ジョジョ三部に転生したら、スタンドが魔虚羅だった   作:東京大特価

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第二十二話 その刀、絶対に抜かない方がいいですよ

翌日、アヴドゥルは医者からようやく移動の許可を得た。花京院は目の治療のためアスワンへ残ることになったが、本人は数日もすれば追いつくと言っている。

 

「無理して早く来なくていいですよ」

 

 出発前、蓮司がそう言うと、花京院は包帯の奥で苦笑した。

 

「神代君にだけは言われたくないな」

「何でですか」

「自分の怪我には同じことを言わないだろう?」

「俺は治りますから」

「それを無理と言うんだよ」

 

 最近、似たようなことを何人にも言われている気がする。蓮司は反論を諦め、花京院に必要なものがあれば連絡するよう伝えて病院を出た。

 

 一行はナイル河を下ってカイロを目指すため、コム・オンボで小型の帆船を探すことになった。町へ着くとそれぞれ周囲を見て回っていたが、しばらくして蓮司はポルナレフの姿がないことに気付いた。

 

「ポルナレフさんは?」

「む? おかしいの、さっきまではそこにいたんだが。……まあここで待ってたら戻ってくるじゃろ」

 

 蓮司は少し考えた。

 

「……探しに行きません?」

「そこまで心配せんでも大丈夫じゃろ」

「前にも一人で先に行って敵に襲われてますし、今はエジプトですよ。何もなければ戻ればいいだけです」

 

 アヴドゥルが頷いた。

 

「神代君の言う通りだ。DIOの配下が何人残っているか分からない以上、一人にしておく理由はない」

「やれやれ。本人が戻ってきたら一言言ってやらんとな」

 

 結局、船探しをいったん切り上げ、全員でポルナレフの向かった河べりを探すことになった。

 

 少し歩いたところで、金属同士が激しくぶつかる音が聞こえた。

 

「……いましたね」

「しかも何か起きとるぞ!」

 

 一行が音のした方へ走る。

 

 河べりから少し離れた場所では、ちょうど戦いが終わろうとしていた。シルバーチャリオッツの剣先が飛び、刀を持った青年の喉元近くを掠める。青年が怯んだ一瞬にポルナレフが距離を詰め、シルバーチャリオッツの拳でその身体を地面へ叩き伏せた。

 

「ポルナレフ!」

「おう。来たのか」

「来たのか、じゃないでしょう。一人で行くから探しに来たんですよ」

「悪かったって。俺だって好きで襲われたわけじゃねえよ」

 

 ポルナレフは胸元の傷を押さえながら、倒れた青年を顎で示した。

 

「アヌビス神の暗示のスタンド使いといってたぜ……。剣の達人物体をすり抜けて切断できるスタンド使いだった。強敵だったぜ」

 

 ポルナレフが地面を指す。

 そこには気を失って倒れたチャカと、装飾の施された古い刀が落ちていた。いや、落ちているというより、鞘に収まった状態で転がっている。

 

 ポルナレフが眉を寄せた。

 

「……おかしいな」

「何がです?」

「さっきまで抜き身だったんだよ。俺が吹っ飛ばした時に、偶然鞘に入ったのか?」

 

 蓮司も刀を見る。鞘と刀身がたまたま一直線になり、しかも完全に収まったというのなら随分な偶然だった。

 

ポルナレフは聞かずに刀を拾った。鞘を持ち上げ、柄へ手をかける。

 

「気になりますけど、抜かない方がよくないですか?」

「ちょっとだけだって」

「それ、触る人が言う台詞ですよ」

 

「分かったよ。そこまで言うならやめとく」

 

 ポルナレフがかたなの柄から手を離したため、蓮司もそれ以上は言わなかった。

 

 

     ◇

 

 しばらくして小型の帆船の手配がつき、出発まで少し時間が空いた。

 

「よし。じゃあ俺は床屋に行ってくる」

 

 突然ポルナレフが言った。

 

「何で今なんじゃ」

「さっきの戦いで砂と埃まみれなんだよ。ヒゲも伸びてるし、せっかく時間があるんだからいいだろ」

 

 蓮司がポルナレフの髪を見る。

 

「その髪型なら多少乱れてても分からないんじゃないですか?」

「神代、お前さっきから俺の髪に何か恨みでもあんのか」

「ないです」

「絶対あるだろ」

 

 結局、ジョセフとアヴドゥルは船の確認へ向かい、承太郎がポルナレフにつき合うことになった。蓮司も少し迷ったが、結局ポルナレフについて行くことにした。

 

「俺も行きます」

「珍しいな。お前も散髪するのか?」

「しません。またポルナレフさんが狙われるかもしれないので、ついて行くだけです」

「んな短時間で何回も襲われるかよ!信用ねぇなぁ」

 

 三人は町にある小さな理髪店へ入った。

 

 店主のカーンは体格のいい男だったが、愛想はよかった。

 

「ちょっと親父、この刀そっちに置いといてくれ」

 

 ポルナレフは持っていた刀を店主へ預ける。

 

「その刀、どうするつもりなんです?」

 

「警察に届ける。どう見ても凶器だからな。あの遺跡のところに捨てておくと、誰が拾うかわからんぜ。高価そうだしよ」

 

 承太郎と蓮司は待合用の椅子へ腰を下ろす。蓮司はしばらく刀を見ていたが、鞘に収まったままなら今すぐ何か起きる様子もないので、持ってきた雑誌を読み始めた。

 

 店主が剃刀を取り出し、ポルナレフの髭を整え始める。最初の一度は、妙に切れ味が悪かった。

 

「そのカミソリ切れ味悪いぜ。ちゃんと研げよちゃんとぉー!」

「ソースカ、スンマセン」

 

 カーンは剃刀を置き、別のものを探すように店の奥へ向かった。

 

 その視線が、壁際の刀で止まる。

 

 蓮司は気付かなかった。

 

 承太郎も、ほんの一瞬だけ外へ目を向けていた。

 

 カーンの手が柄へ伸びる。

 

     ◇

 

「今度はよく剃れるじゃねえか。気持ちいいぜ」

 

 ポルナレフが気持ちよさそうに顎を上げる。

 

「それは…良かったですね…」

「トレビアンだよト・レ・ビ・ア・ン! アゴの下も頼むぜ」

 

「はい…アゴの、下ですね」

 

 カーンの声が変わった。

 

 蓮司が顔を上げる。

 店主の右手にあるのは剃刀ではない。鞘から抜かれた、あの刀だった。

 

「アゴの下だな、ポルナレフッ!」

「なにぃ!」

「ポルナレフさん!」

 

「おれだよ、まぬけっ。アヌビスの暗示のスタンドさ」

 

 刀が首筋へ走る。

 

 ポルナレフが椅子を下げて身を捻り、刃を躱す。刀はそのままカーンの腹部。切り裂いた。承太郎も同時に立ち上がる。

 

「て、てめーはトコ屋の主人じゃねぇのか!?」

 

 カーンは先ほどまでとは別人のような笑みを浮かべていた。

 ポルナレフの表情が変わる。

 

 チャカはもうここにはいない。

 それなのに、目の前の男が同じ名を口にしている。

 しかも、その手には同じ刀がある。

 

「……まさか」

 

 ポルナレフがシルバーチャリオッツを出す。

 

「本体は人間じゃねえ……その刀か!」

 

 アヌビス神が笑った。

 刀が振り下ろされた。

 

 シルバーチャリオッツが受け止める。

 その瞬間、ポルナレフの表情が変わった。

 

「うおおおっ! こ…この剣力はっ!?」

 

「貴様のチャリオッツの動きやパワーは、さっきしっかり取り込んだ!一度闘った相手には決して負けない!」

 

「こいつ……!」

 

 二度目の斬撃。

 ポルナレフが受ける。

 三度目は受けきれず、肩口が浅く裂けた。

 

「さっきより明らかに強くなってやがる!」

 

 蓮司は立ち上がり、魔虚羅を呼び出そうとして店内の狭さに気付いた。ここで三メートルの魔虚羅を出せば、店ごと壊しかねない。何より、カーン本人が操られているだけなら力任せに殴るわけにもいかない。

蓮司は魔虚羅の両の腕のみの顕現に留める。

 

「承太郎さん」

「ああ。刀を落とす」

 

 スタープラチナが現れる。

 アヌビス神がポルナレフへ斬りかかった。

 正面からシルバーチャリオッツが防ぐ。

 

 その横から、スタープラチナの手が伸びた。

 

「つかまえたぜ」

 

 刀身を挟み込む。

 カーンが引いても動かない。

 

「そのまま捕まえててください!」

 

 魔虚羅が腕を伸ばし、カーンの胴体を掴む。そのまま刀から無理やり引き剥がした。

 

 カーンは店の奥へ転がり、刀が床へ落ちる。ポルナレフが反射的に一歩出た。

 

「触らないで!」

「分かってる!」

 

 チャカに続いてカーンまで操られた。原因がこの刀にあるのは間違いない。どういう条件で支配されるのか分からない以上、直接触れずに処理した方がいい。

 

 しかし刀は床を滑り、椅子へ当たって方向を変え、店の入口へ向かう。

 

 騒ぎを聞きつけ、気になったのだろう。ちょうど外から、小さな子供が中を覗き込んでいた。

 

「危ない!」

 

 蓮司は飛び出した。

 刀を蹴り飛ばそうとする。

 

 だが、刃先が床へ引っかかり、跳ね上がった。

 

 子供の顔へ向かう。

 

 考える時間は、なかった。

 

「神代!」

 

 蓮司は右手で刀身を掴んだ。掌が裂ける。

 痛みより先に、頭の中へ何かが入り込んできた。

 

『捕まえた』

「……っ」

 

 視界が暗くなる。身体の感覚が急速に遠ざかっていく。

 

 最後に見えたのは、承太郎がこちらへ手を伸ばす姿だった。

 

     ◇

 

 蓮司の身体がゆっくり立ち上がった。

 

「神代?」

 

 ポルナレフが呼びかける。

 返事はない。

 

 右手から血を流しながら、折れてもいない刀を握り直す。

 顔を上げた。

 

 口元に、蓮司ならまず浮かべない笑みがあった。

 

「……この身体も、なかなかいいじゃあないか」

 

 承太郎の目が細くなる。

 

「今度は神代か」

「そのようだな」

 

 蓮司の声で、アヌビス神が笑う。

 

「健康的な若い身体。チャカやカーンより力もある。それに――」

 

 そこで言葉が止まった。

 

 蓮司の背後へ、魔虚羅が現れる。

 いつもの三メートル。それだけで肩が天井板を押し上げ、頭上の梁が軋んだ。

 だが、頭上の方陣が低く軋むような音を立てた。

 

 アヌビス神が振り返る。

 

「ほう」

 

 次の瞬間、魔虚羅の身体が膨れ上がり始めた。

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