サポート特化陰陽師補佐転生 作:タルタル功夫
初めて水風船を霊力強化出来た日から、およそ一ヶ月。
俺は毎日のように、自室で修行に励んでいた。
仕事がある日は夜遅くから、休日はそれこそ一日中。
せっかく生きがいを見つけられたので、俺は全力で修行に打ち込んだ。
そして……一ヶ月が経つ頃。
俺の体内を流れる霊力は、数倍にまで膨れ上がっていた。
正直、ここまで上手く行くとは思っていなかった。
何しろ俺は、陰陽師としての才能が無い。
固有術が発現しなかった程度の人間だ。
固有術が発現しなかった才能無しの人間は、他の能力も劣っていることが多い。
だから、陰陽師ではなく補佐役に皆就職していくのだ。
しかし、俺には霊力を増やす才能だけはあったようだ。
勿論、気合と根性で毎日ギリギリまで鍛錬しているおかげだが……それでも、かなり急激な速度で俺の霊力は増えていった。
霊力が格段に増え、強化術もある程度使いこなせるようになった俺は、次の目標を立てた。
「そろそろ怪異を祓いに行ってみるか……」
そう、一人で低級怪異と戦ってみることにしたのだ。
補佐役が一人で(低級であっても)怪異と戦うことは、原則として陰陽連では認められていない。
だから、あくまでこっそりと祓いに行くのだ。
本当は良くないことだが、俺は早く自分の力を試してみたい。
俺の力は陰陽師をサポートするためのものだが、いくらサポートと言っても、本人が全く戦えないのでは、おちおちサポートも出来ない。
多少の自己防衛能力があるか、確かめておきたいところだ。
そういうことなので、俺は休日にとある廃墟ビルへ行くことにした。
そこは、陰陽連に『低級怪異のたまり場』に指定されているのだ。
勿論、丸腰で行くとたとえ低級怪異でも殺される恐れがある。
俺は陰陽連の本部へ行き、ナイフとヘルメット型の霊具を借りて、怪異の
霊具というのは、霊力が込められたアイテム……ファンタジーにおける魔道具のようなものだ。
普通の武具・防具よりも、その性能が高まっている。
全ての準備が整うと、俺は廃ビルへと向かった。
一時間弱ほど都内を走り回り、東京郊外へ行く。
「ここか……」
俺はそっと車を降りると、ヘルメット霊具をつけ、ナイフを装備する。
周囲を何度か振り返り、誰も来ていない事を確認。
霊具を借りる時には細心の注意を払っていたが、もしかしたら誰かにつけられているかもしれない、と思ったからだ。
一人でこんな所へ行っているのがバレたら、上司から大目玉を食らってしまうが……幸いなことに、そうなる心配はないようだった。
まあ、陰陽師連盟の人たちも、俺を尾行しているほど暇じゃないだろう。
「よし……!」
俺は今一度気合を入れると、廃ビルの中へ踏み込んだ。
この廃ビル、元々は商業施設だったようだが、施設内で怪異が発生するようになり、施設自体は廃業になったらしい。
さっさと取り壊せばいいのに……と思っていたが、ビルの取り壊し自体が怪異に悪い影響を及ぼすかもしれないらしく、定期的な陰陽師による駆除だけ行われているそうだ。
俺は慎重に歩みを進め、二階へと階段を上っていく。
どこで怪異に出くわすかわからない。まるでダンジョンだ。
俺はナイフを抜き、いつでも攻撃できる体勢にしておく。
と、その時だった。
俺の周囲に、三つの青い人魂が現れた。
それらは姿形を大きく変え、人魂に手足が生えたようなバケモノの姿となった。
怪異だ。
俺はナイフを構え、強化術を仕込んでいく。
家でやった練習通りに、丹念に、なおかつ素早く正確に、霊力をナイフに込める。
すると、強化術を仕込まれたナイフは薄闇の中でぼんやりと光り始めた。
人魂型の怪異たちは、俺の周囲をひたひたと歩き回り、間合いを詰めている。
低級の怪異……四等の怪異たちは、実力としてはかなり低い。
それ故、群れたり狡猾に弱い人間だけをつけ狙ったりするのだ。
果たして、俺はこの怪異たちに勝てるのか……。
試してみようみじゃないか。
間合いを詰めつつ、隙を伺う怪異たちの連携を崩すため、俺はまず一体の人魂怪異に飛び掛かった。
ナイフを面に突き立てようとするが、直前で腕を掴まれ、防御される。
力を込めたが、ギリギリのところでナイフ攻撃は防御されてしまった。
その間に他の人魂怪異たちは、俺に飛び掛かってくる。
俺はその二体を避けると、間合いを取るため少し離れた。
やはり、俺の実力プラス一ヶ月程度の付け焼刃では、中々スムーズにはいかないらしい。
だが、それならもっと全身……そして武器を強化するまでだ。
俺は全身へ霊力を集中させ、強化術を付与していく。
先ほどより一層、力が満ちていくのを感じた。
「これで……どうだッ!」
俺は再び一体の人魂怪異に飛び掛かると、素早くナイフを振り下ろした。
今度は防御する暇を与えない。
一撃で、その面に深々と突き刺し、致命傷を与えた。
「次!」
飛び掛かって来る二体のうち、一体を素手で殴り飛ばす。
その後、三体目の怪異にナイフを突き刺した。
「最後……!」
殴り飛ばした怪異を追撃し、俺はナイフでめった刺しにしていく。
あまり残酷な殺し方をしたくはないが、念には念を入れて、だ。
数分も経たないうちに、俺は三体の人魂怪異の祓滅を完了させた。
怪異は致命傷を負い、塵となって消えていく。
俺一人でも、どうにか怪異を狩ることが出来た。
その事実は、俺にとって新たな自信となった。
「うわああああああ!?」
しかし、喜びに浸っていた俺の耳に、誰かの悲鳴が聞こえてくる。
この廃墟ビルの中からだ。
誰かが迷い込んだのだろうか。
俺は急いでビルの中を走っていく。
すると、熊型の怪異に引きずられる、ランドセルを背負った男の子を見つけた。
このままではあの怪異に殺されてしまう。
その前に助け出さねば。
俺は全身を再び強化すると、熊型怪異に突撃した。
怪異は男の子を離すと、俺に向けて爪を振るってくる。
「ぐっ!?」
俺のスーツは破け、皮膚にうっすらと傷がつく。
強化術で肉体を強化しているから軽傷で済んだが、生身だったら危なかった。
この怪異は、先ほどの人魂型怪異の何倍も大きい。
恐らく、三等クラスの怪異だろう。
……俺に祓うことが出来るのだろうか?
いや、今俺がやらなければ、男の子は殺されてしまう。
増援を頼んでいるような時間はない。
俺はナイフを逆手に持つと、怪異の片眼を斬りつけた。
怪異は苦悶の声をあげると同時に、怒り狂って俺に突進してくる。
俺はそれを間一髪で避けつつ、斬った片目側に回り込み、こちらの動きを把握しにくくする。
だが、怪異は執拗に俺の姿をつけ狙い、何度も爪攻撃を振るってきた。
俺の体に、段々と傷が増えていく。
だが、倒れる訳にはいかない。
他人の命がかかっているんだ。
俺は再び怪異に飛び掛かると、死角からナイフを数度、突き刺した。
するとついに、怪異は強い痛みを感じたようでよろけ、その場に倒れ伏した。
「トドメだ!」
俺は眉間にナイフを突き立て、熊型怪異を祓った。
一人でも、三等怪異までなら祓うことが出来た……!
俺はフラフラとした足取りながらも、尻餅をついている男の子に近寄り、手を差し伸べる。
「大丈夫だったかい?」
「あ、ありがとう、お兄さん」
「今の熊みたいなバケモノと、俺がここで戦ってたことは誰にも喋らないで欲しい。約束できるかな?」
「う、うん……約束します」
「それはよかった」
俺は男の子を助け起こすと、一緒に廃ビルから脱出した。
どうやら、男の子はずっと取り壊されない廃ビルを不思議に感じて、中へ探索に入ってしまったらしい。
その結果、熊型怪異に襲われたのだそうだ。
俺は出口まで行くと、男の子と別れようとした。
だが、その時。
「あ、あの……本当に、ありがとうございました!」
男の子はペコリと頭を下げて来た。
それを見て、俺は何だか気恥ずかしくなってしまった。
でもそれ以上に、俺は初めて……自分の力で他人を助けられたことに、不思議な感慨を抱いていた。
「当然のことをしたまでだよ。帰り、気をつけてな」
俺はそう言うと、車に乗り込んだ。
これから、あの男の子みたいに、もっと沢山の人間を助けられたらいいな……そんなことを考えながら。