サポート特化陰陽師補佐転生 作:タルタル功夫
これまでに俺は、霊力の知覚・増幅法の鍛錬、強化術・弱化術・治癒術の鍛錬を順々に行っていった。
次はいよいよ、購買で買った最後の指南書を使う時だ。
『結界術』。
指南書シリーズの最終作にして、一番難易度の高い術だ。
今までに学んできた強化術・弱化術・治癒術は、何らかの物体や生物に施すものだった。
例えば、鉄パイプに強化術をかけてより硬くしたり、人が受けた傷を治癒術で回復したりする……そこには、術をかける『対象』が必ずあった。
だが、今度の結界術は、その『対象』がより難易度の高いものになる。
結界術をかける対象……それは、自分の周囲の空間そのものだ。
それ故、物体にかける時のような確かなイメージを構築しづらい。
だから、結界術の難易度は高いのだ。
そして、結界術は努力というより、才能に強く依存している部分がある。
それ故に、四等術師でも結界術を使える人間もいれば、一等術師で使えない人もいる。
そんな不安定なものなのだ。
正直、俺に陰陽師としての才能があるかどうかは怪しい。
ハクアや神宮司術師、森島術師にも認めてもらえたが、それでも固有術は発現していないし、今までの実力形勢は努力によるところが大きい。
だが、学ぶ前から諦めてどうするというのだ。
学ぶだけならタダなのだ。
もし、才能が無くて結界術が使えなくても、結界術の知識自体は無駄にはならない。
だから俺は、徹底的にこれから結界術を学ぶことにした。
一通り指南書を読み終えると、俺は結界術の基礎となる練習法を試してみるため、ある方法に出た。
部屋の床に新聞紙を広げ、その上にマジックペンで半径一メートルほどの円を描いていく。
これは『アタリ』だ。
このマジックの上に霊力を這わせ、結界の形をイメージするのだ。
俺は新聞紙の上に両手をつくと、意識を集中させる。
俺の体から流れ始めた霊力は、少しずつ、少しずつマジックの上をつたい、綺麗な円を描いた。
よし、第一段階クリアだ。
これで結界の土台となる部分は、俺にも作れることがわかった。
次は本格的な結界の構築。
マジックに這わせた霊力を、さらにドーム状に展開。
半球のような形にする。
しかし、土台がすぐ作れたのでこれも上手く行くかと思いきや、かなり難航した。
まず、空間に霊力を展開するというのが、やはりイメージしづらいのだ。
あと、綺麗なドーム状に霊力を張る、というのもえらい難しい。
少し意識が逸れただけで、ふわりと霊力が霧散してしまう。
結界術の習得には、とにかく意識を集中させる必要があった。
俺は何度も何度も、神経を張り詰めながら霊力をドーム状に展開させていく。
時には霧散し、時には弾け、時には薄っすらと消えながら、結界は崩れていく。
「クソッ……!」
何度も何度も失敗すると、自然と焦りも出てくる。
水風船に強化術を込めた時は、これの比ではない回数を試した。
それを考えると、結界術に数十回失敗したぐらいで、弱音を吐くことも無いのだろうが……。
俺は最近『少しは自分も成長できたかな』と思っていた。
だが、ここにきて新たに、結界術という大きな壁が立ちはだかったような気がしていた。
何度も何度も、俺は結界を構築していく。
だが、そのたびに何かのはずみで一気に霊力が消えてしまった。
「……ダメだ! いったん休憩!」
結界術の修行を始めてから五時間ほど経った頃、ついに集中力が切れてしまった俺はその場に寝転んだ。
やはり、一等術師でも『才能がなければ習得が難しい』と言われる術だ、俺が習得するのは難しいのだろうか……。
「いや……諦めてたまるか」
俺は立ち上がると、冷蔵庫から冷えた水を取り出し、一気に喉に流し込む。
今までだって、成功するまで何度も何度も、粘り強くやって来たじゃないか。
今度も同じだ。
成功するまで試すだけだ。
俺は十分ほどストレッチして体をほぐすと、また結界術の修行を再開した。
それからは毎日毎日、仕事が終わった日も夜遅くまで、いつものように練習し続け……俺は結界術の基礎を体に叩き込んだ。
そして、三週間ほど経った頃。
俺はついに、一回目の結界術の形成に成功する。
「よっしゃぁ!」
目の前に広がる、ドーム状の結界。
それを見た俺は、たまらずガッツポーズをしてしまった。
今までの術と比べるとかなり短い時間で成功できたが、それでも針の穴に糸を通すほどの張り詰めた精神力でずっと鍛錬をしていたのだ。
体感一年ほど経ったような気がしていた。
さておき、ついに結界術の構築には成功した……だが、これで終わりではない。
何故かというと、この結界術には『術』が付与されていないからだ。
結界術は、何らかの術を付与して、その空間内に入ることで初めて効果を発揮するものだ。
だが、今の俺が張った結界術では、単純に霊力で膜を作っただけだ。
一般人を入らないようにするぐらいは出来るが、本当にそれだけで何の効果もない。
「とりあえず、次は結界に付与する術を学ばないとな……」
俺は再び結界術の本をパラパラ捲り、付与術の項目を見る。
結界に付与する術は、昔の高名な陰陽師の固有術を、後世に残すために分かりやすく再構築したものが多い。
つまり、俺にも疑似的に固有術(らしきもの)が使えるという寸法だ。
しかし霊力の展開を維持しつつ、そこに術を付与するのは、更なる集中力・精神力が必要とされる。
正直、泣きたいぐらいには辛い修行だ。
ここにきて、俺は初めて心が折れかけていた。
今までの強化術・弱化術・治癒術もそれなりに難しいことをやっていたが、ここまでではなかった。
結界術を使いこなせるようになれば、強大な力を手に入れられるらしいが、その道のりは途方もなく険しく長い。
けれど、俺自身の夢を叶えるためには……『他人を助ける最高の補佐役になる』という夢を叶えるには、結界術の習得が死んでも必要なのだ。
「やるしかねぇだろ……」
俺はひたすらブツブツ呟きながら、日々の仕事以外のほとんどを結界術に当てることにした。
そんなもんだから、日中の仕事時にも少しフラフラしてしまい、ハクアには「大丈夫ですか!?」ととても心配されてしまった。
自己管理の甘さからくる体調不良は情けないものだったが……それでも、結界術の習得はそれほどの至難を極めたのだ。
そこから、修行の日々は続き……。
― ― ― ― ―
ある日、俺は森島術師の道場へとやってきていた。
今日は、これまで練習していた結界術の成果を、森島術師に見定めてもらおうと思ったのだ。
これで、森島術師が『まだまだ作りが甘いな』とでも言おうものなら、正直俺は結界術の習得を一旦保留にしていたかもしれない。
本当に、それぐらいしんどいのだ。
このままこの過激な練習を続ければ、こちらの命が危ない。
だが、俺の結界術を道場近くのグラウンドで見た森島術師は、腰を抜かしてしまった。
「な、な、な、なんだこれはァ!?」
「ど、どうしたんですか森島術師!?」
連日の過激な修行にギリギリで耐え、フラフラになっていた俺は、森島術師の素っ頓狂な叫び声についに腰を抜かしてしまった。
森島術師は、俺が作った半径五メートルほどの結界を見て、また変な声をあげる。
「こ、これ、お前、お前が作ったのか!? いや、お前が今作ったよな北条!?」
「はい!! お、俺が作りました!! 今作りました!!」
もう何徹目かもわからないので、俺も腰を抜かしたまま変なテンションで返答する。
「い、いや……正直、最初の組手よりも驚いたぞ。これほどまでに精緻な操作で形作られている結界は見たことない……お前、このレベルの結界術が使えるのに、本当に固有術を持っていないのか?」
「は、はい。ちなみに、この結界には怪異の動きを封じる術を付与してあります」
俺が指をパチンと鳴らすと、結界の中に沢山の鎖が出現する。
鎖は四方八方に伸び、アスレチックのように展開した。
「ま、紛れもなくお前は逸材だ……正直、これは陰陽連に報告すべきレベルだぞ」
「はえ!? そんなにですか!?」
「ああ……陰陽師にはなれずとも、特別な資格が与えられてもいいほどだ。俺から、龍門特等術師にかけあってみる」
「龍門術師に!?」
龍門特等術師……龍門ソウマといえば、五人しかいない特等術師の一人だ。
陰陽師のトップオブトップオブトップ。
そんな人物にお目通りが敵うなんて、今までの俺からすると思ってもみない事だった。
だが、それが納得できるぐらい、今の森島術師の驚きようはすごい。
なんてったって、俺の隣で一緒に腰を抜かしてるぐらいだ。
「少し触ってもいいか、結界に?」
「は、はい」
森島術師は何とか結界の近くにすり寄ると、手を当てる。
そして、なにやら触診するように触っていたが、やがて顔を上げると、飛び切りの笑顔になった。
「すごいじゃないか、北条! お前やっぱり凄いよ! この結界は、土台の構築から周囲の霊力膜まで、何から何まで完璧だ!」
「あ、ありがとうございます……!」
俺はそれだけ言うと、次の瞬間力が抜けて倒れてしまった。
「お、おい!? 北条!? 北条!」
慌てて森島術師が寄って来るが、今はそれにも反応できないほど、俺の疲労は蓄積していた。
ここ最近はずっと根を詰めていたので、しょうがないが。
だが、これで結界術も習得成功だ……!