サポート特化陰陽師補佐転生 作:タルタル功夫
中年の森島カズヒト一等術師は、陰陽師として怪異を祓滅している傍ら、道場を開いて新米の陰陽師たちを鍛えている。
森島術師になら『強くなりたい』と頼み込めば、補佐役でも稽古をつけてもらえるだろう。
俺は治癒術を試すために、森島術師に稽古を頼むことにした。
補佐役の仕事が珍しく空いた日に、俺は陰陽師連盟の支部……森島術師の道場がある支部に、車を走らせた。
道場へ向かうと、森島術師は多くの新米陰陽師たちに組手の稽古をつけていた。
「すみません、森島術師!」
「……お前は、確か北条だったか! どうした」
森島術師は、陰陽師たちに組手を続けるように指示すると、俺の方へと来てくれた。
「実は俺も、稽古をお願いしたいんです。補佐役としての実力を向上させたくて」
「それは……構わんが。補佐役は陰陽師と違って、怪異と直接戦うわけではないんだぞ? 汎用術の勉強をするならまだしも、体まで鍛える必要は」
「汎用術を学ぶためにも、鍛えられた体が資本になります。俺、最近一人で汎用術を勉強する傍ら筋トレをしているんですが、一人だとどうしても限界があるんです。お願いします、森島術師。俺にも稽古をつけてください!」
森島術師は、少し驚いた顔をしたが、その後みるみる笑顔が広がって来る。
「偉い! 最近の若い奴で、こんな気骨がある奴と久々に出会ったよ。確かに、補佐役は怪異と戦わないと言っても、体が資本なのには変わりない。喜んで稽古をつけよう。月謝は少々貰うが……」
「それは当然のことです。お月謝は今すぐ支払うので、よろしくお願いします!」
「益々気に入った! よし、じゃあ早速胴着に着替えてこい。ちょうど新品が入ったところだ」
「はい!」
どうやら、願いは聞き入れられたようだ。
ホッとした俺は、森島術師に案内されるがまま胴着を貰い、すぐに着替えた。
「お前ら、整列!」
森島術師は新米陰陽師たちを集め、並ばせる。
「今日からこの道場に入ることになった、北条補佐役だ。補佐役だが、体を鍛えたいという有望な奴だ。皆、色々彼に教えてやってくれ!」
そう言うと、森島術師は俺を陰陽師たちの中に並ばせる。
「それでは、これから俺と一人一人組手を行ってもらう! 皆の実力を、今一度見せてくれ!」
そう言うと、森島術師はスペースを取る。
そして、陰陽師たちの中から一人を選ぶと組手を始めた。
俺たちは観衆として、離れた場所に正座する。
森島術師と対面しているのは、新米だから……三等か四等ほどの陰陽師だろうか。
新米は森島術師に全力で向かっていくが、軽くいなされてしまっている。
この道場では、どうやら霊力による身体強化術は使っていいらしい。
新米は自身の体に強化術をかけ、森島術師と何とか渡り合おうとしている。
対して森島術師は、全く強化術を使っていない。
彼は、歴戦の陰陽師だ。素の力だけでも、三等や四等を軽くいなしてしまうことができるのだろう。
やがて新米は、動きがフラフラになったところを森島術師に突かれ、倒れ込んだ。
「あ、ありがとうございました」
新米は一度礼をすると、脇腹を抑えながら観衆の中へと入る。
「次!」
それから森島術師は、すごいスピードで多くの新米たちと戦っていった。
誰もかれも、彼にはマトモに太刀打ちできない。
大体一分足らずで倒されてしまう。
新米の陰陽師たちが弱いわけではないと思う。
ただ、それ以上に森島術師が強すぎるのだ。
陰陽師の実働部隊……その上澄み中の上澄みが一等陰陽師だ。
ベテランの陰陽師の中でも、さらに一握りの者だけがなれる。
だから、若くして一等術師になっている神宮司術師などは、とても凄い人なのだ。
一等術師の上、と言えば、もう災害級の強さを誇る特等術師しかいない。
しかし、特等術師は陰陽師連盟の中でたった五人しか存在しないため、とっておきの切り札なのだ。
だから、実際の実働部隊としては、一等術師が一番上みたいなものだ。
そんな森島術師は、卓越した身体技術で俺以外の全ての新米たちを倒してしまった。
「最後、北条! お前も実力を見せてもらおうか」
「は、はい!」
俺は立ち上がり、森島術師の前まで歩いていく。
新米陰陽師たちは、俺に奇異の眼を向けている。
元々、補佐役でこの道場に通う人間とは珍しいのだろう。
こんなに注目されながら組手を行うというのも、少し緊張するが……やるしかない。
俺は森島術師に礼をすると、拳を構えた。
「来い、北条!」
どっしりと構えてくれている森島術師に向け、俺は一気に全身に強化術を発動させる。そして、素早く飛び掛かった。
突き出した拳は、森島術師にギリギリのところでガードされる。
「ぐ……!」
「すごいじゃないか、北条!? 驚いたぞ!」
そう言いながら森島術師は、俺にお返しと言わんばかりに拳を繰り出してくる。
俺はそれを避けると、彼に連撃を繰り出していった。
強化術を発動させて攻撃してはいるが、森島術師の体に傷がつく気配はない。
だが、森島術師も先ほどとは違い、そこそこの出力で強化術を発動させていた。
「一歩間違えればこっちがやられそうだ……なッ!」
森島術師は、俺に強烈な蹴りを繰り出してくる。
間一髪で避けるが、周囲の空気を切り裂くような強烈な蹴りだった。
避けても、俺の頬がピッと軽く裂ける。
俺は右手で撫でるようにして、頬の傷に治癒術を仕込み、治した。
「おお、治癒術まで使えるのか!? こいつはとんでもない逸材が来たな……!」
森島術師は、鋭い霊力を全身から放っていく。
あまりの力強さに、俺は一旦距離を取らざるを得なかった。
「お前程の奴は、ここ数年でも見たことが無い! こっちも気合を入れよう……!」
森島術師はさらに肉体を強化させ、一段階上がった速度で攻撃を仕掛けてきた。
流石に速すぎる。俺の強化術だけでは追いつけない。
……だが、俺にはもう一つ使える技がある。
俺は一瞬、森島術師の体に手を当てた。
すると、彼の漲るように放たれていた霊力が、急激に霧散していく。
「これは……弱化術か!」
「正解です!」
速度が弱まったところに、俺は反撃を仕掛けていく。
今のところ、俺と森島術師の力はやや俺が劣勢だが……それでも、一等術師に食らいつくことが出来ている。
勿論、彼が固有術を使えばこちらが完全に劣勢になるだろうが……それでも一等術師に、体術と汎用術だけで戦えているのだ!
これを成長と言わずして、何というだろう。
俺は、俺自身がどこまでやれるのか、中々確信が持てていなかった。
だが今、初めて全力でぶつかれる相手に出会ったことで、自分の実力がハッキリしてきた。
今の俺なら多分……一等術師や一等怪異とも一人である程度戦える。
神宮司術師をサポートしていた時とは、もう違うのだ。
俺の本業はサポートだが、それでも一人で戦う場面もこれから出てくるだろう。
そういう時でも、俺は戦えるのだ。
一人でも、複数人でも、誰かを助けるために戦うことが出来る……!
「やるな北条……! お前とこうして戦えて、俺は本当に嬉しい!」
「森島術師こそ……!」
俺たちは互いに、荒い息を吐きながら向かい合っていた。
まだ、ギリギリのところで二人共持ちこたえている。
「俺は、次の拳に全てを込めるるもりだ。迎え撃ってくれるか?」
「わかりました……俺も全力でいきます!」
俺たちは、お互いの拳に強い霊力を込めていく。
今まで身体強化に使っていた霊力の、さらに数倍ほど……それこそ、霊力切れが起きそうなぐらいの密度で、霊力を込めていく。
あまりの強さに、空気は歪み、道場全体が細かく震えていた。
やがて、霊力の充填を終えた森島術師は走り出した。
「行くぞ、北条!! うおおおおおお!!」
森島術師の拳を撃ち返すべく、俺も拳を強く握りしめた。
決着の時は、一瞬だった。
俺と森島術師の拳は激突し、互いに強烈な衝撃波を放ちながら……爆風を起こした。
二人同時に吹き飛ばされ、強く壁に叩きつけられる。
ズルズルと壁をずり落ちながら、それでも俺は確かな充足感に包まれていた。
「……すごい力だ、北条。お前は、俺が出会ってきた中で一番の補佐役だよ」
森島術師は、ヨロヨロと立ち上がると、俺に近寄って手を伸ばしてきた。
「あ、ありがとうございます」
「こんな霊力を持つ補佐役なんて、聞いたことがない。一等術師並か……ともすると、それ以上のものだ。これで固有術を持っていないなんて、驚きだよ」
「いえ、俺はまだまだです。今回は全力を出し切って、もう一歩も動けないぐらいですよ」
「何を言う。俺もほぼ同じようなもんだ。今回の勝負は引き分け……いや、お前が補佐役である事を考えると、俺の負けでもいいぐらいだ。凄い奴だよ、お前は」
「はは……」
森島術師は、俺の肩をバシバシ叩きながら言った。
「お前の実力からすれば、この道場は力不足かもしれないが……それでも、歓迎するよ。存分に学んで、最高の補佐役を目指してくれ!」
「はい! ありがとうございます!」
俺は一礼する。
森島術師は、かなりサッパリした性格だ。俺の実力を素直に認めてくれ、賞賛までしてくれる。
こんな術師の元で修行が出来る俺は、幸せ者だ。