ジョジョ三部に転生したら、スタンドが魔虚羅だった 作:東京大特価
シンガポールで迎えた翌朝、蓮司はホテルのレストランで朝食を取りながら、無意識に周囲へ視線を巡らせていた。昨日はポルナレフがホテルの一室で人形に襲われ、その前には巨大貨物船そのものがスタンドだった。さらに遡れば、偽船長や飛行機内を飛び回る虫型のスタンドまで出てきたのだから、食事中だから安全だなどとはもう思えない。今ならテーブルの上の調味料入れが突然襲ってきても、一瞬くらいなら受け入れてしまいそうだった。
「神代君、さっきから随分周りを気にしているね」
「最近、何が敵でもおかしくないなと思いまして。昨日なんて人形でしたし、その前は船でしたから」
「正確には人形に取り憑いたスタンドだけど、船については反論できないな」
花京院が苦笑すると、隣の席にいたポルナレフが露骨に顔をしかめた。
「朝っぱらから人形の話をするんじゃあない! せっかく忘れかけていたところだぞ!」
「忘れかけてた人は、寝る前に三回も部屋の中を確認しませんよ」
「何で知ってるんだ!?」
「隣の部屋まで声が聞こえてましたから」
「神代! お前はもう少し人のプライバシーというものを――」
「朝から騒ぐな」
承太郎の低い声が飛んできた途端、ポルナレフの声量が目に見えて下がった。こういう時だけは承太郎が非常に便利である。
◇
朝食を終えると、一行は次の移動に備えてそれぞれ準備を始めた。ジョセフとアヴドゥルはスピードワゴン財団との連絡、承太郎と花京院は旅に必要な物資の買い足しへ向かい、ポルナレフは「現地の情報を集めてくる」と言いながら妙に機嫌よく街へ消えていった。
「どう見ても観光ですよね」
「言ってやるな、神代君」
アヴドゥルにそう言われたので、蓮司もそれ以上は追及しなかった。自分には特に予定もなく、部屋へ戻って荷物でも整理するつもりだった。ところが廊下を歩いている途中、向こう側から花京院が戻ってくる。
「神代君、少しいいかい?」
「どうしました?」
「ジョースターさんが君を呼んでいる。魔虚羅について確認したいことがあるらしいんだ」
蓮司は少し意外に思ったものの、花京院が呼びに来たこと自体を疑う理由はなかった。
「ジョセフさんが? 分かりました」
そのまま一緒にホテルを出る。最初は人通りの多い道だったが、少しずつ大通りから離れ、やがて人気の少ない路地へ入った。さらに倉庫の並ぶ一角へ近づいたところで、蓮司は足を止めた。
「花京院さん。ジョセフさん、どこにいるんです?」
「もう少し先だよ」
花京院は振り返らずに答えた。
「でも朝食の後、承太郎さんと一緒に買い物へ行くって言ってませんでした?」
「予定が変わったんだ」
「それなら普通、ジョセフさん本人かアヴドゥルさんが俺を呼びません?」
そこで初めて、前を歩いていた花京院の足が止まった。ほんの一瞬だったが、それで十分だった。蓮司は二歩ほど距離を取り、すぐに魔虚羅を出せるよう意識を集中させる。
「……誰です?」
花京院がゆっくり振り返った。顔も声も同じなのに、笑い方だけが違う。
「へえ。思っていたより勘がいいじゃあねえか」
「やっぱり偽物ですか」
「驚かねえのか?」
「最近、敵の種類が妙に豊富なので。人に化けるくらいなら、まだ分かりやすい方です」
「気に入らねえガキだな」
花京院の顔が泥のように崩れ、黄色い物体が蠢きながら剥がれていく。その下から現れたのは、全く別の男の顔だった。
「俺の名はラバーソール! 黄の節制――イエローテンパランスの使い手だ!」
男の全身を覆う黄色い物体が、不気味に脈打つ。
「どんな攻撃も喰らって吸収する無敵のスタンドだ。てめえのデカブツがどれだけ力自慢でも、俺には通用しねえぜ」
「わざわざ能力まで説明してくれるんですね」
「余裕ってやつだよ!」
言い終わるより早く、黄色い塊が勢いよく伸びてきた。
「魔虚羅!」
蓮司の背後に巨体が現れ、伸びてきた黄色い肉を片腕で受け止める。いつもなら、そのまま力任せに弾き飛ばせたはずだった。ところが黄色い肉は魔虚羅の拳へ張りつき、皮膚を這うように広がりながら接触した部分を少しずつ削り取っていく。
「……食ってる?」
「そういうことだ! スタンドだろうがエネルギーだろうが、俺のイエローテンパランスは何でも喰らう!」
魔虚羅の腕が侵食されるのと同時に、蓮司の右腕にも焼けるような痛みが走った。自分の皮膚まで同じように裂け、血が滲んでいる。
「っ……魔虚羅、一度離れろ!」
魔虚羅が強引に腕を引いた。黄色い肉は簡単には剥がれず、結果として皮膚を削ぎ取るようにして離れることになる。蓮司の腕にも同じ深さの傷が走り、思わず顔が歪んだ。
「痛っ……」
「ハハハ! 随分と大層なスタンドを持ってる割に、本体は痛がりなんだな!」
「痛いものは普通に痛いでしょう」
強いスタンドを持ったからといって、痛覚まで消えるわけではない。蓮司は右腕を庇いながら距離を取り、魔虚羅も自分の前へ下がらせる。頭上の方陣は僅かに軋んでいるが、まだ回転する気配はない。イエローテンパランスへの解析が始まっているとしても、適応にはもう少し時間が必要らしい。その方陣を見たラバーソールが、嫌な笑みを浮かべた。
「なるほど。そいつが回れば何か起きるって話だったな」
「……そこまで聞いてるんですか」
「DIO様はてめえをかなり警戒しているからな。だから今日は、その適応とやらが終わる前に本体を殺す」
今度は黄色い肉が魔虚羅ではなく、蓮司本人へ向かって地面を這ってきた。
「魔虚羅!」
巨体が即座に間へ入る。その瞬間、背後で何かが光った。反応はした。だが遅かった。
後頭部へ強烈な衝撃を受け、視界が一瞬で白くなる。膝から力が抜け、地面へ手をついた蓮司の耳に、知らない男の声が聞こえた。
「一人で来てると思ったか?」
どうにか振り返ると、そこには痩せた長身の男が立っていた。その背後には人型のスタンドが浮かび、両腕の先が長い刃へ変わっている。
「魔虚羅の能力は聞いている。だったら適応が終わるまで付き合う必要なんかねえ。本体を先に殺せば済む話だ」
「……二人がかりですか」
立ち上がろうとするが、頭が揺れて身体に力が入らない。そこへイエローテンパランスが伸び、蓮司の顔を覆った。口と鼻を塞がれる。
「これで終わりだ。スタンド使いが死ねば、スタンドも消える」
息ができない。視界が徐々に暗くなり、魔虚羅の輪郭までぼやけていく。命令を出さなければと思っても、口がまともに動かなかった。
「ま……こ……」
そこまでだった。神代蓮司の意識が途切れた。
◇
畳の匂いがした。古びた道場の中で、小さな自分が誰かと向かい合っている。何歳だったのかは分からないが、周囲の大人たちがやけに大きく見えたから、まだ随分幼かったのだと思う。
『痛いのは嫌でしょ? 怪我してまでやる必要ある?』
誰に向かって、こんなことを言っていたんだっけ。相手の顔が思い出せない。そこで景色が変わった。今度は少し大きくなっている。小学校へ入ったばかりの頃だろうか。
『人が痛がるところを見ても、嫌な気分になるだけだよ』
誰と話してたんだっけ。何があって、こんな話をしていたんだっけ。考えようとしたところで、また場面が飛ぶ。今度は中学生の制服を着ている。道場の壁際で、誰かと向かい合っていた。
『殴られるのも痛いけど、殴るのだって普通痛いんだよ。拳も心も。これを喜んでやるなんて、普通じゃない。異常だよ』
この言葉も覚えている。けれど、誰に言ったんだっけ。どうして自分は、こんなことを何度も言っていたんだろう。肝心なところだけが霧の中へ沈んでいて、思い出せない。そのまま景色は暗くなり、蓮司の意識も再び深く沈んでいった。
◇
蓮司が地面へ倒れた瞬間、魔虚羅の動きも止まった。それまでイエローテンパランスを警戒していた巨体が、突然俯いたまま動かなくなる。
「……おい。消えねえぞ」
ラバーソールが眉を寄せる。本体は完全に意識を失っている。それならスタンドもまともに動けなくなるはずだと、二人は考えていた。やがて、ギギ、と金属が軋むような音が響いた。魔虚羅の頭上に浮かぶ方陣がゆっくりと傾き、同時にその身体が膨張し始める。
三メートル近かった巨体がさらに伸び、肩幅が広がり、腕も脚も太くなる。四メートルを越えても止まらず、五メートル、そして六メートルほどまで巨大化したところで、ようやく成長が止まった。ラバーソールが無意識に一歩下がる。
「何なんだよ、そいつ……」
魔虚羅がゆっくりと顔を上げた。姿そのものは同じはずなのに、蓮司の隣に立っていた時とは雰囲気がまるで違う。命令を待っている様子はなかった。目の前に敵がいる。それだけで十分だと言わんばかりに、全身から濃密な戦意が溢れている。
「怯むな! 本体は気絶してる!」
刃を持つスタンドが踏み込んだ。その能力は、攻撃を途切れさせず続けるほど、次の斬撃が速くなっていくというものだった。一撃目が胸を切り、二撃目が肩へ走る。三撃、四撃と重ねるごとに速度は増し、十を越えた頃には銀色の残像が魔虚羅の周囲を覆っていた。魔虚羅は避けない。
腕、腹、脚へ次々と深い傷が刻まれ、それと同時に地面へ倒れている蓮司の身体にも同じ傷が走っていく。
「見ろ! 本体にも返ってやがる。そのまま殺せ!」
刺客は攻撃を止めず、最後には魔虚羅の首を狙った。横薙ぎの刃が深く食い込み、首の半分以上が切断される。同時に蓮司の首からも大量の血が流れ出した。刺客が勝利を確信した、その直後。ガコン、と方陣が一回転した。
魔虚羅の首が元の位置へ戻る。裂けた肉が繋がり、胸や肩、腹に刻まれていた傷まで一瞬で消えていく。地面に流れた血だけを残し、蓮司の傷も同時に塞がった。二人の表情から笑みが消える。刃のスタンドが再び踏み込んだ。
速度は先ほどよりさらに上がっている。しかし今度は、一撃目を魔虚羅が僅かに首を傾けて避け、二撃目を前腕で逸らした。三撃目が来た瞬間には、振り抜かれるより先に手首を掴んでいる。
「なっ――」
魔虚羅の指が閉じた。スタンドの腕が握り潰され、本体の男も同じ場所を押さえて絶叫する。魔虚羅はそのまま一発だけ拳を叩き込んだ。スタンドの身体が道路を跳ね、倉庫の壁を突き破る。さらにその向こうの建物へまで吹き飛び、本体の男も同じ方向へ転がっていった。
「冗談だろ……」
ラバーソールの顔が引きつる。今度は魔虚羅の方から動いた。六メートルの巨体が地面を蹴った瞬間、足元の舗装が砕ける。ラバーソールが驚いて身構えた時には、既に目の前まで距離を詰められていた。
「イエローテンパランス!」
黄色い肉が全身を覆う。
「馬鹿め! どれだけパワーが上がろうが同じだ。俺のスタンドは攻撃そのものを喰って――」
そこで言葉が止まった。魔虚羅の右腕に握られた剣が、白い光を帯びている。炎ではない。だが近くにいるだけで、本能的に危険だと理解できるような力だった。剣先がイエローテンパランスへ触れた。
ジュッ、と肉を焼く音が響く。
「ぎゃああああああッ!」
黄色い肉が黒く焼け爛れ、それと同時にラバーソール自身の肩から胸にも同じ形の火傷が浮かび上がった。
「何だこれは! 俺のスタンドが焼けてるだと!?」
剣には炎など見えない。それでも触れた部分だけが、太陽へ晒されたように焼けていく。ラバーソールは慌てて黄色い肉を引き離し、距離を取ろうとした。
「来るなッ!」
イエローテンパランスが何本もの触手となって魔虚羅へ飛びかかり、肩と腹へ張りついて再び身体を喰い始める。しかし方陣がもう一度回転すると、削られた肉が修復されるだけでなく、魔虚羅の表面そのものが変化した。次に黄色い肉が触れた瞬間、先ほどまで粘着していたはずの皮膚を滑り、そのまま弾かれる。
「くっつかねえ……? 何しやがった! さっきまで食えてたはずだろ!」
答えはない。蓮司は意識を失っている。魔虚羅も喋らない。ただ、同じ能力によって戦いを終わらされないために、自分を変えただけだった。白く輝く剣がもう一度振り上げられた。
◇
本物の花京院を先頭に、一行が倉庫街へ駆け込んできた。ホテルへ戻った花京院が蓮司の所在を尋ねたことで、初めて「花京院に化けた何者か」が蓮司を連れ出したことが判明した。そこから手分けして周辺を探し、騒ぎを聞きつけてようやく辿り着いたのである。最初に足を止めたのはポルナレフだった。
「……おい。あれ、魔虚羅だよな?」
六メートル近い巨体。姿そのものは間違いなく、これまで蓮司が呼び出していた魔虚羅だった。ただし、大きさも圧力も明らかに違う。
「倍近くあるぞ」
承太郎も帽子の鍔へ手をやりながら目を細める。その足元には全身を焼かれたラバーソールが倒れ、少し離れた場所ではもう一人の男も瓦礫の中で動かなくなっていた。
「神代君は!?」
花京院が辺りを探し、すぐ地面へ倒れている蓮司を見つける。
「神代君!」
ジョセフが駆け寄って状態を確認した。服は何か所も切り裂かれ、全身に大量の血が残っている。特に首周りの出血は明らかに致命傷級だった。それなのに、傷がない。アヴドゥルもしゃがみ込み、蓮司の呼吸を確かめた。
「魔虚羅の再生と同時に、神代君の身体も治ったのか」
「呼吸も脈もある。ただ、意識はまだ戻らんようじゃ」
肉体の損傷は修復できても、一度失った意識まで即座に戻るわけではないらしい。その間、承太郎は魔虚羅の右腕にある剣を見ていた。白い光を纏った刃を見たジョセフが、思わず目を見開く。
「――あれは波紋か!?」
「波紋?」
花京院が聞き返し、ポルナレフもジョセフを見る。
「知っているのか?」
「ああ。特殊な呼吸法によって生み出す生命のエネルギーじゃ。太陽の光に近い性質を持っていて、吸血鬼やゾンビには特に効く。わしも若い頃は使っておった」
承太郎が魔虚羅の剣へ視線を戻す。
「じゃあ、あれも同じものか」
ジョセフはしばらく白い光を観察した後、ゆっくり首を振った。
「……いや、違う。方向性はよく似ておるが、わしの知る波紋そのものではない。正体までは分からん」
そこで魔虚羅が動いた。ラバーソールは既に倒れている。もう一人の敵も戦える状態ではない。それなのに魔虚羅は戦闘態勢を解かず、ゆっくりと一行の方へ身体を向けた。視線の先にいるのは承太郎。
正確には、その背後に現れたスタープラチナ。次にマジシャンズレッド、そしてシルバーチャリオッツへと視線が移る。
「……まだ戦う気なのか?」
花京院の言葉に、誰もすぐには答えられなかった。日本で初めて顔を合わせた時も、魔虚羅はスタープラチナを見て勝手に身構えた。マジシャンズレッドに対しても同じだった。あの時は蓮司を守るため、強いスタンドを警戒しただけだと思っていた。しかし今の魔虚羅から感じるものは、警戒だけでは説明しにくい。
ポルナレフがシルバーチャリオッツを前へ出す。
「止めるぞ。こいつ、このままじゃ本当に襲ってくる」
「殺すなよ!」
「分かってる!」
魔虚羅が踏み込んだ。地面が大きく割れる。シルバーチャリオッツの剣が閃き、一撃目を魔虚羅がかわし、続く二撃目も身体を捻って避ける。
「ならこれでどうだ!」
ポルナレフが鎧を外した。シルバーチャリオッツの速度が跳ね上がり、銀色の残像が何体にも分かれたように見える。その中の一閃が魔虚羅の首へ深く食い込んだ。首が半ばまで切れる。
「おい、やりすぎじゃ!」
「この程度やらなきゃ止まらん!」
次の瞬間、方陣が回った。裂けた首が一瞬で繋がる。ポルナレフの表情が固まった。
「……嘘だろ」
次にシルバーチャリオッツが剣を振った時には、魔虚羅がその手首ごと掴んでいた。先ほどまでは捉えきれなかった速度へ、もう追いついている。
「ポルナレフ、離れろ!」
マジシャンズレッドが炎を放ち、両者を引き離す。魔虚羅は片腕で炎を受けながら、それでも前へ出ようとした。
「承太郎!」
「ああ」
スタープラチナが前へ出る。六メートル近い魔虚羅と、その半分にも満たない紫色の人型スタンドが真正面から向かい合った。承太郎が静かに構える。魔虚羅も拳を引いた。
◇
暗闇の中で、また声がした。
『これを喜んでやるなんて、普通じゃない。異常だよ』
中学生の頃の道場だった。誰と話してたんだっけ。誰に、こんなことを言ったんだっけ。そもそも何があって、こんな話をしていたんだろう。
思い出そうとしたところで、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「神代君!」
ジョセフの声だった。目を開けると、最初に青い空が見えた。
「……ジョセフさん?」
「気がついたか!」
身体を起こそうとして、すぐ目の前に巨大な背中があることに気付く。
「……魔虚羅?」
見慣れているはずのスタンドなのに、大きさがおかしい。しかも、その正面にはスタープラチナがいる。両者とも完全に戦う構えだった。周囲を見ると、敵らしい男たちは既に倒れている。それなのに魔虚羅は承太郎たちへ向かっていた。
巨大な拳が動き始める。
「魔虚羅」
声が掠れたせいか、魔虚羅は止まらない。蓮司は一度息を吸い、今度ははっきり呼んだ。
「魔虚羅、止まれ!」
拳が止まった。ほぼ同時に、スタープラチナの拳も魔虚羅の顔面寸前で止まる。数秒間、誰も動かなかった。やがて魔虚羅がゆっくり蓮司を振り返る。先ほどまで周囲へ叩きつけていた戦意が少しずつ薄れ、身体も徐々に縮んでいった。
五メートル、四メートルと小さくなり、普段の三メートルほどまで戻ると、そのまま姿を消す。蓮司はしばらく呆然としていた。
「……何があったんです?」
承太郎もスタープラチナを消す。
「こっちが聞きてえ」
◇
その後、蓮司は倉庫の壁へ背を預けながら、自分が意識を失っていた間の出来事を聞かされた。二人のスタンド使いに襲われ、意識を失ったこと。その直後、魔虚羅が六メートル近くまで巨大化し、普段とは比較にならない力と速度で二人を圧倒したこと。首を半分以上斬られても方陣が回った瞬間に再生し、蓮司自身の致命傷まで同時に治していたこと。
「ポルナレフさん、俺が気絶してる間に魔虚羅の首を半分斬ったんですか?」
「俺たちまで襲ってきたんだから仕方ないだろう! しかも一回斬ったら、次にはチャリオッツの剣を掴まれたんだぞ!」
「……それは、すみません」
ポルナレフが悪いわけではない。むしろ自分のスタンドが仲間へ襲いかかったのだから、こちらが謝る立場だった。アヴドゥルの話では、自分が意識を失ってからの方が明らかに強くなっていたらしい。
「大きくなっただけではない。力も速度も別物だった。普段の魔虚羅が抑えられていたようにすら見えたよ」
「俺が抑えてた……?」
そんなつもりはない。蓮司は自分の手を見た。
「もう一つ、あの剣じゃ」
ジョセフが続ける。
「さっき説明した波紋にかなり近い性質の光を纏っておった。敵のスタンドへ触れたところ、スタンドと本体の両方が焼けたが、わしの知る波紋そのものではない」
「吸血鬼に効くって言ってた力ですよね」
「ああ。似た性質ならDIOにも何らかの効果がある可能性はある。じゃが、同じものではない以上、効くと決めつけるのは危険じゃ」
「じゃあ、変に当てにしない方がいいですね。使えるか分からないものを本番の切り札にして失敗するのは嫌ですし」
ジョセフは頷いた。蓮司も、それ以上は何も言わなかった。魔虚羅の剣について知っていることはある。ただし、それは他人へ説明できる知識ではないし、今回起きた現象については本当に蓮司自身も分からない。
「身体の方はどうだい?」
花京院に聞かれ、蓮司は首元へ手をやった。
「頭が少し重いくらいで、身体は何ともないです。ただ、首まで斬られてたって聞くと後から気分悪くなってきますね。だから痛いの嫌なんですよ。治るからって積極的に食らう気にはなれません」
「その割に、お前のスタンドは随分と戦いたがっていたぞ」
ポルナレフの言葉に、蓮司は顔を上げた。承太郎も同じ点が気になっていたらしい。
「日本で最初に会った時も、俺のスタンドを見た途端に構えた。アヴドゥルのスタンドにも同じだったぜ」
「……確かに」
あの時は、強いスタンドを危険だと判断して、自分を守るために警戒したのだと思っていた。今回も、自分を襲った敵を倒すところまでは分かる。問題はその後だ。敵がいなくなったのに、魔虚羅はスタープラチナやマジシャンズレッド、シルバーチャリオッツへ向かった。
「何でだろう……」
考えていると、意識を失っている間に見た古い道場が頭をよぎった。誰と話してたんだっけ。誰に、あんなことを言ったんだっけ。どうして、自分はあんな話をしていたんだろう。何か引っかかる。
けれど答えには届かない。
「神代君?」
「すみません。ちょっと昔のことを思い出してただけです。魔虚羅とは関係ないと思います」
今は、そうとしか思えなかった。ただ一つだけ、蓮司の中には奇妙な感覚が残っていた。自分の制御を離れたスタンドなど、危険でしかない。六メートルまで巨大化し、味方にまで襲いかかったと聞けば、本来なら恐怖だけを感じるはずだった。実際、怖い。
それなのに、魔虚羅が高速の斬撃へ追いつき、適応し、さらに強い相手へ向かっていったという話を聞いている間だけ、胸の奥のどこかで続きを知りたがっている自分がいた。蓮司はその感覚に気付かないふりをして、静かに視線を逸らした。