サポート特化陰陽師補佐転生   作:タルタル功夫

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第6話 治癒術の修行

 神宮司術師と俺が怪師に襲われた日から数日後。

 俺は新たな術を身につけようとしていた。

 

「次は……治癒術だな」

 

 机の上に、新たに一冊の本を広げる。

 怪師との戦いから、俺は自分の肉体の脆さを改めて学んだ。

 治癒術があれば、相当の手傷を負っても霊力さえ残っていれば回復できる。

 戦線に復帰できるのだ。

 

 今の俺では、一回やられたらアウトだ。

 他の人に治癒してもらえるまで、倒れたまま耐え忍ぶしかない。

 実際、怪師との戦いでも致命傷を貰いそうな瞬間が何度かあった。

 今回学ぶ治癒術で、そういった『戦闘不能になる可能性』を少しでも減らしていきたい。

 

 だが、治癒術は今の俺が使える強化術・弱化術とは、若干霊力の操作方法が異なる。

 何せ、身体を強化したり弱くしたりするのではなく、傷を治すのだ。

 傷を負った部位がどのような構造をしているのか、深く学ばなければならない。

 

「と、いうことで」

 

 俺はさらに、二、三冊の本を机の上に置いた。

 これらは全て、人体の構造について学べる本だ。

 普通の本屋で、医学書や図鑑のコーナーから吟味して買ってきた。

 

 まずはこれを、徹底的に読み込む。

 それから治癒術の練習に入るのだ。

 

 俺は休日三日分ほどをかけて、本を丁寧に読み込んでいった。

 勿論、専門用語などがバーッと並んでいるところは雰囲気でしか読めなかったが……それでも、読む前より確実に人体構造について知ることが出来たと思う。

 

 休日は本を読み込む時間に使えるが、それ以外は働かないといけない。

 陰陽師の補佐役は激務だ。日付を回ってから、ようやく帰れることも少なくない。

 そんな時でも、俺は本を読み込みたかったが……睡眠をしっかりとらないと、日中全く動けなくなる。

 それはマズいので、睡眠は少しでも多く寝られるよう、努力した。

 

 補佐役としてのサポート術の向上は、日常生活の細かな行動から鍛えなければならない。

 睡眠も大事な修行と言える。

 

 そうこうしているうちに、俺は人体構造についての本を読み終わった。

 

 次はいよいよ、治癒術の実践だ。

 

 最初から、戦闘時の傷を癒すことで鍛えるのもナシではなかったが、流石にそれは危険すぎるということで、まず自分で傷をつけていくことにした。

 

 用意するのは、いつものナイフ。

 自傷行為などやったことがないので、自分の腕にナイフを軽く当てるだけでも震えてしまう。

 

「落ち着け、落ち着けよ……?」

 

 俺は二、三度深呼吸をした後、軽くナイフで肌を撫でた。

 

「ッ」

 

 薄っすらと赤い線が出来、血が滲みだす。

 まずはこのぐらいの軽い怪我から治癒術の練習を始めよう。

 

 俺は傷口にそっと手をかざす。

 そして、手に霊力を集中させた。

 

 手に集まった霊力は、やがて傷口に移っていく。

 

 後はもう、ひたすら『イメージ』して治していくのだ。

 

 思いのほか力業な治し方だが、元々陰陽術というのは人間の精神に深く根差したものだ。

 願いやイメージ自体が、現象を引き起こすと言ってもいいぐらいなのだ。

 

 人体構造についての本を読んだのは、イメージをより鮮明にするため。

 鮮明なイメージは、より具体的な現象を引き起こすことが出来る。

 

 皮膚や筋肉、骨がどういう風に組織されているのかを知れば、そこをピンポイントで治していくことも可能になるのだ。

 

 俺はひたすら、念じる、念じる、念じる……。

 『治れ』『元の状態に戻れ』『欠けた部分を補完しろ』。

 

 そうすることで、俺の腕につけられた赤い線は、徐々に元の色に戻っていき……皮膚も完全に修復された。

 

 初めての治癒術は、とりあえず成功だ。

 心の中で小さくガッツポーズをする。

 

 だが、戦闘時にこれだけ時間をかけて治癒することは出来ない。

 治癒している間に次の攻撃を貰って倒れては、元も子もないだろう。

 

 だから俺は、これから何度も色んな所を自分で斬りつけて、霊力が尽きるまで素早く治していく練習を行わなければならない。

 

 傍から見れば、かなり狂気の沙汰だとは思う。

 自分も本当はこんなことは行いたくはない……けれど、こうでもしないと、俺は治癒術を鍛えられないのだ。

 

 目標に向かっていくためには、『自分の身を切る』覚悟も必要というワケだ(絶対そういう意味じゃないだろうが)。

 

 だから俺は、とにかく体の至る所を斬っていった。

 最初は一か所から始め、慣れてきたら二カ所、三カ所……最終的には十カ所以上同時に斬ることもしていた。

 

 そうしていくうちに、俺の治癒術の速度は少しずつ、だが確実に向上していき……。

 一ヶ月以上練習を行った頃には、既に皮膚を撫でるだけで治癒が完了できるようになった。

 

 ちなみに、治癒術は霊力を思いのほか大量に消費する。

 そのため、俺は霊力の増幅法を絶えず行っていた。

 寝る時でも増幅法を行えるよう、意識して寝るようにしている。

 最初は度々失敗していたが、今では見違えるように霊力も伸び……修行を始める前の、あの貧相な霊力量だった俺とは別人のような肉体になっていた。

 

 俺に必要だったのは、『夢』とそれを成し遂げるために必要な努力を行う『覚悟』だったのだ。

 やることが明確に決まった人間は強い。

 後は、夢に向かってひたすら進んでいけばいいだけだ。

 勿論、その過程で多くの障害にもぶつかるが……俺はそんな事では止まらない。

 いつか、最高の補佐役になってみせる。

 

 治癒術もほぼほぼ使いこなせるようになり、霊力も増えてきたころ。

 

「そろそろ……もう一度狩りに行ってみるか」

 

 最近は怪異の溜まり場に行くこともなかったが、治癒術もマスターした今、自分の実力がどれだけ伸びているか確かめておきたい。

 そういうワケで、俺はまた怪異のたまり場である廃ビルへと向かった。

 

 そっと足を踏み入れた後は、ずんずん中へと進んでいく。

 ここ最近はずっと鍛えていたことで、俺はある程度実力に自信が出てきた。

 今なら、低級怪異ぐらいなら急に襲い掛かられても、ちゃんと反撃できる気がする。

 だから俺は、周囲に必要以上に気を張る事なく進んでいたのだが。

 

「おかしいな……?」

 

 怪異がどこにも現れてこない。

 ここにはまだ、大量の低級怪異が住みついているはずだ。

 なのに、どれだけ進んでも一向に出会わない。

 何か異常事態が起こっているのだろうか。

 それとも……。

 

 俺はさらに進んでいき、ようやく数体の低級怪異を発見する。

 前に戦った時と同じ、人魂に手足が生えたような奴らだ。

 

 だが、俺がナイフを構えるよりも早く、怪異たちは俺を見つけると恐怖したように逃げ去ってしまった。

 

 ……。

 どうやら、俺が薄々予想していたことが当たっていたみたいだ。

 低級怪異と比べると、俺は強くなり過ぎたのだ。

 

 最早、会敵してすぐさま瞬殺できるレベルになっているのだろう。

 一人で籠ってずっと修行していたからわからなかったが、正直これは嬉しい。

 ここまで俺の実力が伸びているなら、更なる修行でより上も目指すことが出来そうだ。

 

 記憶が戻る前の俺は、固有術が無いと判明し、陰陽師になれないと分かった時点で修行を止めてしまった。

 だが、今思えばとても勿体ないことをしていたのだ。

 固有術が使えずとも、こうやって汎用術をひたすら鍛錬していったら、それなりには戦えるようになる。

 低級怪異が逃げたことで、それが証明された気がした。

 

 だが、戦える怪異がいないのは困る。

 せっかく治癒術を試したかったのに、これでは……と思っていると。

 

「アイツは……戦ってくれそうだな」

 

 目の前に、(恐らく)三等級の怪異が立ちふさがった。

 水無瀬術師と一緒に戦った鬼の怪異を、少し小さくした感じの怪異だ。

 

 鬼の怪異は、震えながらも俺に金棒を向ける。

 俺はそれを見て、ナイフに強化術を仕込んだ。

 

 咆哮する鬼。

 次の瞬間、金棒を一気に振り上げ襲い掛かって来た。

 しかし。

 

「……遅いな」

 

 俺は金棒をサッと避けると、そのままナイフで鬼の胴体を一閃した。

 断末魔を上げる暇もなく、鬼の体はぱっくりと割れ、消滅してしまう。

 

 三等の怪異でも、もう俺の敵ではないようだった。

 

 こうなると、二等以上の怪異と戦わなければ、治癒術の試し打ちは出来なさそうだ。

 だが二等怪異と戦うには、祓滅の依頼を貰わなければならない。

 そして、祓滅の依頼を貰えるのは陰陽師だけだ。

 

 二等怪異以上のたまり場は、発見され次第すぐに完全に祓われてしまう。

 つまり、俺が二等怪異と戦う術は『陰陽師の祓滅について行き、怪異と戦わせてほしいと頼む』以外になかった。

 そんな頼みを受け入れてくれる人はいないだろうし……どうしたものか。

 

「……あ」

 

 そこで、俺はとある手を思いついたのだった。

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