「ひいっ……ひいいっ……」
頼朝は喘いでいた。なぜ征夷大将軍たる儂が、こんなことをしなくてはならぬ?
彼がいたのは真夏のゴビ砂漠である。彼はそのど真ん中にある移民の都市に送り込まれ、炎天下の仕事に従事していた。
ゴビ砂漠は暑い。いや、熱くて痛いと言ったほうが良い。容赦なく照り付ける太陽と熱気。そして、砂嵐に毒蠍。
「な、なんでじゃ!」
鎌倉殿は叫んだ。周囲には建設中の建物がいくつもずらりと並んでいた。石と木でできた回教風の建築物である。しかしどれもが、何となく形が似ていた。
「ええい、チンギスハーンめ。この砂漠の街に似たような建物を最低でも100棟は造れと命じおって……」
頼朝は歯ぎしりを鳴らした。そこに義時がやって来た。砂漠の民の様に白装束をまとい、材木をかついでラクダに乗っていた。
「公方様。しっかり仕事をしてくださいませ」
「ええい、何を言うか義時! 儂はちゃんと仕事をしておるわい!」
頼朝は照り付ける太陽の下で筆をとっていた。砂の上に置いた図面に気づいた点を書き込んでいたのだ。
「儂の受け持ちは皆、指揮を部下に任せておる! それが将たる務めであろう! しかしそなたも同じじゃ! なぜに木材を担いでおるのじゃ!」
「その部下に頼まれて木材を調達したのでござる」
「そんなことは手下がやるものであろうに!」
「ふうむ。やはり坂東武者の事をわかっていないご様子。公方様はみやこびとゆえ、下々の者と触れ合うことをあまり好まぬ様でございますな?」
「人を悪く申すな! 伊豆での幽閉時代では乞食と碁を打ったこともあるわ! 畑仕事の手伝いやら市で物を売ったり、村娘への夜這いもな!」
「……ほう。それゆえ、農業と商業の技能もお持ちになられていた、というわけですか?」
言われて頼朝は口をへの字にしたまま胸を張った。あの幽閉時代も悪くはなかった。むしろ、合戦やら朝廷との知恵比べをやるよりかはいくらか活き活きしていた様にも思えた。
だが、今の仕事にそんな充実感は覚えられない。こんなくそ暑い砂漠のど真ん中の移民の街で、全くわけがわからずに、
「なにゆえ病院ばかりを作ろうとしておるのか、チンギスのやつは?」
「ここを、『医術の都』にしたいと聞き及んでおりまする。ゆえにこの街の名を……」
『ゴビ医療センター』と、チンギスハーンは名づけた。しかし建物ばかり作ってばかりである。医者や患者が来るのだろうか?
「はああ……まるでひたすら穴を掘ってそれを埋めるという仕事をしているようじゃ。三途の川の石積みみたいなものじゃな?」
「何をおっしゃいます? 敦煌から
「……ああ、あれか」
この時モンゴル帝国は吐蕃攻略の準備に取り掛かっていた。チベット山脈を領する吐蕃国を叩き、パガン朝ビルマ攻略を起点として、インド亜大陸東部の侵攻に乗り出すそうだ。
さらにはカシュガル地方に進出したアフガニスタンのゴール朝との決戦も控えている。その総大将が義経である。対するゴール朝の総大将はムハンマド・ゴーリー。ゴール国王の弟である。
「カシュガルみたいな遠くに赴くのはまっぴら御免じゃが、西蔵ならまだ良いではないか? あそこにはありがたい密教典がたくさんあるそうじゃぞ?」
「仏の教えなど……この乱世には何の役にも立ちませんぞ?」
「なんと罰当たりな! まあしかし、そなたもここへ来てから随分と性格が変わったのう?」
鎌倉を出る前の義時は、情報通ではあったが律儀で善良だった。しかし今はどこか暗い気配と諦観ぶりがうかがえた。
異郷は確かに故郷を恋しくさせるが、代わりに伊豆では見られなかった様々な景色を見たり文物に触れられる。口ではぶうたれていたが頼朝はそれに愉しみを見出していた。彼は根っからの、乱世の英雄であった。
月日が経ち、建てられた病院が100棟以上になると、『ゴビ医療センター』の街には続々と、馬やラクダで医者や病人が入って来るようになった。
そして101棟目の病院を頼朝が建設し終えた時であった。ジュチが手勢を引き連れて街にやって来た。
「ぱんぱかぱーん! おめでとうございます!」
「な、なんじゃジュチ殿? 藪から棒になにおっしゃられておるのじゃ?」
「まあまあまあ。まずは僕らが持ってきたこれを引っ張ってくださいよ!}
ジュチは部下にくす玉を持って来させていた。ご丁寧にも金箔が張られていた。平泉の山でとれた黄金だという。
「え、ええと、こうか?」
「はい! おもい切りやっちゃってください!」
「それはチンギス殿のご子息であるそなたがやった方がよいのでは?」
「いいんです! とにかくお願いします!」
元気よく呼びかけるジュチに促されてくす玉を割った。色紙の破片と共に中から何かが垂れ落ちた。
祝・医療文化ナンバーワン、と書かれていた。
つまりはこの『ゴビ医療センター』の街が晴れて、医術の都となったのだ。
「ほ。ほおおお……とうとう達成したのであるか!」
「はい! 父上もお喜びで、たくさんの隊商と共にこの街に向かうとおっしゃっておりました!」
その 北のオノンや南の敦煌から、続々と隊商や家族連れの武将たちが入って来た。
そうしてしばらくして、チンギス=ハーンもこの街にやって来た。彼の妻たちを連れてだ。頼朝と義時はジュチと共に、大ハーンが街の外に張った天幕に入った。
チンギスは至極上機嫌そうだった。女官を呼び、二人に最高級の馬乳酒を振る舞いながら褒めたたえた。
「日ノ本の王、でかした! この街は帝国の医療の礎となるであろう!」
「おお、それは良いことじゃ。して大ハーンよ、どうして皆大挙してここに来ておるのじゃ?」
「おお、それを説明していなかったな! 医術の都には、こういうよきことが起こるそうじゃ」
そのよきことをチンギスは言った。閨を共にした妃が必ず子を宿す。
「ははは……そうであったか」
「そうじゃ! ではそなたらにも宴の席に加わってもらいたい! 今宵は大いに楽しもうぞ!」
そして宴の席で頼朝は、見てはならぬものを見てしまった。
かつての妻であった北条政子が、大ハーンの傍にいて彼と睦まじそうにしていたのだ。
(ぐぬぬぅ……政子ォォッ!!)
歳明けて1196年早春。北条政子は懐妊した。頼朝のおかげで、大ハーンは日ノ本との架け橋となる子を、また一人得たのである。
ちなみに医術の都の懐妊率は、PC版を準拠しております。
(PKをよくやってたんで。)
次回もございますが、いつお出しするかわかりません。