプトまで来た記念に」

 

「いいじゃあないか!」

 

 ジョセフは即座に賛成したが、蓮司は自分の服を見下ろした。海から上がったあとに財団から着替えをもらっているため見た目はまともだが、旅の疲れまではどうしようもない。

 

「今ですか?」

 

「こういうのは今撮るから意味があるんじゃ!」

 

 結局、全員がヘリコプターの前へ集まることになった。承太郎は露骨に面倒そうな顔をし、花京院は素直に応じている。ポルナレフは妙に張り切り、アヴドゥルの肩へ腕を回そうとして無言で押し返されていた。

 

「神代君も入れ」

 

「俺もですか?」

 

「当たり前じゃろ」

 

 蓮司も端へ並ぶ。

 

 最後の問題はイギーだったが、ジョセフがコーヒーガムを見せると渋々その場へ座った。本人に記念写真へ参加する意思があるのかは怪しいが、少なくとも逃げる気はないらしい。

 

「それでは撮りますよ!」

 

 職員がカメラを構える。

 

 承太郎は帽子のつばへ指を添え、花京院は僅かに笑っていた。ポルナレフはまだ何か言っており、アヴドゥルは腕を組んでいる。足元ではイギーがガムを噛んでいた。

 

 シャッターが切られた。

 

 長い旅の途中で、全員が揃った一枚だった。

 

     ◇

 

 写真を撮り終えたあと、財団職員の一人がジョセフへ封筒を差し出した。

 

「それから、報告があります」

 

「何じゃ?」

 

「DIOの屋敷周辺で、新しい動きが確認されました。ここ数日で、少なくとも九人の男女が屋敷へ出入りしています。全員、これまで確認されていなかった人物です」

 

「九人……」

 

 花京院が表情を引き締め、アヴドゥルも険しい顔になる。

 

「新しいスタンド使いか」

 

「その可能性が高いと見ています」

 

「まだ九人もいるのかよ」

 

 ポルナレフが顔をしかめた。

 

「タロットのスタンド使いはほとんど倒したんじゃなかったのか?」

 

「スタンドの暗示がタロットだけとは限らんということじゃろう」

 

 ジョセフが封筒を握る。

 

 エジプトへ入ればDIOまで一直線というわけではないらしい。だが、敵がまだ残っているという話だけなら、ここまでの旅を考えれば驚くほどでもなかった。

 

「もう一つあります」

 

 職員が続ける。

 

「日本から、ホリィさんの容態について連絡が」

 

 ジョセフの顔色が変わった。

 

「どうした」

 

「悪化しています。医師の見立てでは……この状態が続けば、あと二週間ほどが限界ではないかと」

 

 一行から言葉が消えた。

 

 ジョセフは黙ったまま封筒を握り、承太郎も表情こそ変えなかったが、帽子のつばへ触れていた指が僅かに止まる。

 

「急がないといけませんね」

 

「ああ」

 

 承太郎が短く答えた。

 

「行くぞ」

 

     ◇

 

 財団のヘリコプターを見送ったあと、一行は再び車で砂漠を進み始めた。

 

 イギーも後部座席の隅で丸くなっている。同行している以上、一応は仲間なのだろうが、本人にその自覚があるようにはまったく見えなかった。

 

「こいつ本当に戦ってくれるんですか?」

 

 蓮司が尋ねると、ジョセフは前を向いたまま答える。

 

「気が向けばな」

 

「気が向かなかったら?」

 

「寝る」

 

「戦力として数えていいんですか?」

 

「だから扱いに困っとるんじゃ」

 

 隣ではポルナレフがイギーを睨んでいる。

 

「俺は絶対認めんぞ」

 

 その声に反応して、イギーの片目が開いた。

 

「ポルナレフさん、聞こえてますよ」

 

「犬だぞ」

 

「人間の言葉が分かるってさっき言われたでしょう」

 

「…………」

 

 ポルナレフが静かに前を向くと、イギーは満足したように再び目を閉じた。

 

「完全に馬鹿にされてますね」

 

「うるさい」

 

 そんなやり取りをしていた時、アヴドゥルが前方へ目を凝らした。

 

「待て。あれは……」

 

 砂漠の中に、黒い金属の塊が見える。車が近づくにつれて、その正体がはっきりしてきた。

 

「ヘリコプター?」

 

 蓮司が身体を起こす。

 

 砂の上へ墜落していたのは、つい先ほどまで自分たちの前にいたスピードワゴン財団の機体だった。

 

「止めろ!」

 

 車が急停車し、全員が外へ飛び出す。ローターは完全に止まり、機体の一部が砂へ埋まっていた。

 

「おい! 無事か!」

 

 ジョセフが駆け寄り、アヴドゥルが操縦席を確認する。

 

「一人いない」

 

「もう一人は?」

 

「向こうだ!」

 

 花京院が少し離れた砂地を指差した。

 

 財団職員の一人が倒れている。ジョセフたちが駆け寄ると、男には辛うじて意識が残っていた。

 

「しっかりしろ!」

 

「み……水……」

 

「水じゃな!?」

 

 ジョセフが水筒を取り出そうとすると、男は苦しそうに首を振った。

 

「違う……水が……襲って……もう一人は……水筒……」

 

 そこで力尽きたように意識を失う。

 

「水が襲った?」

 

 蓮司は周囲を見回した。見えるのは砂ばかりで、川も池もない。

 

「スタンドだ」

 

 承太郎が即座に言った。

 

 少し離れた場所には、一つの水筒が転がっている。花京院が確かめようと近づきかけたところで、蓮司は嫌なものを感じて声をかけた。

 

「待ってください」

 

「僕もそう思う」

 

 花京院が足を止める。

 

 地面に転がっていた水筒の口から、一滴の水が零れた。普通ならそのまま砂へ染み込んで終わるはずだったが、水滴は消えず、まるで意思を持っているかのように砂の表面をゆっくりと這い始める。

 

「水が……動いた?」

 

 ポルナレフがシルバーチャリオッツを出す。

 

 直後、水筒の中から大量の水が噴き出した。

 

「下がれ!」

 

 アヴドゥルの声が飛ぶ。

 

 水は液体とは思えない速度で細長く伸び、刃のような形になって花京院へ迫った。

 

「花京院さん!」

 

「ぐっ!」

 

 避けきれなかった花京院の顔から血が散り、その身体をポルナレフが受け止める。

 

「花京院!」

 

「目が……見えない……」

 

 両目の周囲が深く切られていた。

 

 承太郎が水の消えた砂地を睨む。

 

「どこだ」

 

 既に水は砂の中へ潜り、見た目では位置が分からなくなっている。

 

「魔虚羅!」

 

 蓮司の背後に三メートルの巨体が現れた。

 

 花京院たちを庇える位置へ動かそうとした瞬間、少し離れた砂が僅かに跳ねる。

 

「右です!」

 

 魔虚羅がそちらへ腕を向ける。

 

 砂から飛び出した水の刃が前腕へ食い込み、皮膚を深く裂いた。同時に蓮司の腕にも同じ傷が走り、思わず歯を食いしばる。魔虚羅の頭上では方陣が軋んだものの、まだ回転には至らない。

 

 水は一撃を加えただけですぐ砂へ潜った。

 

「速い……」

 

「違う」

 

 承太郎が低く言う。

 

「こいつ、魔虚羅が動いた瞬間に狙いを変えやがった」

 

 蓮司も砂地を見る。

 

 試しに魔虚羅が一歩踏み出すと、巨体の重さで砂が沈み、その振動が周囲へ伝わった。直後、別の場所から水が飛び出し、今度はまっすぐ魔虚羅の脚へ向かってくる。

 

「魔虚羅、動くな!」

 

 巨体がぴたりと止まる。

 

 すると、水の動きにも僅かな迷いが生まれた。

 

「音か」

 

 承太郎の言葉に、アヴドゥルもすぐ意味を理解した。

 

「なるほど……こいつは我々を見ているのではない。砂を伝わる振動を頼りに位置を探っているのか!」

 

 魔虚羅は大きく、重い。砂地を歩けば人間より遥かに大きな振動を出す。

 

「……相性悪いですね」

 

 守るために出したはずが、動かせば動かすほど敵へ正確な位置を知らせることになる。蓮司は魔虚羅を消した。

 

「神代、平気か?」

 

「腕だけです。それより花京院さんを」

 

 ジョセフとアヴドゥルが花京院を車へ運ぶ。

 

「ここに留まるのは危険だ!」

 

「全員乗れ!」

 

 一行が飛び乗ると、車はすぐに砂漠を走り始めた。

 

     ◇

 

 車内ではジョセフが花京院の傷を押さえている。

 

「傷は深いが、命に別状はない! まずここから離れるぞ!」

 

「敵は追ってきてるんですか?」

 

 蓮司は後方を確認したが、砂の上には何も見えない。それでも、先ほどの水は砂の中を自在に移動していた。目で追えないからといって、いなくなったとは限らなかった。

 

「まずい」

 

 承太郎が呟く。

 

「何がじゃ?」

 

「車の音だ」

 

 その一言で全員が理解した。

 

 エンジン音も、タイヤが砂を踏む振動も、人間の足音とは比べものにならないほど大きい。敵が振動を頼りにこちらを探しているのなら、走っている車など格好の目印だった。

 

「また乗り物が裏目に出てるじゃないですか……」

 

「今それを言うな!」

 

 ポルナレフが叫んだ直後、車の横の砂が弾けた。

 

「来た!」

 

 飛び出した水の刃をスタープラチナが窓越しに弾き飛ばす。しかし散らされた水滴は地面へ落ちると再び集まり、今度は車の下へ潜り込んだ。

 

「下だ!」

 

 次の瞬間、車体が大きく跳ねた。

 

「うおおっ!?」

 

 タイヤが切り裂かれ、車が大きく横滑りする。さらに車体の底から金属が裂ける音が続き、水のスタンドが何度も下から攻撃を加えてきた。

 

「このままじゃ車ごとやられる!」

 

 アヴドゥルが叫ぶ。

 

 その時、突然窓が開いた。

 

「え?」

 

 イギーが車外へ飛び出し、そのまま何事もなかったように砂へ着地した。

 

「おい!」

 

 ポルナレフが呼び止めるが、イギーは一度だけ振り返ると、そのまま車から離れていく。

 

「戻ってこい!」

 

 返事の代わりに、イギーは少し離れた砂の上へ寝転んだ。

 

「逃げたぞあの犬!」

 

「元々わしらに協力する気などほとんどないと言ったじゃろ!」

 

「仲間じゃないんですか!?」

 

「一応仲間じゃ!」

 

「一応って言いましたよね!?」

 

 騒ぐ一行をよそに、イギーは完全に目を閉じている。

 

 だが、水のスタンドはイギーへ向かわなかった。

 

 承太郎がその様子を見て目を細める。

 

「……あの犬は狙われてねえ」

 

「どうしてだ?」

 

「音を立ててねえからだ」

 

 イギーは砂の上でほとんど身動きしていない。敵が振動だけを頼りに位置を判断しているなら、静止したイギーを捉えられないのも不思議ではなかった。

 

「それに、向こうからしても放っておいていいと思われてるんじゃないですか」

 

 蓮司が眠っているイギーを見る。

 

「あれ、自分から戦う気まったくなさそうですし」

 

「本当に何しに来たんじゃ、あの犬は!」

 

「ジョセフさんが連れてきたんでしょう」

 

「わしに言うな!」

 

 言い争っている間にも、車体がもう一度大きく揺れた。

 

「まずい!」

 

 前輪が砂へ深く沈み、エンジンを吹かしてもタイヤが空回りするだけで前へ進まない。完全に砂へ嵌まっていた。

 

「全員、下手に動くな!」

 

 アヴドゥルが周囲を警戒する。

 

 車外へ出れば足音を狙われる。しかし、このまま車内に留まっていても、いずれ水のスタンドに車体を切り刻まれる。

 

 蓮司は傷ついた腕を押さえながら、見渡す限りの砂漠へ目を向けた。

 

 魔虚羅を出せば、先ほどの攻撃に対する適応を進められるかもしれない。しかし動かせば敵に居場所を教えることになるうえ、そもそも本体がどこにいるのか分からない。攻撃を耐えられるようになったところで、敵へ届かなければ倒しようがなかった。

 

「……本体、どこにいるんだ」

 

 承太郎も同じ問題へ辿り着いているらしく、帽子のつばを押さえながら砂漠を睨んでいる。

 

 その遥か彼方。

 

 一人の男が砂の上に座っていた。

 

 閉じられた目。手には長い杖が握られ、その先端は地面へ触れている。

 

 杖を通じて伝わってくるのは、車のエンジン音、人間たちの声、僅かな動きが生み出す砂の振動。そして先ほど一瞬だけ感じた、明らかに人間とは異なる巨大な何かの足音。

 

 男――ンドゥールは静かに耳を澄ませ、僅かに口元を吊り上げた。

 

「六人……いや、七人か」

 

 指先が杖へ触れる。

 

「このゲブ神から、逃げられるものなら逃げてみろ」

 

 遥か離れた車の真下で、砂に潜んだ水が再び刃の形を作り始めていた。

 




魔虚羅のステータスは以下です。

【スタンド紹介】

■八握剣異戒神将 魔虚羅(MAHORAGA)

破壊力:A
スピード:A
射程距離:C
持続力:A
精密動作性:B
成長性:A(∞)

近距離パワー型のスタンド。
高い身体能力に加え、受けた攻撃や特殊な現象を分析し、頭上の方陣が回転することで徐々に「適応」していく。

適応が成立すると耐性を得るほか、負った傷も再生される。
ただし、未知の攻撃を最初から無効化できるわけではない。
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