サポート特化陰陽師補佐転生 作:タルタル功夫
ハクアと協力して、一等怪異を祓滅してから、少し経った頃。
俺はついに、補佐役としての訓練を始めてから三か月が経過していた。
そんな中……俺にとある任務が舞い込んでくる。
「北条君、神宮司一等術師の補佐を頼みたい」
上司から聞く『神宮司』という言葉に、緊張が走る。
神宮司一等術師……神宮司キリカは、陰陽師の四大大家である『神宮司家』の当主なのだ。
そんな身分の人物を補佐するなど、俺に務まるのだろうか。
俺の不安そうな顔を見た上司は、俺の緊張をほぐすように、少し口調を和らげる。
「なに、補佐と言ってもいつも通り車での送迎をして、任務の報告書を書いてくれるだけでいい。任務の実地にも共に行くことになるだろうが、戦闘は全て神宮司術師が行う予定だ」
「は、はあ」
いつもとやることが変わらないなら、心配することは何もないのだろうが……俺はこの時、妙な胸騒ぎを覚えていた。
― ― ― ― ―
車に乗り込んできたのは、巫女に近いような衣装……陰陽師にとっての正装を纏った女性・神宮司術師だった。
流麗な顔立ちだが、その気品ある顔は厳しい表情をしていた。
流れるような銀髪を結んで、編み込んでいる。
「神宮司術師……」
「現地までよろしく頼む」
一言、そう言うと神宮司術師は目を閉じてしまった。
俺とはどうやら、話す気がないらしい。
まあ、そういう任務だったら楽ではあるんだが……。
そんなことを想いつつ、俺は車を発進させた。
今日は、俺がいつも低級怪異狩りを行っているような、とある廃ビルでの任務だった。
と言っても、低級の溜まり場である廃ビルよりか、随分小さい。
上司曰く、この廃ビルには一等怪異一体のみが住み着いていて、他の怪異を寄せ付けないらしい。
また、ビルの破壊も出来ないよう工事現場の人間たちを呪い殺してしまったというのだ。
場所に拘る怪異は、驚くほど多く存在する。
恐らく、その一等怪異も廃ビルを自分のねぐらか何かに定めているのだろう。
人間にとっては、全く厄介な話である。
数十分車を走らせると、件の廃ビルへと到着した。
「到着しました」
「ん……」
神宮司一等術師は、流れるようにドアを開け、降りて一人で行ってしまった。
「あ、ちょっと待ってください! 神宮司術師!」
俺も現場に行くことを忘れてないだろうか?
慌てて俺は車を停車させ、後を追った。
廃ビルを駆け足で三階まで登ると、ようやく神宮司術師へと追いつく。
「お、おいていかないでください……!」
「む、すまない」
神宮司術師は、今更一緒に行く必要があったと思いだしたのか、俺に謝ってきた。
何だか、見た目は厳しそうだけどこの人、意外と抜けてるところがあるのか……?
しかし、安心して階段からフロアに入ろうとしたのも束の間、俺の体は神宮司術師の手に制された。
「待て、既にいる」
「え……?」
俺がフロアの奥を見ると、そこには。
カマキリのような体と鎌を持つ怪異が、俺たちの方を見て唸り声を上げていた。
件の一等怪異だ。
先日、ハクアと戦った鬼の怪異より、格段に禍々しい気配を感じる。
恐らく、実力も比べ物にならないだろう。
そんな怪異を相手に、神宮司術師は悠然と歩みを進めた。
「来い」
彼女は、蟷螂怪異に向けて挑発する。
怪異はニタリと笑みを浮かべると、神宮司術師へと襲い掛かった。
だが、蟷螂の鎌が神宮司術師の喉元に届く寸前……彼女は手元に薙刀を出現させ、怪異に向けて振るった。
一瞬だった。
怪異は、切断され、跡形もなく爆散した。
「す、すごい……」
俺は思わず、感嘆の声を漏らす。
ハクアと俺がギリギリで勝利した一等怪異より、さらに強い怪異。
それを、神宮司術師は一瞬で倒してしまった。
「さて、帰ろう」
神宮司術師は、俺にそれだけ言うと、来た道を戻ろうとした。
俺は呆気にとられる。本当に一瞬で任務が終わってしまった……。
しかし、俺たちの前にアクシデントが立ちはだかるのは、この後だった。
「!」
突然、天井を突き破り、大柄な男が降って来た。
俺が何事か察する前に、男は神宮司術師へと襲い掛かり、彼女は応戦した。
柄の悪そうな、その大柄な男は、拳に霊力を込めて彼女を殴っている。
天井を突き破れたことからも、もちろん一般人ではないだろう。
しかし、陰陽師同士が戦う事は有り得ない。
つまり。
「怪師か……!」
『
それは、陰陽師の力を使い、犯罪行為に手を染める、ならず者のことである。
簡単に言うと、悪の陰陽師だ。
今回の任務、怪師の対処は記されてなかった。
となると、神宮司術師を狙っての急襲というところだろう。
「神宮司術師!」
「問題ない」
彼女は、冷静に男の拳を対処すると、薙刀による連撃で男を後退させた。
怪師と戦う時、やむを得ない場合は捕縛ではなく殺害が許されている。
神宮司術師の実力ならば、生け捕りにも出来るだろうが……俺は対人戦を初めて見るので冷や汗をかいていた。
だが、その時。
さらに上の階から、数人の怪師が追加で降りて来た。
そして、その中の一人が、神宮司術師に何やら鎖のようなものを投げつけて来た。
彼女は翻って避けようとするが、運悪く捕まってしまう。
その鎖が怪しく光ると……彼女は苦しみ、悶え始めた。
「どうやら、流石の神宮司でも効くようだな」
彼女と戦っていた大柄な男が、ニタリと笑う。
そして、男とその他の怪師たちは、神宮司術師を取り囲んだ。
「ぐっ……一体、これ、は……!」
「力を制限させる霊具さ。かなり昔に封印されていた奴らしいが、俺たちの元へ提供者が現れた。だから、俺たちはお前を狙ったのよ」
男は、神宮司術師の体を踏みつける。
「四大大家の当主が死んだとあれば、確実に陰陽連の連携も鈍る。俺たち怪師も、もっと自由に動けるようになるってわけよ……!」
「なん、だと?」
その言葉に反応した神宮司術師は、霊力を込めて鎖の霊具を跳ね返そうとする。
それでも、力が足りないようだった。
このままでは、彼女を見殺しにしてしまう。
俺は咄嗟に手を伸ばし、鎖の霊具に弱化術をかけようとした。
霊具も、弱化術をかければ効能が弱まる。
そうすれば、彼女自身の力で脱出できるはずだ。
だが怪師たちが、弱化術をかける俺をのうのうと見逃すはずがなかった。
「何だァ、お前? 補佐役か」
大柄な怪師が俺に急接近し、拳を腹にめり込ませてくる。
「ぐあっ……!」
「余計なことするんじゃねぇよ……そこで黙って見てろ」
俺はその場にくずおれる。
大柄な怪師は満足したようで、神宮司術師の元へ戻っていく。
……が、俺は弱化術をかけるのをやめない。
「……あ?」
怪師たちは剣呑な雰囲気で、俺を睨んでくる。
「神宮司、術師は殺させない……! 彼女は、多くの人々の命を助ける存在だ……!」
俺はヨロヨロと立ち上がると、全身に強化術を付与し、ナイフを構えた。
大柄な怪師が片眉を上げる。
「へぇ? 俺たちと戦ろうってのか。補佐役の分際で」
「補佐役の仕事は、陰陽師をサポートすること。陰陽師がピンチなら……ピンチを脱出できるようにサポートするまでだ!」
「北条……すまない」
「気にしないでください、神宮司術師。霊具が解けるまで、凌いでみせます」
大柄な怪師は再び俺に近づいて来る。
「いい度胸じゃねぇか」
再び繰り出される拳を、今度は間一髪のところで避ける。
そして、そのまま大柄な怪師を振りぬけ、神宮司術師に刀を向けていた別の怪師にナイフで斬りかかった。
「テメェ、邪魔すんな!」
刀を持った怪師と数合打ち合っていると、横からさらに二人の怪師が襲い掛かって来る。
一発でも攻撃を受ければ、連鎖的に攻撃をもらって、あっという間に動けなくなってしまう。
それだけは何としてでも避けなければならない。
俺は霊具にかける弱化術を維持しながら、大きく飛び上がり、穴が開いている上の階へと移った。
神宮司術師から遠ざけるためだ。
数人の怪師たちが追いかけてくるが、大柄な怪師は再び神宮司術師に拳を向けていた。
まだだ、まだ完全に霊具の力を弱められていない。
大柄な男を止めるため、俺は再び下の階へ素早く飛び下り、大柄な怪師が放った拳をナイフで受け止めた。
「ぐっ……!」
全身に強化術を施しても、ともすれば簡単に押し負けそうなほど、怪師の男の力は強かった。
神宮司術師を襲いに来てることから、恐らく一等陰陽師並の実力を有しているのだろう。
今の俺が勝てる相手ではない。
だが!
「うおおおおお!!」
俺はさらに、弱化術を強める。
すると、彼女に巻き付けられていた鎖の霊具は、少しずつチリへと変わっていった。
「何しやがる!」
大柄な怪師は拳を振りぬき、俺を壁際まで吹き飛ばす。
上の階へと行った怪師たちも、すぐに再び下へ降りて来た。
鎖の霊具は、まだ完全に解け切ってない。
あと少し、あと少し何かあれば……。
「終わりだ!」
大柄な怪師は、今度こそ神宮司術師を殺すため、拳を振り上げた。
……もうこれしかない。
俺はナイフを構えると、大柄な怪師に向けて野球ボールのように投げた。
怪師はそれを紙一重で避ける。
向かいの壁に、ナイフが突き刺さった。
「やるじゃねぇか。だが、最後の足掻きも徒労だったな」
男はニタリと笑うが……これで良いのだ。
俺の仕事は、ここまで。
「……いや、徒労などではない」
瞬間、神宮司術師はそう言いながら、鎖を完全に引きちぎった。
「な、何!?」
「北条が限界まで弱化術をかけ続けてくれたことで、私も何とかコレを引きちぎることが出来た」
「神宮司術師……!」
俺はホッとし、その場に尻餅をつく。
「後は任せておけ」
「く、クソッ、こうなったら全員でかかるぞ!」
怪師たちは霊具の解けた神宮司術師に向け、次々に武器を構えるが、その体は小刻みに震えている。
対し、神宮司術師は、ゆっくりと薙刀を構えた。
「……行くぞ」
「ひッ!?」
神宮司術師は、目にも止まらぬスピードで次々と怪師たちを斬り伏せていく。
「す、すごい」
鎖の霊具さえなければ、神宮司術師はあっという間に怪師たちを倒せたのだ。
それほど、怪師たちと神宮司術師の実力の差は大きかった。
一分も経たないうちに、辺りには怪師たちが倒れていた。
神宮司術師は一息つくと、俺に駆け寄る。
「大丈夫か、北条?」
「は、はい。助かりました」
「何をバカなことを言う。助かったのはこちらだ。お前が正確かつ強力な弱化術を霊具にかけてくれなかったら、私はとうの昔に死んでいた。礼をしてもしきれない」
「そんな。俺はやるべきことをしたまです」
「やるべきことをお前ほどの実力でやれる奴は、そうそういない。改めて、感謝する。北条補佐役」
「……! いえ、こちらこそ」
圧倒的な実力を持っている人に褒められるというのは、やはり嬉しいものだ。
自分の実力が役に立ったことも、素直に嬉しい。
俺は、補佐役として重要なサポートをまた成し遂げられたのだ。
「……それにしても、この怪師たちは死んでいるんですか?」
「いや、峰打ちに留めておいた。鎖の霊具の出所を吐かせる必要がある。陰陽連に連行してもらえるよう、連絡してくれないか」
「は、はい!」
俺は慌ててスマホを取り出しながら、初めての怪師戦を、神宮司術師と共に切り抜けられたことに達成感を覚えるのだった。
『神宮寺キリカ』
22歳。銀髪金眼の長身、巫女のような和風装束(陰陽師の正装)。クールっぽいド天然。神宮寺家当主。一等術師。薙刀使い。斬撃を操る固有術式を持つ。