サポート特化陰陽師補佐転生 作:タルタル功夫
低級怪異を祓えるようになってからも、俺は鍛錬を怠らなかった。
強化術まで使えるようになれば、次は弱化術だ。
弱化術は、強化術と違って怪異に使用する術。
霊力を使い、敵の力を弱める。
俺は廃ビルに何日もコソコソ通いながら、弱化術の練習をしていった。
生傷は増える一方だったので、上司に不審がられたりもしたが……何とか隠して、通い続けた。
そして、弱化術も一通り使えるようになったかな、と確信を得た頃。
「水無瀬術師の送迎ですか」
「そう。これから一等怪異の祓滅に向かわれる。待合にいるので、車で送迎してくれ」
俺は、あの前世の記憶が戻った日ぶりに、水無瀬術師の送迎を担当することになった。
「しかし、水無瀬術師は二等では? 複数人で一等怪異を祓滅するんですか」
「いや、一人でやっていただく。陰陽連も人手が足りないのだ……まあ、水無瀬術師は一等昇格秒読みとも言われているし、大丈夫だろう」
「そう、ですか」
なんだか不穏な気配を感じたが、俺はとりあえず水無瀬術師を迎えに行くことにした。
水無瀬術師は、陰陽連入り口のロビーに座っていた。
「水無瀬術師!」
「! 北条さん!」
俺を見た水無瀬術師は、少し頬を赤らめながらにこやかに笑いかけてくれた。
「今日の送迎は、俺が担当します。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お互いに挨拶も済ませ、車に乗り込んだものの、水無瀬術師は浮かない顔をしている。
「どうかされましたか?」
「あの……今日の祓滅内容、もう聞かれてますか?」
「一等怪異の祓滅とは聞いてます」
「それなんですけど、私……自信が無くて」
水無瀬術師はスーツのすそを掴むと、震えるように声を絞り出した。
「私、もうすぐ一等に昇格とか言われてますけど、自分自身は全然そんな出来る人間だと思ってないんです。でも、上から一等怪異を一人で祓滅しろ、と無理矢理言われて」
今にも泣き出しそうな水無瀬術師を見てると、流石に俺も可哀想になってくる。
「……俺、手伝いますよ。水無瀬術師の補佐に回ります」
「え、でも北条さんって術は使えないんじゃ」
「最近勉強して、多少は使えるようになりましたから。少しはお手伝いできると思います」
「そう、ですか」
「まあ、どうしても危なくなったら逃げましょう。命あっての物種ですしね」
「はい……」
依然浮かない顔の水無瀬術師をミラー越しに見つつ、俺は車を発進させた。
水無瀬術師は、明らかに今回の祓滅に自信をなくしているようだ。
ここで、俺が何とかサポートして支えなければならない。
― ― ― ― ―
俺たちは、東京郊外に広がるちょっとした森にやってきていた。
今回、この近辺に住んでいる人が何人か襲われたそうだが、対処にあたった三等術師複数名がほとんど死亡してしまったらしい。
綿密な調査の結果、 この近辺に潜んでいる怪異は一等だと判明。
水無瀬術師が派遣されることとなったのだ。
俺たちは、森の中を怪異を探し求め、固まって歩いていく。
バラバラに探すと迷子になる可能性があるので、あくまでも一緒に行動しなければならない。
「あ、あれ……」
そんな中、水無瀬術師がとあるものを見つけた。
近寄ってみると、あまりのおぞましさに口元を抑える。
兎の死体だった。
下半身は丸ごと食いちぎられ、腸が飛び出している。
その周辺は、何かに踏み荒らされたような跡もあった。
この状況、明らかに怪異がやったものだ。
この近くに怪異がいることは確定だろう。
「気合い入れないとですね……」
「……はい」
水無瀬術師はまだ浮かない顔だったが、それでも武器である刀を構え、いつでも抜刀できる体勢になった。
水無瀬術師は責任感が強いタイプだ。
たとえ任務が怖くても、投げ出すようなことはしない。
だから俺は、水無瀬術師の生存率を少しでも上げるため、徹底的にサポートするのだ。
……戦闘開始の瞬間は、突然訪れた。
上空から甲高く響く奇声。
何事かと俺たちが空を見上げると、上から人型の巨大な怪異が降って来た。
咄嗟に、俺たちは地面を転がって避ける。
「現れましたね……!」
そう言い、水無瀬術師は刀を抜いた。
俺も持ってきたナイフに、そして全身に、強化術を施す。
これは護身用だ。
次に、水無瀬術師の体にも強化術を通した。
水無瀬術師の体がぼうっと薄く光るのを見て、彼女は驚きの声を漏らす。
「す、すごい。力が溢れてきます」
「なんせここ数か月、ずっと練習してましたからね。……来ますよ!」
「ッ!」
俺たちに作戦を練らせる暇はないと言わんばかりに、怪異は襲い掛かって来た。
人型怪異、身長はおよそ三メートルと少し。
そのざらついた赤い皮膚、歪な形をした金属の鉄塊、そして頭部から生えている二本の捻じ曲がった角。
この怪異は、恐らく鬼だ。
伝説上の鬼を模した怪異だ。
鬼は鉄塊……金棒で薙ぎ払い、俺たちにダメージを与えようとして来る。
水無瀬術師は俺の首根っこを掴み、大きく後退した。
強化術を全身に仕込んでいるとはいえ、俺はまだ完全に一等怪異の動きについて行けないようだ。
なんせ、ほとんど目で追えないようなスピードだった。
これは、俺が戦いに加勢するのはほぼ無理だろう。
だが、俺はあくまでも補佐役。
サポートすることが目的の仕事だ。
サポート面に関して言えば、いくらでも手を回すことが出来る。
「水無瀬術師、鬼との直接戦闘はお願いします! 俺は後方から支援していきます」
「わかりました! くれぐれも気を付けてください!」
水無瀬術師は刀を構えると、鬼の金棒と激しく鍔迫り合いになる。
俺が強化術を施しているからか、鬼の強力な攻撃にも負けていない。
彼女はギリギリのところで金棒を撃ち返し、素早く二、三撃刀を振った。
すると、鬼の体が薄く切れ血が噴き出した。
とりあえず、攻撃は通るようだ。
だが、まだ浅い。
二等と一等の差は、片方を多少強化したところでは埋まらないのだろう。
中々攻撃が当たらない、と業を煮やしたのか、鬼は金棒に自身の霊力を込めて強化し始めた。
一部の二等や一等以上の怪異は、霊力を巧みに操り、陰陽師のような術を使うことがある。
このままでは、強化された金棒に水無瀬術師が押しつぶされてしまう。
「させるか!」
俺は右手を鬼の金棒へと向ける。
今こそ、練習してきた弱化術を試す時だ。
右手から霊力を放出しつつ、鬼が纏っている霊力を細かく知覚していく。
鬼の霊力に、俺の霊力を混ぜるようにこねていく……こうして、弱化術は効果を発揮する。
強化しようとする鬼の霊力に反発するように、俺の霊力が鬼の力を弱めようと働いてくれている。
鬼は俺を見て、微かに呻いた。
どうやら、俺が弱化術を仕掛けたことがわかったみたいだ。
金棒を振り上げ、俺に向けて突撃してくる鬼に、水無瀬術師が立ちふさがった。
「こっちも、させません!」
彼女が刀を振り上げたのと同時に、俺は最大限の霊力を込めて彼女の刀を強化する。
「ハァッ!!」
水無瀬術師の一刀……その一撃は、綺麗に鬼の体を裂いた。
鬼は断末魔を上げると、塵となって消えていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……や、やりました!」
「おめでとうございます、水無瀬術師」
彼女が大きくガッツポーズをするのを見て、俺は微笑む。
何とか、最低限の働きは出来た……と思う。
そんなことを考えていると、水無瀬術師は俺に向き合って真剣な表情で言った。
「怪異を倒せたのは、間違いなく北条さんのおかげです! 私に施してくれた強化術も、鬼にかけた弱化術も、陰陽師として十分以上に通用するものでした……北条さんがいなかったら、私負けてましたよ」
「いや、あくまでも水無瀬さんの力によるものですよ。俺がしたのは、精々細かな帳尻を合わせるサポートぐらいです」
「そんなことないです!」
水無瀬術師は、俺にぐいと近寄ると顔を突き合わせてきた。
年下と言えど、こんな可愛い女子に詰められたら少しドキリとしてしまう。
「北条さんは、私の命の恩人です。その汎用術は並の陰陽師で出せる強さじゃありません……もっと自分の実力を誇ってください!」
「そ、そうは言っても……」
俺は、他の補佐役がサポートしている現場にいたことがないから、汎用術の威力がどの程度かあまり知らなかった。
それに、実力をひけらかしたいわけでもないのだ。
俺はただ単に、困っている人たちを助けられるのなら、それでよかった。
「とにかく、今回はありがとうございました。前回は精神的に助けられましたけど、今回は物理的に助けられちゃいましたね」
「そんな大げさな……でも、お礼は有難く頂いておきます」
「そうしてください。あ、あと」
水無瀬術師は、少し顔を赤らめながら言った。
「出来れば、ハクアって呼んでくれると嬉しいです。敬語もナシで」
「いや、職務上敬語を抜くわけには……」
「私がいいと言うんだからいいんです! お願い!」
「そうですか……いや、そうか。わかった、ハクア」
それだけ俺に気を許してくれてる、ってことなんだろうか。
まあ他人からの好感度が上がるのが嫌いな人間はいない。
俺は、水無瀬術師……いや、ハクアと親しくなれそうなことが、純粋に嬉しかった。
「これからは、積極的に任務に北条さんを指名してもいいですか?」
「ああ、勿論。俺に出来ることならなんでもするよ」
「よかった! じゃあ、これからもよろしくお願いしますね!」
「ああ!」
俺はハクアに手を借りて立ち上がると、お互いを労いながら帰路に着いた。