ジョジョ三部に転生したら、スタンドが魔虚羅だった 作:東京大特価
翌日、アヴドゥルは医者からようやく移動の許可を得た。花京院は目の治療のためアスワンへ残ることになったが、本人は数日もすれば追いつくと言っている。
「無理して早く来なくていいですよ」
出発前、蓮司がそう言うと、花京院は包帯の奥で苦笑した。
「神代君にだけは言われたくないな」
「何でですか」
「自分の怪我には同じことを言わないだろう?」
「俺は治りますから」
「それを無理と言うんだよ」
最近、似たようなことを何人にも言われている気がする。蓮司は反論を諦め、花京院に必要なものがあれば連絡するよう伝えて病院を出た。
一行はナイル河を下ってカイロを目指すため、コム・オンボで小型の帆船を探すことになった。町へ着くとそれぞれ周囲を見て回っていたが、しばらくして蓮司はポルナレフの姿がないことに気付いた。
「ポルナレフさんは?」
「む? おかしいの、さっきまではそこにいたんだが。……まあここで待ってたら戻ってくるじゃろ」
蓮司は少し考えた。
「……探しに行きません?」
「そこまで心配せんでも大丈夫じゃろ」
「前にも一人で先に行って敵に襲われてますし、今はエジプトですよ。何もなければ戻ればいいだけです」
アヴドゥルが頷いた。
「神代君の言う通りだ。DIOの配下が何人残っているか分からない以上、一人にしておく理由はない」
「やれやれ。本人が戻ってきたら一言言ってやらんとな」
結局、船探しをいったん切り上げ、全員でポルナレフの向かった河べりを探すことになった。
少し歩いたところで、金属同士が激しくぶつかる音が聞こえた。
「……いましたね」
「しかも何か起きとるぞ!」
一行が音のした方へ走る。
河べりから少し離れた場所では、ちょうど戦いが終わろうとしていた。シルバーチャリオッツの剣先が飛び、刀を持った青年の喉元近くを掠める。青年が怯んだ一瞬にポルナレフが距離を詰め、シルバーチャリオッツの拳でその身体を地面へ叩き伏せた。
「ポルナレフ!」
「おう。来たのか」
「来たのか、じゃないでしょう。一人で行くから探しに来たんですよ」
「悪かったって。俺だって好きで襲われたわけじゃねえよ」
ポルナレフは胸元の傷を押さえながら、倒れた青年を顎で示した。
「アヌビス神の暗示のスタンド使いといってたぜ……。剣の達人物体をすり抜けて切断できるスタンド使いだった。強敵だったぜ」
ポルナレフが地面を指す。
そこには気を失って倒れたチャカと、装飾の施された古い刀が落ちていた。いや、落ちているというより、鞘に収まった状態で転がっている。
ポルナレフが眉を寄せた。
「……おかしいな」
「何がです?」
「さっきまで抜き身だったんだよ。俺が吹っ飛ばした時に、偶然鞘に入ったのか?」
蓮司も刀を見る。鞘と刀身がたまたま一直線になり、しかも完全に収まったというのなら随分な偶然だった。
ポルナレフは聞かずに刀を拾った。鞘を持ち上げ、柄へ手をかける。
「気になりますけど、抜かない方がよくないですか?」
「ちょっとだけだって」
「それ、触る人が言う台詞ですよ」
「分かったよ。そこまで言うならやめとく」
ポルナレフがかたなの柄から手を離したため、蓮司もそれ以上は言わなかった。
◇
しばらくして小型の帆船の手配がつき、出発まで少し時間が空いた。
「よし。じゃあ俺は床屋に行ってくる」
突然ポルナレフが言った。
「何で今なんじゃ」
「さっきの戦いで砂と埃まみれなんだよ。ヒゲも伸びてるし、せっかく時間があるんだからいいだろ」
蓮司がポルナレフの髪を見る。
「その髪型なら多少乱れてても分からないんじゃないですか?」
「神代、お前さっきから俺の髪に何か恨みでもあんのか」
「ないです」
「絶対あるだろ」
結局、ジョセフとアヴドゥルは船の確認へ向かい、承太郎がポルナレフにつき合うことになった。蓮司も少し迷ったが、結局ポルナレフについて行くことにした。
「俺も行きます」
「珍しいな。お前も散髪するのか?」
「しません。またポルナレフさんが狙われるかもしれないので、ついて行くだけです」
「んな短時間で何回も襲われるかよ!信用ねぇなぁ」
三人は町にある小さな理髪店へ入った。
店主のカーンは体格のいい男だったが、愛想はよかった。
「ちょっと親父、この刀そっちに置いといてくれ」
ポルナレフは持っていた刀を店主へ預ける。
「その刀、どうするつもりなんです?」
「警察に届ける。どう見ても凶器だからな。あの遺跡のところに捨てておくと、誰が拾うかわからんぜ。高価そうだしよ」
承太郎と蓮司は待合用の椅子へ腰を下ろす。蓮司はしばらく刀を見ていたが、鞘に収まったままなら今すぐ何か起きる様子もないので、持ってきた雑誌を読み始めた。
店主が剃刀を取り出し、ポルナレフの髭を整え始める。最初の一度は、妙に切れ味が悪かった。
「そのカミソリ切れ味悪いぜ。ちゃんと研げよちゃんとぉー!」
「ソースカ、スンマセン」
カーンは剃刀を置き、別のものを探すように店の奥へ向かった。
その視線が、壁際の刀で止まる。
蓮司は気付かなかった。
承太郎も、ほんの一瞬だけ外へ目を向けていた。
カーンの手が柄へ伸びる。
◇
「今度はよく剃れるじゃねえか。気持ちいいぜ」
ポルナレフが気持ちよさそうに顎を上げる。
「それは…良かったですね…」
「トレビアンだよト・レ・ビ・ア・ン! アゴの下も頼むぜ」
「はい…アゴの、下ですね」
カーンの声が変わった。
蓮司が顔を上げる。
店主の右手にあるのは剃刀ではない。鞘から抜かれた、あの刀だった。
「アゴの下だな、ポルナレフッ!」
「なにぃ!」
「ポルナレフさん!」
「おれだよ、まぬけっ。アヌビスの暗示のスタンドさ」
刀が首筋へ走る。
ポルナレフが椅子を下げて身を捻り、刃を躱す。刀はそのままカーンの腹部。切り裂いた。承太郎も同時に立ち上がる。
「て、てめーはトコ屋の主人じゃねぇのか!?」
カーンは先ほどまでとは別人のような笑みを浮かべていた。
ポルナレフの表情が変わる。
チャカはもうここにはいない。
それなのに、目の前の男が同じ名を口にしている。
しかも、その手には同じ刀がある。
「……まさか」
ポルナレフがシルバーチャリオッツを出す。
「本体は人間じゃねえ……その刀か!」
アヌビス神が笑った。
刀が振り下ろされた。
シルバーチャリオッツが受け止める。
その瞬間、ポルナレフの表情が変わった。
「うおおおっ! こ…この剣力はっ!?」
「貴様のチャリオッツの動きやパワーは、さっきしっかり取り込んだ!一度闘った相手には決して負けない!」
「こいつ……!」
二度目の斬撃。
ポルナレフが受ける。
三度目は受けきれず、肩口が浅く裂けた。
「さっきより明らかに強くなってやがる!」
蓮司は立ち上がり、魔虚羅を呼び出そうとして店内の狭さに気付いた。ここで三メートルの魔虚羅を出せば、店ごと壊しかねない。何より、カーン本人が操られているだけなら力任せに殴るわけにもいかない。
蓮司は魔虚羅の両の腕のみの顕現に留める。
「承太郎さん」
「ああ。刀を落とす」
スタープラチナが現れる。
アヌビス神がポルナレフへ斬りかかった。
正面からシルバーチャリオッツが防ぐ。
その横から、スタープラチナの手が伸びた。
「つかまえたぜ」
刀身を挟み込む。
カーンが引いても動かない。
「そのまま捕まえててください!」
魔虚羅が腕を伸ばし、カーンの胴体を掴む。そのまま刀から無理やり引き剥がした。
カーンは店の奥へ転がり、刀が床へ落ちる。ポルナレフが反射的に一歩出た。
「触らないで!」
「分かってる!」
チャカに続いてカーンまで操られた。原因がこの刀にあるのは間違いない。どういう条件で支配されるのか分からない以上、直接触れずに処理した方がいい。
しかし刀は床を滑り、椅子へ当たって方向を変え、店の入口へ向かう。
騒ぎを聞きつけ、気になったのだろう。ちょうど外から、小さな子供が中を覗き込んでいた。
「危ない!」
蓮司は飛び出した。
刀を蹴り飛ばそうとする。
だが、刃先が床へ引っかかり、跳ね上がった。
子供の顔へ向かう。
考える時間は、なかった。
「神代!」
蓮司は右手で刀身を掴んだ。掌が裂ける。
痛みより先に、頭の中へ何かが入り込んできた。
『捕まえた』
「……っ」
視界が暗くなる。身体の感覚が急速に遠ざかっていく。
最後に見えたのは、承太郎がこちらへ手を伸ばす姿だった。
◇
蓮司の身体がゆっくり立ち上がった。
「神代?」
ポルナレフが呼びかける。
返事はない。
右手から血を流しながら、折れてもいない刀を握り直す。
顔を上げた。
口元に、蓮司ならまず浮かべない笑みがあった。
「……この身体も、なかなかいいじゃあないか」
承太郎の目が細くなる。
「今度は神代か」
「そのようだな」
蓮司の声で、アヌビス神が笑う。
「健康的な若い身体。チャカやカーンより力もある。それに――」
そこで言葉が止まった。
蓮司の背後へ、魔虚羅が現れる。
いつもの三メートル。それだけで肩が天井板を押し上げ、頭上の梁が軋んだ。
だが、頭上の方陣が低く軋むような音を立てた。
アヌビス神が振り返る。
「ほう」
次の瞬間、魔虚羅の身体が膨れ上がり始めた。